魔法アカデミー
全部この章に入れると長くなりすぎるのでこの位でまとめました。
楽しんで頂ければ幸いです。
幻想の森の前に待たせていた馬車に乗り込み、石像を調べさせている魔法アカデミーへと向かった。
もし仮に同じ物であったならば、その黒霊王と名乗る男がフェデーリや、私邸に住む込みで働いている使用人を殺そうとしていた事になる。
偶然とはいえ、様々な要因が重なって俺が介入し、ネルソン達の活躍で奴が行動を起こす前に二体の石像は倒された。
しかし、ひとつ腑に落ちない事があるのは、なぜ石像を購入した後、ひと月近くも行動を起こさなかったという事だ……。
魔法アカデミーは主に魔法の素質がある者や、親が冒険者をしている子供などが魔法使いの資質が無いか調べさせる為に通わせる学校だ。
レナード子爵家の領内とアルバート子爵家の領内に一校ずつ存在し、対立しつつも協力し、互いに研鑽を重ねている。
十歳以下の子供が通う幼少科、十四歳以下の通う中等科、十五歳以上の通う高等科があり、魔法の他に普通の学校で学ぶような算術や文学なども習う事が出来る。
学費は比較的安く、一定以上強力な魔法を使える者には領主から補助金が出る為、才能のある者が途中でアカデミーを去る事は殆ど無い。
幼少科から通う才能がある者の多くは、いずれ王宮や貴族などで召し抱えられ、またそこまで才能が無い者でも冒険者として活躍する事が多い。
腕の良い魔法使いがパーティにいるかどうかは冒険者達の生死に大きく関わり、ゼーマンの様に強力な魔法を高速で展開できる者は、気に入った条件の者とだけパーティを組む事が出来た。
最悪、氷結系の魔法を使えれば、アルバート子爵家の管理する製氷所で働ける為、安定した収入を得る事が可能だ。
冒険者を引退した魔法使いのうち、何割かが製氷所での再雇用で生活している。
これは俺が冒険者ギルドと魔法アカデミー、そしてアルバート子爵家の橋渡しをして実現したのだが、その為魔法アカデミーの学長と冒険者ギルドの責任者は全員俺の顔を知っている。
両家にある魔法アカデミーの共通のテーマに、三千年前に使われていたという失われた魔法の復活や、残されていた古文書の解析が存在し、三年程前から新たに魔法工芸研究科が設立され、魔力の籠った魔石と呼ばれる物を使った魔道具の開発も始めている。
馬車を走らせ、三十分程で魔法アカデミーに到着した。
関所を通らなければ街の何処へ向かっても二時間ほどで着くが、これは街の街道が綺麗に整備されているからだ。
税収の少ないロドウィック子爵領の場合でも、街を取り囲む城壁と街道の整備は国から命じられている事もあり、全ての領内で同じ様に馬車を走らせる事が出来る。
馬車が走る車道と、人が歩く歩道は分けられており、此処の法律では車道で馬車に轢かれた場合、轢かれた人間の方が悪いという事になっているのだから、歩行者の方が常に車道を行き来する馬車に気を付けている為、滅多に事故は起きていない。
ブライには道中に馬車の中でフェデーリやロドウィック子爵家の名は伏せて、先日戦った石像の事を話してある。
「此処だ、話していた物と同じか見て欲しい」
「分かった」
馬車を降り、魔法アカデミーの敷地内に入って、物々しい恰好をし、此処で警備をしている男を探す。
このまま教職員の居る詰め所まで行ってもいいんだが、途中で呼び止められるくらいなら案内してもらった方が話が早い。
「其処の二人、止まれ。此処は魔法アカデミーの敷地内だ」
敷地に入ってすぐに槍で武装した身体の大きな男が駆け付けてきた、警備員はこうでなくてはな。
警備員は手にした槍の他に予備の武器として腰に剣をぶら下げている。
胸元に吊るされた小さな筒は笛になっており、何かあればあれを吹いて他の警備員を呼ぶ事になっている。
「魔法工芸研究科のゼロスに用があるんだが」
ゼロスの名を出した途端、警備員の顔つきが変わった。
奴は優秀な研究者ではあるが、人格者とは言い難い性格をしている。
特に研究に没頭している時に声を掛けようものなら、命の保証をしかねるような男だ。
