GPS-GPF編 第9章 イタリア大会~GPF 第9幕
何度か目のインターホンの音で、俺はやっと自分の状況を察した。
外にいるのは、たぶん、GPS大会事務局の関係者。
今回のGPS大会で俺に対する何らかの罪が通報され、そのタレこみを確認しに来たというところか。
罪は・・・アンフェタミンの使用とでもいうところか。
で、俺の仲間たちは忽然と姿を消した。
薬箱を置いたまま。
俺はどう演技すべきなんだ?
自慢じゃないが、嘘は苦手だし演技も下手だ。
俺はやけくそになって笑いが込み上げてきた。
さて、相手を待たせるわけにもいかない。ドアを開けなければ罪を認めたことになる。俺が部屋にいることは防犯カメラ映像を解析すればわかるだろうから。
「はい」
なるべく落ち着いた態度をとり、大人しくドアを開ける。
「八朔海斗、くんだね?」
「はい、そうです」
「部屋の中を見せてもらってもいいかい?」
ほら、きた。
もう、どうにでもなれ。国分くんのようにアンフェタミンを摂取したわけでもない。俺の身体からは何も出るはずがない。
俺は小さく深呼吸してから、一言だけ告げた。
「はい、どうぞ」
2人の大人は部屋の中をざっと素手で触ったあと、右手を部屋中に翳した。
赤くチカチカ光れば、俺の負け。
どうやって3人が姿を消したのか分らなかったが、薬箱は机の下にあるし、アンフェタミンはその中に入っているはずだ。
案の定、机の下が赤くチカチカと光り、薬箱を見つけられた。
男性の方が俺の方に向き直る。
「この中、確認してもいいかい」
天国から地獄、といった心境で、また一言答える。
「はい、どうぞ」
俺はそっちを見なかった。見たところで何かが変わるわけでもない。アンフェタミンが見つかれば俺は事務局に連行され検査を受けることになるだけだ。
箱を開ける音がして、がさがさと中を見ているのが音でわかる。何分程見ていたんだろう、大人たちが薬箱を閉める音がして、後ろから肩を叩かれた。
「八朔くん、ありがとう」
振り返った俺に、男性の方が声をかけてきた。
俺は素知らぬふりをしていたが、何も話さないのも変かな、そう思って、言わなきゃいいのにひと言多く話してしまった。
「どうしたんですか。今までの試合でこんなことはなかったんですが」
男性の方が一回咳払いをしたあと、ゆっくりと話し始めた。
「君が不法な薬物を所持していると通報が入った。今見たところ部屋に薬物はない。君さえよければ身体の方も検査したいのだが、どうだい?」
あちゃー。
話しかけなきゃよかった。
でもまあ、どっちにしてもこういう展開に落とし込まれる運命だったのかもしれないし。俺、自分のドリンクしか飲んでないし。あとはホテルの食事しか摂ってない。
検査するのにどっか連れてかれんのかな、帰り迷うな、嫌だな・・・。
俺はあからさまに嫌な顔をしていたに違いない。でなきゃ、相手は読心術でも使うのか。
「大丈夫。ここで血液を少し採らせてもらうだけだから」
そか。それならいいや。
「はい、わかりました」
隣の女性はどうやら看護師で、俺の血液を採るために帯同してきたんだろう。
「はい。親指中にして手を握ってください」
「針さします、チクッとしますよ」
俺は注射が苦手だ。
だから針が刺さる瞬間を見ない。
「はい、終了です。手を開いて構いませんよ」
採血は一瞬で終わった。
あー、終わった。
心臓がどきどきするんだ、注射は。
ここで確定させるのかなと思ったら、それは持ち帰ると言うので首を捻った俺。
だって、どこかで誰か他の人の血液と互い違いになってしまうことだって無きにしも非ず。
俺は必死にここで確定してくれと頼みこんだが、専用の機器は事務局内にしかないと言う。
ちょっと押し問答のようになってしまい後に引けなくなったが、向こうが採血した証に俺の指紋も容器に押させてくれて、ついでに、DNAも確定させてくれると言うのでやっと折れることができた。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
