魔法W杯 全日本編 第11章
翌日も朝から大会前の補助練習。
アシストボール。
俺はやりたくなかったけど、万が一の事態を想定して、サブの選手も練習に参加することとされた。
やはり・・・走れない。すぐ息が切れる。魔法で酸素を取り込んでもらったハズなのだが。
そんでもって、今はサブの選手だけが練習しているというのに。
ところで、サブ=補欠選手は俺だけじゃなくて、1年にもいたし、2年や3年の先輩もいた。全部で5人以上はいたけど全員が第3Gなのか、紅薔薇高校生なのか。今はTシャツにハーフパンツという格好なのでよくわからなかった。
四月一日くんや南園さんはどちらも1年のエースだし、国分くんや瀬戸さんも並以上の力を持っているから、万が一の事態でも無い限り、俺の出番はないのだが。
ていうか・・・瀬戸さんは男より男らしい。俺、見た目から何から、すでに負けてるし・・・。
瀬戸さんは、身長175cm。
女子としては体格もいい。
でもって、女子のようにせせこましいことで怒ったり泣いたりしない。
すごく付き合いやすい女子だった。
胸は・・・筋肉でできているようなボディビルダー体型。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
放課後恒例、居残り練習の時間が始まった。
今日はアシストボールとラナウェイ。
アシストボールでは、走る。
走る。
走る。
とにかく走ることから始まった。
いくら魔法で補うとしてもスタミナが無ければ最後には息切れする。
走るのが大の苦手の俺なんだが、先輩方の熱意にほだされたというか、ある意味拉致されたというか、決して自分から進んでこの場にいるのではないことをご理解いただきたい。
ルールはうろ覚えだが、サッカーのようにドリブルで進んで、(足でドリブルしなくてもいのだが、たぶん相手にボールを奪われるから)ゴール間際で腕をしならせて相手ゴールにボールを叩き込む。
確かこれだけだったハズ。
シンプルイズベスト。
サブの俺がチームに入ったとしても、ボールが回ってくる確率は非常に低い。とにかく、走ってさえいればいい。
会長初め、先輩たちはそう言って笑っている。
笑いものにしないでください・・・。
問題は、ラナウェイ。
相手の背後に回るというのは実はとてつもなく高等テクで、俺には最大級の難問であり、それでいて撃たれないように自分の背後にも気を回さねばならない。
先輩方とともに屋外で追いかけっこをする羽目になった。
実戦形式でデバイスを操る先輩たち。
俺は足元を狙われすぐにゲームオーバーになってしまっていた。
沢渡会長からアドバイスをもらった。
「いつでも周囲に目を光らせろ。足元を狙われる際に、デバイスで足の守りを固めておけ」
「もしかしたら、そのデバイスを僕は持っていないと思うのですが」
そういって、ショットガンのみを見せる。
「そうだったな。お前なら無くても大丈夫とは思うのだが・・・時間をくれ」
沢渡会長は、どうも俺をかいかぶっているところが散見される。
大丈夫なんだろうか。
ま、俺が撃たれたところで、チーム全員が撃たれない限り負けはない。
四月一日くんと国分くんに勝負を任せればいい。
「八朔。自分が撃たれてもあと2人いるから大丈夫と思うな」
あ。心の声、聞こえてた?
