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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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GPS-GPF編  第9章  イタリア大会~GPF  第14幕

午後からは講堂で生徒全員が出席した壮行会が行われ、GPFに参加する選手とサポーターが紹介された。

 

 まず、沢渡元会長。GPS1位通過で『プレースリジット』への出場が決定している。もちろんサポーターは若林先輩。

 次に、光里(みさと)会長が光流(ひかり)先輩から『バルトガンショット』を引き継ぎ好成績でGPFへの出場を決めた。蘇芳(すおう)先輩が引き続きサポートを続ける。

 1年では、逍遥(しょうよう)がGPSで1位通過した『エリミネイトオーラ』に出場する。聖人(まさと)さんは昼前に学校に来て、なんとか壮行会には間に合ったが、2人はずっと目を合わせることもなく、少し異様な風景に見えたのもまた事実だった。

 南園さんも『スモールバドル』に出られることになった。GPS同様、譲司がサポートに就く。生徒会役員同士で気心知れた仲間でもあり、南園さんの更なる飛躍が望まれる。


 最後に名前を呼ばれたのは俺、八朔(ほずみ)海斗。壮行会に集まった生徒のほとんどが俺が禁止魔法その他の事情で7位から5位に順位格上げされ、やっとこさ出場できることを知っていたらしく拍手はまばらだった。

 サポーターとして数馬の名前が呼ばれたんだが、結局数馬は講堂に姿を見せず、司会を務めたサトルの声がちょっと不安げに聴こえた。そりゃそうだよな、サトルにしてみれば壇上に上がってくるはずの人間の姿がないのだから、どうやってカバーすればいいか悩んだに違いないが、サトルは機転を利かせて瞬時に出場者全体への拍手を生徒たちに求めたので、数馬のことはうやむやで終えることができた。


 それにしても数馬、何やってんだろう。

GPFには行くといってたから札幌には行くんだろうけど、壮行会にさえ姿表せない程の何か、ってあるんだろうか。俺からしてみれば、半ばサポート棚上げのような気がするんだけど。まあ、いい。数馬無しでもやっていけるくらいの練習は1人で行っていたから。


 壮行会では1人ずつ選手が挨拶したんだが、他の皆は、ご期待に添えるよう上位目指して頑張ります、みたいなことを言っていたので、俺もそれに(なら)って言おうと思ったが、俺が上位を狙えると思って期待してる人は少ない。拍手の音でそれは分かる。

 だから、別のフレーズでやんわりと。思い切り世界にぶつかってきます、といったんだよ。それなら拍手してくれた人を失望させずに済んだだろ?


 壮行会が終了して俺は一旦魔法科に戻ったが、逍遥(しょうよう)聖人(まさと)さんは会話どころか視線さえ未だ外している。このままじゃ、明日からのGPFに差し支えるじゃないか。

逍遥(しょうよう)が亜里沙から出された命令はGPSを1位通過だったはずなので、GPFで何位になろうが亜里沙からビンタされることはないだろうけど。

 でも、あまりにひどい内容なら、やはり紅薔薇を辞めて軍務に引き戻されるかもしれない。逍遥(しょうよう)、君はそれでいいのか?

 

 俺が見つめてることに気が付いたのだろう、俺の心の中にも。逍遥(しょうよう)は俺の傍に寄ってきた。

「僕なら大丈夫。もうヘマはしない」

「順位落すと亜里沙が怖いぞ」

「それより、数馬はどこ?」

 俺は目を細めてきょろきょろしている逍遥(しょうよう)を見つめる。

「それはこっちが聞きたいくらい。GPFには行く、って伝言あっただけでさ」

「練習できたの?」

「市立アリーナで毎日30分ずつ。あとは寮でトレーニング」

「マッサージ、聖人(まさと)にやってもらったら?」

「バランスボールでぐにゃぐにゃしてると何か調子いいから大丈夫」

 俺の「大丈夫」という返事を逍遥(しょうよう)は全くといっていいほど信用していない。それは言葉の端々からも見て取れる。

「バランスボールで肩甲骨のマッサージになるとは思えないね。聖人(まさと)見つけて頼んでおいでよ」

聖人(まさと)さん、どこ」

「知らない」


 俺の目は段々細目から三角に変わって来て、亜里沙程じゃないけど怒りが目元に現れるようになり、本来聖人(まさと)さんがいうべき言葉をついつい口にしてしまった。

逍遥(しょうよう)、なんで君たちが諍い起こしてんのかは知らない。でも、GPFと新人戦しかサポート受けられないんだよ。来年度聖人(まさと)さんはプレーヤーとして魔法大会に参加する。君のサポートはできない。わかってんの?」

