魔法W杯 全日本編 第20章
さて。
横浜国際陸上競技場で開会式や閉会式の説明が終わったあと、1年生だけがそこに残り、アシストボールとプラチナチェイスの競技会場としての競技場をみることになった。
1年生の選手は、皆、競技場が広い大きいとは思っているようだったが、過去に来たことがあるのか、誰からも感嘆した台詞は出てこない。
俺たちを引率する南園さんが、飛行魔法で上から見ることを薦めるのだが、誰も飛ぼうとはしなかった。
いや、あの・・・俺は初めてなので上から見たいんですけど。
・・・。
恥を忍んで、ポケットにしまっていたバングルを取り出し、右手に嵌めた。
瞬間、ふわっと浮き上がる身体。
プラチナチェイスを行うくらいの高さ、5mくらいまで指で何度もなぞって上昇してみた。
・・・広すぎやしませんか・・・。
いくら魔法で飛ぶとはいえ、試合時間が第1クウォーター30分休憩10分第1クウォーター30分の合計1時間10分とはいえ。
聞くところによれば、2年生になると第1クウォーター40分休憩10分第1クウォーター40分の合計1時間30分、なんと、3年生は第1クウォーター50分休憩10分第1クウォーター50分の合計1時間50分になるのだとか。
もう、体力の限界です・・・。
そんなことを思っていると、スタメンの四月一日くんと瀬戸さんが浮きあがって僕の近くにきた。
「やっぱり、紅薔薇のグラウンドに比べると広いなあ」
笑いながら四月一日くんは俺の方を向く。
「ね、八朔くん。こりゃー広いわ」
俺の顔、半べそ気味だったんだろうか。
「笑って言える四月一日くんが羨ましいよ」
「大丈夫だよ、練習してきたし」
いや、四月一日くんが本気で練習しているのは、はっきり申し上げて、見たことがございません。
俺を見兼ねたのかどうか、瀬戸さんも近づいてきた。
「先陣が四月一日くんだから大丈夫よ」
うんうんと頷く四月一日くん。
余裕だ・・・。
「ときに」
上空でふわふわしながら四月一日くんが瀬戸さんと俺に目配せをした。まるで、もっと近くに来いと言わんばかりに。
「国分くんが、ヤバイらしい」
瀬戸さんもひどく真面目な顔になった。
「薬物でひっかかったらしいわね。紅薔薇の大会事務局、生徒会役員たちが大騒ぎしてる」
国分くん、まさか・・・。
「後陣は南園さんに任せようと思う。チェイサーは瀬戸さんのままで。あとは八朔くんとサブの誰かに託そう」
「そうね、こうなった以上、後陣は南園さんが適役でしょうね。それとも八朔くん、後陣やる?」
「ここまで来て、そんな冗談はよしてくれよ」
俺はすっかり凹んだ顔をしているらしい。
「やーだ、冗談よお」
フォローにもなっていないフォロー。
しかし、国分くんが自分から薬物摂取をしていたのだろうか。だとしたら。俺が凹み顔から幾分きつめな真面目顔になったのを四月一日くんは見逃さなかった。
「国分くんは否定しているみたいだよ」
瀬戸さんも続く。
「そうね、何のことかわからない、って言ってるみたい。ここにきて、彼にメリット・・・あるかな、ないよね」
俺は不思議に思った。
あんたら、なんでそれ知っとんねん。
「どこから情報得たの?」
二人は口を揃えた。急に真面目な顔をして。
「大会事務局」
そうすか。
あんさんら耳ダンボですなあ。
俺が周りを気にする余裕がなかったから聞こえなかったのかも。
「事務局の声なんてしたかな?」
「いや、向こうは小声でしか話してないし、名前は出してなかったよ」
「でも、2年生と3年生の先輩方は皆いたわよね。普通、来なかったらチームメイトは騒ぐでしょ」
「そうだね、それで僕らは怒られた」
ああ、そういえば怒られた。
2年と3年の先輩がたは、そういったことが無かったから無駄話をしていなかったんだ。
「犯人、誰なんだろう」
俺の問いに、はっきりとは答えない2人。
「今は犯人捜しより試合だよ」
「そうね。もし国分くんが何もしていないのだとしたら、あたしたちが試合で勝って、国分くんをフォローしないと」
四月一日くんは表情を和らげた。
「さ、そろそろ降りようか」
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・◇
陸上競技場での見学が終わった。1年生は新人戦1日目の第1種目、ロストラビリンスの会場から順に見学を行うことになっていた。
迷路は凄く入り組んでいて、狭かった。人が2人すれ違うのが難しいくらいに。
果たして俺の魔法だけで出口まで行きつけるかどうか心配になったが、この種目では瀬戸さんが一緒だ。
迷路に向かってきた瀬戸さんが、俺の方に走ってきた。
「すごい迷路だね、あたしの魔法じゃとても前に進めそうにないよ。八朔くんがいてラッキー」
「僕もここまでむちゃくちゃな迷路だと思わなかった。瀬戸さんが一緒で助かったあ」
