何処にあろうと俺は……
次の話でこの章が終わりとなります。
この話で大きく話が分岐しますが、元々の予定通りとなっています。
このペルナ村で俺とネルソン達があの黒霊王やその協力者を待ち構えて既に二日が経過した。
その二日の内に朗報がひとつ届いた、ブライが協力者の一人と石の魔物を六体の処理に成功したという事だ。
協力者はロドウィック子爵家の公的な冒険者ギルドに所属するサムゼン。
何処から用意したのか、黒霊王は金貨百枚という額でサムゼンを籠絡し、コマのひとつとして使っていたそうだ。
ブライの活躍が俺のもとまで届いていなかったのは、エルフの森の上流にある洞窟とやらに黒霊王が潜んでいるという偽情報に踊らされ、そこで結構な日数を無駄にしていたかららしい。
洞窟に潜んでいたのは黒霊王では無く、黒蛇王という竜種に匹敵するような強敵だったそうだが、ブライは単身でその黒蛇王に挑み、見事に退治したそうだ。
先日、ようやくアルバート子爵家の領内に辿り着き、近くの村を襲おうとしていた怪しいローブ姿の集団と接触、そして撃破したという話だ。
しかし、こうなると黒霊王を此処で待ち構えるという作戦は意味が無いかも知れない。
戦力の補強が出来ていなければ、あの黒霊王は真珠タイプ四体と、蛇髪タイプ八体でこの村を襲わなければならない。
黒霊王もそこそこ強力な魔法が使えるだろうが、魔法の使用回数も無限じゃない。
それだけの戦力で、二人の協力者と十二体の石の魔物を退治した俺に戦いを挑むとは考えにくい。
「あてが外れたかな?」
「広大なアルバート子爵家の領内で、黒霊王とかくれんぼしてる訳じゃねえんだがな。しかも、どっちが鬼で、どっちが隠れてるのか、それすらわかりゃしねえ」
ホーネットと俺は見張り台の上で遅い昼食を取りながら、そんな事を話していた。
ネルソン達は近くの街道を巡回中、ネリ―達は襲撃に備えて村の入り口付近の家で待機、セシリアは教会で熱心に祈りを捧げていた。
セシリアがあの時に言いかけた話は、あえて聞いていない。
盗人にも三分の理とは言うが、黒霊王にどんな理由があろうとも、奴のしている事を許す事も見逃す事も出来ないし、そんなつもりも毛頭ねえ。
「もしお前なら、この状況で攻めて来るか?」
「オレなら攻めないな。しかし、このままではどちらにせよジリ貧だ。何処かで敵を倒さなければ、いずれは滅ぶ」
こちらの状況や戦力を知っているかは分からないが、俺が奴なら攻める真似はしない。
奴はどうにかしたらあの石の魔物を増産が可能な筈、時間的な制約が無いのなら、戦力が整むまで何処かに潜伏し、戦力を整えればいいだけの話だ。
長期戦になればなるほど、こちらで様々な問題が発生し、不利になる事位理解できているはずだ。
「焦らなくても、そのうち攻めるしかなくなりますわ。協力者の数や戦力が減った以上、敵を各個撃破するしか手はありませんから。おかわりをお持ちしましたが、いかがですか?」
ラベンダーが追加のパンとソーセージを持ってきた。
子種目当てで割と頻繁に迫っては来るが、強引に事に及ぼうとしない辺り、理的というか、計算高いというか……。
「各個撃破か……、此処にいるメンツだけで、協力者が減る前の戦力でも殲滅できる気がするがな」
「それは相手がこちらの戦力を詳しく知っていればの話ですわ。私の名前を知っているかすら怪しいですし」
レプリカが使える、ゴールトンの秘蔵っこであるラベンダー、俺もついこの前まで存在すら知らなかったんだ。
本来であれば、余程に情報を集めていなければ、その脅威は分からないだろうが、あいつが敵側にいる以上、間違いなくその情報は黒霊王に知られているだろう。
「流石にその情報は知っているだろうな、俺の情報をどこまで仕入れているかは怪しいが」