「・・・」

「わかっててやってんなら俺はもう何も言わない。でもさ、君たちはお互い反省すべきだと思う」

 俺に諭されたところで、真っ直ぐな心でそれを受け止めるはずもない。逍遥(しょうよう)は全くの天邪鬼(あまのじゃく)だ。

「なら、最初の人選どおり聖人(まさと)は君のサポートに就けばいいんだ」

「そういう問題じゃないだろ。反省しろよ」

「何も悪くないのに、どうして反省が必要なのさ、嫌だね」

 

 もう、なんだってんだ、この二人は。

 亜里沙に言ったらなんとかなるかな。

いや、あいつは逍遥(しょうよう)より俺を大切にしている。ゆえに、「最初の人選どおり聖人(まさと)は君のサポートに就けばいいんだ」という逍遥(しょうよう)の言葉を額面通りに受け取ってサポートを変えてしまうだろう。

そして広瀬事件の時に思ったのだが、亜里沙にとって数馬は死んでもいい人間だったのだから、俺と数馬のサポート関係など一瞬にして吹っ飛ぶ。

 俺としては、今も聖人(まさと)さんのサポートに未練がないわけではないが、数馬という新しいサポーターを迎え頑張る中で、やっと聖人(まさと)さんとのサポート関係を忘れつつあったのだから、聖人(まさと)さんの願いどおり逍遥(しょうよう)のサポートをさせてあげたいし、俺は数馬との新しい関係を構築していきたい。

 

 逍遥(しょうよう)は天邪鬼ではあるが合理的な人間で、普段は今回のように駄々をこねる真似はしない。聖人(まさと)さんを信頼しすぎているからこそ、我儘いい放題になれるんだな。そう思うと、俺の胸に秘めた思いが切り裂かれてしまうような気がした。あまりの面倒くささに、俺はちゃぶ台をひっくり返してしまいたい気持ちに駆られた。

 わかる?ちゃぶ台返し。

 わかんないならググってくれ。

 もちろん俺がいたリアル世界でちゃぶ台の代わりにあったのはダイニングテーブルだし、今だって、部屋にあるのはちゃぶ台ではなく机だからひっくり返せるモノなんて何もないんだけど、目の前にちゃぶ台があったとしたら、俺がちゃぶ台ひっくり返して現状が変わるなら、俺はとうの昔に台に手をかけ一気にひっくり返していたことだろう。

 

 それくらい、俺にとっては腹立たしいことなんだよ。聖人(まさと)さんと逍遥(しょうよう)の喧嘩は。

 友情や思慕という目に見えないものが間にあるから、こればかりはどうしようもない。

 

 ああ、なんだか疲れた。

 飄々としながらも唇を尖がらせてる逍遥(しょうよう)に声をかけたが無視されたので(なんで俺が無視されなきゃならない?腹立つなー)サトルと譲司を探した。2人はまだ講堂にいたようなので離話を飛ばして今日の練習はOFFとする旨を伝えた。

「俺、今日は帰る。明日出発だし、もうアリーナでの練習もないしさ。体育館でアホどもに突っかかられんのが一番面倒だし」

「了解。マッサージしなくていいの?」

「うん、この頃はバランスボールにうつ伏せになったり仰向けになったりしてるんだ。なんか凝り固まった筋肉が解れそうな気がして。ところで確認。明日は何時出発だっけ」

「朝7時に学校集合。あとはバスで羽田空港に向かってそこから空路で新千歳空港に行く」

「そうか、ありがと。寝坊しないように起こしてくれないか、サトル」

「いいよ、朝5時半に起こすから、今日のうちにキャリーケースとか準備してて」


 俺にとって、寝坊防止の最大効果は人に起こしてもらうことだ。

 そうすればまずもって二度寝はしない。

 たぶん、きっと。


 俺は明日横浜を発つわけだが、そういえばホームズもGPFに行くようなこと言ってたな。明日までに帰ってくるのかな。数馬も明日はさすがに姿を見せるだろう。ホームズが数馬を嫌ってるからサトルか誰かに預けることになると思うけど。

