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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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魔法W杯 全日本編  第24章

翌日の開会式は、型どおりというか、大して面白くもないし感動もしない。かといって、自分がここに立っているのが不思議で、どこか夢心地だった俺。


魔法W杯全日本高校選手権における選手宣誓を行ったのは、昨年の総合優勝校の主将である沢渡会長。

『宣誓。我々は薬物や特定魔法などの誘惑に負けず、正々堂々と競技を行うことを誓います』

 自分のとこで薬物陽性反応が出たからではないだろうけど、かなり辛辣しんらつな宣誓内容。

 

 開会式で覚えていたのはそれくらい。

 あとは、16各校の顔ぶれが目に入ってきたかな。

 みんな真剣で、俺のように午後からの予定を優先したい連中ではない。

 ああ、何かこう、競技に向けて真剣にならないと、って思うのだが、やはり、国分くんのことが気になって開会式の場においても身が引き締まらない。


 今日の午後だけ。

 明日からは調整するから、今日だけは許して。


 上っ面の開会式が終わったあと、俺と四月一日くんはすぐ宿舎に戻って紅薔薇高校のユニフォームから私服に着替えた。とはいっても、二人ともジャージ姿だったけど。

 出掛け際に、四月一日くんから声が掛かる。

「バングル2つもってくること」

 はて。飛行魔法でも使うのか?


 四月一日くんと並んで歩く。

 何も言わない四月一日くん。

 だから、俺も口は出さない。

 四月一日くんが右、左と曲がっていくのについていくだけで精一杯の俺。なんて歩くのが速いんだろう。

 焦りもあるのか、それとも元々足が速いのか。


「よし、ここまでくれば大丈夫」

 四月一日くんは意味不明な発言をする。

「国分くんの家まで遠いから、飛行魔法で行こう」

「下から見えないかな」

「僕たちの姿が見えないように、とっておきの魔法を使う」

「とっておき?」

「そ、とっておき」


 そういうと、四月一日くんに言われるまま、俺は右手にバングルを付けた。

 俺はふわりと浮き上がり、そのまま上空を目指し、地上10mほどまで上がった。

 四月一日くんもバングルを付けるのだとばかり思っていたら、なんと彼は指を下から上になぞっただけ。

 えっ??

 バングルなしで飛行魔法使えるの?

 四月一日くんは瞬く間に空高く飛び上がった。彼の指がまた動く。下に向けて十字を切っている。

 そして俺の方に近づいてきた。

 こんな距離では話もままならない。

「話できないって思ってるでしょ」

 なんと、四月一日くんの声が聞こえた。

「どうやって話してるの」

 俺も声にならない声を上げる。

「この空間に特定魔法をかけた。だから下から見つかる心配はない。声もお互い届くから話すことも可能だ」

「便利な魔法だねえ、僕にはまだできないかなあ」

「簡単だからできるよ、君の力があれば」

「いや、難しいし」

「全日本が終わったら教えてあげるよ」

「ありがとう」

 俺たち二人は、お互いを見て笑った。

 飛行魔法で30分くらい飛んだだろうか。

 さすがに俺は疲れてきた。

 いやいや、プラチナチェイスだって前半30分後半30分飛ぶんだ。これで疲れていたのでは、競技自体できないことになってしまう。

 今、俺は焦って力を使い過ぎているのかもしれない。

焦りの原因は、プラチナチェイス。


国分くんや俺の代わりに、遊撃に栗花落くんや八雲くんが割り込んでくるのではないかという、ただただ単純な焦り。


 リアル世界と、こちらの世界の境界がアンバランスだと沢渡会長は言った。

 それはそのとおりで、一度紛れもなくこの世界から俺は姿を消したのだと思う。リアル世界に居る間は、こちらには居なかったに違いない。

 試合中に姿を消したのでは、まずいというか、試合にならない。ゆえに、俺の出番は無くなる可能性が高い。

 でも・・・俺の希望で境界線がバランスを欠いた状況になっているわけでもない。

 どうにか安定した状態にならないものかと思案していた。


「着いた。降りるよ」

俺はその時飛行魔法で空を飛んでいることを忘れていたらしい。

 急に体がガタガタと震えた。

「ゆっくり。ゆっくり降りよう」

 四月一日くんの誘導で、やっとのことで地上に降りることができた。

 

