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盗賊ギルドと黒い依頼

 残酷な描写は出てきませんが、少し黒めの話になります。

 楽しんで頂ければ幸いです。



 ゴールトンの屋敷を発った後、ロドウィック子爵家が管理する地区にある盗賊ギルドに向かった。


 外周沿いにある裏通り、素人が通りかかればいまだに命を落しかねない、トリーニに残された最後の暗黒街。


 そこにある一軒の薄汚れた家屋、看板などは掛かっていないが、そこが知る人ぞ知る盗賊ギルドの本拠地だ。



 盗賊ギルドの前に馬車を横付けにするほど俺は愚かじゃない。


 二つ手前の通りで馬車を降り、ちょっと重めの荷物を抱え、目的の場所へと向かった。




 昼間であっても薄暗い路地裏、衛兵ですら近づかないアウトローの巣に、久しぶりに足を踏み入れた。



「すみません、何か…飲み物と食べ物を持っていませんか?」


 みすぼらしい襤褸を纏った老人が、そんな事を言いながら近づいてきた。


「ワインをひと瓶、それに干し肉だ。よければ食べてくれ」


「おお……、これはこれは……、ありがたく頂きますじゃ」


 老人はそう言って路地裏に一度姿を消した。


 そして、少し時間を空けて再び姿を現し、「足元は掃除しておきました」と言い残し、姿を消した。




 その言葉を確認し、俺はゆっくりと路地裏を進んだ。


 路地の隅には、事前に情報を仕入れていない愚か者の靴が、白骨化した足首ごと幾つも転がっていた。


 もし今のやり取りを無視し、強引に路地裏に入れば、待ち構えていた盗賊ギルドの構成員に、足首を切り落とされる。



 ワインは血の色、つまり赤ワインと、干し肉。


 血を欲しているという意味らしいが、日本語的な謎かけがいまだに残っている辺り、三千年前の勇者の影響が凄まじかった事を物語っていた。




 目的の場所、盗賊ギルドの前には人相の悪い見張りが陣取り、薄暗くても分かるほど磨き上げられたナイフを片手に、「誰だアンタは?」と、聞いてきた。



「落し物を探しているんだ。コレの片割れなんだが」


 俺は懐からゆっくりとある物を取り出し、男に差し出した。



 差し出したのは半分に割られた黒い銀貨、男はそれを確認し、「知らねえな。他を当たったらどうだ?」と返してきた。



「他の色もあるんだ、赤と、金色は多目にな」



 六枚の銅貨と、十枚の金貨、それを男に差出し、反応を待った。



 男は頭を掻き、「……あんたが正式にうちを訪ねて来るとはな。ボスに話を通す、待っていろ」、と返してきた。



 この通りにはいった時からの一連のやり取りは、此処のボスが決めた正式な依頼方法だ。


 もしこれを行わなければ、ロドウィック子爵家の当主、モンフォールが訪ねて来ても、この見張りは命に代えても絶対に追い返す。


 その逆に、俺の様な敵対した者であっても、一応話くらいは通してくれる。


 手渡した金貨などは返って来ないが。




「すまんな。コレは駄賃だ、酒でも飲んでくれ」


 追加で金貨を三枚、見張りの男に握らせた。


 男は怪しい笑みを浮かべ、それをポケットに仕舞って扉の向こうへと姿を消した。




 しばらく時間をおいて、ようやく男が戻ってきた。


 どうやら、あの男は俺に会ってくれるようだ。



「ボスに話は通した。武器は持っていないか?」



 まあ、見た目で剣や槍を担いで無いから、一応確認の為なんだろうが、武器を隠し持つのは会うと言ったアイツへの儀に反するな。


 懐から二つの武器……、D型魔筒とS型魔筒を取り出し、見張りの男に手渡した。



「この二つは武器だ。帰る時に返してくれよ」



 渡しはするが、やる訳にはいかない。


 あんなもんでも、俺にとっちゃ最後の手段だ。



「変わった武器だな? まあいい、ちゃんと返すさ」



 見張りの男は見た事の無い武器に興味津々といった感じだが、あまりそれで遊ばれても困るな。


 一応、釘位刺しておくか。



「試し撃ちなんて考えるなよ? そっちの少し長い方は、金貨十枚以上の代物だ」


「き……、分かった、肝に銘じておく」



 金貨十枚、こんな見張り程度では簡単に支払う事などできまい。


 それに丸腰になる事を覚悟で預けた武器を、注意した上でこいつが使えば、アイツなら値段に関わらず、こいつの命で償わせるだろう。





「よく来たなアーク商会の、ワシに用か?」



 ロドウィック子爵家の管理地区にある盗賊ギルドのボス、チェーザレがしゃがれた声で話しかけてきた。


 確かこいつの年齢はもうすぐ七十歳、こんな商売を続けていながら、よくこの歳まで生き残ったモノだ。


 まあ、こいつを殺すにはここに忍び込むか攻め込む必要があり、まずそれが無理だが。




「久しぶりだな。提案と、依頼だ」


「提案……、ワシに他の盗賊ギルドの様に牙を捨てろと言いに来たのか?」



 他の二家の盗賊ギルドはかなり前にこの提案を受け入れ、幾つかの条件が揃わなければ殺しの依頼は受けなくなっている。


 それと、管理地区の花街の利権、賭場の営業権なども各子爵家へ返還させている。


 各盗賊ギルドの実入りは激減しているが、衛兵などに捕まる危険性も無く、決められたルールにしたがい、無用に人は殺さず、トリーニに侵入した盗賊の始末や、情報収集を生業とし、悪を成している。





