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冒険者とギルド

 少しずつこの世界の冒険者ギルドや魔法などの説明を入れていきたいと思っています。

 その為少し説明的な部分もありますがご容赦ください。


 展示会の会場でフェデーリと別れた俺は、用意していた馬車に乗り込み、レナード子爵家が管理する地区にある、冒険者ギルドの一つに向かった。



 冒険者ギルド、有り体に言えば何でも屋だ。


 貴族や国が管理する公的な冒険者ギルドと、ソコソコ大きな酒場に、管理能力がある人材が揃って発生した、民間の冒険者ギルドが存在する。



 厄介事を持ち込む際、村や町の危機に当たるような重大な案件は、公的な冒険者ギルドに回され、そこに召し抱えられている、準衛兵扱いの冒険者が調査し、必要とあれば街から衛兵が討伐に向かう。


 この場合、村や町に依頼料などは発生しないが、虚偽の申請があった場合や、()の依頼だった場合は重い罪に問われる。



 そこまで大きな事件ではなく、公的な冒険者ギルドで引き受けないような案件に関しての受け皿として、民間の冒険者ギルドが存在する




 王都へ向かう商隊の護衛であったり、村の近くに迷い込んだコボルとか呼ばれている、半人半犬の亜人種の討伐であったり、少々非合法な依頼であったり、仕事は様々だ。


 冒険者ギルドの運営には、依頼料の三割程度が回され、状況によっては追加の依頼料が発生する場合もある。


 また、冒険者ギルドは普通の商品は扱っていないが、ダンジョンと呼ばれる洞窟の情報や、先ほどのコボルなど魔物の生態情報などを買い取っており、それを方々に転売して利益を上げて、ギルドを運営している。


 名前と簡単な連絡先等を登録すれば誰でも利用できるが、ある程度腕に覚えが無ければ仕事は回って来ないし、地区を跨いで多くの冒険者ギルドに登録する事も歓迎されてはいない。


 二十年ほど前までは、それぞれの貴族が管理する地区ごとに、大小さまざまな冒険者ギルドが存在していたが、運営自体が上手くいかず、吸収合併が進んだ結果、今では各地区に大手冒険者ギルド2つと、規模が小さい冒険者ギルドが幾つか存在するだけになった。





「着いたか、奴らがいればいいんだが」


 馬車が止まったことを確認し、馬車から降りた俺は、目の前の大きな酒場に足を運んだ。


 冒険者ギルドを運営している酒場兼宿屋の【幻想の森】、大手ではなく僅かに生き残っている、規模の小さな冒険者ギルドのひとつだ。


 頑丈に作られた重い扉を開け、まだ十分に日が高いにもかかわらず薄暗い店内を歩き、正面にある受付へと向かった。



 受付に居たのは、此処の責任者でもあるボンゼ。


 いつも笑顔を浮かべながら腰が低い優男を演じているが、その外見や態度を真面に受けて、こいつを舐めるとえらい目に合う。



「いらっしゃい、リューさん。依頼かい?」


「ああ、先日の()()だ。ネルソン達はいるか?」


「ネルソン? フロイスじゃなくてかい?」



 フロイスというのは、俺が懇意にしている魔法アカデミーあがりの鑑定技能持ちで、ある程度の金を積めば文句を言わずにどんな物でも鑑定し、仕事の内容は決して他に洩らさない、信用の置ける男だ。


