失われた物の代価
司祭や神父、シスターなどが出てきますが、この世界独自の体系になってると思っていただければありがたいです。
楽しんで頂ければ幸いです。
サンクトゥアーリウム・ヴィオーラ教会。
ヴィオーラ教徒でもない俺が、週に二度も此処を訪れるとはな……。
女神ヴィオーラは豊胸の女神でもあるので、信者は女性が多い。
一昔前は女神ヴィオーラの豊かな胸に憧れる女性信者の為に、豊胸薬まで販売していたという話だが、実際にはあまり効果が無い事が分かり、今は売られていない。
その時、豊胸薬の材料に使われた薬草こそ女神鈴であり、無神論者の集団であるエルフの住む森以外の場所で、本来雑草だった女神鈴が絶滅に近い状況になったのにはそういった理由もある。
「ここか、相変わらずでかい建物だ」
治癒院、二階建てで病床数おおよそ二百床、八人部屋、四人部屋、二人部屋、個室があり、教会への寄付額や病状によって個室や二人部屋が割り当てられる。
四肢の欠損や失明など、患者がひとりでは動けない場合は一階、比較的自由が利く場合は二階に入院する。
この世界の場合、魔法で治癒する事が多い為に隔離が必要な病気という者は殆ど無く、多くは四肢や視力の損失か、それ以外の場所で身体を大きく失った者が此処で治療を受けている。
魔法で治癒するまでも無い軽めの病気や、完治に時間のかかる病気に関しては薬の処方も行っており、薬種堂でそれを買い求める事が出来る。
「四肢の欠損だが、足を失ったネリ―はともかく、腕を失ったルルという娘は二階かもしれんな」
病状に差があった場合でも冒険者のパーティなどであれば、同じ部屋に入院させられる事も多い。
人数に合わせた病室が、都合よく空いていればの話だが……。
「すまないが、此処にネリ―とルルって娘が入院してる筈なんだが。何号室だ?」
「えっと、貴方はその方とどのような関係で?」
看護師……、治癒院担当のシスターに病室を訪ねると、当然のようにそう言った質問が返ってきた。
「その冒険者たちに依頼をしていた者だ。少々聞きたい事があってな」
「……132号室です」
意外にすんなり病室を教えてくれた。
怪しい恰好ではあるが、俺が冒険者ギルドの関係者だと勘違いしたようだ。
普段から防刃と対魔法用のマントなんかを身に着けてる人間など、冒険者ですら殆どいないだろうに。
「二人とも同じ部屋か?」
「はい、二人部屋になっていますので」
二人部屋か……。
ボンゼ辺りが教会に幾らか渡したんだろうな……。
廊下を歩いていると、何人かのシスターが挨拶をしてきた。
なかには先日の女神鈴の一件を知っているのか、「先日は多額の寄付、ありがとうございました」などと言ってくる者もいた。
女神鈴の種一万個、まともに換金すれば金貨千枚、それに虎牙蔓の棘が同量で、おおよそ金貨四百枚、日本円換算で約一億四千万。
ひと昔に比べて裕福な人間が増えた城塞都市トリーニと言えど、流石にこれだけの額を一度に寄付する者など滅多にはいない。
「此処だな。し……」
「だから!! 何度も謝らなくていいって、言ってるでしょ!!!!」
「で…でも、私が油断しなかったら、ネリ―は足を……」
「これは油断した私への戒めだ。倒れた石の魔物が、まさか生きているとは……」
ドアをノックと手を伸ばした瞬間、中から言い争う声が聞こえた。
聞く限りは、おそらく四人組の誰かが責任を感じ、必要以上に謝ったり下手に出た為、仲間の不興を買ったのだろう。
まあ、責任を放り出して開き直られるよりはマシなんだろうが、限度というモノがあるしな。
何時までも喧嘩を聞いている訳にはいかない、そろそろ邪魔をさせてもらうか。
「失礼、此処はルルとネリーっていう冒険者の部屋で間違いないか?」
軽くノックをし、それだけを訪ねた。
中の喧騒がやみ、何やら小声で話し合っている様子がうかがえた。