完全治癒のことは知られている可能性はある。
問題はそれ以上の情報をどれだけ知られているかだが……。
「あそこ、馬に乗って誰かがこちらに向かってきますわ」
「あれは、オレがマラカ村に残してきた冒険者だ。向こうで何かあったのか?」
ラベンダーが、街道を高速で走る影を見つけた。
影の正体は馬に乗り、街道を全力で駆けて来る冒険者、遠目ではあるが身体に怪我は見当たらない。
村に近づいたところで、その馬上の男は、「伝令!! マラカ村を迂回して、このペルナ村に黒霊王と思われる怪しいローブ姿の集団が向かっております」と何度も叫び続けた。
流石にマラカ村を襲えば、こちらから援軍が向かって挟み撃ちになる事位は分かっていたか。
先に此方を襲えば、ホーネットが命令を出さない限り、向こうの連中はマラカ村の護衛をやめてこちらに戦力を向かわせる事は出来ないだろうからな。
「仕掛けて来るのか? 数は? ローブ姿の敵は何体確認できた?」
「……、ローブ姿は約五十、今までに無い大規模な集団です」
五十か……、随分増強したな。
しかし、おそらくそれが持てる全ての戦力だろう、此処で潰せば、もうこんなくだらねえ事件を起こされずに済む。
一応、詳しい情報を持っているか聞く必要はあるが。
「何処かに戦力を隠してやがったのか? それとも、半数以上は協力者なのか?」
「分かりません、しかし、こちらに向かっているのは間違いありません」
相手が協力者……人間か、石の魔物かで若干用意した策の効果が変わるんだが……。
「まあいい、例の作戦、奴らが例の位置に来たら仕掛けるぞ」
「……村長が良く了解したな」
「損害は全額補償、ゴールトンには俺が直接話を付ける。奴を此処で仕留められるなら、安いもんだ」
俺もこんな策、こんな状況でなければ使いたくはない。
しかし、これが有効な手段である以上、こうするほかあるまい。
「いつまでも冒険者を雇い続ける訳にもいかないしな……。ネルソン達を村に引き返させろ、迎撃態勢を整えるぞ」
「了解しました。このまま街道を戻り、ネルソンさん達にその命令を伝えます」
ホーネットもネルソン達も、元々マラカ村にいたんだ、誰がいるのかを知らなければ外部から誰かが紛れ込んだ時に対応できない、その為に冒険者全員の顔くらい知っているか。
「さて、オレ達も歓迎の準備をするか」
「黒霊王の首を持って来てくれるんだ。派手に出迎えてやろうじゃねえか」
村の入り口に集まり、ネルソンやニースたちに作戦の確認をした。
一時間ほど経ち、黒霊王やその協力者が街道に姿を現した。
こちらが存在に気が付いていると知っているだろうに、大胆な事だ。
「黒霊王の集団が予定のポイントに到達した。麦畑に火を放て」
「了解、………火弾!!」
「火弾!!」
ネルソン達が火弾を使い、一斉に麦畑に火を放った。
風向きは追い風、黒霊王に向かって炎の波が襲いかかり、そして燃え上がる炎は煙を生み、向こうから放つ石化の光は煙や陽炎によりこちらには届かない。
石の魔物は炎に巻かれても平気な可能性はあるが、人である協力者は無事ではすむまい。
「これでこの村の麦は壊滅だな。勿体ない事だが」
「尊い犠牲だ。人命には変えられんよ」
「もう少しで神聖な光の剣の射程範囲ですわ」
という事は、あの魔法の射程範囲でもあるのか。
先に一度試しておきたいし、真珠タイプがまだ生き残っているなら先に潰しておくか。
俺は懐から革袋を一つ取り出し、そこから高純度の魔石を二十程右手に握り込んだ。
「神の聖剣、光の刃、偉大なる聖人にその力を授け、忌まわしき魔の物共を、十の剣にて打倒さん……」
脳裏に展開用魔法陣が浮かび、手にした魔石から魔力が魔法陣に流れ始めた。
完全治癒と同じくらいのレベルでどこにどう魔力を流せばいいのかが分かり、二十個目の魔石が魔力を失った時、後は力ある言葉を待つだけとなった。
