GPS-GPF編 第9章 イタリア大会~GPF 第8幕
ちょっと可哀想な気もしたけど、勝負の世界でイカサマやっちゃいけない。
正々堂々と戦えば、アレクセイだってGPFに出る実力はあったかもしれないのに。
正々堂々と言えば・・・5位になったクロードもリュカにイカサマかけて追い出した口のはず。
でも電光掲示板に名が出たということは、リュカの提訴は認められなかったということか。
なんか、哀しい。
アレクセイは自分をオーバーパワーにしただけで誰にも迷惑かけてないけど(広い意味では迷惑だったけど)、クロードは間違いなくリュカに無き罪を被せて自分はのうのうとGPFか。
ちょっと許せなくない?
「数馬、5位のクロード・・・フランスのリュカを追い落としてGPFって、俺からしたらアレクセイより罪深いんだけど」
「そうだね、彼は今までもそうして人のモノを取り上げながら生きてきたんだろう。顔に書いてある」
「どうにかリュカの無実証明できないかなあ」
「GPFまでに証明するのは難しいけど、その後なら」
「GPFに出場するってだけで胸くそ悪いわ」
「海斗は正義派だな」
「海を越えて生活したこと無いからかも。嘘って嫌じゃないか?」
「確かに。さて、どうするかな、リュカのところに行ってみる?」
「皆と別行動はできないでしょ」
「じゃあ、来てもらうか」
「数馬、話聞いてくれるの?」
「カイト・ホズミの頼みだから」
数馬は俺が6位入賞でとっても嬉しかったに違いない。そりゃそうか、俺なんかがこの大会で6位に入れるなんて、自分自身思っても見なかった。
世界まるっとの戦いではないけど、ポイント制のこの戦いで6位入賞の意味は決して小さくない。
GPF、そして世界選手権新人戦。この2大会で今年度は幕を閉じる。
その中で俺はどこまで世界に通じるのか、やれるだけやってみたい。
亜里沙が今頃笑ってるかもしれないな。最初はGPSすら出ないってごねたから。
今頃何処をどうしているのやら。
イタリアには顔も出さないのか?亜里沙に明。
と。
リュカの件に係る話しを展開しよう。
俺と数馬は最初にルイの部屋を訪ねることにした。もしかしたら、リュカもイタリアまで来ているかもしれない。陸続きだし。隣国だし。ま、飛行機使って行き来するんだろうけど。
とにかく、ルイからある程度の情報を得てリュカに繋げないと。
ルイは数馬と母国語=フランス語で話したことがあるから数馬に対して良いイメージを持ってると思う。リュカの現在についても情報を持ってるだろう。
まずは、そこから。
確かフランスチームも、ここイタリアでの宿は日本と同じだったはずで。
俺と数馬は試合場を出てタクシーでホテルに戻りルイの部屋を訪ねたが、まだ試合から戻っていないようだった。2度、3度のインターホン呼び出しにも応答がない。
「夕食後にもう一度訪ねよう」
数馬が自分の部屋に帰りたい様子だったので、俺もルイと話すことを一旦諦めた。
あ、逍遥や他の人達の試合観るの忘れてた。ごめん、みんな。結果だけ後から聞くから。
EVが数馬や俺の部屋がある階に到着した。
数馬は部屋に行くにつれて、顔色が冴えなくなってきた。
「どうしたの、数馬」
「いや、ちょっとマズイ展開になってるかも」
それ以上、数馬は話そうとしなかった。
なんだろうと訝る俺だが、数馬の表情から読み取れるモノは何もない。
数馬は部屋の前に立つと、カード―キーを出して無造作に部屋を開けた。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
「やっぱり」
「どうしたの、数馬」
「薬箱が消えた」
「なんだって?あの中には大事なモノが入ってるんじゃなかったのか」
「かなりヤバイな」
「万が一見つかったりでもしたら、数馬の人生終わるよ」
「海斗の人生も半分くらい落ちるかも」
誰が数馬の魔法を解いて薬箱ごと持っていけるって言うんだ?
