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何処にあろうと俺は俺 ~異世界転生者リュークの流儀~  作者: 朝倉牧師
思い出せばそれさえも平穏な日々
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魔法の力

 アルバート子爵家側にある魔法アカデミーと、魔法の話になります。

 一部の方には見覚えのある魔法になります。

 楽しんで頂ければ幸いです。

 サンクトゥアーリウム・ヴィオーラ教会とシンケールス・ヴィオーラ教会に女神鈴(めがみすず)の種や、虎牙蔓(こがつる)の棘を届けたその日、ついでとばかりにアルバート子爵家側にある魔法アカデミーに足を運んだ。


 既にレナード子爵家の魔法アカデミー近くにある商会で、六十個にも及ぶ高純度の魔石を購入したので、後二回は完全治癒(フォルコメン・クーア)が使える予定だ。



 アルバート子爵家側にある魔法アカデミーにもゼロス同様、アカデミー自体が扱いに困っている変人が居る。


 ラーガというゼロスと同じ魔法工芸研究分野で活躍する人間がいれば、ブルームという失われた魔法(ロスト・マジック)の研究に人生の全てを懸けている者もいる。



 問題は、こいつらの研究費が天文学的数字である事、そして予算のワリには成果が目に見えてあがって来ないのも、この分野の特徴だ。


 大体、そんなに簡単に成果が出るなら、世界中に便利な魔法工芸品や、失われた魔法(ロスト・マジック)が使える者が溢れている筈だ。





失われた魔法(ロスト・マジック)は結構な数が解析されてるし、レプリカに成功してる魔法も多いよ」


 【失われた魔法(ロスト・マジック)解析室】と看板に書かれた部屋、そこでこの部屋の主であるブルームに話を聞くと、意外な答えが返ってきた。


 それならば、()()()()()を使って、勇者呼ばわりされる者も多い筈だ。



神聖な十の剣ハイリヒ・ツェーン・シュヴェーアトを使った冒険者がいるらしいが、珍しくは無いのか?」


「流石に神聖な十の剣ハイリヒ・ツェーン・シュヴェーアトを使える人間なんて、今の瞬間まで聞いた事は無いよ。その話、確かなのかい?」


 ブルームが身を乗り出して聞いて来た。


 こいつがこんな顔をするのは、数年前に失われた魔法(ロスト・マジック)のひとつ、輝く妖精の輪舞シャイニング・スプライトの解析が終わった時以来だ。



「ああ、信用できる筋からの情報だ。状況から考えても、同じレベルの魔法で間違いないだろう」


「本当なら、此処に招待して僕が解析に成功した輝く妖精の輪舞シャイニング・スプライトを試して欲しいよ。輝く妖精の輪舞シャイニング・スプライトは未だに使える人が現れない」


 今なら分かるが、おそらくそれは魔力不足と、相性の問題だろう。


 大体()()()()()なんて、使える人間がおかしいに決まっている。



神聖な十の剣ハイリヒ・ツェーン・シュヴェーアトのレプリカで格下の、神聖な光の剣ハイリヒ・リヒト・シュヴェーアトですら、この国にはゼーマンの他にラベンダー位しか存在しないよ」


 ラベンダー?


 俺の知らない奴の名前が出て来たな。


 神聖な光の剣ハイリヒ・リヒト・シュヴェーアトクラスの魔法が使える冒険者の名前なら、俺の耳に入っている筈だが。



「ラベンダーという奴は何処かの冒険者ギルドに登録しているのか?」


「ラベンダーはアルバート子爵家に召し抱えられているよ。衛兵に魔法を教えているし、魔物討伐には付いて行ってるみたいだね」



 宮仕えの人間か。


 強力な魔法使いは戦争の抑止力になると聞いた事はある。



 この世界では人間同士の大きな戦争は基本的に起きない。


 強大な魔物という共通の敵が存在する事もあるが、どちらかの陣営に強力な魔法使いが数人いただけで即座に戦闘力のバランスが崩れ、戦闘では無く、一方的な虐殺に早変わりするからだ。


