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どこにいこう  作者: 狐孫
7/11

運動不足と再会

 小学校の二年の春、遠足で自分の体力のなさがはじめて露呈した。

周りの子達から姫と呼ばれで荷物を持つことも遊ぶことも出来なかったため、運動神経がすっかり鈍ってしまっていた。


遠足を歩くだけの体力が自分には無い。

これは、かなり悔しい。


頑張って歩こうとしても体が言うことを聞かない。

途中から、先生に代わる代わる負んぶされて、遠足の目的地の山頂の公園を目指す。


ヘリコプターか、最低でも駕籠を準備するべきだとクラスメイト達が言っていた。


「なにそれ、小学校の遠足じゃ無いじゃん。」

八杉さんが突っ込んでいた。

彼女が私の代わりの突っ込み役に就任したようだ。

私は、早々に諦めた。


山頂の公園は清々しい気持ちにさせてくれるとても良い場所だった。

公園には樹が沢山は得ているので、子供の視線からでは景色は楽しめない。

少し、残念に思っていると、「姫、こっち」とクラスメイト達に手を引かれる。

向かう先には展望台があるようで遠くの景色が見えるらしい。


確かに遠くの景色が見えた。

クラスメイト達にお礼を言うと。


みんな嬉しそうにはにかむ。

姫ポジションはなかなか大変…。


下手なことを言えばクラスが暴走してしまう可能性もある。

前にザリガニが見たいと言ったときは。

クラスみんなで取りに行って、中庭に有るビオトープが真っ赤に染まった。


あれはなかなかの恐怖だった。

クラスメイトは、達成感で良い笑顔…。

みんながんばり過ぎ…。


ほほが引きつりながらも、お礼を言う。

クラスメイトの笑顔がまぶしい…。

それからは、ポロッと欲しいと言わないように気を付ける様になった。


山頂でお昼のお弁当を食べて。

遊んでいると、気分が悪くなってきた。


何かに当てられているような感じがする。

ふらふらしていると、下山になった。


学校に着いた頃に熱を出してしまった。


しかも、目が見えなくなるオマケ付き…。

昔も見えなくなったなあと真っ暗な世界で考えている。


救急車で病院に運ばれて精密検査を受ける。

熱が出ていて、目が見えていない以外は正常と診断される。


仕事を早退して父が迎えに来る。

「目が見えない事を聞いて、かなり動揺している。」


「お父さん、前にも見えなくなったけど。

 直ぐに治ったよ?だから大丈夫。」

自分に言い聞かせるように父に話す。


「そう言えば、そうだったね。」

少し落ち着きを取り戻したようだ。


家に帰って、眠る。

父は看病してくれているようだ。

見えないからどんな顔しているのか解らない。


翌朝、熱は下がったけどまだ目が見えない。

困った。急に見えなくなると不自由に感じる。

手探りの範囲しか解らない。


学校に行くのが億劫に感じられる。

父にお願いして、一日学校を休ませて貰う。

もちろん父も仕事を休む、そうしないと何も食べられないし危ない。


明日、目が治らなくても学校に行かないと行けない。

学校なら、擁護の先生もいるから家に一人よりは安全だろう。


その日は、結局目は治らなかった。


次の日、学校に向かう。

クラスメイトが迎えに来てくれる。

いつも通り、声から察するといつもより一人か二人多いようだ。

「クラスメイトのみんなには迷惑かけるけど。よろしくお願いします。」

そう言うと。

「姫だから、助けるの当たり前じゃん。」

クラスの総意らしい。

「ありがとう。」


他にも、色々と励ましてくれたりする。

クラスメイトがとても暖かい。


女の子が手を握って先導してくれる。

つまずきそうな所とか、口で教えてくれる。


最初の家は慣れなくて、二人で転びそうになったりした。

他の子達が支えてくれたから、転ばなかったけど。


授業は聞くだけで、休み時間はいつも通り。

トイレは、クラスの女子が付いてきてくれるから特に問題は無かった。

あと、食事はクラスの女子が何故か嬉しそうに食べさせてくれる。


…。

あまりいつもと変わってない気がする。


そんな感じで一週間が過ぎた。

まだ、視力が戻らない。


「明日、神社に行きたい。」

そう言うと、クラスメイトが話し合いを始めた。


寄り道するときのフォーメーションより多くするみたいで、色々対策を考えているようだ。

目が見えなくなって、前より感情に敏感になった気がする。

明日のフォーメーションが決まったらしい。

寄り道するときの倍の人数の予定らしい。

クラスの約半数が参加して不足の事態に備えるつもりらしい。


翌日の放課後、クラスメイト達と遠足のように神社に向かう。

真っ暗な中、手を引いて貰う。


耳を澄ませて、周りの状況を伺う。

神社に近づくにつれ、少しずつ静かになっていく。


神社の境内に入ったとたん、周りの空気が変わった。

何処か別の場所に迷い込んだような感じがする。


手を引いて貰っていたのに、その手を離された。

息をのむ。

全く、クラスメイト達の気配がしない。

「・・・。」


「誰か、いますかー。」

声を上げてみるも、返事は無い。


うずくまる。

先ず、地面の確認をしないと…。

不用意に動いたときに、階段の縁にでも居たら落ちてしまう。


普通に地面はある。

階段の縁でもなさそうだ。


暗闇の中、両手をついて地面を探りながら移動する。


「静恵ちゃん何してるの?

