魔法W杯 全日本編 第10章
翌日の夕方から、俺は生徒会室に入り浸ってパソコンで各競技のプレーや魔法の発動方式などを観る日々が始まった。
毎日、午前は魔法知識、魔法理論とでもいうべき授業が行われ、午後は魔法実技。そして3時15分になると1日の授業が終わる。
そこから生徒会室に移動し、パソコンとにらめっこしている。
憧れのパソコン部に入部した気分だった。
ヤバイ、はっぴー♪
魔法知識や魔法理論の授業は楽しいわけではないけれど、魔法を使うにはどのような制限があるとか、魔法領域に蓄積された魔法力はどのくらいの時間使用できるかなど、俺の知らないことばかり。でもって、はっきりいって、ちんぷんかんぷん。
午後の魔法実技は、ラナウェイでは捕まるときが多いけど、アシストボールは見学のみにしている。
もちろん、放課後の生徒会室ではDVDやHDDにて全ての動画を視聴し、補欠としての役割は果たしているつもりだ。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
翌日から、魔法科の時間割が変わった。
大会に向けて時間割は全て魔法実技となり、スターティングメンバ―をメインとして練習することになった。
午前の1コマは、マジックガンショット。
拳銃型のデバイスは、新品だった。どうやら俺の手に合うよう、改良されたらしい。
とても手になじんでいて扱い易かった。
でも、試合となれば話は変わる。
俺はイレギュラー魔法陣に気を取られて、レギュラー魔法陣を探せなかった。そのうちにイレギュラー魔法陣が小爆発してゲームオーバー。デバイスを試す時間もないくらい、余裕というものが見られなかった。
四月一日くんと南園さんはレギュラー魔法陣を見つけるのが早く、いつもゲームクリアしているようだ。
見つけるコツを聞いて良いものかどうか、俺は困惑しながら肩を落としていた。
コツを聞きたいが、2人に聞く勇気がない。
だが、四月一日くんと南園さんは団体戦としての戦いを重視していたから、見つけるコツを教えてくれた。
「まず、レギュラー魔法陣は明るさがイレギュラー魔法陣とは若干違う」
四月一日くんがそう言えば、南園さんは別の方法を伝授してくれた。
「レギュラー魔法陣はね、点滅しているの。わかりにくいけど」
そうか。そこさえコツをつかんでデバイス発射できれば、あとは持久力が持つかどうかだ。
持久力を養うのは、運動音痴の俺にとって喫緊の課題なわけだが、いかんせん、俺はグータラときている。
マシンで走ったりするのも面倒だし、外でランニングなど以ての外。
でも、持久力付けるには、避けて通れない壁なのよね。
あー、複雑な気持ち。
試合に出るためだけに、どうしてこんなに頑張っちゃうんだろう、俺。
午前の2コマは、プラチナチェイスの実戦練習。
5人×2チーム=10人で行われるため、まず3年生と2年生が見本を見せてくれた。
最初から飛行魔法で陣形を組み、魔法でジグザグ動くプラチナのボールを追う。
このボールが、色んな動きをするため結構取りにくい。
飛行魔法を用いて飛び回るため、疲労感が半端ない競技だ。元々の魔法力が物をいう。
魔法力の蓄積が少ないと、直ぐ酸欠になる。
ある意味、マラソンのような競技だと思う。
先陣は四月一日くん。後陣は国分くん。ボールを掴みとるのはチェイサーの瀬戸さん、遊撃として南園さんと俺が入り、主に上下左右を飛び回ることになる。チェイサーの瀬戸さんが一番動くことになると思うんだが。
立方体の菱形のような陣形というべきか。先陣と後陣が崩れてしまうと陣形までが崩れる。
遊撃がボールを追い、チェイサーがラケットでボールを掴む。
簡単そうな競技に見えるが、たぶん、今大会で一番難しいと思う。
俺は酸欠を起こし目の前真っ暗になりながら飛行魔法を注入し続け、授業を乗り切った。
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今日は昼になっても亜里沙や明は現れず、四月一日くんや南園さんと昼食を食べた。食券が無いのだが、どうしてなのか昼食がもらえる。
四月一日くんいわく、第3Gは、色んな場所で優遇措置があるのだそうだ。
そりゃそうだよな、金持ってこいと言われたって、持ってくるお金はありません。それに、こっちの世界が俺を呼んだのなら、ちょっとくらい優遇されても良いような気がする。
こないだみたいに馬鹿にされないよう、魔法力を持続させる、要は持久力を養う訓練はしないといけないだろう。
午後の1コマはアシストボール。
こちらは長距離マラソンだ。いや、駅伝とでもいうべきか。
ボールを持ってドリブルし、周囲と連携を組みながら何秒を争って相手方ゴールにボールをぶち込むのだがら。
俺には完全不向きです、はい。
午後の2コマ目はラナウェイ。
対照的な色のユニフォームを身にまとい、相手陣を見つけて魔法を放つ競技だ。先日の俺のように、隠れて見つけられなければそれもアリ。
自陣が相手陣を全員倒すのが手っ取り早いので、試合になれば、俺が隠れてしまうのが一番早いんだが、練習では相手を見つけて魔法を放つ。
デバイスは、マジックガンショットと同じショットガンを使用する。
直接相手に向けるため、強い魔法は使えないと三枝副会長から教わった。
教師たちも同じことを言っている。
それでもって、両利きではないんだが、デバイスは複数持ちで、と言われた。いや、かえって紛らわしいと思うのは俺だけか?