「あの…どちら様でしょうか?」
中からか細い声が聞こえた、おそらくこいつが不興を買っていた女なのだろう。
「今回の依頼の関係者、といえばわかるか?」
「依頼の……、あっ!!」
まあ、依頼主が訪ねて来るなんて、碌な用件じゃない事位理解しているだろう。
今回に限っては俺はそこまでこいつらに用がある訳じゃない。
ボンゼの話を聞いて、ひとつ疑問に思った事があるからだ。
「少し聞きたい事があるだけだ、邪魔していいか?」
「あ…、は…はい」
「邪魔するぜ」
病室のドアを開け、ちょっと狭めの二人部屋に足を踏み入れた。
室内には左右の壁に付けるように設置されたベッドが二つ、シスターを呼ぶ為の呼び鈴がそれぞれのベッドサイドに一つずつ、コップなどが置かれた戸棚と簡素なハンガーが二つ、後は小さなテーブルと、椅子が三つほどあるだけだった。
「今回は災難だったな。コレは見舞いだ、後で食べてくれ」
一応用意していた果物の詰め合わせの籠を、目の前の気弱そうな少女に手渡した。
こいつが冒険者? と、一瞬疑いそうになるが、ボンゼが見どころがありそうと言っていたからには、こんな少女でも、それなりの腕なんだろう……。
「え? いいんですか?」
「ああ、別に食事制限は無いんだろう? それより聞きたい事がある」
「き…聞きたい事ですか?」
「あの男……、黒霊王とやらが、何故お前達を殺さずに逃亡を選択したか、という事だ。あの男、何か言っていなかったか?」
そう、気になったのは、まさにこの一点だ。
いくらこの辺りの冒険者のレベルが高いと勘違いしていても、こんな小娘四人、今までの奴の行動から考えれば、全員無力化させた後で、嬲りながら石に変えていてもおかしくは無い。
それにこいつらを相手に、最後の爪タイプを犠牲にしてまで、逃亡時間を稼ごうなどとは考えない筈だ。
「えっと……、そのフードを被った怪しい人ですが、私を見て、『奴と一緒にいたあの女か……』と呟いていました」
人違い……、いや、奴はジンブ国の出身者だ、この辺りの人間の見分けが付きにくいのかもしれないな。
女という事は、あの勇者はひとりでは無かったのか。
「奴と一緒にいたあの女……、あの勇者とやら、女と一緒だったのか?」
「勇者ですか?」
どうやらこいつらにはあの男の一件が伝わっていないみたいだな。
あの男の情報が入っていれば、先にカーマインから俺のもとに報告が来るだろうからな。
「その黒霊王とやらは、神聖な十の剣を使う奴と戦って、石の魔物をかなり失ったそうだ。その時、お前に似た女でも一緒にいたんだろう」
「オ…オリジナルを使える人なんているんですか?」
三人とも、綺麗に目を大きく見開いていた。
まあ、オリジナルが使える人間など、そうはいないからな。
しかし、こいつらは驚きを隠せないようだが、完全治癒と、神聖な十の剣では性質が違うとはいえ、ただ単にオリジナルであれば俺も使えなくはない。
「ああ、お前達が戦ったあの石の魔物を十体同時に葬ったそうだ。しかも一撃でな」
「……そんな冒険者が居るのか。私達など足元にも及ばんな」
足を太腿からバッサリ失ったネリーという少女が、自らの足を被う、膨らみの無い布団に視線を落としていた。
「そう気を落とすな、オリジナルが使える人間などそうそういない」
「そう言われても、このザマでは私達はもう冒険者としては終わりだ。気落ちもするさ」
もう一人、おそらくこいつ等のリーダーと思われるルルという少女が肘から先の無い右手を上げ、病衣の袖口を肘から下へと垂らしていた。
「もし仮にだ、その傷が癒えたら、冒険者を続けるのか?」
「え? 失った腕や足を再生できるんですか?」
まだ説明されていなかったのか、それとも、こいつらに支払い能力が無いと判断されて、あえて教えられていなかったのか……。
「再生の奇跡の魔法を使えるシスターは王都にいっているらしいが、ひと月後には戻って来るはずだ」
