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接触と交渉

 リュークの年齢などが此処で出てきます、街の形や貴族との関係などはこれから少しずつ書いて行こうと思っています。


 俺が石像に変えられた少女の救出の一件を知って、二週間が経過した。


 方々に金を掴ませて情報を仕入れた結果、あの少女の妹が証言した貴族の屋敷には、そんな物が存在していない事も突き止めた。



 依頼者による虚偽の申請。


 これだけで本来依頼は不成立、相手が盗賊ギルドなら違約金が発生し、払えなければ最悪殺されても文句が言えない所だ。


 しかし、情報を集める内にあるネタが転がり込んできた、それは貴族の名前や屋敷は違ったが、確かに少女の姉は大理石像に変えられて、そこに飾られているということだ。





「リューク様、準備が整いました」


「で、は?」


「はい、既に会場で商品を眺めています」


 上手く誘い出せたな。


 まあ、今回のこれは別にだけを誘き寄せる為に開いたものじゃない。



 今回の展示会はエルマーク商会という城塞都市トリーニのレナード子爵家が支配する地区の商会が仕切っている。


 このエルマーク商会は海へと続く運河の利権を握っている為、鮮魚などの食料品を扱う傍らに、外国からの禁制の品など、非合法の品数も多く取り扱っている。


 俺も随分昔から私的な用件で度々利用している為、こういった展示会を開く際には声を掛けて貰えるようになった。




 エルマーク商会が定期的に開いている()()に、運よくが顔を出せば御の字位には考えていた。




「何か良い掘出し物がありましたかな?」


「おお、アーク商会の……。ええ、これなどいい出来だと思っていました」


 俺が話しかけた相手はロドウィック子爵家の三男坊、ロドウィック・フェデーリ、年齢は確か二十六歳。


 今年四十歳になった俺からいえばすこし権力を持つ若造に過ぎないし、父親であるモンフォールや、アルバート子爵家やレナード子爵家に深く関わる俺に比べればそこらの市民と殆ど変らない。



 この国の場合、長男や次男が成人前に病気や不慮の事故で死なない限り三男に爵位の継承権は無く、運が良ければ分家筋に婿入りさせられ、運が悪ければ適当な私邸を与えられて一生軟禁状態と聞いている。


 多分に漏れず、このフェデーリも父親であるモンフォールから役職などを与えられずに私邸を与えられ、やる事も無く暇を持て余しているという話だ。



 こいつは石像…、それも人が石や宝石に変えられた者を好む変わり者だが、そういった奴が珍しい訳じゃない。


 今回の展示会には、こいつの他に十人ほど貴族の放蕩息子や、大商会のボンボンが混ざっているし、貴族や莫大な資産を持つ大商会の息子ともなれば、一般性癖と別の嗜好を持つ者など珍しくも無い。



 これ以外に変わった性癖を持たないこいつなど、まだ()()な部類だ。



 こいつが見ていたのはある洞窟…、この世界の住人はダンジョンとか言うらしいが、そこで全滅した冒険者の石像だ。


 一応うちの商会を通じて、冒険者ギルドに身内や、身元を引き受ける人間がいないか確認したが、天涯孤独であったらしく、パーティが全滅した事もあり、誰も名乗り出る事は無かった。


 その為、商品として今回の展示会で彫刻として並べさせて貰っている。




「これは身元の確かな一品ですよ。呪いや魔法の残滓も問題ありませんし」


「そ…そうか、呪い…な……」


 この二週間、情報の収集の他に()()情報を流していた。


 それは他の商会が扱っていた、石像に変えられた少女の中の幾つかに、呪いが掛けられていたり、魔物が紛れ込んでいる、というモノだ。


 盗賊ギルドや各方面にも金を渡し、調査依頼が来ても断って貰う手筈になっている。


 そっちから依頼があったという報告は受けていないので、こいつは少女像の処遇に困っている筈だ。



 事実、こいつの屋敷にいる使用人の情報では、寝室に繋がる廊下に展示していた石像を、地下の倉庫に移動させたという話だ。


 運ばせる際にあれこれ注文を付けたらしく、金を握らせて話を聞いた使用人は、散々愚痴を漏らしていた。



「以前聞いた別の国の話なんですが、少女像に化けたガーゴイルという魔物がいまして、ある夜突然動きだし、寝ていた家の人間を何人も殺害したという事件があった様ですな」


「ま…魔物……」




 この世界には魔物と呼ばれる様々な生き物も存在する。


 城塞都市であるトリーニに姿を見せる事など無いし、今は積極的に関わりを持たない俺に言わせれば、熊や猪と何ら変わりない、こちらの生活圏と重なったりしなけりゃ問題はねぇ。



 ただ、街から離れれば離れる程遭遇する危険は増す。


 軍事訓練もかねて定期的に衛兵が討伐に出ているから、俺の知る限り此処十年程は大きな被害はでていない。


 少女の姉の様に細々とした事件は、年に幾度となく起こっているそうだが……。



「此処で扱っている商品は信頼が出来ます。粗悪な品を売る新参者もいるようですがね」


 こいつにあの少女の姉の大理石像を売ったのは、ビリー商会という新参者だ。


 少女の姉を浚い、奴隷として売る為に別の場所に運ぶ途中で人間を大理石に変える魔物に遭遇し、商品として用意していた少女達を大理石の彫刻に変えられたらしい。



 そのまま放置していれば巡回した衛兵が発見し、教会の僧侶共の手によって大理石化を治され、少女達は無事解放されて、ビリー商会の連中は人攫いとして追われる身となっていただろう。