事務局の人が帰ったあと、俺は机の上に置かれた薬箱の中を見た。
確かに数馬の部屋で見た薬箱だがアンフェタミンは入ってない。入ってたのは絆創膏とかカイロとか。薬類は何が入ってるかわかんないから処方されたもの以外飲むな、と聖人さんや数馬から口が酸っぱくなるほど言われていたので、この薬箱にも入っていない。
それにしても見事な恩行で。
3人と一斉に何処かへ消えたらしい。
みんなどこ行ったのかな。
離話でもしてみるか。いや、リアル世界で見てたドラマじゃこういうとき部屋に盗聴器が仕掛けてあったりして罪がバレたりするんだよ。
俺、何も犯罪冒してないけど。
しょうがないから寝るかな、と思ってベッドに転がったその時。
「海斗、僕。数馬。聞こえてる?」
数馬から離話が入った。
俺は思わず起き上がる。
「おー、数馬。みんな一斉にいなくなったからびっくりしたよ」
「悪い悪い、あの状況で説明してる暇なかったから」
「アレ、どうしたの、結局」
「消去したよ」
「どこで?ホテル内じゃできないって言ってたよね」
「日本まで一旦戻ったよ」
「どうやって?」
目を丸くする俺に、ケタケタと数馬は笑っている。
「瞬間移動魔法はこういうときに一番役立つのさ。3人で紅薔薇に飛んで消去した後こっちに戻って、君が捕まってる間僕らでケリつけてきた」
「ケリって?」
「フロントの彼だよ」
ああ、そういやあの日本語お上手な彼が数馬の部屋に入ったらしいところから物語スタートしたんだっけ。
「で、結局何だったのさ」
「聞いて驚け、彼は宮城家と関わりがあったんだよ」
「宮城家、ってことは、聖人さんの実家?」
「そう。しばらく口割ろうとしなかったから真実の魔法使っちゃった」
「なに、真実の魔法って」
「真実を告白させる魔法のこと。沢渡が使い手としては有名だね」
五月七日さんが落ちたあの魔法か。
逍遥は使えないはずだし、誰が使えるんだ?
「他にあの魔法の使い手いんの?」
数馬は嬉しそうな声を出す。
「僕~」
「げっ、数馬そんな魔法まで使うの?」
「外国で生活するには必須だよ。嘘つき多いだろう?」
「そりゃまあ・・・。で、経緯教えてよ。なんでこうなったか」
数馬の話を総合すると、こうだ。
宮城家では相変わらず海音が父親に甘やかされて生きており、紅薔薇、特に八朔海斗に対する敵対心を隠そうとはしなかった。
海斗たちを潰すため父親は海斗が出場するGPSの各大会に足を運ぶほどだったが、これというチャンスは訪れない。
しかし、ちょうどイタリア大会で使用したホテルのフロントが、昔、日本語を習いに宮城家に出入りしていた学生だった。
父親は彼に頼み、八朔海斗とサポーターの大前数馬の秘密を握れないか画策したいと持ちかけ、フロントの彼は了承した。
そして海斗たちの試合時間中に、フロントという立場を利用し、海斗や数馬が部屋の鍵を室内に置いたままだと嘘をついて海斗と数馬の部屋に入り込んだ。
マスターキーで入ったので防犯カメラを気にすることもない。
数馬の部屋に入って薬箱を見つけた彼(どうやら、薬箱を見つける魔法だけは使えたらしい)は薬物に対する素養は無かったが、風邪薬くらいなら入っているだろうからとGPS大会事務局に嘘の通報をした。その後、海斗の部屋に薬箱を移すよう求めた宮城父の企みに乗り、海斗の部屋に薬箱を移した。
そこまでは彼が宮城父から命令された行動だった。
海斗の部屋に集まる際に、聖人さん、逍遥、数馬は姿が防犯カメラに写り込まないよう存在を消す魔法を使うなど不測の事態に備えていたが、急に大会事務局関係者が海斗の部屋に着たため、アンフェタミンを処分する時間と場所を変更しなければならず、3人一緒にアンフェタミンを持って瞬間移動魔法で日本の紅薔薇学園内に飛んだ。
紅薔薇の中庭に隠れた数馬たち3人はアンフェタミンを消去魔法で人知れず処分した後、またもや瞬間移動魔法でイタリアのホテルに戻った。