 此処の冒険者ギルドで、持ち込まれた宝物などの鑑定の仕事もしている為、用がある時は此処を訪ねるのが一番手っ取り早い。



「フロイスにも用はあるが、ネルソン達の力が必要になったのさ。で、いるのか?」


「奥の酒場で昼間から飲んでるよ」



 一般的に冒険者ギルドは一階に受付カウンターがあり、扉を隔てて隣接されている酒場にカウンター席越しの厨房が存在し、二階が冒険者用の宿屋になっている。


 受付カウンターの裏は控え部屋となっており、そこで宝物の鑑定や金銭の管理を行い、そして揉め事対策に腕っ節の強い用心棒が何人か控えている。



「仕方ないんだけどね、最近は金になるダンジョンや遺跡も減ってるし」


「近場をあらかた探索し尽くした結果だろう」


「まあね、まだ探し尽くされて無い所なんてあぶなっかしくて、()()じゃお勧めしないよ。余所の冒険者ギルドに頑張って貰わないとね」



 此処の冒険者ギルドの責任者であるボンゼは、登録している冒険者に、あまり危ない橋は渡らせない。


 ダンジョンや遺跡の情報は買うが、ある程度裏取りが出来、危険度の度合いなどの目処が付くまで、決して冒険者にその情報は売らない。



 大手の冒険者ギルドは入手した情報を直ぐに流し始める為に、ギルド自体の金回りは良い。


 その裏で登録したての新人冒険者が、実力以上の場所に足を踏み入れ、結構な確率で犠牲になっている。



「命が軽い連中もいるからな。それが自分の命でも……」


「嘆かわしい事さ。(したた)かに生き残って、こっちを稼がせてくれないとね」



 城塞都市トリーニの周辺には太古の王国の遺跡だの、地下深くに続くダンジョンだのがいくつか存在している。


 頑張って出向いたところで大体は瓦礫の山なんだが、極稀に見つかる宝物を求め、血気盛んな若者が一攫千金のお宝を求めて仲間を集めて挑戦し、その多くは残酷な現実に打ちのめされて返って来る。



 潜ってきました、何もありませんでしたという奴はまだ幸運な方で、まだあまり人が立ち入って無いエリアを発見し、嬉々としてその危険地帯に足を踏み入れて、其処で手に負えない化け物に遭遇して命を落とす者も多い。



