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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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魔法W杯 全日本編  第19章

午前9時近くになると、段々と人が集まり始めてきた。

 やはり地元開催の強みで、皆、地理に明るいため迷子になることもなく、表情にも余裕が見て取れる。

 迷子になりそうだったのは、俺だけかもしれないな。

 亜里沙や明は、まだ来ていないようだった。二人とも迷子になっているのかもしれない。

 特に亜里沙は。あいつは昔から吹っ飛んで歩く割には迷子になりやすい。

 明が一緒なら、確率はだいぶ下がるんだが。


「八朔、調子はどうだ」

 背中に不意打ちを食らい、俺は後ろを振り返った。

 そこにいたのは沢渡会長。

「は、はい。緊張しています」

 身体の調子を聞かれたのに、頓珍漢とんちんかんな答えを返す。やはり、緊張の度合いが違う。

「そうか、初めての大会だから緊張もするだろう。だがな、前にも言った通り、こちらの世界を存分に楽しめ」

「はい、ありがとうございます」


 南園さんと瀬戸さん、五月七日つゆりさんも連れだって宿舎に姿を見せた。

 女子高生のお喋りタイム。

 なんとも微笑ましい。いや、萌える。


 国分くんの姿が見えない。まだ来ていないのだろうか。

 きょろきょろと挙動不審に辺りを見回す俺の目に、亜里沙と明の姿が入ってきた。俺はダッシュで二人に駆け寄った。

「久しぶりだな、二人とも」

「あら、元気そうじゃない、海斗」

 亜里沙。俺の緊張度合いをわかってくれないのか。かれこれ10年も幼馴染をやっているというのに。

「元気じゃないよ、緊張して手が震えっぱなしだ」

「そう?そんな風には見えないけど。昔のあんたはもっと緊張してたよ、こういうシチュエーションでは」

 明がいつものとおり脇から俺たちを覗き込む。

「そうそう。お前ってば、小学生のとき余りに緊張して家に逃げ帰ったことあったよな」

 記憶にない。


 亜里沙もその場面を思い出したらしい。

「あったあった。あたしたちが追いかけて、ずるずる学校まで引きずったんだよね、あんとき」

「確か、小学5年の運動会のときだったぞ」

 やはり記憶にない。


「ここにきただけでも進歩よ、あんたは」

 亜里沙の言葉は、褒めてんのかけなしてんのか、全くもって意味不明。

 不安だらけの俺は、亜里沙様にすがりつこうとする。なんつったって、こいつは魔法技術科に籍を置いてるのだから、何かわかるかもしれない。

「なあ、緊張解く呪文とかないのか、魔法で」

「ない」

「そうか。知らないことがいっぱいあるんだよなあ。大会に関して。誰も教えてくれないし。授業でも習わなかった」

「不文律みたいなものだからね。ときに海斗、ドリンク類とか自分のものしっかり管理しなよ」

「うん、薬物検査だろ?聞いた。今のところ他人ほかからもらったドリンクは口にしてない。自分のはほら、このとおり腰にぶら下げてるし」

 明も安心したのだろう。俺の背中をバンバン叩く。猫バンバンならぬ、海斗バンバン。

「それならこのままいけるさ。ほら、緊張も少しはほぐれたろう?」


 確かに。

 二人との会話は、俺の緊張をいくらか解してくれた。手の震えも無くなった。

 さすがに全部とはいかなかったけれど、ちょうど良いというか、絶妙の緊張感が俺を包んでいるのがわかった。

「じゃ、あとは試合で。試合では脇についてるから」

「おう、お前たちがいると心強い」

「じゃあな、海斗」


 二人の元気な姿も見ることができて安心したし、俺の中に巣食っていた不安も幾分いくぶん解消された。