「神聖な十の剣」
俺の周囲に十本の光の剣が現れ、脳裏に映し出された光景、すなわち、この剣の射程内の敵の姿が映し出され、その中から真珠の頭を持つ石の魔物八体と蛇髪を持つ石の魔物二体を選び、それに向かって俺は「貫け!!」と命じた。
光の剣は一瞬でその目標を貫き、眩い光と共に石の魔物を跡形も無く爆破した。
「黒霊王が範囲に居なかったのは残念だが、首も残らないのでは幸いと言う所か」
そういえば以前にゼーマンがガーゴイルを倒した時も、残骸は欠片も残ってはいなかったな。
「流石に首位無いと、ゴールトンに証明できない……、ん?」と、そこまで言った所で、ラベンダーやホーネットの表情に気が付いた。
ああ、こいつらは魔石のブーストで、無理矢理魔法を発動させる裏技を知らないだろうからな。
「今の、オリジナル……」
「ああ、詳しくは教えられないが、強引に起動させるやり方があるのさ」
あまりこの方法が知れ渡って高純度の魔石が枯渇しても困る。
あくまでも、一部の人間が知る裏ワザという事にしておきたいからな。
直前とはいえ、神聖な十の剣が手に入ったのは大きかったな。
魔石の残りは四十。
万が一の時、完全治癒を使う分を除けば、後一撃使うのが限界か……。
「そんな事より、これで真珠タイプの石の魔物はいない。射程距離に到達した奴から魔法や矢で射殺せばいい」
「そ…そうだな、見張りは奴らの動向を見逃すな。逃げ始めたら、追撃するぞ!!」
炎に包まれた麦畑から焼き出され、無様にも街道に姿を現した協力者は、ネルソン達が放った無数の矢でハリネズミのような姿に変わり、愚かな選択の代償をその命で支払った。
どうやら、怪しいローブ姿の半数近くは協力者だったようだな。
「どうした?」
「妙だ、敵の動きがおかしすぎる」
黒霊王がどれ程無能だとしても、正面から突破するには戦力が足りない事位理解しているだろう。
以前他の勇者とやらに神聖な十の剣を使われ、爪タイプの石の魔物を失っている為、俺が長距離殲滅型の神聖な十の剣を使える事にも流石に気が付いている筈だ。
セシリアやゼロスが協力していたくらいだ、人並みの知能位持ち合わせている筈だ、なのに、なぜここまで正面突破に固執する?
此処まで被害を出せば引けないのは分かる、しかし、このまま突き進めば全滅する事位は理解できるだろう?
風が吹き、上空に立ち込めていた煙が少しだけ晴れた。
その時、上空に舞い上がる大量の煙の影から、何体もの黒い塊が姿を現した。
「上空に敵影!! その数……五十!!」
見張り役の村人が叫び、ホーネットも上空から迫るその姿を確認した。
真珠タイプを封じる為の煙を逆手に取られた。
上空から急襲するつもりなら、これほど有利で、絶好の機会などないだろうからな。
「あれが本命か!!」
「ネルソン、ネリ―、ラベンダー、全員上空の石の魔物を迎撃しろ!!」
黒霊王め、今の今まで爪タイプの石の魔物の存在をひた隠しにし、この一撃に全てを懸けて来たのか。
矢や魔法で死ぬ協力者は黒霊王の捨て駒って事で、正面突破に固執した様に見せたのも、魔法や矢を消耗させる為だった訳か。
「神聖な十の剣!!」
光の剣は石の魔物の身体を易々と貫き、光と共に爆散してそのまま消滅した。
「凄まじいな、石の身体だというのに、まるで粘土に剣でも刺すようだ」
至近に迫った爪タイプ十体をとりあえず撃破し、「後は任せた、俺は辺りをもう一度探る」と伝え、残りはラベンダーやネルソン達に任せた。
これが本命だとしても、何処かからあの黒霊王が姿を現すはずだ。
「あいつか!!」
村の南側、そこに数体のローブ姿をした何者かが潜んでいやがった。
街道をさらに南下し、そこから潜り込んできたのか……。
