世界選手権-世界選手権新人戦 第14章
翌日と翌々日の練習は、数馬と逍遥がピタリと俺に張り付いていた。
逍遥は手慣れていない市立アリーナの施設内で『バルトガンショット』や『デュークアーチェリー』をするのはあまり効果がない、ってか効果が薄れると言って練習もせずに俺の射撃や射的に対し、時折数馬と顔を寄せて言葉を交わしながらずっと見ていた。
公式練習後、市立アリーナは日本人専用練習施設となり、周りには日本人選手とサポーターしかいない。サトルも譲司と一緒に市立アリーナに来ていた。
ただ、俺とサトルはルーチンも違ったし競技の練習順も違っていたので顔を合わせて練習することはなかった。
『バルトガンショット』の方は、ギャラリーがいないのでクレー発射音がより大きく聞こえたせいもあるのか、所要時間は公式練習を大きく上回り、3分30秒まで短縮。
手応えを感じた俺は、3回ほど『バルトガンショット』の練習に費やした。所要時間は毎回3分台半ばを推移している。まずまずの出来だった。
次に、アリーナ屋内に入り『デュークアーチェリー』の練習を始めた。
数馬が調整したバングルを右手に嵌めることから始まり、足の幅、姿勢、腕の位置と確認を終えて試射の準備に入る。
1回目の的が出て来て、それをじっと見ながら余裕でど真ん中に決め、その後は2秒ごとに次々と矢を繰り出していく。テンポよく矢を出せるのでストレスもかからず姿勢も悪くならない。
結果、3分半ばくらいの時間で100枚の的を正確に射抜くことができた。
よおし。
このまま3分台半ばをキープして本戦に臨もう。
その後5セット近く『デュークアーチェリー』に時間を費やし、俺は市立アリーナを後にした。
公式練習は5エリアの選手たちがそれぞれの時間帯で練習を行ったし、特にワンが気になっていた俺は、各エリアの公式練習の見学はしなかった。
だが、ホセとかエンゲルベルトもそうだし、GPSで『デュークアーチェリー』に出場してた連中はほとんどが今回の新人戦にも参加しているだろう。
一生に1回しかない大会なんだから。
さ、今日はもう練習を切り上げて、あとはホテルに戻ろう。
ホームズ、今頃どうしてるかな。ちゃんとご飯食べてたかな。
早く試合を終えて、ホームズを迎えに行きたい。
試合よりホームズのことを考える俺も俺だが、自分の練習しないでSPやってる逍遥も逍遥なんだけど。
それは裏を返せば自分に対する絶対の信頼。自意識過剰なのではなく、自信。
逍遥は自分の力を心の底から信じている。だから1日2日練習を休んだところでその自信が喪失することなど絶対にない。
これがメンタルにも相当影響を及ぼしていて、逍遥は鋼のメンタルを持っていると皆が噂するのだ。
凄いことだよ、それも。実績に基づいた確かな練習と自身を信じて前に突き進むなんて誰にもできることじゃない。そこが逍遥たる所以だ。
俺は俺でメンタル強いとか噂されてるようだけど、周りに恵まれているだけで自分を信じる心を持てないのが今一つ哀しいところだ。
でも、明後日から始まる新人戦は絶対に上位に食い込んで見せる。
その思いは俺の中で揺るぎないものとなっていた。
翌日も、逍遥と数馬は市立アリーナまでジョギングがてら付いてきた。俺たちが屋外のグラウンドにいったとき、ちょうど南園さんが『バルトガンショット』の練習を再開しようとしていた。
「あれ、ショットガン、治ったの?」
俺の声に気付いて後ろを振り返った南園さんは、下を向いて首を振った。
ああ、新調したやつは結局お蔵入りか。でもまた買ったとしても、トリガー部分が握り易いかどうかは別問題だ。
「はい、それで、以前使っていた物に魔法をかけて同じスペックまで上げています」
「壊れやすくならないの、それ」
「明日まで持てばいいだけですから」
「そっか。自分に手に合ったデバイスが一番いいよね、ファイト、南園さん!」
俺の言葉を聞いて、南園さんはやっと笑った。
「ありがとうございます。八朔さんこそ、昨日目を閉じて試射してましたよね、びっくりしました。こういう戦術があるのか、って」
「俺の場合、最後までクレーを目で追う癖が抜けなくて。両手撃ちするのにもちょうど良かったみたいだし」
「そうでしたか、『デュークアーチェリー』も凄く素敵な演武でした。どちらも4分ほどなんて、信じられない速さですよね」
「いやあ、サポーターが魔法技術に長けたやつだから。デバイスの勝利だよ」
「そのデバイスを使いこなすには、それ相応の魔法力が必要なんです。やっぱり八朔さん凄い」
「褒めないでー。俺すぐ図に乗るからー」
南園さんは思わず仰け反って大笑いしていた。
やっと凹んでいた昨日から立ち直ったような気がする。
頑張れ!