わけがわからないと思っていたら、この場合のもうひとつのデバイスは予備というか、そういう意味合いもあるらしかった。
それから、今の俺には高等すぎて無理だったが、四月一日くんと国分くんは相手陣から向けられた魔法を取り消すためのデバイスを装備していた。魔法陣とかなんとか。これも手のひらサイズの、鏡みたいなデバイス。
デバイスにも色々な種類があって、当初はどれがどれだかわからなかったが、今のところ、俺が使うのはプラチナチェイスに使う飛行魔法のバングルと、マジックガンショットやラナウェイに使うショットガンだけで、その他の物は支給されていなかった。ラナウェイでは別なデバイスを皆準備しているようなのだが。
俺の魔法力がそこまでついていかないのが原因か。
頑張ったらご褒美にもらえるのかもね。
翌日の午前1コマは、ロストラビリンス。
迷路に3人が次々に入り込み、迷路を脱出する競技だ。
出口を探すためには魔法を使えるが、飛行魔法は使えない。
他選手との協力も可だが、その場合、与えられる点数は半分になる。
この他選手との協力って言う項目で勘違いされやすいのが、自校同士の協力に限るってこと。
それは当り前の範疇でしょ。
他校との協力を実行した場合のみ、点数が半減する。
ポイントは、迷路の壁の向こうを透視できるための技術。
透視って言われてもねえ・・・。
俺に透視、できると思う?
つい何日か前までは別の世界で、魔法とは縁のない生活送ってたのよ?
でもね、なんとなく、右の人さし指さえあればどーにでもなるかな、って。
やってみたさ、迷路の石垣に向けて、人さし指で半径20cmくらいにぐるりと輪を書きました。
ワオ!石垣の向こうが見えたよ!
この指=魔法、便利だねえ。
ぜひリアル世界でも使いたいもんだ・・・。いや、犯罪者になるので止めておきます・・・。
これでロストラビリンスについてはあまり問題なく進めそうだ。
午後の2コマ目は、デッドクライミング。
三枝先輩から聞いたところによると、手と足でほとんど地面に直角のボードを昇っていくまでは現実世界と同じ。
ここからが違う。
互いに相手の人工物を消し、ホールドを自分の楽なところに出現させるというなかなかハードかつアグレシッブなルールが存在しているのだ。
相手の進路を塞ぎつつ、自分が有利に進めるようにするなんて、難しすぎる。
まあでも、女子は柔軟性に富み体重も軽いからこの競技では有利かもしれない。
俺は・・・自慢じゃないけど身体が固い。
30cmも昇れないと誓って言えるね。昔から木登りできなかったし。
これで全部の種目を一通り練習した訳だが、俺は放課後居残り授業が課せられた。
マジックガンショットとラナウェイ。やはりモニターで見るだけでは臨場感が違っていて、スピードに乗れないことから、本当に、なぜか本当に、沢渡会長以下3年生有志にご指導を仰ぐことになってしまった。
そりゃ、挨拶で「ご指導ください」とは言ったよ?