 あとは、明日の開会式を待つだけ。


 午前9時。

 魔法W杯全日本高校選手権紅薔薇高校関係者集合の時間だ。3年生を筆頭に、2年、1年、サポーター、関係者の順に配列を組み並ぶ。


 それなのに、国分くんの姿が見えない。同じ列にもいないし、後ろに並んでる様子もない。

 俺は隣にいた四月一日くんの耳元でそっと囁いた。

「国分くん、どうしたんだろう」

「遅れるなんて、彼にしては珍しいね。もしかしたら抜き打ち検査組かな?」

「抜き打ち検査って、いつ行われるの」

「それこそ抜き打ちらしいよ。試合メンバーを、正選手も補欠選手もひっくるめて全員、W杯事務局に提出するのが3ケ月前で、そこから試合中も行われるって聞いた」

「薬物検査って聞いたけど」

「うん。メインは薬物みたい」

「メイン?」

「そう。不必要な特定魔法を自分に重ね掛けして身体をリカバリーさせてるとか、そういうのもあるから」


「こら、そこの1年生!」

 3年生のサポーターから声が飛ぶ。

 俺と四月一日くんのひそひそ話を指しているに違いなかった。


「申し訳ありません」

 謝る四月一日くんを見て、1年のエースとわかったからだろうか、3年生サポーターはそれ以上怒鳴るのを止めた。

「開会式でそういった失態を晒すことの無いように」

「以後気を付けます」


 俺、小心者だから何も言えぬまま、心臓バクバク。

 四月一日くんはといえば、俺の方を向いて右目でウインクしてる。

 強心臓。

W杯事務局関係者から明日以降の開会式や競技の諸事項について説明が終わり一旦解散となった後も、とうとう国分くんは姿を現さなかった・・・。


俺たちには各部屋の鍵が渡された。

皆、荷物を入れるために各自の部屋に向かう。

俺も然り。

ジャージ類や下着など、必要雑貨だけ。リアル世界の俺の部屋にはゲームもテレビも無かったから。

今は魔法W杯の練習で息つく暇もないからだけど、もし時間ができるようなら、図書館に行ってみたい。

高校の図書館ってどういった書物がどれくらいあるか見てみたいんだよね。

中学校では全くと言っていいほど読みたい本が無かったから。


その日の昼食休憩後は、ホテル内であればどこでも休憩OKということで、俺は部屋に戻ってベッドに寝転がっていた。もちろん、ユニフォームの上衣は脱いでいたけど。

午後からの会場見学では、各校とも実際に使用するグラウンドや施設などを見て回る時間に充てられるという。


紅薔薇高校は午後の集合時、各学年に分れた。そして学年ごとに横浜国際陸上競技場に移動した。


開会式と閉会式の会場は、横浜国際陸上競技場メインスタジアム。

 アシストボール、プラチナチェイスの競技会場でもある。

会場となる国際陸上競技場はめちゃめちゃデカく。宮城の競技場とは雲泥の差というか、スケールのデカさが違う。


紅薔薇高校では、3年生の沢渡会長を初めとした生徒会役員が、選手及びサポーター等を学年別に引率し、開会式と閉会式に使用される会場の説明を行っていく。

主として開会式の説明が終了したあと、学年ごとに分れて競技会場を見学するという。


前に説明を受けた通り、3学年が同じ時間帯に試合を行うことはなく、例えば、2年生の先輩が1日目第1種目にデッドクライミング、第2種目にアシストボール、次いで2日目午前にラナウェイ。2日目の午後は試合がない。3日目にロストラビリンス、マジックガンショットという順で競技が進む。


俺たち1年生は4日目第1種目のロストラビリンス、第2種目のマジックガンショットから始まり5日目デッドクライミング、アシストボール、6日目ラナウェイと3日間試合を行った後に真打ち3年生の登場となる。


3年生の先輩は、7日目第1種目がラナウェイで午後は試合がない。競技8日目にロストラビリンス、マジックガンショット、9日目にはデッドクライミング、アシストボールが行われるという。