三体のローブ姿に守られ、黒霊王は南の入り口からこの村に忍び込もうとしていた。
「おう、黒霊王。これだけ散々悪事を重ね、お天道様の下を堂々と歩くたあ、いい度胸じゃねえか」
「初対面の癖に随分な言いぐさだな」
「てめえの話はブライから聞いてるし、幾つも村を襲って人を石に変えてくれてるからな。黒霊王以外の呼び方なんぞ、ありゃしねえだろうが」
三人のローブ姿の足元、そこにはブーツが履かれていた。
こいつら、石の魔物では無く、協力者か。
「理由も知らず、随分な言いぐさだ。黒霊王は、世界の平和の為、この様な苦難の道を選んだというのに」
ローブ姿の一人がそう言いだした。
外道の手下がぬけぬけと……。
「世界平和? 人を殺して平和になる世界なんぞ、お前達の御目出度い頭の中だけだ。そんな事も分からなくなっちまったのか、ハロルド」
「流石はリューさん。こんな物を被ってても分かりますか」
ローブ姿の一人が顔を見せた。
頬に傷がある腕利きの冒険者、ハロルド。
冒険者の中でも割と真面な思考をしていたこいつが、一体どんな経緯で黒霊王に共感し、仲間になったかは知らんが……。
「隣の二人はバナージとリックか。お前達の腕は買っていたし、信用もしていたんだが、こんな外道の戯言を真に受けて、人の命に手を出すとはな」
「外道というなら、黒霊王の話を聞いてからにしてください!!」
「話か、一応聞いてやろう。しかし、俺の考えは変わらんぞ」
「黒霊王さん……」
黒霊王は被り物を取り、初めてその顔を俺に見せた。
ブライの言っていた通り、左目は真っ赤な宝石のようなモノが埋め込まれ、妖しい光を放っていた。
「全ては魔王の復活を阻止する為だったんだ。人が恨みを抱き、この世に悲しみが満ちている限り魔王は復活しない。逆に、この世が歓びに満ちれば、魔王が復活すると言われている」
「俺は古文書でその事実を知り、禁断の呪法で身体をこんな姿に変え、悲しみを拡散して魔王の復活を阻止し、俺を倒せる勇者の出現を待っているんだ」
誇らしげに半人半魔の身体を見せる黒霊王。
怒りで我を忘れそうだが、何とか「今までの悪行も、全ては人類の為だって言いたそうだな」と、口から絞り出した。
それに対し、黒霊王は誇らしげに胸を張り、「その通りだ、俺は人類の………」と言い始めたので、そこで俺の我慢は限界を超えた。
「ふざけるな!!」
「何が人類の為だ!! 幸せに暮らす人の命を奪い、生活を奪い、それで人を救うなど、そんな物は貴様の戯言にしか過ぎねえ」
人を救う為、誰かの命に手を付けた時点で、それはもう人助けじゃない。
「俺は人類の為に」
「誰が頼んだ?! 知らねえ誰かの為に、家族や親しい人の命を差し出す人間なんか、この世に一人だっていやしねえんだよ。同じ大きさの肉の塊があった時、少しでも大きな方を我が子や親しい人に食わせてやりてえ、それが正しい人間だ。てめえの言い草は、大切な人が無く、人の愛も、人の心も、人の情も持たねえ獣の言い草だ」
こいつが外道の理を翳すなら、俺はそれを真っ向から否定してやる。
「俺は悪党だ、しかしな、悪党には悪党の【理】がある。道は外れちゃいねえし、無用に人を苦しめたりもしねえ。だが、貴様のは外道の【理】だ。人として最低限の道も無く、そこらの魔物や魔獣と同じ、心を持たぬ狂った畜生の【理】よ」
「リューさん、それは言い過ぎじゃ」
「言い過ぎだというなら、何故そいつは例の勇者とやらに石の魔物を倒された時、人を襲うのをやめてそいつに全てを話し、世界を託さなかった?」
顔を逸らす黒霊王。
「え?」
「そんな事が……」
ハロルドたちはあの事を聞かされてねえみたいだな。
この手の下種は自分の不利になる事は、仲間内にもはなしゃしねえからな。