 アルバート子爵家で起こっていた時の様な小競り合いは存在するが、ある程度格下と認識している相手に、この位なら略奪しても許されるだろうという範囲で行われる。



 その為、俺が様々な技術を譲り、圧倒的な資金力を得た後、相手国はアルバート子爵家に対して、今まで奪って来た以上の財貨を貢物として捧げ、本国にも貢物と使者まで送って、土下座外交をして来た。


 冷蔵箱に使う製氷システムが稼働しているという事は、それを支えるだけの魔法使いがいるという事で、それがどれだけ異常な状況なのか、周りの国に理解できない人間など居なかった。




「いまだに冒険者を続けてる、ゼーマンの爺さんが異常なのさ。普通、神聖な光の剣ハイリヒ・リヒト・シュヴェーアトなんて使えたら、召し抱えようとする陣営が金貨の積み合いをする位だからね」



 これも聞いた話だが、失われた魔法(ロスト・マジック)をひとつ使えれば、最低でも年金貨千枚以上の給金で召し抱えられるそうだ。


 一般人や、貴族の分家筋であれば、十分に目が眩む話だろう。



「ゼーマンにも何か理由があるんだろう。所で相談があるんだが、輝く妖精の輪舞シャイニング・スプライトの解析書、見せて貰えないか?」


「リューさんがかい? 魔法アカデミーに通ってた事なんて無いよね?」


「ああ、だが商売柄、古文書に記されてる文字も読める」



 古文書……、古い羊皮紙に書かれている情報などは高値で売れる事もある。


 方々に教えを乞い、三千年前に使われていた文字などは覚えたが、どう見ても日本語としか思えない言葉が幾つか残されていた。


 大体、味噌の製造法や、鰹節の作り方をこの世界の人間に伝えられている時点で、その勇者が日本人、もしくは日本で暮らしていた何者かというのは容易に想像できた。


 まあ、どちらにせよそいつは三千年前の人間だ、俺が直接出会う事など無いだろう。



「最近、色々あってな。魔法そのものに興味が沸いてきた所だ」



 これは本心からだ。


 今更冒険者になるつもりなどないが、緊急事態用の保険とはいえ、一回金貨二枚も使うA型魔筒など、いつまでも使いたくはない。


 大体魔弾程度の魔法三発分の威力で金貨二枚など、流石にぼったくりも良い所だ。



「これだよ、【杖に聖なる力を籠めて、魔を滅する光を放つ】これが原文みたいだけど、実際には杖を持たない勇者も使ってたって話だ」


 ブルーム分厚い本から一枚の和紙を取り出し、複雑な解析文の下に綴られている詠唱の呪文を指した。



「杖に聖なる力を籠めて、魔を滅する光を放つ……」


 意識を集中して発動用の呪文の詠唱を始めると、朧灯(ルークス)の時とは異なり、今回は脳裏に起動用魔法陣が浮かんだ。


 しかし、完全治癒(フォルコメン・クーア)と比べてさえ、話にならない程に複雑な起動用魔法陣だった。


 中心から魔力を注ぐ事は分かったが、いったい何処(どこ)にどうやって魔力を流せばいいのか全然理解できない。


 こんな起動用魔法陣は馬鹿げている。


 魔石を使って強引に魔力を流したならば、いったいどれ位の数が必要になるのか想像もつかない。



 そして、起動用魔法陣に魔力を注ぐ入力時間が経過した為、脳裏に浮かんでいた魔法陣はあっけなく消滅した。



「こんな魔法、使える奴がいるのか?」


「………もしかしてリューさん。起動用魔法陣が脳裏に描けたのかい?」


 ブルームの目が据わっていた。


 アレは新しい研究材料を見つけた時の目だ。


