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どこにいこう  作者: 狐孫
8/11

運動会と祈り

 3年の夏、本格的な夏に入る前に運動会がある。

去年も一昨年も体調を崩して、ドクターがOKを出さなかったため見学だった。

まあ、OKが出ても応援ぐらいしかさせてもらえなかっただろうが…。


クラスメイトは、競技の練習でとても楽しそうだ。


私は、やはり競技には参加させてもらえず応援だけのようだ。


粘り強い説得の結果、救護班の役割をもらうことが出来た。

何でも、怪我で運ばれてきた子の簡単な傷の手当てをするそうだ。


実際は、もう一人女の子が居てその子が傷の手当てをする。

私は横で応援?しみるのを我慢する様に励ますぐらい?


粘り強い説得が無ければ、貴賓席に座らされていたことだろう。

あのクラスメイト達は、そういうことを本気でやらかす。


しかも、最近は、最初は名前で呼んでくれていた八杉さんまで、私のことを姫と呼ぶようになっていた。

理由を聞いたところ、目が見えなくなっていた時の様子や、神社でご神木の下に居たところを見て姫で納得したらしい。

何故それで納得して姫になるのか解らない、彼女の感性は縦ロールと同じで難解だ。


さらに聞いてみると、「あなた何処のお姫様よ!!」って言うぐらい世話されていたらしい。

クラスメート達は、私が嫌がることを見越していて、いつもは自重していたらしい。

その辺りは、聞かなかったことにする。心の平和のために…。


大抵クラスメイトは、私の疑問に対して二言目には姫だからと返事をしてくる。

思考停止も甚だしい。


空き時間を見つけて、保健室の先生に簡単な傷の手当てのレクチャーを受ける。

もう一人の、救護班の子は大分前に終わったらしいけど一緒に聞いてくれる。

そう言う気遣いが、ちょっと嬉しい。


運動会の当日、私は気合いを入れて支度していた。

今日は、お父さんも見に来ると言っていたし。


珍しくお弁当も作ってくれた。

不器用ながらも、頑張って作ってくれたお弁当が嬉しくて仕方が無い。

味は…期待するとしよう。


お弁当持参の遠足の時でも、コンビニのパンだったりするから少し寂しかったんだ。

だって、みんなお弁当を嬉しそうに食べるんだもん…。


それは、さておき。

何で私は体操服では無くて、巫女服を着せられてるのだろう…。

あと髪が足りないので垂髪を付けて…。


これって、世に言うコスプレと言う奴だろうか?

神社の巫女さんでも無いのに…。


どうやら、担任が仕組んだようだ。

あの男、こういう趣味が合ったのだろうか?


後で担任に聞いてみると、いつも神社から人を連れてきているらしい。

今回は丁寧にお断りがあったそうだ。


要約すると、神主の後始末でそれどころでは無いとの事。

最初の頃は安全無事の祈願をしてたみたいだけど。


最近はしていないらしい。


特に祈願するわけでも無いから小学生に巫女服着せとけば良いとのこと。

いつの間にか、安全祈願のための派遣が形骸かしてたのね…。


そして、体操服に着替える必要が無い子供は、私だけだったと言うことだ。

開会式は、貴賓席で、競技の間に何度か救護場所でお手伝いの応援。

競技中は貴賓席で観戦。クラスメイトが何人かお付きとしてくる。

あと、最近仲良くなった学校の警備員の一人で、結構な強面でダンディーなおじさんが何故か周りを警戒してくれている。

この警備は、警備員のおじさん達の総意らしい。

誰が付くかを、くじ引きで決めたって教えてくれた。(超当たりらしい。)


本当に、何じゃこりゃーーと叫びたくなる。

私普通の子供のハズ。


貴賓席に居るお偉い様に挨拶をしたりされたり…。

周りが、姫様、姫様と言うので自己紹介などしていないし。

大抵、話しかけられたらクラスメイトが間に入って繋いでくる。


貴賓席の方々は、弁当が準備されているらしく。構内で食べるらしい。

え、えっと父上の弁当を食べることが出来そうにありません。

と半ば諦めていると、姫様は此方です。とクラスメートが保健室に案内してくれた。


「はい。姫の弁当。

 ここで、食べよう。」


父の作ってくれた弁当を持ってきてくれた。

クラスメイト数名が、一緒に食べてくれるらしい。

ちょっと嬉しい。


あと、貴賓席用の弁当もついでに持ってきた。

どうやらクラスメート達は貴賓席の弁当を食べてみたかったらしい。


興味は確かにあるが、私には仕出しよりも父の弁当だ!