この間、約2分。
イタリアに戻った3人はフロントの彼に同行を求めた。
しかし彼が何も話さないため、数馬が真実の魔法を発動し宮城家との関与が明らかになった。
数馬としては一連の出来事を大事にしたくないという不純な理由もあったので、海斗に血液採取まで済ませてもらって、セオリーどおりにこの一件を処理した。
「なるほどね、だからみんな一斉にいなくなったのか」
「海斗のこだわりはそこ?」
「そりゃそうだよ、1人置き去りでなんか疑いかけられて血液採られてさ」
「これでまた経験が一つ増えた」
「こんなのは金輪際ごめん被りたいね」
俺の不機嫌そうな顔を見ても、数馬は反省する素振りも見せない。
聖人さんや逍遥は、所詮他人事なので離話にも加わってこない。なんてやつらだ。
「聖人さんをこの件に関わらせると宮城家で何してくるかわかんないからね、今回は僕と逍遥で進めたよ」
「逍遥だって宮城家には知られてるんじゃないの?還元した時に会ってるかもしれないし」
「聖人さんが逍遥に還元した時は、宮城父は退官してたんだ。まあ、宮城海音がまだ暗躍しかねないっていうのがこれからの問題ではあるけど」
「あいつのターゲットは俺だから、何とかするわ」
「聖人さんと君だよ」
「真面目な話、あいつ、粘着質なうえに面倒なヤツでさ」
「そうらしいね、噂だけは聞いてる」
「退学処分になった後逮捕されたから、もう消えたもんだとばかり思ってた。まったく、あいつは塀の向こうにいるはずなのにさ。何で今も関わってくるかな」
「宮城父が聖人さんを認めない限り、この争いは続くだろうね。これからも李下に冠を正さずってやつで生活してくれよ」
「了解」
「明日生徒会に顔を出してイタリア大会の結果を聞こう。今日はもう、おやすみ。2週間後はGPFだ」
「そっちも了解」
離話を終わらせ、俺はもう一度ベッドに身体を横たえた。
疲れないと言えば嘘になる。
今日はGPS最後の大会で、GPFの出場権を争う戦いでもあった。目標はGPF出場だったけど、ギリギリのラインでここまできてた俺だったし、まさかGPFに残れるとは夢にも思わなかった。
イタリアから日本へ向け出発するのは明日。GPFが2週間後ということで、今回は体調を整える意味も合わせて祝勝会を開催せず、すぐ日本に戻るらしい。
俺自身、日本でもう少し練習を重ねてGPFに向けて魔法の精度を高めなければならない。
そうそう。
他の競技の結果。
逍遥の『エリミネイトオーラ』は最後まで気を抜くことなく、1位でフィニッシュしたようだ。総合順位1位でGPFへ。
光里会長の『バルトガンショット』は、今大会は疲れもあり3位だったが、総合2位で順調にGPFへ。
南園さんは連戦の疲れが溜まってしまったようで今大会は5位。でも、これまでの貯金が物を言い、総合順位は3位。同じくGPF出場。
沢渡元会長は化け物か?他の国に明け渡すことなくGPSの1位を守りきった。もちろん総合1位でGPFへ進む。
あとは俺が『デュークアーチェリー』で今大会は5位だったものの、アレクセイの禁止魔法が公になったことで順位が入れ替わり、総合6位でGPFへと駒を進めることができた。
全種目で日本の紅薔薇チームがGPFに挑むことになった。
GPFは一発勝負。
その日の外的な体調や心的なメンタル、その二つががっちり組み合わされてこそ最高のパフォーマンスを披露することができる。
そして、最高の技術と最高のメンタリティを発揮した者だけに、GPFのメダルが齎されることになる。
前にも言ったと思うけど、こっちの世界は金メダルと銀メダルしかないから。
準優勝にならないことにはメダルを手に出来ない。
俺は6位からの下剋上を目指して頑張るしかない。
翌日、朝5時という朝っぱらから俺は数馬に起こされた。
ルイがまだこちらにいるはずだから、リュカとともに話をしたいと言う。
寝ぼけ眼でルイの部屋をフロントで聞く俺。