今日はラナウェイだけでかなり時間が推してしまった。
アシストボールは持久力をつけることを目標に、日々走り込みを続ける約束をさせられ、ラナウェイは明日以降に作戦を練る、ということで集まりは散会となった。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
今日も授業は実践的な取り組み。
サブ=補欠で参加しているアシストボールでは走り込みを行い、俺はどうにか周りについていくまで上達?した。
ロストラビリンスでは実際に仮設の迷路を歩かされた。透視による技術と今まで歩いた道のりを含めた総合的判断とやらで、俺は頭脳プレイが得意なこともあり、一発で迷路をクリアしていた。
デッドクライミングは、1年女子は圧倒的な勝利間違いなしのスコア。ここにはエントリーすらされていないので、安心して観ていられる。
プラチナチェイス。ここでも他の4人の活躍が目覚ましく、俺の出る幕などほとんどなさそうだ。
そ、出るには出るんだが、俺はおまけのようなものだ。
問題は、ラナウェイ。
3対3で行われる種目ゆえに、ただ黙って撃たれるのを待っている訳にはいかない。
いくら他の2人が優秀だったとしても、開始1分で倒れたのでは男がすたる。
先輩たちの厚意に甘えて、大会直前まで実戦練習を重ねることにした俺。
なんでだろう。
リアル世界にいるときは、こんなことなかった。
できないことはすぐに諦めて、ポイ捨てよろしく投げだしていたものだ。
“こちらの世界を楽しめ”
楽しむのなら、なおさら投げ出せばいいものを、と思うんだが、身体がそれを許さないっていうか、勝手に動くんだよね、身体が。
自分が少し変わっていくような「らしさ」と、実際にはできないことに対する「不甲斐なさ」があって、そのはざまで揺れてる、そんなイメージ。
どうせやるなら味方の邪魔にならない程度になりたい。
あべこべの胸中ではあるのだが、こちらにいる俺は、リアル世界の俺とは真逆の考え方をしているといっていい。
どうしてなのか、いまだにわからないけどね・・・。
さて、ひとりごとはここまで。
先輩たちがラナウェイの練習に付き合ってくれるのだから、成果を出さなきゃいけない。
3年生の勅使河原晋先輩がアドバイスをくれる。
「走って相手を追うだけがベストの策戦ではないよ。隠れつつ、相手が出てくるのを待つんだ」
わかってるつもりなんだが、脳から出る運動神経+反射神経は、そこがうまくつかめていない。
俺は不甲斐ない気持ちが前面に立ち、両目に涙が溜まってきた。
「どうすればいいのかわからなくて・・・」
そういうのが精一杯だった。
勅使河原先輩は、もう一人の3年生、九十九翠先輩と実戦を想定した動きを見せてくれた。
まず、両者一斉にGO、反対方向から走り出す。
勅使河原先輩は樹の陰に、九十九先輩は建物の壁際に隠れ、まず手のひらサイズの鏡のようなデバイスを自分の足下にかざし魔法をかけた。これで相手から繰り出される足への攻撃を予防できるという。
そして、周囲をよく確認した二人は、じりじりと歩みを進め、ショットガンを使う瞬間を図っているように見えた。
と!
勅使河原先輩が急に樹の陰から飛び出し、九十九先輩の手を狙ってショットガンを操作したため、九十九先輩は一瞬、自分のショットガンを地面に落としてしまった。
そこに目掛けて遠巻きに走る勅使河原先輩のショットガンから魔法が放たれ、九十九先輩はドロップアウトした。
「すごい」
心理戦ともいえるラナウェイ。
勅使河原先輩は笑いながら俺に近づいてきた。
「今回の実践はまだまだ甘い。実際の試合になれば、僕の後ろに敵が出てきて僕の足元を狙うだろう。左手でマルチミラーを操作しながら、周囲に敵がきたらそちらを撃つ策戦もある。走っている間はマルチミラーで足に魔法をかけることはできないから、当然走っている方を狙うのがセオリーだ」
?マルチミラー?操作?
俺が不思議そうな顔をしたんだと思う。
九十九先輩も勅使河原先輩の横に立つ。
「この鏡みたいなものさ。ただの鏡じゃない。魔法陣を作れる優れものさ。走りながらでは効果が出ない。一旦立ち止まって隠れる時には魔法陣を作れるし、敵の動きをみるときに役に立つ」
勅使河原先輩はバンバンと九十九先輩の背中を叩きながら説明してくれる。
「二つの役割があるんだ、このマルチミラーには。魔法陣をつくること、相手を視認できること」
九十九先輩が続けてくれる。
「授業では教えてくれないだろう、君はまだデバイスを持っていないようだし。デバイスを沢渡に申請すると良い。もう出場が決まっているのに、どうして持たせなかったのかな」
「僕、卵みたいな殻に隠れていればいいと思っていたので・・・。でも、無効化魔法があると聞いて、それだけじゃダメだとわかったんです」
勅使河原先輩はにっこりと笑った。
「そうか、あの魔法が使えるのか、君は。格下相手ならあの魔法はかなり有効だからね。同等クラス以上だと難しくなるけど」
「そうなんですか」
九十九先輩は大きな体格を揺らしながら俺の頭を撫でてくれる。
「申請してマルチミラーを入手してから、今度は実戦形式でやってみよう」