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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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魔法W杯 全日本編  第12章

俺がマルチミラーを持っていなかったので、その日の練習は終了。

 少し早く終わったので、俺は生徒会室に顔を出すことにした。

 久しぶりに。


 生徒会室までゆっくりと歩きながら、ラナウェイのイメージトレーニングをしてみる。今日はデバイスの申請と、ラナウェイとプラチナチェイスの動画を確認するつもりだった。


 生徒会室のドアを2回ノックし、自分の名前を名乗り、中に入ろうとしたときだった。

「なにお前。なんでここに用があるんだよ?」

 中から聞こえてきたのは、入間川副会長の声だった。


 やばっ、この人しかいないのか。

 何か理由付けて帰らないと。

 俺は未だに入間川先輩が苦手だ。

 

 しかし、ドア開けておいて、帰る理由付けが見当たらない、言葉が出てこない。

「失礼します」

 そういって、一旦、中に留まるしかなかった。


 入間川先輩はじろじろと俺を見ている。

 失礼な奴だなと思いつつ、部屋を出る理由を考え続ける俺。

 

 あ、そうだ。


 沢渡会長にマルチミラーを申請するのだから、いなければ帰ればいい。

 そうだよ、会長がいないから帰る、それでいいじゃないか。

 真正面から入間川先輩を見るのはちょっと不愉快だったが、仕方がない。

「沢渡会長はいらっしゃいますか」

「いないよ」

「では、失礼します」


 それで終わるはずだった。


「なに、僕じゃダメなわけ?」

 会長の補佐をするのが副会長の役目だ。俺だって普通ならそうしたい。目の前にいるのが三枝副会長なら、マルチミラーの件を申請し、動画を観させてもらうだろうさ。


 でも、あんたに言うの、嫌なんだよね。


 リアル世界では、俺はどちらかといえばポーカーフェイスで、喜怒哀楽を表に出そうとしないタイプだ。

 でも、なぜかこちらの世界では喜怒哀楽を顔に出してしまうように設定されているように思う。

 そう、今日も俺の顔は少し歪んだらしい。

 

 入間川先輩がつかつかとこちらに向かって歩いてくる。

「何だよ、お前。先輩に向かってその態度は。ましてや僕は副会長だぞ」

 

 あちゃー。

 やってしまった。


 やったモノは後の祭り。謝って、すぐにここを出なければ。俺の魂がそうしろと叫んでいる。

「申し訳ありませんでした」

 ここに来た理由は、絶対に言わないから。

「で、なんで生徒会室に用があるんだよ」

「・・・」


 マルチミラーの申請は口が裂けても言わないとして、動画を観ることだけは言った方がいいのだろうか。

 その他に生徒会室に用なんてないし。


「動画を観せていただきたいと思い、伺いました」

「動画?」

「はい、ラナウェイとプラチナチェイスの動画です」


 俺の真ん前にいたのに、一歩引き下がった入間川先輩は、途端に腹を抱えて笑い出した。

「お前、本気で出るつもりなの?」

「は?」


 何のことなのか、理解不能。

 入間川先輩は、下から舐め回す様なねちっこい目をして、俺を睨んでいる。


「魔法のまの字も知らない第3Gのくせに、全日本に出るのか、って聞いてんの」

「はあ」

「辞退すりゃいいんだよ、お前のように何もできないやつは。皆の足引っ張るだけだから」


 辞退・・・。

 今まで考え付きもしなかった言葉だ。

 入間川先輩の物の言いように少々カチンときた部分はあるが、そうだなと妙に納得する自分がいた。

 なんだ、辞退すればもう練習に参加しなくてもいいんだ。

「はい、では・・・」

 

 辞退させてくださいと言おうとしたところで、運が良くか悪くかわからないが、沢渡会長が後ろに立ったのがわかった。振り向いたわけではない。オーラというか、存在感が圧倒的だというか。