 しかし、誤魔化す必要はないだろう、うまくいけば何か新しい魔法が使える様になるかもしれないしな。



「ああ、相性は悪くなかったんだろうが、これは俺の手に余るな」


 正直、何をどうすればまともに魔力を流せるのかすら、理解が出来なかった。


 中心から強引に魔力を流したとしても、おそらく何か所も魔力溜まりが発生し、全体に魔力を行き渡らせる頃には入力時間は尽きているだろう。



「驚いたよ。もしリューさんが子供の頃から魔法の勉強をしてたら、とんでもない魔法使いになったかもしれないね」


「残念ながら俺は朧灯(ルークス)すら使えないがな。どうも相性の問題で、脳裏に起動用魔法陣が浮かばない」


 あれから何度か試してみたが、完全治癒(フォルコメン・クーア)の様な起動用魔法陣は脳裏に浮かんでこなかった。


 朧灯(ルークス)程度でも使えれば、ランタンや龕灯(がんどう)よりは便利だ。



「それは相性というより、純粋な練度不足だね。魔法アカデミーに通い始めたばかりの子供は、大体同じ事を言うよ」


「どれくらい練習すればいい?」


 これでも忙しい身だからな、今更魔法アカデミーに通う時間なんてねえし、練習時間もそこまで作れはしないだろう。



「……早い子なら即日、どんなに勘が鈍い子でもひと月かな……」


「それはどの位の時間をひと月なんだ?」


「魔法アカデミーの授業は、午前中九十分を休憩を挟んで二単位。午後からも同じ時間だけ授業がある。魔法学の授業は休憩を挟んで百八十分を週に三回。つまり、どんなに時間が掛かる子でも二千百六十分、つまり三十六時間って事だよ」


 三十六時間も暇な時間を作れるか!!


 まあ、三十六時間は最悪でという事だ。


 幾ら俺でも、そこまでは酷くないだろう。



「暇を見て詠唱の練習でもしてみるか。輝く妖精の輪舞シャイニング・スプライト以外の魔法で、使いやすい物は無いか?」


輝く妖精の輪舞シャイニング・スプライトに比べたら全部そうだよ。魔弾(マギーア・グロブス)は?」


 魔弾(マギーア・グロブス)は初歩の初歩といわれている攻撃用魔法だ。


 特殊な起動術とやらが封じてあるA型魔筒に、これを三発分装填していたのが接近用の保険だ。


 一応、前回は持ち合わせていなかったが、射程距離十メートル程の近距離用の短筒型D魔筒も存在する。


 ただし、一発しか魔弾(マギーア・グロブス)が装填されてなければ、コボル退治にも苦労し、鋭爪熊(ラーミナ・ウルスス)辺りには全然通用しない。



「それは威力不足だ。もう少し強力なのは無いのか?」


「炎系なら、【火炎弾(フラムマ・グロブス)】、【炎華菊フラムマ・クリューサンテムム】、【火炎嵐フラムマ・テンペスタース】なんてのもあるけど、憶えるなら魔法アカデミーに正式に申し込むか、冒険者を引退した魔法使いに頼まないと無理だよ」


「タダで覚える気はないが、幾ら掛かる?」



 冒険者を引退した魔法使いは、()()で生活しているのだから当然だろう。


 それと以前にもゼーマンから聞いたが、性格に問題がある人間には、素質があっても強力な魔法を教えない場合があると言われた。



火炎弾(フラムマ・グロブス)なら金貨一枚、炎華菊フラムマ・クリューサンテムムなら金貨五枚、火炎嵐フラムマ・テンペスタースクラスだと最低でも金貨十枚。火炎嵐フラムマ・テンペスタースは使える人も少ないし、教えてくれる人も殆どいないけどね」