 新しい遊び?」


とても懐かしい声が聞こえる。

逢いたくて逢いたくて仕方が無かった人の声。


「・・・、み、翠お姉ちゃん?」

「ええ、そうよ。」


「う、うぅ・・」

うれしさのあまり、泣いてしまった。


「静恵ちゃん、大丈夫?」

そう言って、抱きしめてくれる。

やっぱり、お姉ちゃんは良い匂いがする。


お姉ちゃんを抱き返す。

この感じ、この雰囲気はとても安心する。


「静恵ちゃんどうして、目をつぶってるの?」


「えっと、先週、見えなくなったから。」


「そうなの?大変じゃない。」


「うん、でもクラスメイト達のおかげで不自由しなかった。」


「良い子達なのね~。」


「う、うん。」


気がする、首をかしげているような・・・。

顔をのぞき込んでくるような…。

「ああ、なるほど。」


「静恵ちゃん、少し痛いかも知れないけど我慢してね。」

そう言って両方の目を覆い隠すように手をかぶせたあと、翠は言葉を紡いだ。


「(私の)愛しい子、

 その瞳に憩いと癒やしをもたらすように。

 心を清く居られるように。

 新たなる眷属に憩いと癒やしを分け与えるように。」


終わると、頭をなでてくれる。

「静恵ちゃん、瞳を開けてごらん。」

静恵は、瞳をあける。

「うわー。見える…。い、痛い…」


そう言って、目を押さえる。

「あ、見えすぎたか…。

 まあそのうち慣れるよ。」


「そうなの?」


「うん。

 急に瞳をあけたから、まぶしすぎるんだよ。」


そう言って、もう一度抱きしめられた。

「そろそろ、元の場所に帰らないとね。」


そう言って、手を引いてくれる。

いま、ご神木の根元に居るらしい。

まぶしくて瞳が開けられない。


「ここからなら、戻れるよ。」


「翠お姉ちゃんまた逢える?」


「もちろん。逢えるけど。

 直ぐは逢えないかも知れないね。」


「ここに来ても?」


「ここは、そう簡単に来られる場所じゃ無いから。」


「残念…。」

シュンとする静恵。


「静恵ちゃん、私も大好きな静恵ちゃんと一緒に居たいけど。

 今は、まだ無理なの…。」

翠が非常に悔しそうに言う。


「わかった。

 良い子にして待ってる。」

翠を困らせたいわけでは無いので、物わかりよく待つことにした。


「静恵ちゃん、癒やしは慎重にね。」

そう言って、翠が離れる。


「じゃあ、またね。」

ご神木の下に送還される静恵。


辺りに賑やかさが戻ってくる。

・・・。


戻ってきても、目はまぶしくて開けられない。


賑やかすぎる…。

良く聞いてみると、クラスメイト達が姫が消えたとパニックになっていた。


「ここだよ~。」

立ち上がってクラスメイトを呼ぶ。

手を引いて貰ってご神木の下から降りる。


そして、ご神木の下に居たことを神主さんに怒られた。

それはもう、こっぴどく…。


「ごめんなさい。」

入っちゃ行けない場所だから素直に謝った。



翌日、瞳は普通に見えるようになっていた。

いや、普通じゃ無いモノが見えすぎる。

今まで見えなかったモノが見えているような、不思議な感覚だった。


妖精とか妖怪とか、黒いモヤとか、輝く人影とか…。

これは、気にしたら負けだと想う。


妖精はたまに寄ってきて、頭に乗ったり。

肩に座ったりする。

ちょっと鬱陶しいけど、可愛いから許す。


あの日、翠お姉ちゃんが言った癒やしは慎重にと言う言葉が引っかかる。

翠お姉ちゃんに目を治して貰ったみたいだし。

もしかしたら、癒やせるのかもしれない。


見えすぎることで、感覚がつかめず転んでしまい。

足を打った、ちょうど良いと想って、おまじないをしてみる。

「痛いの痛いの飛んでいけー」

痛いときのおまじない、これしか知らない。


驚愕の事実、痛みが飛んでいった、痣も出来ていない。

うん、すごい。すごいけど。


子供達にこっそり使って治すぐらいしか使い道が無い。


翠お姉ちゃんは、すごい人だったんだ。

改めて認識した。


父やクラスメート達は、目が見えるようになった事を自分のことのように喜んでくれた。

しっかり、相手を見つめて

「ありがとう。」

と言うことしか出来ない。


「姫だから、みんなが助けるの当たり前じゃん。」


「じゃあ、私が姫じゃなかったら?」


「うん?

 姫が姫じゃ無い?

 姫は姫だから…。」

彼らには、理解できない様だった。


「じゃあ、クラスメイトの他の人が目が見えなくなったらどうするの?」


「もちろん、助けるに決まってるよ?」

「私と同じように?」

「姫じゃ無いから、普通に助けるだけだよ?」

「それに、姫だって助けてくれるでしょ?」

「勿論よ!」


クラスメートが信頼し有っていて仲良しだと言うことを確認しただけだった。

まあ、良いか…。


それからしばらくして、ご神木の下に居たことをこっぴどく叱った神主さんが急に遠くに左遷された。

と言う噂が聞こえたのは気のせいだと想いたい…。


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