「ゼ…ゼロスさんに? 失礼ですがお名前を聞かせて貰えますか?」
「先日仕事を依頼したリュークだ。案内して貰えるか?」
握手を求めるフリをして警備員に十枚の硬貨を握らせた。
枚数からどうせ銅貨だろと思って手に視線を落とした警備員は、掌の中にある十枚の銀貨を二度見していた。
「暑い日が続いてるからな。後で酒でも飲んでくれ」
肩を叩きながら小さめの声でそう囁くと、警備員は満面の笑みを浮かべながら「すみませんね。こちらです」と言いつつ、自然な仕草で銀貨をポケットに仕舞った。
これで次に来た時、こいつを通せば話が早いだろう。
警備員が案内した場所は【魔法工芸研究科】と書かれた看板が掛かっていた。
「ここです、仕事がありますので失礼します」
「案内させてすまなかったな」
おそらくここは奴の警備地区じゃないのだろう、警備員は頭を下げ、来た道を戻っていった。
「ゼロス、俺だ」
声を掛けずにドアを開ける愚は犯さない、こいつはそれをされるのを嫌がるし、ノックをすると不機嫌になる事すらある。
こいつとの正しい付き合い方は、こうしてドアの前で控えめに声を掛ける事だ。
「リューさんか、待ってたよ」
ドアを開けたゼロスは俺の背中を叩き、研究室の中へと進み始めた、おそらくこいつの目にはブライが映っていないのだろう。
研究室の中には俺がアイデアを出し、ゼロスが試作中の商品が所狭しと並んでいた。
例えば、魔道具の開発に使われている魔石と呼ばれる魔力を帯びた結晶があるのだが、それを利用した新しいシステムが出来ないか実験して貰っている。
「例のあれ。どうなった?」
「その事なんだ、これを見てくれ!!」
右手は何か分からない液体で満たされた筒の様な物に入れられ、左手は指先から延びた爪を根元から剥ぎ取られ、研究用の机の上でバラバラに分解されていた。
「こいつを見てくれ、石で出来ているにも拘らず、まるで生物の手と同じ様に稼働してるんだ。しかも関節の部分はマリオネットの様に不格好な球体関節ではなく、美しいフォルムを残したままでだよ」
解体されている腕の付け根に魔石が取り付けられ、コントローラーの様な物を操作すると肘の部分を自在に動かす事が出来るようだった。
「ガーゴイルやゴーレムも同じ構造をしているけど、人の手で同じ物を作れるなんて驚きだ。コレを研究すれば、冷蔵箱の製造工場などの組み立て作業を、こいつで出来るかもしれない」
魔石と魔力を使った産業革命か……。
確かに魅力的ではあるが、あまり急速にその時代に進んで貰っても困るんだ。
「行動の設定や、魔石のコスト、それと供給される魔力の問題がクリア出来りゃ可能だろう」
「魔石か……。確かにそれが一番だけど、コスト的に不可能だね」
魔石を使って組み立てる位なら、雇用コストの安い人間に任せた方がはるかに効率が良い。
黒霊王と名乗る男一人でどれだけ操っていたかは知らないが、もしこれを本格的に利用するなら兵器としての軍事利用が最適だろう。
給料の要らない労働力より、飯を食わず死んでも構わない兵士の方が需要がありそうだしな。
ブライの方は動いている腕の部分より、取り外されて机の上に並べられている鋭い石の爪を凝視していた。
「どうだ?」
「……これは、奴の使う、石の魔物だ」
「そうか……」
予想通り、あの石像は黒霊王と名乗る男が使っていた魔物だった。
ブライが机の上にある爪を睨みながら拳を握り締め、怒りに打ち震えていた、余程の事があったんだろう。
「もしよければそいつの事を詳しく聞かせてくれないか? ゼロスにも聞いて貰った方が良いんだが」
「これを作った人の話かい? ぜひ聞きたいね」
黒霊王と名乗る男が、これまで何をしてきたか分かれば対策を考えやすい。
もし俺が国境近くの森まで出向いている時、そいつにトリーニで好き勝手されても困るからな。
「始まりは八年程前だ……」
ブライはその時の事を想懐いているのだろう、目を瞑って静かに語り始めた。
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