「捨てる必要はない。ただ、むやみやたらに人を殺すのを止めるだけでいい」


「殺し以外で此処を訪れる者などおらんよ。ワシに会う為に最低でも金貨二十枚ほど掛かる。それを払えるだけの者が、初めて人の命を奪う資格を持つんじゃ」



 この辺りも他の盗賊ギルドと違い、このチェーザレが昔から変える事無く、依頼主に要求してきた事でもある。


 人の命を殺めるにはそれなりの金を用意する事、この場所で話を出来るだけの努力をする事、此処で依頼したことを決して洩らさぬ事などだ。



「そんな人間、もう居はしないだろう? ここ数年で何人依頼者がいた? 手下の数も以前来た時の十分の一も居ないだろう?」



 殺しを依頼するには更に最低金貨五十枚が必要になる。


 昔でも滅多に居なかったが、今でもそれだけの金を支払い、殺したい人間など数える位しか居ないだろう。


 ……俺もそのうちの一人だろうがな。



「掟を破った者を処理しただけだ。お前もその事を知っておるだろう?」


「勝手に此処を抜け、盗賊ギルドを起ち上げようとしたアイツの事か? 名前も知らんが」



 三年ほど前、この盗賊ギルドにいた男が何人かの部下を連れてチェーザレの元を抜け、ロドウィック子爵家の管理地区で新たな盗賊ギルドを起ち上げようとした。


 当然、チェーザレは追手を差し向け、抜けた者を全員を処理した。


 その事が切っ掛けとなり新たにこの盗賊ギルドに来る者はいなくなり、様々な理由で人が減り、今の様な寂れた状態になっていた。


 当然依頼も以前ほど来なくなり、チェーザレやその部下は今まで貯め込んできた金を切り崩し、何とか生きている有様だ。



「ワシのやり方は古臭い。嫌う者もおるが、もうこの歳だ、今更生き方など変えられんよ」


「とはいえ、お前や手下も霞を食って生きてる訳じゃあるまい。このままだと枯死するだけだ」


「枯死結構。ワシにはお似合いの最後さ」



 ワインと干し肉を受け取った老人、少し顔が緩んでいたが、あれが本心なのだろう。


 このままではやがて金が尽きる、その時、チェーザレがどうなるか、古参の人間であればある程理解しているからだ。



「もし提案を受け入れるなら、俺がひとつ依頼を出す。報酬は金貨で五百枚だ」


「……金貨五百枚の依頼か。一体なんじゃ?」



 こいつ、これだけ金貨を積む依頼なんて、他に無いだろうが。



「おまえも黒霊王(こくれいおう)という名くらい聞いているだろう? 依頼内容はそいつの首だ」


「ワシに殺しを止めろと言い、殺しを依頼するか?」



 人には人の道があり、悪党には悪党の道がある。


 そこを外せば誰であろうと外道だ、俺が歩いてるは道の際に近いが、まだ道を踏み外しちゃいねえ。


 儀も無く、理も無く、情ですら無く、人の命に手を掛ける奴は、外道という他無いだろう。 



「こいつは人じゃない、魔物以下の価値観を持つ外道だ。人の心を無くした外道を処理するのに、人の理は必要ないだろう?」



 こいつを殺す事に、俺は迷いなど無い。


 直接手出しはしねえが、こいつをそのまま放置する程、俺は人間が出来ちゃいないんでな。


 ブライには悪いが、奴の手がこの黒霊王(腐れ外道)の首に届かないなら、届きそうな所に依頼する他ねえだろう。



「おまえさんらしい物言いじゃな。金貨五百枚か、今までワシに付いて来た者への分配金としては十分じゃろう」


「盗賊ギルドを畳むのか?」


「それも一つの手だろうよ。その黒霊王(こくれいおう)の首、最後の依頼には相応しい仕事じゃな」



 最後の仕事か……。


 寿命を悟ったのか、それとも……、まあいい、こいつの生き様を終える時に、俺が口出しする事は無いだろう。



「……そっちにも訳ありか。依頼料だ、切り飴で二十本ある、頼んだぞ」