日本語をはきはきと操るあの彼は、もう姿を消していた。紅薔薇サイドからクレームをいれたのかもしれない。
もう会うこともあるまい、そう思いながら、フロントから直接ルイを呼び出してもらう。
今日の出発は確か午後。
リュカの話を聞く時間はあるだろう。
とはいえ、まだ早朝。ルイも大会で疲れて爆睡していたようで、フロント係の人への暴言は凄まじかった。
途中で数馬が電話を代わり、母国語を使ってルイを宥める。
ついでにリュカの居所を聞いた数馬は、当時の状況を教えて欲しいとルイに頼みこんでいた。するとルイの声色は急に変わり、数馬に何回も同じ言葉を繰り返す。どうやら、ありがとうといっているらしい。
リュカがイタリアに応援に来たのだと聞いた俺たちは、ルイも一緒に、3人でリュカのホテルを訪ねることにした。
ルイがカフェで何か口にするかと数馬に聞いていたようだが、数馬は丁重にそれを断り、リュカに直ぐ会いたいと申し出ている。
俺たちの宿泊先ホテルから歩いて10分。
小奇麗なホテルの前に立った俺たち。
ルイが最初にドアの前に立つ。ドアマンが丁寧にドアを開けてくれて、にっこりと微笑んだ。ルイは上機嫌でドアマンに3人分のチップを渡していた。
続いて数馬と俺がホテルの中に入る。
チップに弱い俺は、内心助かった―、と安堵する。数馬を見ると平然としたもので、旅を続けてた数馬にしてみれば、チップなど問題にも値しないのだろう。
先にフロントへ全力で走っていったルイは、リュカがホテルにいるかどうか確認してもらっていた。
それもそうだ、リュカがチェックアウトしていたら、この計画はおじゃんだ。
ルイは両足を交互にトントンと動かして、のんびりと対応するフロントに対し少しイライラしているように見える。
やっとフロントから声をかけられたルイがすぐさまくるっとこっちを振り向く。
「OK!」
手で大きく丸を作って、少し離れたところに位置していた俺たちを呼んだ。
数馬に母国語で話しかけるルイ。フロントの職員は受話器を握っている。
「ルイ、何話してるの」
俺はフランス語はさっぱりわからん。ゆえに数馬に通訳してもらうしかない。
数馬は俺の頬を抓りながらルイの話していたことを通訳してくれる。
「まだチェックアウトしてないって。今、部屋に電話してもらってる」
「じゃ、ここにくるの」
「そうだね、待ってよう」
俺たち3人は急に無口になり、誰からともなくロビーに移動して椅子にどっかりと腰を下ろし、リュカが姿を現すのを待った。
「ルイ!」
ルイを呼ぶその声こそ、数馬が話したがっていたリュカだった。
でも、リュカも一応数馬と面識はある。
とはいっても、広瀬に同化されていた数馬だけど。
リュカも何となく雰囲気が違うのを感じているようで、目をくりくりさせて数馬を見ている。
「タコ!」
ようやく俺に気が付いたらしい。
「リュカ、久しぶり」
俺は当然日本語で話しかける。
と、隣にいる数馬はリュカの母国語であろうフランス語を駆使して挨拶した。頭を下げたから、たぶん挨拶したんだと思う。
そのあと二人は早口で会話し始めた。
途中リュカは涙ぐんだり語気を強めたりと不安定になっているのが俺にもわかる。
数馬はしばらくリュカを慰めるように話していたが、ポン、とリュカの肩を叩くとリュカはようやく笑った。
「ねえ、数馬・・・」
俺の方を振り向くかと思いきや、数馬は間髪入れずルイに早口で話しかけた。
ルイは驚いたような顔をし、そのあと笑顔に包まれた。数馬から離れたルイはそのままリュカにハグして2人で喜び合っている。
「数馬、進捗状況を教えて欲しいんだけど」
「ああ、ごめん海斗。君はフランス語解らないんだっけ」
「さっぱり。で、どうなったの」
「リュカの行動の詳細を聞いていたんだ。ドリンク類から禁止薬物が見つかったようだ。ただね、飲みかけのドリンクから見つかっているから他人が何らかの薬を混ぜた可能性は大いにある。飲んだのを確認したあと大会事務局にリークして薬物検査させたんだろう」
「誰でもできるじゃないのさ、それなら」