俺は廊下に出て、そこら辺を行ったり来たりしていた。
数馬は部屋の中でじっとしている。
俺の行動がかなり怪しく見えたのだろう、試合が終わって帰ってきた聖人さんと逍遥が挨拶も無しに数馬の部屋に入って行く。
聖人さんが部屋を見回し、数馬の魔法の痕跡を感じたようだった。
「何隠した」
数馬はあらぬ方向に目を遣り聖人さんの言葉を宙に浮かせようとしたが、こればかりは無駄だった。
「おい、なんであんなもの持ってた」
やっぱり。
亜里沙もそうだが、聖人さんも過去を見通す魔法を使えるのか。
俺はその辺を単純に考えていた。
「過去を見通すなら、持ってった人を特定できないの?」
聖人さんが苦笑いを浮かべる。
「俺は過去透視を行ったんじゃないよ、海斗。できないわけじゃないけど過去透視は苦手なんだ。そこにあったものが何なのか、今はそれだけしかわからない」
「そうなの?じゃ、誰が持ってったか分る術はないんだ」
「残念ながらそうなる」
逍遥は何も口にしなかった。逍遥だって透視くらい、読心術くらいしていたに違いない。アンフェタミンがここにあったという事実に驚いて全日本の件を思い出しているのかもしれない。
どうしようもないといった顔色で、数馬は大きく溜息を吐く。
「取り返さないと」
そういって、数馬は目を閉じた。
何分くらいそうしていただろう。
俺にはあの点滅した電光掲示板と同じくらい、長く感じられたのだが。
「なるほどね」
数馬はカッと目を見開き、薬箱が置いてあった机を触る。
チカチカと赤く光る妖精のようなものが見えた気がした。
「ここ、触ってみて。早く」
数馬に催促され、聖人さんを初めとした俺たちは、同時に机の上を指でなぞる。
俺の脳裏に浮かんだのは、フロントで親切にしてくれた、あの日本語を流暢に繰り出す青年だった。
「フロント?」
一瞬遅れて机から指を離した俺の言葉に、皆が頷く。
「だな」
聖人さんが一言発すると、逍遥も大袈裟に反応した。
「なんで彼が」
「どちらかといえば、あの薬箱というよりは部屋に侵入するのが当初の目的だったんじゃないか」
そういって聖人さんは数馬を見た。
「アンフェタミン目的では無さそうだな。この部屋に入ってすぐに何かめぼしいものがないかどうか魔法を発動したように思う」
俺も聖人さんの意見に賛成だった。
なぜかといえば、俺の脳裏に浮かんだ光景では、あの彼が部屋に入って辺りを見回していた。そして右手を大きく部屋全体に翳していたからだ。そうして数馬の魔法は効力を失い薬箱が出現した。
たまたま薬箱を見つけた彼は、中身を見ることなく箱ごと持ち去った。
「中身は確認してないように思うけど」
聖人さんも同様に、頷きながら付け加える。
「怪しげな箱だったから持ってすぐにこの部屋を出たんだろう。俺たちは試合に出てたとはいえいつ戻ってくるかわかんないしな。生徒会の目もある」
俺たちはしばらく押し黙り机の上を見ていたが、突然逍遥が大きな声を出した。
「フロントに行く?それとも、居場所を見つけて洗いざらい吐かせる?」
数馬は首を捻ったまま、腕組みして考えるような仕草をみせる。
「話を大事にしたくないからね、居場所を見つける」
そしてまた数馬は目を閉じた。
同時に、|聖人さんも。
逍遥は聖人さんを信用しているからか、透視をする様子は見られない。机に手を翳しながらじっと薬箱のあった辺りを凝視している。
皆俺よりも魔法力があるだろうからと、俺は何もしなかった。
そういえば、俺の部屋は何もされてないだろうか。
「逍遥。俺の部屋に一緒に行ってくれないか」