 エルマーク商会で売られていた、石像に変えられた元冒険者の少女もその中の一人だ。



「まあ、こんな話よりネルソン達だ、酒場だな」


「いつもの席でエールを飲んでるよ」


 それだけを確認して、俺は酒場に向かった。


 普通の客なら直接冒険者と接触する事なんて無い、ボンゼに依頼内容を説明し、手数料を含めた依頼料を渡して終わりだ。


 厄介な仕事や直接交渉が必要な時にだけ、こうして冒険者たちと話し合う事になっている。





 受付の隣のドアを開けると、其処が酒場になっている。


 店内を見渡すと、まだ日が高いにも関わらず、ネルソン達の他にも何人か冒険者たちが酒を飲んでいた。



 カウンターで酒を飲んでいる男は今まで見た事が無いが、そこいらにいる冒険者とは雰囲気が違う、おそらく相当な腕利きだろう。


 あの男とも話をしたかったが、とりあえず今はネルソン達だ、いつも通り酒場の奥にあるテーブルで、ぬるいエールを飲んでいた。



「ようネルソン、景気はどうだ?」


「あ、リューさん。見ての通りさ」


 テーブルの上には三人分のツマミとして、焼いたソーセージやベーコン、それに串にさして焼いた鳥が何本か盛られた皿が乗っていた。


 皿の上には殆ど残っちゃいないが、此処でこれだけ頼めるなら懐具合は寂しくないんだろう。


「昼間からこれだけのツマミをあてに、酒を飲める金があるなら結構な事だな。ちょっとした仕事があるんだが……」



 俺は奥にある扉に視線を流した。


 そこには直接交渉する時や、あまり人に聞かれたくない話をする時に使う、小部屋が用意されている。



「リューさんが俺達に依頼なんて珍しいな」


「それだけのヤマって事か」



 ネルソンと組んでいる冒険者、ロイドとホークス。


 二人は残っていた料理を平らげ、コップに半分ほど残っていたエールで流し込んだ。


 俺は手を上げて店でテーブルを拭いていたウエイトレスを呼び、「すまないがあそこを使わせて貰うぞ」と言って小部屋を指した。



 カウンターにいた酒場のマスターが小さく頷き、ウエイトレスに部屋の鍵を手渡した。


 それを受け取り、ウエイトレスに注文を通して部屋へと向かった。





「まあ飲んでくれ」


「あ…ああ」


 テーブルの上にはチーズが乗ったベーコンが皿に並べられ、目の前にグラスが置かれている。


 グラスには半分ほどの量のウイスキーが注がれており、この一杯だけで先程までネルソン達が飲み食いしていた代金の十倍以上の値になる。



 腕利きであるネルソンクラスの冒険者と言えど、余程に金回りの良い時期でもない限り、口にする事など無い代物だ。



「最近噂になっている呪いの石像の話は聞いているか?」


「ええ、でもアレはガセだって話じゃ……」



 ウイスキーで唇を湿らせながらネルソンが答えた、一応噂位は聞いているようだ。



「あの噂なんだが、どうやらガセってだけじゃなさそうなのさ……」


 俺はネルソン達に、大理石像に変えられた少女の一件から端を発した、一連の出来事を説明した。


「ちょっといいですか? そうするとその貴族は()()バカ高い石像を、短期間に四体も買ったって話ですか?」


「羨ましい限りだが、ちょっと真似が出来ないな」


 質問をしてきたのはネルソンで、ボヤキを入れたのはホークスだった。


 三人とも粗方理解したようだが、やはり俺と同じ疑問を抱いたようだ。



「処理済みの()()石像は、おおよそだが一体で金貨百枚はする。貴族の三男に、それだけの支払い能力があるとは思えないな」



 意外な事に、ロイドはあの石像が、どの位の価値があるのか知っていたようだ。


 冒険者にあまりこの情報を流すと、新人冒険者辺りをそういった能力を持つ魔物の巣に誘い込み、石像に変わった冒険者たちを売りさばく可能性がある為に、正確な額は殆ど知られていない。



 まあそんな真似をしたら、フロイスの様に鑑定技能持ちの知り合いでも居ない限り、直ぐに冒険者ギルドに発覚し、良くて衛兵につきだされて投獄されるか、運が悪ければ盗賊ギルドの追っ手を差し向けられるだろう。



「詳しいな。だが今回は処理済みじゃない。もぐりの商会が手配した未処理の石像だ。一体金貨五枚で入手したらしい」



「金貨五枚……、それなら貴族の三男坊でも買えなくはないか……」



 新参者で信用の無いビリー商会の商品に、迂闊に手を付ける者などおらず、連中は大量に在庫を抱えた未処理の石像の処分に困っていた。


 結局その値段でも売れたのは、フェデーリが買い取った二体だけで、残りの石像はビリー商会の倉庫で保管されていた。



「ただしその内の二体だけだがな。もう二体の出所は俺も詳しい事が分からん」


「その二体の石像が魔物の可能性が高いって話ですか?」


「ああ、少女の姿をした石像に擬態する魔物に心あたりは無いか?」


「少女……」


 ネルソン達は記憶の糸を辿り、それらしい魔物を思い出そうとしていた。



「ガーゴイルなら有り得ますが、少女の姿をする事は無いでしょう」


「ガーゴイルなら悪魔の姿をしています。それ以外は……」



 ネルソンとホークスがほぼ同時にそう口にした。


 魔物に詳しいネルソン達でも心当たりがないのか……。



 俺も魔物に詳しい訳じゃあないが、石像に擬態する魔物といえばガーゴイルしか知らない。


 僅かに可能性があるとすれば、ゴーレムとか言う魔法で動く石像が存在するが、まさか石の量が少なく壊れやすそうな、少女の姿をする事は無いだろう。



「魔物ということ自体が考え過ぎで、何処からか密輸された少女、という可能性の方が高いのでは?」


「それなら問題は無いが、万が一に備えておきたい。最悪ガーゴイルだとしてお前達だけでやれるか?」


「貴族やリューさん、それにフロイスを護りながらって事なら、少し強力な魔法が使える奴と、治癒が使える奴がいた方が良いでしょう」



 ネルソン達も魔法とか言う、火を出したり水を出したりする技を使える。


 初めて見た時は驚いたが、強力な魔法を使うには複雑な術式を暗記する必要があり、また戦闘で使おうと思えば、それをかなり高速で展開する必要があるらしい。 



 その結果、専業の魔法使いでもない限り強力な魔法は使えず、ネルソン達も魔法使いたちから言わせれば、牽制程度の威力の物しか使えない。



 そしてこの世界の僧侶は神の奇跡というか、魔法使いと同じ様な感じで祈りを捧げる事で、傷を治したり毒を中和したりする事が出来る。


 薬や医者要らずで結構な事だが、奇跡の力は神に祈りを捧げてるか、善行を積み、誰かから感謝されたりすることでも少しずつ溜まるのだが、その身体に貯め込む奇跡に限度があるらしく、一日にそう何度も使えないという話だ。