「そうだね、ドリンクからはリュカの指紋しか出なかったからグローブはめて実行したのがわかる」
「じゃ、もうどうしようもないの?」
「いや、過去透視できればその時の状況がわかる。でも状況証拠だけじゃつまんないだろ。どうせならはっきりとした証拠をつきつけたくないか?」
「できればね。でもアメリカ大会だからもう指紋も何も部屋に何も残ってないだろう」
「過去透視したら、それ以外に触ってるモノがあるみたいでね、それを日本で鑑定した上で調停委員会に持ち込み過去透視してもらう。部屋の中はおろか、ホテルのフロントや掃除スタッフ、防犯カメラの証言を得てね」
「最初から大会事務局に持ち込むんじゃなくて?」
「調停委員会を中継して持ち込む方が妥当だろう。全ての証拠を叩きつける」
数馬はすっと目を閉じると、俺の右手を握ってきた。
俺の意識の中に、数馬が見ている状況が同じようにまざまざと反映される。
アメリカ大会でベンチ扱いだったクロードは、ホテルのフロントにリュカに頼まれたと嘘をつき部屋のカードを借りることに成功した。
リュカの部屋に難無く入ったクロードは、冷蔵庫にあったリュカの飲みかけのドリンクに風邪薬を混ぜた。
カードを持ったときから冷蔵庫をあけるまで、クロードはしっかりとビニールらしき手袋をしていた。
次に手袋を外したクロードはリュカがいつも持っていたドリンク袋に素手で触っていた。細い糸で編んだ袋だったので、編地について見落としたか、素手で触っても何も影響ないと踏んだんだろう。
中に何が入っているか確認したかったに違いないのだが、手袋を外した理由はよくわからない。或いは、薄手のビニール手袋が滑る素材だったのかもしれない。
数馬はリュカに話を聞き、瞬時に過去透視して真実を炙り出した。
さ、ここからは証拠集めだ。
リュカからドリンク袋を受け取った数馬は、ホテルのフロントに何か話にいった後、一瞬消えた。日本に行ったんだと思う。
俺はまた日本語でルイやリュカと二言三言話し出した。
ルイが嬉しそうに笑顔を見せる。
「カズマ、サスガ」
「数馬に任せとけば何とかしてくれるよ」
10分ほどで数馬は戻ってきた。
「鑑定は日本にお願いした。30分あれば指紋が出るはずだ。あとは調停委員会に寄ってホテルフロント、掃除スタッフ、防犯カメラ映像をまとめて置いて来たよ。袋の検査結果も調停委員会に直接届くはずだ。それを直接大会事務局に送ってもらおう。これでクロードを追い詰めることができる」
数馬の行動力は物凄い。
マネジメント能力は聖人さんをゆうに超えるかもしれない。まあ、聖人さんは元々選手側の人間だから比較のしようもないのだが。
でも消去魔法などの軍隊用魔法や瞬間移動魔法、隠匿魔法に読心術、たぶん、さっきの様子だと過去透視魔法も数馬は使える。
俺のバディはパーフェクトかもしれない。いや、パーフェクトだ。
数馬はリュカとルイにも同じ話をしていた。
2人とも目を輝かせ、飛び上がらんばかりに喜んだ。
そして数馬と俺にハグしてきて、何回も頭を下げた。フランスに頭を下げる文化なんてあったっけ。2人とも日本の文化に興味あるようだから、覚えたのかな。
数馬は、2人に母国語でこう告げたらしい。
「1週間ほどで調停委員会と大会事務局から連絡が行くと思う。それまで辛抱して。クロードには絶対に近づかないこと。今回のことが筒抜けになって返り討ちに遭うかもしれないからね」
「OK!」
2人は満面の笑みを浮かべながら、ロビーを出てリュカの部屋に戻っていった。
1週間後、リュカから数馬に手紙が来た。
クロードの罪は暴かれ、リュカにかけられていた嫌疑は晴れた。クロードはGPSの規定に沿って総合順位を剥奪され、GPFへの出場の夢は潰えた。それどころか、5年間の魔法競技出場停止の処分が下ったという。
他人を陥れた点がアレクセイよりも凶悪であるとされ、クロードは魔法師として使い物にならないという烙印を押されたも同然だった。