黄薔薇高校の選手たちは並んで『バルトガンショット』の練習をしていたが、この2人も両手打ちで練習を行っていた。
演劇かバレエでも習っているのか、2丁のショットガンでクレーを真ん中周辺で撃つ仕草はとても決まっている。
クレーが粉砕されるたびに、取り巻き追っかけファン諸々の女子が、「キャーッ」と黄色い声を上げ、それはそれで明日のお客と同じくらいの音量は有りそうな気がした。
俺は一番隅の円陣に向かうと、ジャージのまま足幅を決めて姿勢を安定させ第1の的を待つ。汽笛の合図に押し出されたように的が現れた。
ドン!!
命中するたび、2秒間隔で人さし指デバイスを的のあった方に向ける。
ああ、前は気付かなかった。人さし指そのものが少しバランスを欠いただけで、この競技は終わる。そして的がそこにくるであろうことを予想して俺は撃たなくてはいけない。
やはり、短い時間で片付けないといけない競技なのだ、『デュークアーチェリー』は。
3セットの練習で、記録は3分30秒から3分40秒ほど。
数馬から明日の本戦に向け休んでおいた方がいいとアドバイスを受け、俺もちょうどゆっくりしたかったし午後は寝て過ごそうかなどと、楽することを考えていた。
3人で走りながらホテルに着き、数馬は自室へ。俺は逍遥とジャンケンして負けたので俺たちの泊まるツインルームには戻ったものの最初に逍遥にシャワーを取られてしまい、ドアから向かって左側にある自分のベッドに寝転がった。
すると、ちょっとけたたましいインターホンの音が俺の耳を劈いた。
モニターを確認しに行く俺。
黄薔薇高校の制服を着ている若者男子が2名。
「黄薔薇高校生徒会の者ですが」
「お菓子のおすそ分けに着ました」
お菓子?食べたーい。でも、俺は食い物でさえ自分で買ったものしか食べないほど食品にはうるさい。あとで数馬にでもあげようかなと、ドアを開こうとした時だった。
タオルを腰に巻いたあられもない姿の逍遥がドアまで走ってきて俺の手を押さえた。
俺を中に引きずり戻った後、モニターで話す逍遥。
「残念ですが、試合期間中は何も食べないようにドクターから指示されておりますので」
「では、どなかたにお渡し頂くだけでも」
「いえ、お気持ちだけ頂戴します」
逍遥は普段の声音よりも1オクターブくらい低い声で接遇し、ついには向こうの2人を追い返してしまった。相も変わらず冷たい奴だなあ。
すると、ジャージに着替え終えた逍遥は目を三角にして怒っている。
「海斗、相手が危ない人間だってこと気付かなかったの?」
「え。黄薔薇高校の生徒なんだろ」
「ブー。本来7階に宿泊してたはずが2人一緒にこっちに来たのを知ってるのは、紅薔薇生徒会の一部と聖人、数馬だけ」
あ、そうだ。そうだった。
「海斗、黄薔薇高校の制服に見えなくもないけど、ありゃ乱雑に縫製した模倣品だよ」
「そうか、言われて見ればおかしいことだらけだな」
「あいつらがこの部屋を知ってるとは恐れ入ったよ。いつ情報掴んだのやら。外国と違って日本のホテルはプライバシーにうるさいから、他人が宿泊してる部屋番号は絶対に教えないはずなんだけど」
「金積まれたら?」
「どうかな」
逍遥はイライラしている。よくわかる。
「そんなことより、今晩を含めてあと2泊3日。君を守り抜かないと」
俺が反省しているとまたインターホンが鳴った。
出ようとする俺を制して、逍遥が応対した。
「はい」
名乗らないの?