「入間川。代表に選ばれなかったからといって、後輩、それも第3Gに対するその態度は許されない」


 俺は、一歩引いてドアのところまで下がった。

 ここで辞退すれば、解放されリアル世界に帰れるかもしれない。

 でも、沢渡会長の威厳に阻まれ、なかなか辞退の文字を口に出せないでいた。

「あの、僕・・・」


 沢渡会長は俺の方を向いて、いつにも増して威厳を保っている。

 ダメだ、言えない。

 言ったらどうなるか、わからない。


 俺を黙らせた沢渡会長は、次に入間川先輩の方を見た。

「常日頃の態度を見るにつけ、お前は副会長としての責務を果たしていない。資質が無い。生徒会の会長として、不愉快極まりない」


 あのー、ここ出ていいですか・・・。

 なんか、アレな場面に遭遇してると思うんすけど・・・。


 しかし。

 沢渡会長は「出ろ」とも「居ろ」とも言わない。

 重大事項を言う時は、皆を退席させるような人が、俺に何も言わない。


 俺って、そんなに空気みたいな存在ですか・・・。

 どうしよう・・・。


「入間川。今日を持ってお前を生徒会役員から外す。生徒会役員の選出は俺の専決事項だ。お前はその任に相応ふさわしくない」

 入間川先輩も、何か言いたげに口をもごもごさせている。

 それが余計、沢渡会長の逆鱗に触れたらしい。

「何か言いたいことがあるならはっきりといえ。さきほどは八朔にぺらぺらと話していたではないか」

「それは、その」

「何だ」

「その1年生は選手に相応しくありません。魔法だって使えないし先輩に対する態度もなっていない」

「ほう。俺の知る限りでは、3年の者からはすこぶる評判が良い。素直な性格だし、真面目に練習していると」


 入間川先輩は、駄々を込ねる幼稚園児のような顔になった。

「僕には違った顔を見せます」

「確かに、会長を補佐する副会長に対し、用件を言わない八朔も悪い。しかしそれを差し引いても、お前の態度はけしからん。出て行け」


 入間川先輩は、耳まで赤くしていた。相当怒っているのだろう。

しかし、沢渡会長は一度決定したことを覆す人間ではないらしい。入間川先輩はそのまま、生徒会室を出て行った。

こうして入間川先輩は生徒会を追われることになってしまった。


 すみません、俺のせいなんですね・・・。

 俺の態度も悪かった、素直にそう思った。


「会長、申し訳ありません。僕の態度も悪かったと思います」

「確かに。だが、用件を言った瞬間に入間川が放ったあの言葉は、お前の人格まで否定していた。生徒会の役員ともあろう者が、そういったことでは困る」

「はい・・・」

「ところで、今日の用件は動画鑑賞だけではあるまい。勅使河原と九十九から聞いていた」

「はい、実は先輩方に勧められ、マジックミラーの申請に伺ったところ・・・」

「相手が入間川では、話しづらかっただろう。あいつは今回の選考から漏れて、そこかしこでいざこざを起こしていた」

「いざこざ?」

「同じ2年の選手に嫌がらせをしていた疑惑があるのだ。匿名で告発があって、調べている最中だった」

「そうだったのですか」

「お前に対するあの態度で、告発の真偽がわかった。これですべて解決に向かうだろう。これ以上嫌がらせを続けるようなら、退学処分になる」

「退学?」

「そうだ。この大事な時期に選手の気概を損ねるようでは大会の結果に大きな影響を与えかねない。我々は代々、そういった決断をしている」


 ひえー。

 嫌がらせしただけで退学処分かよー。

 でも、イジメもそうだよな。

 いじめで退学とか、普通にあり得そうな気もする。

 泉沢学院でも、後輩いじめて退学になった人がいるとかなんとか、中学の時、噂で聞いた。それもあって、泉沢学院行くの嫌だったんだよな。


 沢渡会長は俺が呆然としているように受け取ったらしい。

「お前がこれ以上気にすることはない。デバイスは早速準備しよう。動画も観て行け。ラナウェイはまだしも、プラチナチェイスはまだ細かな配列などの実戦練習を密には行っていないだろう」

「ありがとうございます」


 その後、会長としばしプレーに関することなど歓談しながら動画を観た。

 プラチナチェイスは、飛行魔法を駆使してボールを取る競技だ。先頭と末尾の位置で陣形が決まり、魔法によって動くプラチナボールを陣形の中に追い込み、チェイサーと呼ばれる遊撃手の一人がラケットを使いボールを取る役割を果たす。

 とはいっても、ボールはプラチナ製でビュンビュン動く。ラケットを当てただけでは到底逃げられるのが分りきっているのだという。

紅薔薇高校1年の場合、チェイサーは瀬戸さんだ。

 俺は、ボールが陣形から逃げないように周りを飛ぶ遊撃ということになる。

 南園さんが言っていたように、もう少し体力を付けなければならないのか。寮のフィジカルフィットネスルームにでも行くか。

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