「魔王とやらがどれ程強いかは知らん。しかしな、三千年前も魔王は倒されてるんだろう? 倒せる相手なら、てめえがやるべきだった事は、あの石の魔物とやらを手駒にし、魔王を倒す戦力を増やす事だったのさ」
「ふ……、ふはははっ。やれやれ、この国にも操りやすいお人好しだけでなく、まともな頭の奴も居たというのか」
黒霊王は高笑いを始め、地面に魔法陣を描いて其処から二体の蛇の髪を持つ石の魔物と一体の爪タイプを呼び出した。
それと同時にハロルドたちが苦しみ始め、石の魔物が姿を現した瞬間、三人揃って地面に身体を横たわらせた。
「人や動物の命、それがあのコアとやらに力を注ぐ秘密という訳か」
「その通り、こいつ等にはそのコアに生命力を捧げる契約をさせてあったのだ。万が一の時の為にな」
惜しい奴らではあったが、ハロルドたちにとって、この終わり方が幸せであったかどうかは知らんが、此処で生き残っても協力者としての汚名は雪げまい。
黒霊王との距離は十メートル程。
俺の様なシロートが、敵の目の前で神聖な十の剣には近すぎるし、最低でも頭くらい残してないと、こいつを殺した証明にはなるまい。
となると、こいつで何とかするしかないか……。
「四匹ならコレで終わりさ。……杖に聖なる力を籠めて、魔を滅する光を放つ………」
S型魔筒を杖代わりにし、輝く妖精の輪舞の呪文を詠唱する。
「その呪文は、シャ…輝く妖精の輪舞、失われた魔法か!!」
ゼロスやあいつがこいつの協力者に居るんだ、失われた魔法の情報は仕入れていると思ったが、予想通りの反応を見せたな。
我が身かわいい黒霊王は、最後の戦力である石の魔物で壁を作り、放たれる光の粒に備えていた。
ここで石の魔物で攻めるという選択もあるが、失われた魔法をまともに受ける様な度胸はこいつには無かった。
石の魔物で作り出した壁には隙間など無く、あれならばこちらの様子を窺がう事など出来まい。
「輝く妖精の輪舞!!」
力ある言葉と共に、S型魔筒に魔石をリリースし、数メートル手前から石の魔物を撃ち抜いた。
輝く妖精の輪舞など使える筈も無いが、至近距離で撃ち出されたS型魔筒の破壊の旋風は石の魔物の腕や胴体を破壊し、三体共にほぼ戦闘能力が残っていない位には破壊した。
そしてそのままS型魔筒を黒霊王の左側に投げ捨て、右手にA型魔筒を装備して俺自身は奴の右脇腹へと潜り込んだ。
「その薄汚くどす黒い腹の中身、此処にぶちまけやがれ!!」
「なっ……」
至近距離でA型魔筒を食らい、腹部と胸部の殆どを失い、殆ど肩口だけになった黒霊王は地面に転がり、どす黒い炭の様な血液を流し続けていた。
「お前らはこれで終わりだ!!」
残っていた石の魔物もD型魔筒でコアを砕き、石の残骸と化して地面に瓦礫の山を築いた。
麦など被害も多く、今迄に襲われた村人の石化の解除や生活再建などの問題もあるが、これですべて片付いて……。
「ふははははははははっ、われが、この程度で、滅びると、思うな…よ」
殆ど死体と化していた黒霊王が今までとは違うトーンで話し始め、残された身体のパーツや石の魔物の残骸などを取り込み、異形の化け物へと姿を変え始めた。
血が染み込んでいた地面やハロルドたちの遺体まで取り込み、全長五メートル程の漆黒の蛇が鎌首を擡げるキメラが姿を現した。
漆黒の蛇が真紅の光を放ち、その光を浴びた者はことごとく石へと姿を変え始めた。
ネリ―達やセシリアだけでなく、村人までも家ごと石に変えられ、次第に静寂だけが村を支配し始めていた。
ラベンダーも光を受けて石像へと姿を変え、ペルナ村で動いているのは、俺と元黒霊王のキメラだけとなった。
「俺を残したという事は、なぶり殺しにでもしたかったのか?」
「ソウダ、俺の邪魔をした貴様は、此処で粉々に砕いてやる」
真紅の光を外したマントを盾にして躱し、何とか石化を逃れた。