「俺だ、数馬だ。ほれほれ」
数馬が変顔決め込んでる。顔がなまじ良い分、笑いが取れるレベルに達するのが早い。
「今開けます」
そういって、逍遥はモニター脇にある通路を隔てた先にあるドアを開ける。
「数馬聞いてよ。海斗ったら、危ない連中部屋に入れようとしてたんだ」
数馬は最初何も言わなかったが、手を組み高速で指を動かしだした。ああ、こりゃ不機嫌になってる。お小言が始まるかもしれないと思っていたら、案の定、きた。
「海斗、あまりいいたかないけど君は鈍感が過ぎる。言っただろ、君を拉致る計画だって大いにあり得るんだから」
「反省してます」
「ならいいけど。もう少し自分の行動に責任もってくれ」
「はい・・・」
なんで北京共和国が俺なんかに興味を示すのか、それが今ひとつわからないから数馬や逍遥の心配もどこか他人事で、1人で行動したって危ないことに巻き込まれるなんてないだろうと思いつつも、いつもいつも事件に巻き込まれその度皆に迷惑をかけている過去を振り返ると、1人で行動する!とは言えないし、なんだか胸の奥にモヤモヤしたモノが広がるのは確かだった。
でもまあ、逍遥のいうとおり2泊3日で新人戦は終わる。
それまで拉致されなければ・・・たぶん、絢人の手引きで日本の何処かに北京共和国の魔法師たちが上陸するんだろう。
日北開戦のような大掛かりな物ではないにせよ、どこかの地が、それはもしかしたらこの横浜かもしれないんだけど、戦闘状態に置かれる確率は非常に高い。
キム・ボーファンの姿が見えないところを見ると、どこかに潜伏しているのか、もう北京に帰ったのか、そこは俺にまで情報が降りてないからわからないが、ワン・チャンホは間違いなく横浜に滞在していて、絢人と接触したのが聖人さんの放った式神によって確認されている。
八神絢人。
信じていたのに。
失望なんてもんじゃない。
GPSのアメリカ大会で逍遥とのパートナー関係が上手くいかなかったときだって、俺は心配したし生徒会に入れて安心もした。
これから1年魔法技術科の中心となって働いていくことを心の底から応援したかったし、生徒会の皆と上手くやって欲しいと願ってた。
なのに絢人は北京共和国に俺たちを、日本を売るような真似をしているのが現実だった。
なんだかなあ。
なんで国を売るような真似ができる?
俺が拘りすぎなんだろうか。
いや、違う。
もしかしたら、元々北京の出身だったのか。
日本人のふりをして紅薔薇に入学し、着々と日本併合計画を進めていたのではないか。
そう思えば、一連の行動にも納得できるというものだ。
とにかく俺は、明日と明後日の新人戦各競技に自分の今できる全てをかけて皆と戦い優勝を目指したい。
そのための邪魔は、いくら絢人であっても許しはしない。
俺の場合、デバイスに悪戯されることもよくあるので、デバイスは肌身離さず持ち歩くようにした。
翌朝目覚めた時もデバイスは俺の枕元に置かれていて、本当に自分の物か丹念に確認する。バングルにしてもそうだ。着け心地に重点を置いて、数馬の調整品かどうかを見極めていた。
よし、デバイスは間違いなく俺のモノだ。
逍遥を起こし、食堂へ行く準備をする。
制服に着替え俺たちは一度非常用階段で7階に降りてから、さも7階に泊まってますみたいな顔をしてエレベーターに乗って2階の大食堂まで移動する。
もう、絢人たちにはバレたようだが、知らないふりをすることによって相手を油断させる手口で包囲網を狭めようとしていたが、あいつらを捕まえるには決定打がなかった。
もし俺が拉致・誘拐されてしまえば決定打となるのだろうが、紅薔薇の生徒会はそれを良しとしなかった。如何にして俺を守るか、それを一義的に議論し今の動きに反映させた。
俺も「自分だけは大丈夫」などと甘いことを考えず、いつも誰かと行動するよう努めていた。
そんな中で始まった、魔法大会世界選手権新人戦。
1日目の種目は、『バルトガンショット』。2日目が『デュークアーチェリー』。