「名前を言われても分からないが……」


「リューさん。アカデミーの購買に行って、魔法学の教本を買った方が早いよ。呪文の詠唱や起動用魔法陣は書いてないけど、どんな魔法かは載ってるから」



「その手があったか……。長い事勉強なんてしてなかったから、教本の存在なんてすっかり忘れていた」



 前世でもまともに授業なんか聞いてなかったしな。


 教科書を広げて教師の話を聞いてると、睡魔との戦いが始まる。



「役に立てたならうれしいよ。もし万が一、輝く妖精の輪舞シャイニング・スプライトを使える様になったら、教えてくれないかな?」


「ああ、その時には目の前で披露してやるよ」





 ブルームに紹介状を書いて貰い、それを手にして購買によって魔法学の教科書を手に入れた。


 当然だが、魔法の教本は一般人には販売していないそうだ。



 一冊金貨五枚……。



 全部手書きとはいえ、教本は結構な値段で売られていた。


 他の教科は比較的安く、魔法学の教科書だけ高価だったのは、一般人への転売防止の為だろう。 



 魔法アカデミーに依頼される写本の仕事もあるようで、給金として一ページ銅貨十枚から銀貨一枚が支払われるそうだ。


 この教本は白紙や書き込むスペースなどを含めても二百ページ位しか無い。


 ページ銀貨一枚でも、写本の代価は金貨二枚の筈だが、使われている和紙の価格から考えれば仕方ないのだろう。



「何か良い魔法が見つかれば、ゼーマンかハインドにでも教えて貰うか」




 この日の夜、商会の執務室で魔法の教本とにらめっこをしていた。


 商売の為ではない、純粋な勉強など、いつ以来の事だろうか……。


「今更勉強など、する事になるとはな……」



 本当に今更だ。


 何か一つでも他に使えればいいのだが。



「光粉を纏いし、精霊の輪舞曲、我が手に集い、闇を照らせ……」



 何回目になるか分からないが、一応知っているもう一つの呪文を唱えてみた。


 すると今回は頭の中に小さな起動用魔法陣が浮かび上がった。


 起動用魔法陣の中心に僅かな魔力を注ぐと、たちまち魔法陣に魔力が満たされ、発動待ちの状態になった。



「……朧灯(ルークス)



 天井に向けた掌の上から僅か数センチ離れた場所に、グレープフルーツ大の光の玉が生み出された。 


 はじめてみた時は昼だったが、夜だとこれがどれ程明るいのか、思い知らされた。


 暗い夜道や洞窟の中で使えば、十分目晦(めくら)ましとして使えるだろう。



(かしら)!! 窓から奇妙な光が漏れてるって、クリスが心配してますが、何かあったんですか?」



 誰かが階段を駆け上がってくる音がし、ドアを激しく叩きながら、古参の商会員の一人、ギルバートが声を掛けてきた。


 まあこの明るさだ、外も暗いし、良く目立つだろう。



「何でもない。心配は無用だ」


 朧灯(ルークス)を中断し、再び手元にある教本へと視線を戻した。



「ですが……」


「大したことじゃねえ。騒ぐと近所迷惑だとクリスに伝えておけ」


 声のトーンを一段落し、それだけを口にした。


 この状況で、もう一度食い下がる奴は流石に居ない。




「……分かりました」



 床が軋む音がしたが、ギルバートはまだ、階段を降りてないだろう。



「それと、クリスの奴に、心配してくれてありがとう、ともな……」


「へ…へい!! 確かに伝えます」



 駆け上がって来た時より、激しい音がドアの向こうで聞えた。


 慌てすぎて、階段を踏み外さなけりゃいいが。



 教本を閉じ、部屋の隅にあるウイスキーの樽から、グラスに琥珀色の液体を注いだ。


「今日はここまでにしておくか……」



 椅子に座り、ウイスキーに口を付けた所で、階段を上がってくる軽めの足音に気が付いた。



 たまにはこんな夜もいいだろう……。






読んで頂きましてありがとうございます。

もう数話、短編を続け、新しい事件に移ります。

感想等もいただけるとうれしいです。

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