しかし、もう既にこいつを倒すだけの武器が無い。
唯一の方法である神聖な十の剣など、呪文の詠唱中にあの光を食らい、無様な石の彫刻へと姿を変える事だろう。
「万事休すか。俺に……、力がもう少しあればな……」
その時、脳裏に以前見た光の珠が浮かび、俺の意識はほんの一瞬、真っ白い何処かへと導かれた………。
――――――― 不思議な白い空間 ―――――――
「まったく、あれだけ忠告したのに、どうやってもこうなるんだろうな」
そこにいたのは以前見た若い男。
しかし、今は白い影に隠されているのでは無く、はっきりとその姿を確認できた。
「久しぶりだな。ま、こうなるとは思っちゃいたがな」
「うすうす感づいていたんだろう? でも、最後の最後まで、あの生活を続けていたかった」
男は自虐的に笑っていた。
そんな笑いをするのか、今の俺ならもうわかる事だった。
「その通りだ。あのままクリスと結婚し、子を生して、育て、年老いて、普通に人生を終える。そんな夢みたいな生活を続けていたかった」
「何処にあろうが俺は俺、用心の為に黒崎辰爾という偽の記憶を抱え、力を封印して自らの意志で異世界に転生しても、その性格までは変わらないよ」
「分かっちゃいるさ。お節介焼で、人助けを生業にし、魔族と戦い、石に変えられた人を助ける。真島魔族相談所の所長にして魔法剣士の真島信繁」
「それを思い出したなら、する事は一つ」
目の前にあの宝珠が具現化し、リュークがある言葉を口にするのを待っていた。
それはある意味今の生活を永遠に手放す事であり、忠告されていた通り、リュークが最も望まない未来への切符でもあった。
男とリュークの姿が重なり、その手に具現化させた宝珠をその手に掴んだ。
「「変身……」」
眩い光が世界に満ち、そして、真島信繁は、本来の力を取り戻した。
―――――――――――――
白い空間で真島信繁と話をしていたのはほんの一瞬。
魔法剣士に変身したリュークは漆黒のマントと服で包み、その手に大きな鎌を持っていた。
見た目はリュークの姿のままだったが外見は二十ほどまで若返っており、身体から発する神力は、今までのそれとは比べ物にもならなかった。
「結局こうなっちまうのか」
「ナンダ!! その姿は? ユウシャのつもりかぁぁぁぁぁぁ!!」
キメラと化した黒霊王が石化の光を浴びせて来るが、今の俺にそんなものが通用する筈も無く、まともに浴びても身体に付いた埃ひとつすら石と化す事は無かった。
「復活する魔王とやらが哀れだが、俺がちゃんと処理してやるよ」
俺は鎌を構えながらそう言い、全身に神力をみなぎらせた。
「真・瞬裂斬!!」
神力で全員を包み、神速で空間を移動し、目標を細切れにする斬術。
俺は討伐の証拠として頭だけは破壊しない様に丁寧に切り刻み、キメラと化した黒霊王を再生不可能な位に徹底的に破壊した。
「バ……カ……ナ…ぁ」
「封印……」
頭だけになった黒霊王に特殊な封印を施し、それを持っていたスマホ型端末に収納した。
「便利にはなったが、また人生が味気ない物に変わっちまったな」
村全体を範囲に指定し、石化解除の魔法を使い、石の彫刻に変えられていた村人や、ラベンダー達を元に戻した。
この姿になった経緯は省いたが、ホーネット達は変身を解いて元の姿……、といっても二十歳そこそこまで若返っちまったが、その姿を見て、俺がリュークである事をようやく認めた。
麦畑は失ったが村人に死者はゼロ、さっきついでに完全治癒も使っておいたから、怪我人などもいなかった。
これで一件落着、後はあいつに引導を渡すだけだ……。
読んで頂きましてありがとうございます。
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