 生徒会でホームズの面倒見てくれればいいんだけどなあ。少なくとも、サトルと絢人(けんと)は試合に出ないわけだから。


 亜里沙に動物はダメだ。

 あいつがワンニャンに懐かれたところを見たことがない。抱っこしたとて、大抵手の中から逃げられる。怖い人間だということを動物に見抜かれているわけだ。

 (とおる)はその点、動物とのふれあい方は上手で道端で会うワンニャンはみな(とおる)が呼ぶと尻尾を振る。駆け寄ってくるワンニャンも多数。

だが、亜里沙も(とおる)もいつ姿を見せるかわからないから今回に関して言えば問題外だ。


 俺はもう夕食を摂り終えて、部屋でバランスボールに乗って仰向けになっていた。

 スマホ時計を見ると、もう午後9時。夜の帳は早々に降りていて、段々と部屋の空気も下がっていくのがわかる。

 おっと、忘れてた。サトルの言うとおり、明日出掛ける準備をしないと。

 GPFは練習日も合算すると10日ほど札幌に行くことになる。ホテルはそれなりのところを使うのだろうが、着替えやら何やら、持っていく物は少なくない。

 俺はすっくと起き上がってバランスボールに座った状態になった。


 その時だった。

目の前の空気が歪んだように感じられ、俺はまた、目眩を起こしたのかという錯覚に捉われた。すぐに錯覚とわかったのは、そこにピン、と尻尾を立てた白黒猫のホームズが現れたからだった。何だかホームズは鼻の頭から尻尾の先まで、全身(すす)けている。

「これには深い理由があってな、決して俺の魔法が悪いんじゃない」

 俺の目を見ながら心で叫んでいるホームズ。俺も言いたいことを心に思うだけにして、俺たちは傍から見ると成立しない妙な会話を楽しんでいた。

「そっか。シャワー浴びるか?」

「断る。俺はシャワーが世界で2番目に嫌いだ」

「一番嫌いなのは?」

「人間」

おしなべて人間には近づきたくないというわけか。

ただ、ホームズ的にはそこには例外規定があるようで、ホームズをただの猫として扱ってくれる人間には心を許す、ということだった。

なるほど、国分家はぴったりと規定に当てはまったわけだ。

「その(すす)、どうすんの」

「舐めて綺麗にする。猫ってなぁそんなもんだ」

「りょーかい」

 

 離話と同じじゃないかって?

離話は透視を伴う場合が多いし、相手の心が俺の心に響かない。読心術は、相手の心がそのまんま響いて来る。

普通人なら嘘をつけば心の中で動揺することが多いわけだが、その動揺を見切ってしまうのだから離話とは違う。

 だから読心術は目の前あるいは近くにいる人間の心を読むんだなあ、と感心している俺。


 そしたらホームズ曰く、近くにいる人ではなく、目の前にいてその眼を凝視できる場合に発動される、という。

だが、逍遥(しょうよう)が俺に使った読心術は後ろにいても、何回も発動されていた。俺が輪の中に居さえすれば。

「あいつ、気に入らないけど魔法力は群を抜いてるな」

「見ないでもわかるの?」

「1回見た。あの一瞬さえあれば俺には充分だ」

「へえ、じゃあ、俺の力は?」

「へたっぴ」

ホームズの一言があまりに的確すぎて、俺は苦笑いするしかない。

「随分とシビアだな。俺はお前の飼い主だってのに」

「飼い主?俺はただ居候してるだけだ」

「じゃあ行くとこあんのか」

「ない」

「やっぱり俺の飼い猫じゃないかー」

「違う」

 

 ホームズは何やら反論したがっていたようだが、猫用おやつをちらつかせると猫に戻り、ニャーニャー言いながらおやつを両手で持って器用に頬張っている。

 やっぱこいつ猫だよ。

 猫がたまたま魔法力持っただけに過ぎない。

 