 国分くんの家は、すぐに見つかった。

 それも四月一日くんの特定魔法で、指を交差して息を吹きかけたら国分くんの家だけ、屋根の色がチカチカと変わった。

「さ、行こう」

 俺たちは足早に歩いていく。


 国分くんは今も身体の調子が悪いらしく、床にせっていた。

 でも、俺たちが訪問したと分ると、調子の悪い身体を引きずって玄関に姿を見せた。

「僕の部屋に」


 口数も少なく、国分くんは俺たちを自分の部屋にとおした。

 部屋に入った途端、四月一日くんが国分くんの肩を抱いて慰める。

「大変だった。悔しかったろう」

 国分くんは、それまで我慢していたのだろうか、次第に表情が変わり泣き出した。

 号泣というやつだ。

 泣きながら首を横に振る。

「僕は禁止薬物なんてやってない」

 四月一日くんが肩を叩く。

「わかってる。そんなの僕らが一番わかってる」


 どう慰めたらいいのかわからない俺。

 ここは、自分が知りたいことを聞くしかない。国分くんには酷な内容かもしれないけれど。

「調子が崩れたあたりに、岩泉くんからドリンクとかサプリをもらった?」

 また、黙ったまま国分くんはまた首を左右に振る。

「自分の準備した物しか口にしてないよね?」

 俺の言葉に、国分くんはようやく首を縦に振った。


 やはり、岩泉くんはシロだった。

 となれば、誰が国分くんを・・・。

 四月一日くんのいうとおり、八雲くんなのだろうか。


 でも今、はっきりとした証拠がない中で、やみくもに八雲くんを疑うような真似をしてはならない。

 それは四月一日くんも承知しているようで、犯人を特定するような言葉遣いはしなかった。

「調子を崩したとき、何を食べたか覚えてるかい?」

 国分くんは泣くのを止め、下を向きながらもしっかりとした口調で四月一日くんの質問に答えた。

「カレー」

「え?」

「カレー」


 そういえば、1年生のスタメン5人、昼食にカレーを皆で頼んだことがあった。

 全員一緒なのが珍しかったから、俺もその時のことは覚えている。

 皆で笑いながら食べたっけ。

 国分くんが残したり、まずいと吐き出した覚えもない。

 

寮ではカレーが出たことはない。誰かが食べ過ぎて、すぐに無くなるからなんだそうだ。

 俺がそんなことをぼんやりと考えていると、国分くんが一言呟いた。

「アンフェタミン」

「なんだって?」

 四月一日くんの顔色が変わった。

「精神運動興奮薬じゃないか。そんなものが身体から見つかったのかい」

「うん」

「病院に通って、薬を早く抜くんだ。薬物依存になる前に」

「うん、そう言われた」

「そうか、辛いけど、君のためだから」

 

 国分くんは、下を向くのを止めて俺たちの方を向いた。

「僕は退学になるの?」

 四月一日くんは何も答えられず、ただ、肩を叩くだけだった。

 国分くんの声は低く聞き取りづらかったけど、その真意はこちらに伝わってきた。

「普通科に転科しろって言われた。それって、退学しろってことなんでしょう?」

 俺たちは何も言えず、辺りは重い空気に包まれた。

 四月一日くんが、優しい口調で語りかける。

「身体を一番に考えて。魔法だけが生きる全てではないし、紅薔薇には姉妹校もある。今は体を治すことを優先するんだ」


 国分くんはようやく一縷いちるの望みを繋いだようで、少しだけ笑顔を見せてくれた。

 四月一日くんと俺は、彼に最後の挨拶をした・・・。

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