「腕利きの僧侶なら、俺の伝手(つて)があるが」



「もしかして、シスターセシリアですか?」


「あの女、まだシスターをしてやがるんですか?」


 シスターセシリア、以前こいつらに仕事を頼んだ時、同行して貰った教会の僧侶だ。


 年齢はまだ二十になってないという話だが、こればかりは本人の言を信用するしかなく、確認のしようが無い。


 俺が懐いていた、貞淑で清楚なイメージの強い教会のシスターの印象を、僅か一日で完全に打ち砕いてくれた、結構な悪女でもある。


「男漁りが過ぎても教会は何も言わんしな。金さえ払えば仕事は受けてくれるし、腕は確かなんだが……」


「そりゃ、あの女でも流石にリューさんを敵に回す事は無いでしょうが……」


 依頼料に比べて仕事内容が余りにきつい時、たとえ冒険者のパーティが魔物に襲われて崩壊しかけていても、あの女は仲間を見限ってサッサと姿を消す。


 逆に十分過ぎる依頼料を握らせておけば献身的にパーティを支え、犠牲者が出ないように尽くしてくれるんだが、その後パーティの男共と関係を求め、冒険者が手にした金を吸い上げようとする悪癖(くせ)がある。



 まあ、それも理由があっての事なので、俺は大目に見る事にしているが、何度か痛い目を見た奴らは好意的になれんだろうな。



「仕事の後の付き合いは別にしてだ、あの女、腕だけは確かだ。三男とはいえ貴族だからな、万が一の事態には備えておきたいんだ」


「それが依頼主であるリューさんの指示なら従いますよ。魔法使いの方はどうしましょう?」



 ネルソンは納得したようだが、以前あの女に手玉に取られたホークスは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


 そのホークスも以前、別の仕事で酷い傷を負った時に、あの女に命を救われたって話だから、この仕事中に諍いを起こしたりはしないだろう。



「ゼーマンがいたら奴に頼みたいんだが」


「セシリアと喧嘩しませんか? あの爺さん」



 ゼーマンは六十を超えた高齢の魔法使いだ。


 術式の高速展開が必要な魔法使いは、大体三十代後半から四十代前半で冒険者から足を洗い、魔法アカデミーや冒険者ギルドあたりで、駆け出しの冒険者等に魔法を教えたりして生計を立てるようになる。



 そんな中、ゼーマンは六十を超えてなお冒険者を続け、その魔法の高速展開の腕は若い魔法使いに引けを取らない。


 しかも、今まで積み重ねてきた知識の量も豊富で、多彩な魔法を持ち、それを実行する判断力も確かだ。



「あの爺さんなら、孫位に歳の離れたあの女に、そこまできつくは当たらんさ」


「それもそうですね」


「ここ最近、ゼーマンが何処かのパーティとダンジョンや、遺跡の探索にでたって話は聞きません。おそらく問題は無いでしょう」



 石像の鑑定にしては物々しいメンツではあるが、万が一に備えておくのは悪くないだろう。


 あと問題は金の方だが……。



「依頼料は前金で金貨十枚。何事もなければ終わった後にもう十枚。もし石像がガーゴイルで戦闘になった時は、追加でもう十枚支払おう」


 テーブルの上に金貨を十枚広げて見せた。


 元の世界の基準で金貨一枚はおおよそ十万ほどだが、この城塞都市トリーニでは食料品などの物価が格安な為、こんな所で飲み食いしたり嗜好品に手を出さない限り、金貨一枚で数カ月は暮らしていける。



 大体一般の市民では普通に生活をしていれば、精々銀貨位しか手にする事は無く、金貨など生涯で数える程しか目にする機会は無いだろう。



「全部で三十枚……、此処に収める分を引いて……」



 通常、依頼料の三割程度はギルドが手数料として徴収する。


 通常であれば、こいつらひとりひとりの手取りは、最大で金貨四枚になる筈だが……。



「いや、ボンゼには俺が手数料を支払っておく。それは手取りだ」


 流石にネルソンは驚いて腰を浮かせ、「いいんですか?」と声を上げた。


 冒険者の依頼料としても、今回の額はかなり破格だ。


 ケチな依頼主であれば、今回位の仕事の内容ならば、手数料も含めて金貨一枚も支払えば良い所だろう。



「構わんさ」


 こんな所で金を出し惜しみをしても良い事など何ひとつない、フロイスを雇う金の事もあるしな。


「予定は三日後だ。準備を頼む」


「任せてください」


 ネルソン達は僅かに残っていたウイスキーを呷り、テーブルに並べられた金貨を懐に収めて、軽快な足取りで小部屋を後にした。


「念の為、保険も用意しておくか……」


 ボンゼに手数料とフロイスのへの依頼料を支払う為、ネルソン達に続いて俺も小部屋を後にした。







読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんで頂ければ幸いです。

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