瀬戸さんがどうだと言わんばかりにVサイン。
「ここは当日に賭けるしかないね。天井があるから飛行魔法も使えないし。一緒に頑張ろう」
本当に、こんな時は仲間がいて心強い。先頭を歩く南園さんも、俺たちの方を振り返りVサイン。
心強すぎる。
同じく新人戦1日目第2種目のマジックガンショットは、陸上競技場そばにある2つのサブグラウンドで行うことになっているそうだ。
俺たちは南園さんに急かされながら、そちらに移動する。
サブグラウンドは2つとも、紅薔薇高校のグラウンドより少し狭いくらい。
狭いということが一概にいいとも言えない。
さっき行った国際陸上競技場のように広すぎる分には、鷹の目のように視界が広くないとどこから魔法が繰り出されるのか見つけづらい。
かといって、狭いと魔法が発射される空中と地面との相対距離は短くなるわけだから、イレギュラー魔法陣が爆発するのは若干速い。ゆえに、レギュラー魔法陣を尚更早く見つけなくてはならない。
この辺のさじ加減というか、塩梅が難しそうに見えた。
四月一日くんがいつの間にか俺の横に立っていた。
「大丈夫。レギュラー魔法陣の兆候だけを見て。特訓した成果が出せるよ」
「うん、そうありたい」
「よし。頑張ろう」
俺たち1年生は、新人戦2日目の第1種目デッドクライミング会場に移る。
国際陸上競技場の隣に、アリーナが二つある。国際的なスポーツの祭典で使用される、国内でも3本の指に入る現代的な英知を凝らした建物だという。
その一つの建物に入ると、既に準備がなされていた。
垂直にそり立つ壁。
そこに大小様々な形状のカラフルな人工物が施され、昇ってくる高校生たちを待ち受けているかのようだった。
そういえば、デッドクライミングには国分くんが出場する予定だった。俺はエントリーもしていないから出ることもないのだが、誰がサブを務めるのだろうか。
サブとしてエントリーしているのは、岩泉くんと五月七日さん。もう一人は男子の栗花落譲司くん。
栗花落くんは原則、魔法科の生徒が指名されるサブには入っているものの、元々魔法技術科での入学を希望しており、入試の際、トップ3の実技を披露したのが今回の選考に影響を与えたらしい。
そういう人選もあるのか。
生徒会ではどこからそのような情報を手に入れるのやら。噂話の類いも、全部筒抜けなんだろうなあ。
そう思うと、少し生徒会の皆様方に対する見方が変わってきそうになる。
それでも俺のような環境の人間に機会=チャンスを与えてくれたのだから、感謝するべきなのだが。
新人戦2日目の第2種目アシストボール。会場は先程見た陸上競技場のメインスタジアム。
ここにも国分くんはエントリーしていた。試合で、誰がフォローに入るのか、俺のところでは情報を収集していない。
四月一日くんならば情報を持っていると思うのだが、何か聞きたがりのようで聞き出せない。
出るのが俺なら、そのうち話が来るだろう。
なるべくなら出たくはないが。
新人戦3日目第1種目のラナウェイ。
神奈川県の場合、昔は町中をテリトリーとして競技を行ったそうだが、一般人とのトラブルが増え、横浜国立陸上競技場及び周辺施設を新設した。
サブグラウンド2つとアリーナ2つ、メインスタジアム2つの周辺における公園など公的な建物に限り、使用することができるらしい。デッドクライミングの壁はアリーナの中に4つ、迷路はアリーナの中に2つ作られるそうだ。
四月一日くんと瀬戸さんがラナウェイで使う会場について、大会事務局から渡された地図を持ってきて、俺に見せてくれた。
地図の中にある赤マジックで囲まれた場所から出るとアウト、なのだそうだ。
これって、万が一はみ出ることも大いに予測して作ってあるゲームだと思う。
事務局、汚ったねえ。
ここも国分くんが出ることになっていたっけ。
もし国分くんの嫌疑が晴れず出場できない場合、サブは誰が務めるのか、その情報すら一切なく、俺は少しイライラしていた。
あとは、競技10日目に行われるプラチナチェイス。
プラチナチェイスの会場は先程確認した。陣形も、国分くんに替わりサブの人間が遊撃に回ることを俺たちの間で決定した。あとは、沢渡会長に了解をもらい、大会事務局まで届け出るだけだったが。
全ての会場を確認した後、紅薔薇高校は学年ごとに都度解散した。
もう夕方。
宿舎に向かって歩き出す俺。
四月一日くんと瀬戸さんは、どうやら出場するサブメンバーの人選を生徒会の南園さんと一緒に行っているらしい。
声も掛からないし、俺は何も知らないただの助っ人。
出しゃばるべきではないし、サブメンバーさえ教えてもらえばいい。
亜里沙や明はどうしているんだろう。
明後日からの競技開始に向けてデバイス調整やらに忙しいのか、やはり姿が見えない。
サポーターも大変なんだな。