希望を与えて悪いが、一応必要な物の存在も教えなければならないな。
「ただ、この教会のシスターに聞いてみなければわからないが、結構な額を請求される」
再生の奇跡の魔法と奇跡の代価……、おそらく金貨十枚は請求されるだろう。
腕や足の代価と考えれば十分に安いが、駆け出しの冒険者が気軽に払える額ではない。
「もし、この足が元に戻るなら、私は冒険者を続けたい。金は必ず払う」
「ネ…ネリー!!」
「私もよ。片手では正直、冒険者なんてできないだろうけど、元に戻るならもう一度冒険者を続けたい」
この病室に入った時には、二人とも結構目が死んでいたが、今は目に精気が宿っていた。
「いい心構えだ。一度の失敗で夢を諦めるかと思ったが、中々根性が据わっているじゃねえか」
確かに見どころはありそうだ。
これだけの目に遭えば、もう二度と冒険者等などやりたくないだろうに。
「ルル、ネリ―、私が言うのもなんだけど、もう冒険者なんてやめた方が良いと思うわ」
ノックの後にドアが開き、小さな台車を押しながら白い修道服を着たシスターが入って来た。
こうしてみると、教会のシスターというよりは、むしろ看護師といった感じだな。
「あ…、ティア。なに? もう食事? それとも巡回?」
「巡回よ。えっと……」
「俺か? 俺は依頼主のリュークだ。今日は見舞いと、少しばかり話を聞きに来ただけだ」
俺が依頼主だという事を聞いて、ティアという少女の顔が少し青ざめた。
「い…依頼主さん? まさか違約金の取り立てに?」
「違約金って?」
「ニース、私達は情報収集と連絡任務中に独断で敵と戦って負傷し、依頼が果たせなくなったでしょ? その場合、私達の都合と契約外の行動で依頼の遂行が不可能になったという事で、違約金が請求される時もあるの」
あのおとなしめの女はニースというのか。
あのティアってシスターが四人目で、ルル、ネリー、ティア、ニースの四人組って事だな。
「い…幾らなの?」
「大体、依頼料の三倍」
「さ…三倍!! き…金貨六枚なんて、払える訳ないじゃないの!!」
こいつら四人は内緒話をしてるつもりだろうが、完全に会話が漏れているんだが……。
しかしボンゼの奴、偵察任務の冒険者に金貨二枚も渡していたのか。
「あの…少しお話が……」
「なんだ?」
ニースと呼ばれていた少女が顔を真っ赤にし、俺の傍まで近づいてきた。
両手を胸元でギュッと強く握りしめ、一度瞳を閉じてから「い…違約金は金貨で払えませんが、代わりに私が身体で払います」と言い出した。
「だ…ダメよニース!!」
「そうだ、お前がそんな事をする必要はない、こんな身体で良ければ、私が代わりに……」
「このパーティのリーダーは私よ。違約金は私が身体で払います」
ティア、ネリ―、ルルの順で、勝手にそんな事を言い始めた。
金が無ければ身体で払う、確かにそんな方法もあるが……。
「悪いが女に不自由はしていないんでな。それに、そんな冗談は他でしない方が良い。本気にされると困るのはお前達だろう?」
顔を真っ赤に染め上げ、瞳に大粒の涙を浮かべながら、ニースは、「じょ…冗談なんかじゃありません!! 私は……」と言い、俺の視線に気が付いたのかその場で俯いた。
「違約金は要らないと言っているんだ。そんな事よりティア、悪いがシンシアを呼んで来て貰えないか?」
「え? 司祭様とお知り合いなんですか?」
ティアが「なんでこの人が?」って顔をしやがった。
確かにこの格好を見て堅気だとは思わないだろうが、お前らだって冒険者だろう。
「割とな、アーク商会のリュークが訪ねて来ているといえば、通じる筈だ」
「アーク商会のリュークさんって、あのもしかして先日女神鈴を……」
先日の女神鈴の一件は意外に知られている様だな。
俺はヴィオーラ教徒じゃないから、俺が幾ら寄付したって話はあまり広めない筈だが……。