 俺はホームズの傍らで明日からの準備を始めた。

 もう夜の10時過ぎ。

 早めに寝ないと。

 準備に結構な時間を割いてしまって、手足が冷えてきた。ベッドに入っても冷えて眠れないような気がしたので軽くシャワーだけ浴びたのだが、それ以上起きて風邪を引くリスクを嫌って、俺はそのままベッドに潜り込んだ。


 ベッドに入った俺は、GPFに行くといったホームズの言葉を思い出した。

さて。誰とどうやっていくのか聞くべくか聞かざるべきか、ヘンなことに気を回し悩んでいる俺。

 そこはさすが読心術の使える猫。眼も合わせていないのに俺の心を読んでる。

「明日は瞬間移動魔法で札幌に飛ぶ。向こうでは生徒会の世話になる」

「そうか、なら安心だ。おやすみ、ホームズ」

 ホームズはニャーと鳴き、猫用ベッドに丸くなった。


 翌日の朝、5時。

 ホームズの朝飯寄越せコールで俺は目が覚めた。

 最初に猫トイレを掃除し猫ベッドの形を整え、猫ご飯を袋から出し餌場に置く。もう時間は5時20分。

自分も制服に着替え、俺はサトルの迎えを待った。

ホームズありがとう、これで寝過ごさなくて済んだよー。


サトルは5時半ちょうどに俺の部屋に来た。

周りの部屋との兼ね合いもあるので小さくドアをノックされたんだが、俺が制服に着替えて余裕ぶっこいて待っていたのには少々驚いたようで、両目が三日月になって笑っている。

 おはようと互いに声を掛け合い、キャリーバッグを持って部屋の中を確認した。

 ホームズは朝のご飯タイムで満足したらしく、また猫ベッドで眠っている。

 サトルが不思議そうにホームズを見ていた。

「あれ、ホームズは連れて行かないの。向こうでホームズの面倒見てくれ、って言われたんだけど」

 どうやら、瞬間移動魔法で移動することは知らされていないらしい。生徒会の中でもホームズの真の魔法力を誰が知ってて誰が知らないのかわからず、俺は曖昧な返事しかできなかった。

「あとで札幌に行くって言ってた」

「そうか、じゃあ縄に繋いだままでいいんだね」


 ホームズとの会話を思い浮かべた時点でサトルは悟ったのかもしれないが、特段俺を責めることもなく、ホームズが驚かないように俺は静かにドアを閉めた。


 学校に着くと、久々に数馬登場。

 イタリア大会以降ほとんど顔を見ていないような気がして、本当にご無沙汰しているなと。

 君は俺のサポーターなのかと嫌味のひとつも言いたくなったが、まあ、市立アリーナで練習はできたしアリーナのギャラリーさんがたからの激励ももらったし。

 俺にとっては、この世界に来て紅薔薇以外の人からああいった形で応援されたのは初めてで、ちょっと言葉にしにくいけど簡単に言えば物凄く嬉しかったわけで。

 GPF会場に応援に行くぞ!という声までいただいて、こりゃ本気で頑張らなくちゃ、と。


 数馬自身は、一体何をしていたのか知らないがかなり上機嫌で俺にドリンクを渡そうと2本買ってきた。

「ごめん、数馬。前にも言ったけど自分で買ったものしか飲まない」

「あ、そうだったね。忘れてた」

「イタリア大会終わってから何してたの」

「やんごとなきお仕事さ」

「なんだよ、それ」

「今回のGPF大会に関係あるものじゃないから、そのうち話すよ」

「え?今回に関係ある秘策とかじゃなかったの」

「違うよ」


 俺は項垂れた。気持ち半分、数馬は今回のGPFに合わせて何か考えてるとばかり思ってた。関係ないならそういえばよかったのに。

「でも練習風景は見てたよ」

「その都度離話してくれればよかったのに」

「一度したよね?あとは別に直すとこもなかったし。下手に口出すのもねえ」

 軽く言ってのける数馬に俺は呆れたわけだが、今後何かあるのだろうからその時まで待つしかない。数馬という男は、話さないと決めたら絶対に話してくれない。その点は、聖人(まさと)さんの方が落としやすい。