「OK。ここに入ったとなれば、パートナーである君も犯行対象になってる可能性があるね」
俺と逍遥が数馬の部屋を出ようとしたときだった。聖人さんが静かに目を開けた。
「俺も行く。この部屋で起こったことは大方わかったし、数馬一人いれば過去まで遡れる」
目を閉じたまま集中しているが、数馬も声は聞こえただろう。
数馬が過去に遡れる、としれっといいのけた聖人さんの言葉を俺は聞き逃していた。
3人で静かに数馬の部屋を出て、俺がゆっくりとドアを閉めた。
なんだかとてもドキドキする。
心臓が飛び出そうといったらさっきの逍遥より大袈裟かもしれないけど、かなり俺はハイテンションだったに違いない。聖人さんたちより前に出て部屋に向かい、息を整えてカードキーを差し込んだ。
すっと静かにドアを開け、中を見回す。特に変わった様子はなく、脱ぎ散らかされたジャージは・・・すまん・・・この世界に来てから行儀が悪くなり、パジャマたるジャージを畳んだことがない。
「いや、これはだな・・・」
「君がテキトーにしてんのは分かってるから大丈夫」
逍遥は容赦のない口撃パンチを俺に浴びせた。
はい・・・言い訳できる材料も持ち合わせておりません・・・。
聖人さんは何も言わず、ふっと右手に息を吹きかけそのまま室内に手を翳す。
数馬の部屋でみたような光景が出てくれば、誰かがここに入った証拠だ。
すると、チカチカと赤と黒の光が交差した。
黒の光なんて初めてみたわ。
光は段々と大きくなり、俺の机の下で止ったまま。
なんだ?何が起きた?
「数馬を呼んで来い」
聖人さんが早口で俺たちに声をかけた。冷静な口調ながら、重々しい。
「はい」
俺は答えると同時に、速足で部屋を出て数馬の部屋に向かった。逍遥はそのまま残っていたようで、後を追ってくる様子は見受けられない。
数馬の部屋の前に着き、俺は急いで何回もインターホンのボタンを押し続けた。
ドアが開くまでとても長く感られ、チッと舌打ちをしてしまったほどだ。
ようやくインターホン越しに数馬の声が聞こえた。
「今行くから」
そういってインターホンは切れた。
俺が何も言わずとも、数馬は異変に気が付いたようだった。
数馬が顔を見せた瞬間に俺は部屋の異変を話そうとしたが、俺に口を閉じるようなゼスチャーを何度となく繰り返す数馬。
その時は意味がわからなかったんだが、あとで考えてみれば、部屋の外には防犯カメラが作動していたはずだからそれに反応するのを避けたのだと思う。
とにかく、俺たちは互いに話すことなく走って俺の部屋に向かい、俺がカードキーを差し込んで部屋のドアを開けた。
数馬の顔を見た瞬間に聖人さんが親指で机の下を指した。
「これ、そうだよな」
光はまだ交差し点滅したままだった。
「こうきたか」
数馬は悔しそうに吐き捨て机の下に右手を翳す。
あ。
あの薬箱だ。
なんで俺の部屋に。
持ち去ったわけじゃなかったのか。
数馬は薬箱の中からアンフェタミンの入った容器を取り出し、俺たちに告げた。
「今からホテルの外に出てこれを消去してくる。誰が来ても知らぬ存ぜぬを通してくれ」
そういってドアの方を向いた時だった。
インターホンの音が激しく聞こえたような気がした。俺はピョン、と飛び上がったほどだ。
ドアに対し背中を向けていたので、咄嗟に何が起きているのか状況が掴めなかった。振り返って画面を確認すると、見たことのない大人が2人。スーツを着ている。1人は男性、1人は女性。
誰だ?
と、不安になって周りを見ると、俺以外の3人が消えていた。
え?
みんなどこへ行った?
そして、ドアの向こう側にいるのは誰だ?
俺は1人、呆然とその場に立ち尽くした。