「そのリュークだ。なに、大した事じゃない」
「す…直ぐにお呼びします!!」
怪我人だらけの治癒院の中を、ティアは全力で走り抜けていった。
大した脚力だ、あれならすぐにシンシアの居る大聖堂に辿り着くだろう。
「どの様な用件でしょうか?」
シンシアはこれでもこの教会の最高責任者なのだが、割とすんなり来てくれたな。
まあ、シンシアがこの教会で今の地位にいるのは、俺からの多額の寄付という恩恵がある事は間違いないのだが……。
「少し相談したい事があってな。再生の奇跡の魔法についてなんだが……」
俺がベットに寝ているネリ―に視線を向けた事で、シンシアはある程度の事を察したようだ。
「再生の奇跡の魔法が使えるシスターは全員、数日前から王都の教会に召喚されています。なんでも、王都周辺で大きな事故があったらしく、その者達の治癒の為と聞いています」
俺がこの件に口出しして来た以上、教会への支払いについて言及しない所が流石といえば流石だ。
支払い能力など聞くまでも無いからな。
「王都で起こった事故の件は知らなかった……。もう一つ質問があるんだが、教会の大聖堂に貯め込まれた奇跡、アレはシスターでもないと使えないのか?」
「大聖堂の中で魔法を使えば、誰であろうと奇跡の恩恵を受ける事は出来るでしょう。もっとも、女神ヴィオーラに奇跡の使用が認められればの話ですが」
という事は、あそこで完全治癒を使えば、魔石を使わずに済む可能性もあるな。
おそらく今貯め込んでいる奇跡は全部使い果たすだろうが、出来るだけ多くの患者を治癒すれば、患者本人やその家族の感謝の気持ちは新たな奇跡の補充に役立つ筈だ。
それでも足りなければ、手持ちの魔石を使えばいいだろう。
「それを使わせてくれと言ったら、許可して貰えるか?」
「………いったい何をする気ですか?」
シンシアは俺が完全治癒を使える事を知らない。
というより、俺が魔法の知識を手に入れていることすら知らないだろう。
「なに、ちょっとした実験さ。ただ、患者を此処から動かせないとすれば、範囲がかなり広くなるな」
「四肢の欠損まで治す範囲型の治癒魔法? リューク、貴方まさか……」
どうやらシンシアも俺が何をしようとしているのか気が付いたようだ。
範囲型の再生能力付き治癒魔法なんて、そうそう無いだろうからな
「いいでしょう。奇跡の使用を許可します」
「すまない。とりあえず、ネリ―達を大聖堂まで移動させてくれ。失敗して誰も治せないじゃ奇跡の無駄遣いだからな……」
「分かりました。ネリーさん、杖を……」
足を失っているネリ―は松葉杖を持ち、ティアが補助として肩を貸していた。
シンシアとネリ―達を引き連れ、大聖堂へと向かった。
相変わらず目が痛くなりそうな程に、絢爛豪華な装飾が施された大聖堂を訪れ、祭壇の前に立った。
どうやらここが奇跡を使う為の場所らしい。
複数のシスターが奇跡の魔法を使う場合、大聖堂内に決められている幾つかのポイントに立つ必要があるそうだ。
「この広い教会の敷地のどこまで範囲を広げられるやら……」
まあ、広いと言ってもエルフの森に比べれば狭い範囲だ。
オリジナルで無く、レプリカでも十分に範囲に収められるだろう。
「いくぞ、万物の精霊、慈愛の心、傷付、倒れ、臥す子羊に、今一度の祝福を……」
頭の中に展開用魔法陣が浮かび、その中心から魔力ではなく、奇跡の力が満たされていく。
前回以上に魔力…、奇跡の力の分岐ポイントや、何処にどれだけ力を送り込めばいいのかが、手に取るように分かる。
最初に脳裏に描かれた展開用魔法陣の外周のリングまであっさりと奇跡の力が満ち、その後、更にその外周に新たな魔方陣が追加され、それも全て新たに流れ込んできた奇跡の力が満たしていった。
オリジナル版、完全治癒……。
知覚出来る発動範囲はこの広大なサンクトゥアーリウム・ヴィオーラ教会の敷地全体、それどころか、一部の範囲は教会の外にまで及んでいる。
