魔法W杯 全日本編 第13章
今日は、全4コマを費やしプラチナチェイスの授業があった。
教師いわく、如何に陣形を乱さずにいかにボールを追い込むか。
ボールを見つけ、自陣に追い込むのは先陣にいる四月一日くん。
激しい動きでボールを探し突っ込んでいく。
それだけでも、俺の魔法では息がきれそうな予感がする。
でもね、女子も混じっているし、観客も半分は女子だし、何ていうかこう、見栄を張りたくなるわけ。
わかるでしょ?この気持ち。
やるからには皆の足を引っ張りたくもないし、見栄も張りたいと思えば、やるしかないでしょ。
このプラチナチェイスは、6種目の競技中メイン種目となるらしく、まだ授業の段階なのに、応援の声も半端ない。
試合順を覚えるのを忘れていたけど、プラチナチェイスが最後だったのは目で確かめてある。
ホント、入間川先輩のいうとおり、足を引っ張ることだけはしたくない。
休憩時、国分くんが俺に話しかけてきた。
珍しい。
第3Gとは距離を置いてると思っていたから。
「よく飛べてる。ナイス」
俺は素直に喜んだ。
「ありがとう、そう言ってもらえるとうれしいよ」
思ったよりも長い時間飛べていた。目標は30分だったけど、20分までは息も上がらずに飛べた。
シャワーを浴び終えた俺のところに南園さんが顔を出した。そして、飛行魔法用のバングルをもう一つくれた。
「慣れるまで、こちらのバングルを2つ重ね掛けしてみてはどうでしょう。こちらですと規定違反にもなりませんし」
「ありがとうございます。でもどこから持ってきたんですか。南園さんの私物ですか?」
「いいえ、生徒会室にあった備品です。気になさらないで」
「そうですか、ホントにありがとう」
「大会までに、八朔さんのバングルを2つ用意いたしますね」
「何から何まで、ありがとうございます」
南園さんにお礼を言って、バングルを右手に2つ重ねて付けてみる。
ヒョイと宙に舞った俺は、GOと言わんばかりに右手人さし指に集中して前を指す。
おーーーーーーっ、授業時間内よりもスピードが出た。
重ね掛けの威力というやつか。
あれ、よくライトノベルとかで、魔法の重ね掛けはアウト、っていうの書いてないっけ。それともデバイスの2つ持ちは当てはまらないのか?
ま、飛べるならそれでいいや。
俺のように飛び回らなくてはいけないポジションに、このスピード感は上々の満足感を与えてくれた。
近頃、また亜里沙たちはいない。こういった場所でのギャラリーにもその姿はない。
先輩方の作ったプログラムを必死こいて入力しているのだろうか。
ま、大会が終わるまでだろう。
終われば、また3人でつるむことができるさ。
幼馴染であるあいつらを心底信用している。
あいつらが宇宙人だったとしても、たぶん、俺は驚かない。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
今日の放課後は、また3年生の先輩方とラナウェイの練習だ。もう、これは特訓に近い。
それはそうなんだが、皆、とてもよくしてくれる。
異世界からきて、右も左も、何もわからない俺にすごく優しくしてくれる。
そう思うと、早く魔法が上達しないかな、と思ってしまう。
努力なしでは上達も儚い夢なのだろうけど。
俺は今まで、努力とか根性とか団結とかいう類の言葉が大嫌いだった。
家で本を読んでいたときも、紅薔薇高校の一致団結の姿を記した件を見ると、「ふん」と思いながらページをめくったものだ。
今は、その境目がどこにあるのか知らないけど、自分に課せられたハードルを自分の手で超えたいと思うし、クリアしていきたいと思う。
さて。今日は選手登録されていない3年生の先輩方に特訓してもらうことになっている。
入間川先輩のように、「魔法を使える自分がエントリーなしで、こんなポット出の新人がどうして選手に選ばれる」と腹の中で考えていないとも限らない。
少し緊張しながらグラウンドに向かう俺。
その心配は杞憂に終わった。
選手登録されていないといっても各々事情があり、薔薇大学に進まずもっと高みを目指している人がほとんどだった。
高校入試より難しい、大学入試というやつです。
それでも技術は超一流の先輩が多くて、いい意味で期待は裏切られた。
笹川諒先輩、織田和正先輩、姫野剛先輩。
斜め45度に身体を傾け、先輩方に挨拶する。
「よろしくお願いします!」
対して、笹川先輩を筆頭に、一言トークが始まったらしい。
「さすが第3Gだねえ、どう、信長」
「俺は血統じゃねえよ、なあ、姫ちゃん」
「僕もお姫様ではないんだけど」
笑いたくなったが、必死にこらえた。
最初からフレンドリーな後輩を良く思わない人もいる。
その分、腹の中で大笑いしていた。
笹川先輩が小首をかしげて俺を見る。
「2対2でやろうと思ったけど、1対3でもいいかも」
え?まさかのイジメ?