本来は一発勝負で決まるこの競技だが、100名近くの1年が挑戦するため、世界選手権のように予選ラウンドを開催することが急遽決まった。3回試射しての平均時間と平均射撃数等を数値化し、上位20名までが決勝ラウンドへ行ける仕組みに変わった。
決勝ラウンドでは世界選手権同様、一発勝負で優勝が決定する。
ただ、世界選手権と違うのは、午前に予選ラウンド、午後に決勝ラウンドが開催されるというあまりにもタイトなスケジュールだった。国立競技場ではその日程しか取れなかったらしく、苦肉の策ということらしい。
体力の温存と予選ラウンド決勝ラウンドとの駆け引き。
1年にはちょっと難しい駆け引きではあったが、皆サポーターがついていてその辺をどう乗り切っていくか策戦を練っているようだった。
俺と数馬、逍遥と聖人さんは策戦とは言うものの、特に今までと変更点なく進めることが唯一の策戦みたいなもので、俺の場合、予選ラウンドは4分を目安に、決勝ラウンドは自分の出し得る最高の試合をする、ということで話は纏まった。
俺的に若干の不安はあったものの、数馬は、『デュークアーチェリー』の予選ラウンドでは肩の力を抜いて100枚の試射を全部成功させることを目標に揚げて俺を励ましてくれた。
予選ラウンドの『バルトガンショット』も、100個のクレー全てを撃ち抜けば時間は4分台で構わないという。
それよりも、午後にかけて体力を温存することが大切と言われ、無駄な動きを極力出さないようにとの指示が飛んだ。
逍遥と聖人さんはそういった細かい指示などは話し合わず、目標枚数と目標時間を確認し合って、早々に別れたようだった。
競技1日目の『バルトガンショット』は、グループを5つにわけて開始された。
聞いてなかったんで驚いたが、1人の生徒が射的するのに時間がかかりすぎる場合もあり、午前中に100名まで終わらないと見込まれたため、だそうだ。
進みが遅いグループは進みが早いグループの後に移動し射的することも発表され、現場はてんやわんやになり、上を下への大騒ぎとなっていた。
冷静さが勝負を分ける、そう数馬が教えてくれた。事実、周囲をみるとその通りになっている。
今年度が初めてで色々な想定外が危惧されていたのだろうが、今日の大会事務局は何もかもが後手に回り、選手たちやギャラリーからの派手なブーイングを受けていた。
俺と黄薔薇高校の惠愛さんは第1グループ、サトルと黄薔薇高校の設楽小百合さんは第2グループ、逍遥と南園さんは最終の第5グループに振り分けられ、予選ラウンドが始まった。
同じグループにはGPF『デュークアーチェリー』3位につけたイングランドのアンドリュー、これまたGPF『デュークアーチェリー』4位に入ったドイツのアーデルベルトが出場していた。
南園さんの話によると、GPF『デュークアーチェリー』優勝のスペインのホセは第5グループに属したらしい。GPF『バルトガンショット』優勝のドイツのエンゲルベルトは第4グループだという。ワン・チャンホがどこのグループに入ったか聞きたかったが、下手に話を振ると突っ込まれそうな気がしたので止めた。
『バルトガンショット』の射撃順を決めるため、グループごとに抽選会が行われ学生たちが一列に並ぶ。俺と黄薔薇高校の惠さんは並んで一緒にくじを引いた。
俺は20人中5番。惠さんは20人中3番で、少し緊張の色が見て取れる。第2グループに属したサトルは20人中7番、設楽さんは10番。逍遥は第5グループの中で一番遅い20番、南園さんは17番だった。
現場がかなり混乱していたので、外国勢の順番は聞くことができなかった。
フランスからルイかリュカが来ていないか辺りを見回したのだが、2人の姿はグラウンドからは確認できなかった。
でも、俺がベンチ際に下がった時だった。
「タコ!タコ!」
なんだよ、タコって。
あ、もしかしたら・・・。
俺は声の聞こえたギャラリー席の方を見回した。
そこには、笑顔のルイとリュカがいた。
「タコ、グループドコ?」
「1」
俺は指をひとつ立てて第1グループであることを2人に教えた。
「OH、ラッキー。アイニキテ」