 数馬を見ると、読心術で俺の考えがわかっているはずなのに「ふふふ」とアイドル目線でしたり顔をしている。

 何やら不気味でもある。

 早いとこ頭の中をGPFのサポーターに戻してもらわないと。このままサポートしないなんてことも大いにあり得る。


「さて、8日間だっけ。30分平均75枚。上が90枚で下が55枚か。今度の札幌アリーナも市立アリーナと似たような試合場だから、君にとってはやり易いと思う」

「そうなの?」

「ああ。海外でなくて良かったよ。君は時差ボケしやすいから」

「そこまで言わなくても・・・」

「ホントのことだし、みんながそう思ってることじゃないか」

「もういい、わかったわかった」

「ところで、ホームズは一緒じゃないの?」

 数馬の目がキラーンと光る。

 前にも拉致しようとして失敗したらしいじゃないか。なんでホームズをそこまでつけ狙うんだ?

「プライバシーに関わることだから言わない」


 プライベートでホームズが必要だってことか。

 それにしても数馬は自分のことを言わない。ロス生まれと15歳で日本にきたこと、紅薔薇に合わなくて放浪の旅に出たことくらいか。俺が知ってるのは。

 ま、必然性があれば数馬のプライベートが明らかになるんだろうし。

とどのつまり、数馬から見て、俺は数馬に何もしてやれないということなんだよな。

 俺という存在が必然でないということ。

 ちょっと複雑な気持ちになったが、今はそういうことを考えてる場合じゃない。これからGPFというビッグタイトルに挑戦するんだから。

 俺はキャリーバッグをバスに積み込み、窓側の座席に1人座って徐々に明るく光っていく街並みを見ながら羽田空港まで移動した。

 羽田空港から新千歳空港まで、確か1時間30分。搭乗手続きやら何やらを含めて3時間というところで、エコノミークラスではあったものの快適な飛行機ライフだった。

これが飛行機に乗ってる時間が2時間を超えると、足腰がバキバキになる。その一歩手前ということで、なんとかバキバキになるのは避けられた。

 

 新千歳空港に着くと、紅薔薇にしては珍しくJRの電車移動となった。およそ40分ほどで札幌市内に到着。これがバスだと70~80分ほどなのだとか。JRの駅は空港の地下に直結していて、俺でも迷わないと思えるような便利さだった。


 仙台はこれがないんだよなあと溜息が出る。仙台から発着してる飛行機の時刻表を見るのが好きだった小学生の頃、JRと空港は直結で繋がっていないことを知り、迷うよなあと不安になったものだ。ま、飛行機に乗ったことも空港に連れて行ってもらったこともないけどね。

 

 現実に戻ろう。

GPF出場が全員紅薔薇高生であったため、今回は紅薔薇中心の移動ルートで来たわけだが、札幌駅からはGPF専用バスで指定されたホテルまで移動した。駅からホテルがえらく遠いわけではないのだが、外国から参加する選手たちの交通事情を考慮して大会事務局が専用バスをチャーターしたらしい。


そうだよな、俺が外国に行って各自の責任において移動してくださいなんて言われた日には、試合すっぽかして帰るかもしれない。

俺のようなヘタレな選手はいないだろうけど。今までずっと専用バスだったのに気付かない俺も俺だ。時差ボケで頭の中が止った扇風機状態だったのだと今更ながらに反省した。


今回のホテルはウェスティン系列。

え?リアル世界にそんなもんないって?いいんだよ、こっちの世界だからリアルとは関係ない。

海外の選手が多い中、やはり海外資本のホテルは安心感が違うのだろう。

紅薔薇御一行様はバスを降りると次々に荷物をバスから降ろし、ホテルの中に入っていく。

ああ、こんなシチュエーションで前にリアル世界に戻ったことがあったっけ。

今回はそういうことがないといいな。


ビッグタイトルの最中にあの両親と顔を突き合わせるのはお互い不幸なことだと思う。俺は今更リアル世界に戻る気はないし。両親のやつれ様を見た時には胸が痛んだけど、こっちで魔法を極めることにしたんだ。


もう、リアル世界のことは忘れたい。

いや、忘れなければ。

タイトルホルダーになるためにも、余計なことを考えてる暇なんかないんだ。

ごめん、父さん、母さん。でも俺、こっちで何とか周りに助けられながら生きてるから。それだけは安心して欲しい。


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