「せっかちじゃな。まあよい、おまえさん、他でもこの依頼を頼んでおるのだろう? ワシの手が及ばん時はどうする?」



 もし仮にブライやゴールトンの放った衛兵が先に黒霊王(こくれいおう)を打ち取った場合の話か。


 通常であれば、依頼料は返す必要があるが、多重に依頼している俺の状況も褒められたもんじゃねえからな。


 依頼料を返せっていうのは筋が通らんだろう。



「奴の首は早い者勝ちだ、出来る事なら、俺がこの手で落としてやりたいくらいだ。もし仮に他の奴が首を取っても、依頼料を返せなんて言やしねえよ」


「ワシの働きを疑わん所が、お主らしいな……。ひとつだけ情報をやろう、敵がひとりと思わぬ事だ」



 こいつもその可能性を考えていたのか。


 もう少し正確な情報を持っているのだろうが、それがはっきりするまでこいつはその協力者の名を出しはしない。



「………協力者がいた場合、誰であろうと同罪だ。情けも無用」


「流石にお前も気が付いておるのか?」



 今の状況自体が有り得ないからな。



「あのゴールトンとリチャーズが動いて、見つからない奴がいるか? 誰かが手引きしてるに決まっている」



 そいつが黒霊王(こくれいおう)(かくま)っているか、それとも、移動などの手助けをしているのかは分からない。


 だがどんな形かは分からないが、手助けをしている誰かがいるのは確実だ。



「そいつの情報もサービスしておくよ。分かり次第、お前に知らせよう」


「済まねえな。長年、俺を目の仇にしてきたんだろうに」



 各家が衛兵を強化し、盗賊ギルドが活動しにくい土台を作ったのはこの俺だ。


 ドブ川を清流に変えるにゃ、少しばかり急ぎ過ぎたのかもしれねえな。



「この街をこんな形に変えたお前のやり口は間違ってはいないさ。ただ、ワシ等の様な日陰に生きる者には少々住み難かっただけ、それだけの事よ」


「飢え死にする者も、些細な諍いで命を落とす者も居ない。余裕が無けりゃ、そこには何も生まれねえからな」



 書類に使われ始めた和紙はともかく、冷蔵箱を売り出した頃は王都への輸出が殆どだった。


 貴族や大商会では比較的早い段階で導入されたが、一般家庭に普及したのは冷蔵箱の製造工場などで住人が賃金を稼ぐようになってからだ。






「銅貨十枚を稼ぐのに精一杯の街から、金貨は生まれない。お前さんはこの街の住人の財布に銀貨が舞い込むように動き、金貨を吸い上げる為のシステムを生み出した。それがお前さんの理だろう?」


「街の住人が家族の為に一生懸命働き、手にした銀貨で子や妻に美味い物を食わせたり、立派な服などを送る。金は何処かにあるだけじゃ意味はねえのさ」



 次第に王都から他国に話が広がり、他の国に輸出を開始した後、その売り上げは更に住民を豊かにし、次第に他の産業も成長を始めた。


 僅か小さな椀一杯分の麦と引き換えに身体を売る娘は姿を消し、その娘たちは手にした銀貨で着古しとはいえ、貴族が着ていた服を買えるようになった。


 二十年前には考えられない事だ。



「お前さんが本格的に動き出して僅か二十四年。初めは愚かな餓鬼が叶わぬ夢を見るモノだと笑っておったが、愚か者はワシ等の方じゃった」


「愚かじゃねえさ。今回の件、もしお前に牙が残って無けりゃ、俺はこの依頼自体持ち込む先がねえ」



 流石に他の盗賊ギルドには頼めない。


 もう奴らは滅多に人殺しなんて受けやしない。



「これが最後だろうがな。牙を折るにゃ丁度いい」


「もうこんな腐れ外道が出て来ねえ事を祈るしかねえな」



「これ程の外道、早々お目にかかるまいよ」



 まったく、こんな奴にはもう出てこないでほしいモノだ。






 読んで頂きましてありがとうございます。

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