オリジナル版の展開魔法陣が脳裏で輝き、俺が発する力ある言葉を待っていた。
「完全治癒……」
力ある言葉と共に、完全治癒によって生み出された夥しい量の光の粒子が輝く地面から舞い上がり、大聖堂にいたネリーやルルの失われた四肢を再生するだけでなく、範囲内にいた全ての人間の傷や病が癒されていった。
光を失っていた者、四肢を失っていた者、病で治癒院を訪れていた者、古傷に苦しんでいた者、その全ての傷や身体に残っていた傷跡までも癒されていた。
「足が、元に戻った……」
「右手が……、今までと同じ様に動くわ!!」
「胸の傷跡が消えてる……」
「やはり完全治癒ですか。リュークがこれを使えるなんて……」
おそらく、治癒院や他の場所でも様々な奇跡が見れた事だろう。
後でシンシアやシスターたちに説明して貰えれば、この教会に奇跡の力が溜まり、あの二百人を超える石化した村人たちを、元に戻せるかもしれない。
「うまくいったようだな」
「凄いわリューク、何時の間に完全治癒なんて使える様になってたの?」
年甲斐も無くシンシアがはしゃいでいた……。
といっても、混ざっているエルフの血が結構濃い目に出ているシンシアは、見た目だけなら精々二十歳そこそこにしか見えない。
普段は優しいし面倒見も良く、司祭の見本の様な振る舞いをしているが、このシンシアは一度タガが外れれば、まだ少年だった頃の俺にまで手を出すような女だ。
周りにはシスターだけでなくネリ―達もいる、今ならまだ正気に戻るだろう。
「口調が昔に戻ってるぞシスターシンシア」
こういえばこの女は大体元に戻る。
失敗した時は、このままシンシアの寝室まで連行されるだけの話だが……。
「あら……、失礼しました」
「使える様になったの半月ほど前だ」
脳裏に展開用魔法陣を浮かび上がらせる事自体はそれより前に出来ていたが、実際に使ったのはあの森が最初だからな。
「先日の一件だけでなく、今回も貴方のおかげで多くの苦しむ者が救われました」
「使ったのは教会の奇跡の力だ。俺だけの力じゃないさ」
これでどのくらいの奇跡が溜まったのかは分からないが、今回の件を感謝する者がいればこれからも奇跡の力は溜まるだろう。
「できれば、これからも治癒の術をお願いしたいのですが」
完全治癒とは言わないが、これだけ派手な治癒魔法だ、それほど時間を掛けずにトリーニ中に噂が広まるだろう。
「毎月一度か二度で良ければな」
「それで十分です」
二度目より三度目の方が魔力の流れが良くわかった。
おそらく、これが魔法に対する練度なんだろう。
今なら魔石二十個程でレプリカ版完全治癒が使える筈だ。
「これで冒険者が続けられるな」
「ありがとうございます。お礼の方は……」
そういえば、報酬の事は話し合っていなかったな。
俺は別に使った魔石のコストが無い以上、別に今回の一件は無料でも構わない。
むしろ、実験としては成功と言えるから、無料であったにせよ十分に収穫がある。
「俺は良い。其処にいる、シスターシンシアにでも聞いてくれ」
「ああ、お礼ですか……。教会に感謝の祈りでも捧げてくださいな」
「だ、そうだ。世話を掛けた。じゃあな」
マントを翻し、軽く手を振って大聖堂を後にした。
教会の敷地内は予想通り、集まった人でごった返し始めていた。
あのまま大聖堂に留まっていれば、面倒な事になっただろう。
「とっとと退散するか」
教会前に待たせていた馬車に乗り込み、近隣から人が集まりつつあるサンクトゥアーリウム・ヴィオーラ教会を後にした。
馬車の後ろでは、教会の入り口に押し寄せる人が、幾重にも連なる人垣を作り出していた。
読んで頂きましてありがとうございます。
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