予選ラウンドが終わったらギャラリー席に来いという意味らしい。
「OK」
俺が手振りでOKサインを出したら、2人はキャッキャと喜んでいる。
よし、まずは『バルトガンショット』で練習の成果を出すぞ。
大きな号笛とともに、『バルトガンショット』の予選ラウンドが始まった。1人目のアジア圏の選手は7割方クレーは撃ったものの、時間は13分。2人目の欧米人は時間こそ10分を切ったが当たった数が5割を切っていた。
3人目で登場した惠さんは緊張の度合いが結構きつかったようで、俺も彼女のサポーターも心配していたが、11分で5割の射撃と、数字の上では結果が出ないで終わってしまった。
その後、俺の前に出てきた中東方面らしき人物も11分で約7割。
中々皆数字を稼ぐことができないでいるようだった。知らない土地での射撃は感が狂う部分もあるのかもしれない。
次は俺の番。
大きく深く深呼吸して屈伸運動して腕をぐるぐる回して身体を温める。
「カイト・ホズミ」
名前が呼ばれた。日の丸が胸に着いた全日本のユニフォームでショットガンを取り出した俺に、ギャラリーから大きな拍手が巻き起こる。
これじゃ惠さんも緊張するわけだ。
幸い、GPSからGPFというビッグイベントを経験した俺にとって、拍手や応援の声、たまに見られる怒号などは緊張するファクターになり得なかった。クレー発射音が聴こえるかはちょっと心配だったが。
所定の位置につき、号笛が鳴るのを待つ。
「On your mark.」
「Get it – Set」
バン!と一回音が鳴るとともに俺は目を閉じて両手を伸ばし、ショットガンを身体の前に突き出した。
シュッ、シュッ、とクレーが発射される音が聴こえる。ギャラリーの喧噪はあったものの、目を閉じたまま集中すると発射音が大きくなり俺の耳に届く。
音のする方向に間髪入れずに両手でショットガンを撃ち続け、続けざまにクレーが粉砕された。
何分経っただろうか、今のところ撃ち損じは無い。
数馬の言うとおり、100%のクレー粉砕を目標に俺は巧みにショットガンを操り発射音に耳を傾けた。
発射音が聴こえなくなり、号笛が2回鳴った。
射撃終了。
俺はゆっくりと目を開けた。
ちょうど日差しが俺のいる辺りを包み込み、太陽が眩しく感じられて俺は目を細めた。
結果のアナウンスを待ちながら、ギャラリー席に設けられた特大モニターに目を遣った。
「ただいまの結果 3分55秒 100個 3分55秒 100個」
場内は一瞬静まり返り、1拍おいてギャラリーの物凄い歓声に包まれる場内。
よし。出だしは上々。体力にも負荷はかかっていない。
この調子で午後もいける。
俺はグラウンドから離れて数馬を探した。
グラウンドにはいなかったので、たぶん、帰ったかギャラリー席にいるのだろう。
数馬との約束通りの結果を出せたので、俺としてはご満悦だった。
他のグラウンドでも試合は行われていて、時折特大モニターにその様子が映る。
全日本のユニフォーム姿のサトルの射撃が目に入ってきた。
姿勢の良さを全面に出し、その両手は交互に、あるいは同時に様々な場所から出てくるクレーを捉えていく。
サトルの結果は、5分30秒、100個。
他の選手が撃沈していくなか、サトルも上々の滑り出しを計っていたようだ。
しかし黄薔薇高校の設楽さんはショットガンとの相性が悪かったのか、なかなかクレーを巧く捉えることができず、14分約5割という結果に沈んだ。
予選ラウンドは、最後に決勝ラウンド出場者を発表するだけなので俺はルイたちとの約束通り、ギャラリー席へ向かった。
「タコ!ナイス!」
「ありがとう」
「カズマ、イタ」
「どこに?」
「ホラ」
そういってルイはギャラリー席の後ろの方を指さした。聖人さんと並びモニターを見ながら、2人とも大真面目な目をして口がへの字に曲がってる。
何かあったのか?
「ルイ、リュカ、他のグラウンドで何かあった?」
「ナイヨ」
特に目を見張るようなことはなかったらしいのだが・・・。
まさか、ワン・チャンホの射撃か?