目を丸くしていた俺に、笹川先輩が小さな紙袋をくれた。
「中身。デバイスだと思う。開けてみて」
言われた通りに開けてみると、マルチミラーが入ってた。
すごい、こんなに早くできるなんて。
「ありがとうございます」
「魔法技術科に拍手。キミは感謝しないと」
「はい。ありがとうございます」
そして特訓が始まった。
俺VS笹川、織田、姫野先輩
最初は、卵魔法が効くのかと思い実験してみた。
するとすぐに笹川先輩から無効化の特定魔法がかけられ、爆死。
次に、樹の陰に入り込みマルチミラーで魔法陣を作る。
ミラー部分で後ろを確認すると、姫野先輩が迫っていた。
どうするべきか。
その他の先輩の姿は見えない。
俺は立ち上がり、姫野先輩の足元を狙いショットガンを撃つ。
姫野先輩は立ち上がれなくなった。
やった。1人撃退。
次に、ゆっくりと走りながら他の先輩方を探す。
時にミラーで確認しながら。
中々先輩方は見つからなかった。
俺の卵魔法より、もっと強い魔法があるのかもしれない。
ためしに、口笛を吹いて右手を水平に翳してみた。
すると、建物の陰に隠れる笹川先輩が見えた。
ラッキー。
静かに建物に近づき、一度ショットガンを上に撃つ。
笹川先輩が立ち上がり、場所を確認しようと走り出した時だった。
先輩の足元目掛けてショットガンをかました。
これで、2人撃退。
あとは織田先輩。
鏡を使っても、無効化の特定魔法を使っても、織田先輩の姿は見えなかった。
刻々と、時間だけが過ぎていく。
焦って周囲の確認を怠り、そのまま走り出した俺の足が急に動かなくなった。
残念。どうやらショットガンの餌食になったらしい。
織田先輩が悠々と建物脇から姿を現した。
「焦りは禁物だ、八朔」
織田先輩からのアドバイス。
3人の先輩は、前に出てきて口々に講評を始めた。
「なかなかよく走れている」
「早く走ることだけがラナウェイの基本じゃないからね」
「勅使河原あたりに聞いたかな?格下のチームなら、透明効果魔法が効くよ」
「ただ、今回はベスト16からの出場だから、透明効果魔法は見破られる危険性も高い」
「となれば、ショットガンとマルチミラーで堅実な策戦を練るのが妥当な線だ」
「姫野や笹川を倒した要領で大丈夫だ」
俺は精一杯頭を下げることしかできない。
「とてもためになりました。本当にありがとうございます」
3人の先輩は、試合当日に応援するよといい残し、グラウンドを去った。
少々、疲れた。
ラナウェイの場合、俺と敵が1対3になるシチュエーションはまず考えられない。
四月一日くんと国分くんが両者とも倒されるとは、まずもってあり得ないから。
だから自分の役割は、1人でも多くの敵を引きつけ、できるなら倒すことだ。
学内でシャワーを浴びて、寮に戻ることにした。寮に帰った俺は、何も食べずにベッドに転がってそのまま朝まで眠ってしまった。