 しかし、そいつはあろうことか大理石に変わった少女達をそのまま彫刻として販売し、そのまま城塞都市トリーニから少し離れた街で商会を続けていやがった。


 三日ほど前までは、な……。




「この手の商品の処理には金がかかりますし、それなりに顔が利かないと手の打ちようがありませんからね」


 冒険者ギルドか魔法アカデミー辺りの鑑定技能持ちに依頼し、金を払って呪いや魔法が掛かっていないか、もしくは魔物の可能性が無いか調べさせるのは手間がかかる。


 それに()()が元は人間だったと分かれば、教会に運び込んで元に戻す為の処置をするべきだと主張する者もいる。


 元に戻したところで身請けする人間がいる訳でもなく、更に言えばそいつを元に戻す為に使った金を、当人が支払える保障すらないのにだ……。



 そういった変に人格者ぶった性格ではなく、また金を積めば何も言わずに鑑定を実行し、決してその情報を他に漏らさない、口が堅く信用が置ける者を探し出すのが一苦労だ。


「……そういった処置が出来る人間に、伝手(つて)があったりしないですかな?」


「何かお困りの事でも?」


 掛かった。


 あれだけ不安を煽れば、こいつの方から接触を持ってくると思ったが、案外簡単に引っかかってくれたな。


 父親であるモンフォールであれば、ここまで簡単に引っかかりはしなかっただろうが、三男で碌に裏事に手を染めていない此奴なら、保身の方が先に来るか……。



「以前別の商会から購入した彫刻なんですが、あまりに出来が良い物で、もしかしたら……と」


「精巧過ぎる彫刻ですと、疑った方がよろしいですな」



 余程の馬鹿でもない限り、人の手で作った彫刻と人が石に変えられた彫刻の見分け位つく。


 髪の毛や口の中など細かい部分を調べれば、それを人の手で造れるかどうかなど、直ぐに判別できるからだ。


 まあ、こいつがこういってくるのは、あくまでも彫刻として購入したという建前の為だろうが……。



「もしお困りならその手の人間に心当たりはあります。万が一の事を考えれば私が同行させて貰うべきでしょうが……」


「頼めますか? 出来るだけ早い方が良いのですが」


「場所にもよりますが、場所は城塞都市トリーニの御屋敷でよろしかったですか?」


「ああ、ただし屋敷ではなく、私の持つ私邸ではありますが」



 取り立てて才能も無く、この歳まで嫁を宛がわれていない所を考えれば、こいつは一生私邸で冷や飯食いという所か。


 貴族という後ろ盾がある為に、一般的な市民より上ではあるが、そこまで権力を振るえる立場にはない。


 資金面でも大商会の息子達に比べれば、その資産状況は微々たるものだしな……。



「急いでみますが準備に三日は欲しいですな。万が一の事を考えますと……」


「万が一?」


「もし仮にその彫刻がガーゴイルか何かだとして、それと殴り合いなどはご免でしょう? しかも屋敷の中で……」



 今回はそんな事が無いと分かってはいる、しかし、それが分かっているという状況を知られても不味い。


 その為、形だけでも必要な戦力を整え、俺が万が一に備える姿勢を見せなければいけない。


「怪しい彫刻は何点かあるのですが、他の所蔵物は別の倉庫に移しておきます。場所は地下で石造りの丈夫な部屋ですので多少の事は問題ありません」


「その怪しい彫刻の数を教えて貰えますか? 全部ガーゴイルなどの魔物だとしたら、その数で用意する戦力に影響しますので」


 フェデーリは頭で彫刻を数えているのか、怪しい動きを続けている。


 俺が持つ情報では、ビリー商会からこいつが買い取った、大理石像に変えられた少女は二人の筈なんだが……。



「怪しい彫刻は全部で四つだ。全部少女の姿をした彫刻なんだが……」


「最悪のケースを予測して、十分な戦力を用意しましょう。ロドウィック子爵家の管理する地区の冒険者は、避けた方がよろしいですか?」


「出来れば……」


 俺やこいつが住んでいる城塞都市トリーニは、三人の貴族が支配する少々変わった街だ。


 外部からの侵入を阻む城壁に囲まれた街の形は、徳川家の葵の紋の様に、百二十度ずつ扇の様な形で区切られている。



 北側の街をアルバート子爵家、南東側をレナード子爵家、南西側をロドウィック子爵家が管理している。


 当然ロドウィック子爵家が管理する地区の情報は父親であるモンフォールに筒抜けだろうし、()()()()()が知られれば、こいつの立場は一層悪くなる。



 しかし四つか、万が一に備え鑑定技能持ちの冒険者だけじゃなく、実戦経験豊富な冒険者も集めておく必要があるな……。



「準備が整い次第連絡をします。通行証や許可証の件はお任せしてもよろしいですか?」


「ああ、貴族が管理する地区への立ち入り許可証などは用意する。報酬だが……」


「それは状況次第でしょう。最悪ガーゴイル四体との戦闘となれば、冒険者もそれなりの額を要求して来ますし」



 おそらく結構な額を請求する事になるが、相手は腐っても貴族だ、報酬の支払い能力に不安は無い。


 しかし、こいつがどれだけ金貨を用意できたとしても、幾らかは()()()()で支払って貰う必要があるがな……。



「わかった。出来るだけ早く頼む……」



 若干状況は変わったが、此処までは計画通りだ。


 今まで掛かった金を上乗せし、ある程度の利益位は見込めるだろう……。






 読んでいただいてありがとうございます、感想等もいただけましたら幸いです。

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