表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
14/132

魔法W杯 全日本編  第14章

大会まで、半月を切った。

 イベント運営の総指揮者である弥皇先輩は毎日指示に明け暮れ、喉を傷めたと聞く。

 亜里沙や明のいる魔法技術科も、最後のつめに入っている時期なのだろう。


 まったくと言っていい。

 『あの』亜里沙から連絡がこない。

 2人ともぶっ倒れてるんじゃあるまいな。


 ちょっとだけ、2人のことが心配になった俺。


 寮の部屋番号、聞いておけば良かった。

 あいつら教えてくれなかったし。

 授業の合間にでも魔法技術科をのぞいてくるとするか。


 ふう。

 今日も疲れた。

 授業は実戦方式だし、終われば居残りでまたしごかれる(?)


 俺、なんでこんなことしてんだろう。

 魔法が上達するのは、なんかこう、素直に言えば嬉しい部分もあるんだけど。

 なんでリアル世界に戻りたいって思わないんだろう。


 父さんや母さんは、俺が異世界に来てること、知っているんだろうか。知るわけないな。

 もしかして、浦島太郎になるんじゃあるまいな。

 嫌だよ、リアル世界に帰ったら向こうは月日が流れてて、俺はおじいちゃんになるとかいうの。


 さもなくば、こちらの長い長―い時間が、リアル世界では一瞬の出来事なのかもしれない。

 あー。そっちの方がアリかも。

 で、俺が成長した姿を皆に見せるという。

 ちょっと滑稽。

 『俺は俺』でしかないのに。


 着替えてベッドに横たわり、色々と考えた。

 

 魔法のこと、泉沢学院に行っていないこと、俺がいるべき場所のこと。

 今は助っ人としてこちらの世界にいるに過ぎない。

 本来俺がいるべきは、リアル世界。

 父さんや母さんがいて、この春入学した泉沢学院という高校があって。

 泉沢学院に行きたくないのは今も変わらないけど、ここで暮していると、その時々でやらなきゃならないことってあるんだなと思う。


 高校に通うか、休学か、あるいは退学するか。

もしも高校を退学したら、あとはどうするか。

仙台嘉桜高校を受験し直すか、仙台泉沢学院桜ヶ丘高校を受験し直すか。

 高校生活が息苦しいなら、高卒認定試験を受ける手もある。


 とにかく、隠れて家に居たって何も変わらない。


 母さん、俺が泉沢学院に通ってないこと知ったら、怒って家を追い出すかもしれないな。

 そしたらホームレスでもなんでもやるさ。

 ここにいて特訓してると、何でもできるような気がするから。

 

 これ以上ここでの生活が楽しくなると、リアル世界に帰りたくなくなるんじゃないかとちょっと心配にもなる。

 そんな時は、こう思うことにしている。

 この世界に、俺が必要な理由は一つだけ。

 そう、ただの助っ人でしかないのだ。

 それを忘れてはいけない。


 あまりこちらの世界に情を移してはいけない。

 リアル世界に戻った時、哀しくなってしまうから。

 それでも、周囲の人が皆よくしてくれて、自分の成長さえもが実感できるこの世界。

 戻りたくないと言えば嘘になるかもしれない。


 相反した二つの感情は、いつまでも俺の心を二分する。


 いつの間にか、俺は眠りに落ちていた。


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 目覚めると、もう早朝だった。

 首、肩、背中、手足。もう体中が痛い。

 近頃練習し過ぎていて自分の身体を顧みていなかった。

 今日くらい、練習を休もうか迷った。


 一日くらい休んでも誰も文句は言わないだろうし、文句があるならこないだのように冷気魔法が俺を襲うはず。


 ああ。でも。

 今日はプラチナチェイスの練習があるんだった。

 5人揃わなければ意味がない。

 俺は疲れた体を引きずって、制服に着替えた。


 今日も、亜里沙や明が俺を迎えに来る様子はない。

 ギリギリの時間まで待って、二人が来ないのを確認してから部屋を出て1人で学校まで歩く。


 徒歩5分。

 いつも速足で学校に向かうからだが、俺は周りの風景をゆっくりと見ていない。

 だがひとつだけ、寮から学校までの間に住宅は見受けられない。

 もしかしたら、今歩いているこの歩道も、学校の敷地なのかもしれない。

 そう思うと、紅薔薇高校は途轍とてつもなく広い敷地を持った学校であることに気がついた。

 泉沢学院も相当広い敷地と立派な校舎を持った私立高だったが、紅薔薇高校に比べるとランクは確実に落ちる。


 そんなことを考えているから、必然的に目はきょろきょろ、不審者にありがちな行動に見えたのかもしれない。

 後ろから肩をぐいっとつかまれ、俺は心臓が飛び出るほど驚いた。

「やあ、君が八朔くんだね」

 

 何者だ?

 俺の目つきは、“あんた誰”というちょっと意地悪を込めたものになっていたに違いない。

「悪い悪い。僕は1年魔法技術科の八神絢人やがみけんと。絢人って呼んで。僕も1年のサポーターなんだ」

 俺は一瞬で顔つきを元に戻し、相手に向かって頭を下げた。

「あ、失礼しました。魔法科の八朔海斗です」

「ね、海斗って呼んでもいい?」

 フレンドリーな人だ。

「どうぞ、友人は皆そう呼ぶから」


 サポーター。

 亜里沙と明が任されている仕事のはず。

「サポーターさんには、色々としていただいてありがとうございます。ところで、あと2人、山桜亜里沙と長谷部明の2人はどうしていますか」

 八神くんは、人懐こそうなくるくると良く回る目をしていて、まるでアイドルのような風貌。こりゃー亜里沙の好みのタイプだったはず。

「山桜さんと長谷部くん?ああ、あの二人ね。みんなの試合がうまく回るように色々と調整しているよ」

「あいつらでもプログラミングとかお手伝いしてるんですか」

「それが彼らの本職だから」

「本職?」

「そうだよ、1年全員分のデバイスチェックとか、2年の生徒からもデバイス受け取ってる。あ、これは秘密ね。2年のサポーターさんに聞えたらまずいから。あとは1年の作戦会議とかにも携わってるから、3人でフル回転なんだ、今」

「そうでしたか。この頃あいつらにも会ってないんで心配してたんです。元気でやれよーって、届けてもらえますか」

「了解。さ、もうすぐ予鈴の時間だ。急ごう」


 八神くんは、俺の背中をバンッと叩くと走り出した。

 

 あ、ついていけません・・・。身体が動かないです・・・。


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 俺は魔法科の教室にようやくたどり着いた。

 身体がぎくしゃくしてうまく椅子に座れない。


「やあねえ、どうしたのよ、八朔くん」

 瀬戸さんが斜め前から後ろを向いていて、様子を見ていたらしい。

 こうして話をするようになったのも、プラチナチェイスの練習を積むようになってからだ。

 なんかこう、最初瀬戸さんは近づき難いイメージが先行していて、俺から話しかけることはほとんどなかったんだが、こうして知ってみると、亜里沙と同じくらい付き合いやすい。

「いやあ、今日になったら体中痛くて」

「あたしもよー。こき使い過ぎよね、大会に出るからって」

「大会の前に朽ち果てそう」

 俺の冗談に対して、あっはっはと豪快に瀬戸さんは笑う。本当に、俺より男らしい。

「マッサージにでも行こうか、こないだ先輩に聞いたの。学内でマッサージやってるところがあるんだって」

「授業サボって行きたい・・・」

「授業中は無理らしいよ、休憩中とか放課後みたい、やってるの」


 今日の居残りは勘弁してもらって、マッサージを受けに行くことを決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