プラチナチェイスだけは、競技最終日早朝から、1年生から始まり2年生、3年生と続けて試合が行われるそうだ。



生徒が個別に見学している高校はひとつもなく、皆、高校一体となって会場を見学しているようだ。


俺はどの県からどういった高校が出場するのかもわからない。

首を捻りながら各校を眺めていると、隣にいた瀬戸さんが各校の紹介を兼ねて、傾向というか、噂というか、各校のプロフィールみたいなものを教えてくれた。


北海道札幌市札幌学院高校。

ここは去年、5位だった。

男子は濃紺の学ラン、女子は黒い3本ラインの入った濃紺のセーラー服。男子の襟元や女子の襟の後ろには、獅子を象った刺繍がある。

去年は5位に終わったものの、元々は実力のある学校。

古参の中でも、一番歴史の古い学校だという。


鹿児島県指宿市紫薔薇高校。

昨年の4位。

紅薔薇高校の姉妹校でもある。薄ラベンダー色の制服に、ディープロイヤルパープルの刺繍が腕にある。

薔薇6対抗戦では常に上位を誇る。

2年生が主体のチーム構成。


石川県金沢市能登高校。

昨年のベスト3。

男女とも、紺のブレザータイプの上衣にマドラスチェックのパンツとフレアスカート。女子の胸元のマドラスチェックのリボンが可愛い。

ここ最近急にでてきた新進気鋭の学校。

ベスト8は常に維持しているという。

チームのサポーターや、監督が非常に有能だと言われている。


京都府京都市京都嵐山高校。

昨年の第2G。準優勝校だ。

男子は古風な黒の学ラン。女子も黒のセーラー服。明るめのスカイブルーの1本ラインと黒のタイのセーラー服はとても古風で、学校の質実剛健さを感じさせる。

常にベスト3を張っている実力の持ち主。

今年は3年生が特に強いらしい。



その他、目立ったところとしていくつか挙げてもらった。いずれも地力があり、入賞圏内の高校ばかりだという。


東京都世田谷区開星学院高校。

ここは中学校からの一貫教育で、6年間を同じメンバーで過ごすため、チームワークがとてもいいのだそうだ。


長崎県長崎市白薔薇高校。

ここも紅薔薇高校の姉妹校だという。瑠璃色の制服に白い薔薇が刺繍されているのですぐわかった。

薔薇6対抗戦でも一定の成績を修めているらしい。


兵庫県神戸市黄薔薇高校。

うん、言われなくてもわかった。ここも紅薔薇高校の姉妹校だね。レモンイエローの生地にシャルトルーズイエローの刺繍が目立っている。

残念ながら、薔薇6対抗戦での成績は振るわない年が多いと聞く。


長野県アルプス市青薔薇高校。

言われる前に、「姉妹校だね」と言ってしまった。

アイボリーの生地にロイヤルブルーの薔薇が刺繍してある。

薔薇6対抗戦では特に可もなく不可もなくといった成績。


愛知県名古屋市桃薔薇高校。

姉妹校が多い。

ピンクアーモンドの制服に一段濃いシクラメンピンクの刺繍。

ここも薔薇6対抗戦においては中間の成績を維持しているという。


ちなみに、姉妹校では全て制服の形は同じだ。色が違うだけ。それでも、色違いというだけでこうにも印象が違うものだとは想像していなかった。

可愛らしい印象の色味もあれば、知的な印象を与える色味もある。



姉妹校の他にも有力校はある。

瀬戸さんが警戒しているのは、神奈川県川崎市に本拠地を置く加計学院大学付属加計高校。

もうひとつ、スポーツ高として全国的に名が知れ渡っている東京都港区の日本学院大学付属稲尾高校。

実力のある中学生を大学まで囲い込むことで有名な学校だという。

全国的に生徒を探しながらスカウトしているらしい。


その他に出場が決まっているのが

岩手県盛岡市北上東高校。

埼玉県さいたま市聖バーバラ学園高校

千葉県市川市私立市川学院高校。

高知県高知市高知学院高校


こちら4校は、決して弱いわけではなく、流れに乗せたら一気に魔法力を爆発させるチームだという。

これがみな地力に勝る敵となれば、俺たちは相当の力と想いを持って戦っていかなければ、総合優勝を成し遂げることは難しいものと思われる。


はあ・・・さすがベスト16。

楽して勝てる相手はどこにもいないというわけね。


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