でもまさか、本当にくるとは思ってもみなかったよ。
マジックガンショットは、四月一日くんや南園さんはレギュラー魔法陣を見分ける方法を知っていた。
コツは2人から聞いたもののあまりに漠然としていて、競技までに習得できるか不安な部分もあった。
俺は、デバイスを2つ用意し腰にひとつをぶらさげ、上杉憲伸先輩の号令を待っていた。
「3,2,1 GO!」
グラウンドにイレギュラー魔法陣がいくつかでき、そこから魔法が発射される。最初のうちはやはり時間が足りなくなって、自爆することも多かった。
それでも、イレギュラー魔法陣は待ってくれない。
何回も小爆発され俺の心は折れそうになる。
他の2人が優等生すぎるのだとしても、あまりに劣等生すぎやしないか、俺。
これじゃ、恥ずかしくて試合にも出られない。
元の世界に戻った方がマシじゃね?
「八朔!あと一息だ、ガンバレ!」
定禅寺亮先輩の叱咤激励を背中に受け、半ばへろへろになりつつも、レギュラー魔法陣を探す。
どれだ、どれがレギュラー魔法陣だ。
少し暗くて、点滅している魔法陣。
イレギュラー魔法陣が放った魔法を何とかして避けながら、とうとう、少し暗く点滅するレギュラー魔法陣を見つけることができた。
もう少し暗い魔法陣だと思っていたし、点滅もはっきりしたものだと思っていたから、いままで見過ごしていた。
やっと、やっと見分けがついた。
指先に全神経を集中させて、ショットガンの引き金を引く。
発射。
やった!命中!
すると、レギュラー魔法陣はおろか、イレギュラー魔法陣までもが消滅した。
「やった!」
膝をついてガッツポーズをする。
「この調子でがんばれよ」
先輩たちが、俺の頭をポンポン叩き、その場はお開きになった。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
居残りを始めて一週間。
ショットガンをようやく自在に扱えるようになった俺は、現れた瞬間にレギュラー魔法陣を撃ち砕けるようにまで成長した。
これなら、試合に出ても恥じるような出来栄えではなくなった。
これまでの紅薔薇高校生活で、一番嬉しかったことでもある。
次に沢渡会長以下3年生の先輩が指導にあたってくれたのは、ラナウェイ。
俺はちょっと鼻を高くしていた。
卵の中に隠れていれば、見つからない。そう思っていたからだ。
ところが、その鼻っ柱は見事に折られてしまった。
隠れていれば見つからなかったはずが、沢渡会長にいとも簡単に見つかってしまう。
もしかしたら、魔法力が消えているのか?
そもそも、魔法などかかっていなかったのか。
沢渡会長の前で項垂れる。
会長は、俺の頭をもみくちゃにした。
「お前の魔法力が消えたわけでもなく、魔法は有効だ」
「それなら、なぜ見つかってしまうのですか」
定禅寺先輩にあの魔法を実際にかけてもらった。なるほど、見えない。
ところが会長が口笛を吹き辺りに水平に右手を翳す(かざす)と、なんと定禅寺先輩の姿が見えるではないか。
こうした特定魔法で、先に放たれた魔法を無効化できるのだという。
会長から、褒めてるのか戒めてるのか分らない言葉が飛ぶ。
「お前はよく工夫した。だが、相手によっては無効化されてしまうだろう」
「では、これからは隠れるだけではダメなのですね」
「そうだ。敵を攻略することが必要だ。今日はもういい、明日からまた始めよう」
俺は知らなかったのだが、亜里沙もこの魔法で俺を見つけていたらしい。3年生の斎田工先輩が、そう思ったのだという。
亜里沙が魔法を使えると聞いて、ちょっと驚いた。
その日は亜里沙と明も何かしら大会の準備に明け暮れていたらしく、ちょうど学校を出る時間が同じだった。
亜里沙が茶化したように俺の顔を見る。
「どう?居残り」
「ハード」
「今までのあんたにしてみりゃ、よくやってるわよ」
「まあね」
「進歩よ、進歩」
「そういうお前たちが、居残りしてまでやることって、何?」
「大したことじゃないわ。デバイスの調整とか、新しいプログラムの構成とか」
「お前ら、プログラミングできたの?」
高校入試の段階でも、こいつらがプログラムを組めるという話は聞いていない。
「先輩が作ったやつを打ち込んでるだけだもの、何とかなってる」
そういやあ、3年生の斎田先輩から聞いた話があった。それを亜里沙と明に疑問としてぶつけてみることにした。
「亜里沙、お前魔法できるのか」
「できないよ」
「明は?」
「俺も無理」
「亜里沙、こないだ俺が卵で隠れてた時、どうやって見つけた」
「あの時は魔法が解けてたよ」
「誰かが無効化したってこと?」
「たぶんね」