父のお弁当は、期待通りのいつもの味だった。

でも、お弁当箱に入っているだけで美味しく感じられるのは不思議だった。


お弁当が嬉しくて、にこにこしていると。

クラスメート達が頬を染めていた。


「ん?」


「姫、可愛い。」

おんなじ救護班の子が言う。


「ん?、ありがとう。」

首をかしげる。


午後は、やはり貴賓席に戻された。


父は、私が貴賓席に居ることに気がつくと、一体何をしているんだと言う顔をしている。

父よ、それは私が知りたい。


一応父がカメラを持ってきたので、写真を撮って貰っていると。

警備の人が父を連れて行ってしまった。

どうも雰囲気が、警察を呼びそうな感じだ…。


大丈夫だろうか?

一応、クラスメイトから担任の先生に父の救出を依頼。

事なきを得たようだ。


「あれは、私の娘だ。」

そう訴えても誰も信じて貰えなかった事に、すごく落ち込んでいた。


「お父さんのお弁当、とても嬉しくて美味しかったよ。

 ありがとう。」

そう言って、落ち込んでいる父に抱きつく。

父は、はにかみながら頭をなでてくれた。


競技が進んで、救護班の担当の時にけが人が運ばれてきた。

棒倒しの時に、足を捻ったらしい。

足首が酷く腫れている。


「痛いの痛いの飛んでいけー」

姫がおまじないを唱える。


足の捻挫の腫れがみるみる引いていく。


驚いて、捻挫の子が此方を見ているので微笑んであげた。


私が姫と呼ばれている子だと解ると。

「ありがとう。姫。

 まだまだ運動会、頑張るから!」


「うん。頑張ってね。

 あと、おまじないのことは秘密にしてね。」

一応、言っておく。


勿論だと、すごい勢いで頷いてくれた。


「絶対喋らない。誓う。」

喋ったときに己に降りかかるであろう悲劇を想像して青くなっていた。


もしも姫に危害を加えようとすると、

必ず不幸が訪れるという共通認識がこの学校の生徒達には有ったのだった。

逆に、親切にすれば幸があることも…。


そんな、認識のされ方の姫に怪我を治して貰った。

こんな事普通出来ない、だからあの共通認識は正しいのだろうと確信した。



あと、貴賓席に嫌らしい目で私を見てきた人が居た。

目が見えるようになってから、本当に何となくだけど人の考えてることが解るようになってきた。

卑怯な手を使って手込めにして、後は利用する気らしい…。


その性癖やその単純な思考、そして姑息さ…。

人としてちょっと可哀想。あとは今後の運命も…。


警備のおじさんに遮られて、此方に近づくことすら出来なかったようだけど。

私が結構な不快を示したからきっと回避は、もう無理ね。


残りの競技が終わり、運動会の閉会式になった。

クラスメイトは、並んでいるけど。


私は貴賓席、そして、警備のおじさんはしっかり私をガードしてくれている。

何を血迷ったか、校長が「姫様に締めの挨拶を頼もう。」とか宣いやがった。

それは学校の校長の仕事だろう。


周りを見渡しても、逃げ場は無いようだった。

どうしてこうなった。


しょうが無い、普段から培ってきた姫モードで適当に切り抜ける。

優雅に歩き、壇上に上がる。勿論警備のエスコート付きだ。


「本日は、晴天に恵まれて、心配していた大きな事故や怪我も無く運動会が無事に終了出来ますこと喜び申し上げます。

 勝利を目指して力を合わせ競技をした子供達。

 また、それを指導した先生方、支援した保護者の皆様の多大なる協力のおかげで、

 大変盛り上がる運動会だったと感動しております。

 ・・・中略・・・

 最後に、ここに集まりました子供達や保護者の皆様へのご多幸を祈り。

 これを結びとして挨拶とさせて頂きます。

 本日は、大変お疲れ様でした。」


うーん、前に聞いたPTA挨拶をいじって見たが・・・。

何故か、会場がシーンとしている。


そして壇上を降りエスコートして貰い貴賓席に戻ると、

大歓声が上がった、正気かこいつらと想っていたが彼らは大真面目だった。


静恵には、彼らの歓声が何から来ているのか知るのは随分後になる。


「ここに集まりました子供達や保護者の皆様へのご多幸を祈り。」

この部分超重要、姫に対する認識からすれば大盛り上がりは普通の反応。

ここに居る小学生や家族に、多幸が訪れる可能性が格段に上がったからだ。

(勿論、貴賓席に一人例外は居る。)


校長はたぶん、優しい姫の事だから、幸せを祈るのでは無いかと・・・そう想っていた。

これで、校長の人気もうなぎ登り。


このとき何も知らないのは、静恵とその父親だけだった。


静恵が、だんだん人間離れしてきた。

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