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不幸が重なって

 天使のようにかわいい女の子から告白されるなんてシチュエーションは男なら誰しも、一度は夢見たであろうと思う。それこそ漫画やアニメの中でしか起きないような劇的で驚きでドラマティックな告白を。


「お嬢様! 早くお屋敷の方へお戻りください。旦那様がご心配になられていますよ」


 しかしそんなものはフィクションだからいいのであって、現実として自分の身に降りかかってきたら、


「嫌です! 言ったでしょう!」


 到底戸惑うだけなのである。


「私は、この方と婚約したのです!」


 俺、瀬尾宗次が一体なぜこんな目に逢っているのか。それは俺がまだこちらの世界にいたときに遡る。


♦︎♦︎♦︎


 カーテンにより日光を遮られた部屋で4人の男達が何やら怪しげな儀式を行っていた。


「それでは、第5回異世界転移実験を始める」

「うおー!」

「ゴマスリゴマスリシャブシャブタベタイ」


 部屋の中心にはチョークで荒く書かれた魔方陣が展開され、それを黒いシーツを全身にかぶる男3人が取り囲む。部屋の隅にはアイアン・メイデンやヤギの頭の飾りが乱雑に転がっていて、その横に俺、瀬尾(せお)は座らされていた。仄かに部屋を灯すロウソクの火が怪しさを増幅させていた。


「今回はこれまでの反省を活かし、魔方陣を複雑にアラベスク模様に仕上げた」

「おおっ! それは素晴らしいですな。これでついにうちの部から転移者が現れるのですね」

「テンドンカツドンオヤコドンウマシ」


 よく目を凝らしてみると、そこは学校の教室だというのがわかった。特別棟三階の部室連の一角。魔術研究会のメンバーに俺はさらわれたのだった。


「おいおい、それは早計というもの。今回は万全を期すために、魔力のある我々3人は外で術式の展開をすることにした」

「あそこに座っているのが、今回の実験の協力者ですね」

「クリームパンアップルパイママレードボーイ」


 痩せぎすの少年の言葉にメガネの出っ歯がこちらを一瞥した。背中に嫌な汗が伝う。相変わらずデブは1人訳のわからんことを言ってるが。


「小砂院殿、キャッツのプロフィールを」

「花京院殿、プロフィールを」

「……セオトシキ16サイ、ブカツムショゾク、セイセキチュウノゲ、ルックスジョウノゲダガ、セイカクニナンアリ。リアジュウホドトオイ。カノジョイナイレキイコールネンレイ」

「おい、最後のはいらんだろ!」


 花京院と呼ばれた小太りがカタコトで胡散臭いプロフィールを読み上げた。それに満足しているのか残りの2人は頷いている。


「素晴らしいな小砂院殿。まさにこの実験に打ってつけのラノベの主人公のような人間ですな」

「本当素晴らしいですぞ天上院殿。我らの青春が身を結ぶ時が今! うう……」

「ベントウバンダイオンライン」


 もうこいつら俺の手には余ります。誰か何とかして助けてください!


「それでは、始めようか」


 添乗員と呼ばれてた男がにんまりほくそ笑んでます。一挙手一投足が恐ろしいです。


「瀬尾くん、恐れる事は何にもない。大船に乗ったつもりでいればいいよ」

「その前に、もう一度だけ概要を説明願えるか? どうもまだ頭が追いついていなくってな」


 理解力が足りない子供を哀れむように添乗員は頭を抱えて首をゆるく左右に振った。小さく息を吐くと、その左手で待機してるメガネ出っ歯な小砂院に説明を促す。


「よかろう、説明をもう一度だけしてやる。足りない頭でよおく聞いておけ」

「足りない頭発言も、その上から目線も気に入らないが我慢してやる。さっさと話せ」

「まず、今回の実験の目的だが、かねてより我々が試み失敗しているこことは異なる世界への干渉、すなわち異世界転移を成功させる事。君が仮に向こうへと転移したならば、我々はその成功例を足がかりにノーリスクで向こうへと跳べるわけだよ」

「つまり実験台ってこったな、なるほど。これもきっと、俺があまりにイケメンすぎるからだな……。はあ、カッコイイのも罪だぜ」


 ひとりごちると点にした目を向けられた。おいおい、そんなに見つめるなよ。生憎ながらイケメンは分配できないんだから。


 全くもって納得のいく待遇ではないし、転移したい理由も知らないが、どうせ上手くいかないんだ。遊びに付き合うくらいどうと言うこともない。


「そんで、具体的にはどうすんのさ」

「ここに展開されている魔方陣に、これから我らが魔力を注ぐ。君にはその中央に立って貰いこう唱えて欲しい。『パンツパンツ、私のその身にエロスの力与え給う』と」

「絶対いやだよ! なんでそんな中学生みたいなこと言わなきゃいけねーんだ!」


 これじゃあ俺まで頭おかしい奴みたいに思われちゃうじゃないか!