どのグループに属したのかもわからなかったが、本物の力を見せつけて予選突破を狙っているのかもしれない。
ルイたちに聞いた。
「今まで一番成績がいいの、誰?」
「タコ」
「そうなの?」
「ウン、スゴカッタヨ」
「ありがとう、他に僕くらいの人、いなかった?」
「イナイ」
ワンはまだ順番がこないのか。
きもそぞろにグラウンドやモニターを交互に見ていると、モニターに第4グループが出てきた。
ドイツのエンゲルベルトの射撃が始まるところだった。
「ア、エンゲルベルトダ」
「ルイ、知ってるの」
「カオダケ、デモツヨイ」
どれ。どんな試合運びをするんだろう。
ワンもさることながら、GPF『バルトガンショット』優勝者の射撃は楽しみだ。
凄いスピードと安定した技術。
悉く真ん中に着たクレーを外さずに撃ち落としていく。
どんな魔法がかけてあるのだろう、あのショットガンには。
魔法に思いを馳せていると、場内がざわつき出した。
「ただいまの結果 3分40秒 100個 3分40秒 100個」
次に、イングランドのアンドリューが所定位置についた。
しかし、結果は思わしくなかった。11分で8割。
どちらかといえば『デュークアーチェリー』の方が得意なのだろう。ドイツのアーデルベルトも出てきたが、特筆するような結果を出すことはできなかった。
俺がグラウンドを見ていると、モニターの方から大きな歓声と拍手が聴こえてきた。
第5グループの逍遥の顔が特大モニターにアップになって映っている。
モニターに結果が出た。
「ただいまの結果 3分45秒 100個 3分45秒 100個」
うわ、何それ。本気出してないよな、逍遥。お前本気出したらどこまで行くんだよ。
南園さんの射撃を見ずに終わってしまったことを後悔したが、手堅く射撃したはずだ。元々、南園さんは射撃の腕がいい。
日本勢から何人決勝ラウンドに行くんだろう。上手くいけば紅薔薇から出場した選手は全員残れそうな気がする。地の利はあるにせよ、今年の1年は本当に強い。
結局、ワン・チャンホの射撃はみること叶わず。
場内がざわつかなかったところを見ると、4分台や3分台は出していなかったはずだ。
でも、決勝ラウンドには残っているかもしれない。
決して記録の出ない選手ではないはずだから、力を隠しながら決勝に進んだ可能性もある。
予選ラウンドが全て終了し、場内では決勝ラウンドに進む選手の名前が成績順に読み上げられていた。
南園さん、ギリギリ20位での決勝ラウンド進出だった。
何か不具合あったのか。
あ、ショットガンの不調訴えていたっけ。デバイスが記録を左右することはこの俺が一番よく知っている。
数馬があの魔法をショットガンに注入してくれなかったら、俺なんて予選ラウンドで見事に花散らしていたに違いない。
ワン・チャンホも名前が読み上げられた。成績は10位。よくもなく、悪くもなく、というところか。
やはり本当の姿を見せていないのだろう。なんたって、北京のエースなんだから。
俺はルイやリュカに挨拶すると、数馬たちがいる方向に階段を駆け上がって近づいた。
すると、「来るな」というような素振りを見せる数馬。
なんで?
理由も知らされてなかったし、急にそんな態度を取られたので俺は思わずムッとして頬を膨らました。
でも、ちょうど南園さんと鷹司さんがいたのでそちらにシフト。
「南園さん、決勝進出おめでとう」
「ありがとうございます、八朔さんもおめでとうございます。全体3位なんて凄いですね」
「たまたまだよ。でも南園さん、やっぱりデバイス合わなかったの」
「はい、新しいデバイスは左右とも握りがおかしかったので古いのに戻したんですが、魔法力がないデバイスでしたから」
「それでも決勝ラウンド行けるなんて、やっぱり才能あるよね、南園さんは」
「午後までに魔法力注入するために、早めにホテルに戻ろうと思います。では・・・」
女子二人はそそくさと出口の方に歩いて行った。
逍遥もサトルも、どこいったんだろう。
俺一人で誘拐されたらどーすんだよ。
数馬も数馬だ。SPの役割くらいサービスしてくれてもいいじゃないか。あんなに強いんだから。
俺は少しふて腐れながら人が溢れかえる場内の出口に向かってゆっくりと歩き出した。
陰から俺を見る2つの目に、俺は気が付くことが無かった。