「もっと他のワードはないのか!?」

「ふむ、気に入らないか。一応別パターンとして『我が愛しなる【自主規制】様よ。【自主規制】を【自主規制】して【自主規制】に【自主規制】【自主規制】なれ』があるけど」

「あっ、パンツでいかせて貰います」

「物分りが良くて助かるよ」


 小砂院はかつてないほどに清々しい笑顔で微笑んだ。もうどうにでもなれ!


「他に質問はあるかな?」

「なんでお前らへんなコードネーム付けあってんの?」

「コードネームではない、天上院、花京院、小砂院は我らの真名だ。愚弄するのか?」

「いやいや、天道に花沢に小林だろ。こんなことばっかやってると、母ちゃん倒れちまうぞ。しかも天道に関しては添乗員って……」

「添乗員ではない、天上院だ! この童は!」


 茶化されて予想以上の憤慨を見せる天上院こと天道くんを、顔を曇らせながら小砂院こと小林くんがなだめた。仲いいね君たち。


「もう質問がないようなので実験に移りたいと思う。それでは瀬尾くん、魔方陣の中央で膝をつき両手をくんで祈りたまえ」


 小林くんに促されて俺はのっそりと中央へ進み出た。なぜこうなったのだろう。俺はごくありふれた高校生で、今日も今日とてごく一般的な一日を送るはずだったのに、成り行きでこんな奴らの変態的実験に付き合うだなんて。


「それでは詠唱を開始する。準備はいいな2人とも」

「任せておけよ天上院殿。花京院殿も心の準備はよろしいかな?」

「サラダアブラナタネアブラセアブラ」

「おおうすまないね。君の言う通り寄り道している場合ではないな」

「いや、そいつなんもまともな事言ってねーだろ」


 俺の極めて冷静なツッコミもスルーされて、いよいよ実験が開始された。


「全知全能なる世界神グレルモア。今我ら魔に魅了されし者にその姿を宵闇より表したまえ」

「混沌より這い寄りし咎人を殺める魔人ガルルドーンよ。その大いなる権能を陣に宿せ」

「アリオリハベリイマソカリアリオリハベリイマソカリ!」


 誰だ、1人だけラ行変格活用の動詞覚えてるのは!


「時は今満ちた。美しき月が半弧を描きしこの地に力を!」

「さあ、瀬尾くん、詠唱を頼む!」

「えっ? あ、嗚呼、オッケー。えーっと、なんだっけか」


 やっべえど忘れしちった。記憶力の悪さには定評があったんだけど、まさかもう忘れるとは。


「ごめんなんだっけか」

「『パンツパンツ、私のその身にエロスの力を与え給う』だ!」

「あ、それだそれ」


 イラつきながらも天道はキチンと答えてくれた。俺も腹をくくっていっちょやったりますか。今のところ何の変化も見られないけど。


「ぱ、パンツパンツ、わ、私のその身に、え、エロスの力を与え給ええ」


 恥ずかしがりながらも全文を唱える。ちゃんとしてはいない。と、その時、不意な偶然がいくつも重なってしまった。


 まず、偶然にもその時俺たちがいた地域が小さな地震に見舞われて、俺がバランスを崩してしまった。そして偶然にも、魔方陣が乱れてしまい結果的に本当に効力を持った(、、、、、、、、、)のだ。そしてさらに不運は続く。その時気まぐれで俺たちの事を見ている神様がいたのだ。


「うおっ、なんだ? LEDライトでも仕込んでるのか?」


 瞬間俺は足下から崩れ落ちるような錯覚を覚える。目の前にあったはずの景色がどんどん遠のいていき、辺りは真っ暗闇に包まれて行った。温度も音も光も、なに一つとして存在しない次元へ放り込まれた感覚は気持ち悪い以外の何物でもない。


『君のような人間を、長らく待ち続けていた!』


 誰かが歯の浮くようなセリフを楽しげに嬉しそうに呟いていた。俺の意識はそこでプッツリと途切れる。

主軸は異世界ほのぼの日常恋愛物語です。

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