引っ越しと大家
引っ越しをしてから、半年が経過した。
ある日の夕方「お姉ちゃんに逢いたい。」ぽつりと呟いた。
父が聞いていたとは思わなかった。
その一言で、娘の願いを叶えたい一心で、父がボーナスをつぎ込んで興信所か探偵事務所で、
翠お姉ちゃんを探しているとは思わなかった。
結局何も分からなかったと、父が落ち込んでいた。
その背中を見たとき、嫌な予感がしたんだ。
まえにも同じように落ち込んでた事があった。
そう、引っ越しの前ぐらい…。
もしかしてまた引っ越しするなんて事は無いよね?
この家は、居心地いいから引っ越さないで言いように星に願った。
結局、私の小さな願いは聞き届けられなかったようだ。
一月後、引っ越しする事が決まったらしい。
そそくさと、引っ越しの準備をする父。
私は、邪魔にならないように庭で空を眺めていた。
また、お姉ちゃん来ないかな。
そう思いながら、空を眺める。
父に呼ばれて車に乗る。
引っ越し先は、またも結構遠い…。
コンビニで食料や飲み物を買い込む。
今より田舎に行くらしい。
緑が多くて綺麗な場所らしい。
そう聞いてちょっと楽しみに思った。
日が暮れる頃、目的の家に着いた。
掃除は、大家さんがしてくれていたらしく、部屋もかなり綺麗だった。
家の側を防火用の浅い水路が張り巡らされている。
家の作りは、前よりしっかりしている。
木造平屋建てで年期が這い入っており武家屋敷っぽいたたずまいもある。
小さい私には、木造のぼろっちい家にしか見えない。
妖怪とか出てくるかも?
そう思うとちょっと怖くなる。
大丈夫かな。
物陰や空気がよどみそうな場所を見てみても、何も居ない。
気配も無い。
気にしすぎか、警戒して出てきていないのか…。
そう思いながキョロキョロしていると、大家のおばあさんに
「昨日お祓いしておいたからしばらくは出ないよ。」と言われた。
やだ、この人怖い…。
父の後ろに隠れる。
この人には、何が見えているのだろう。
そしてこの家には何が出るのだろう。
考えていたら、怖くなり夜中に一人でトイレに行けなくなってしまった。
思い切って父に聞いてみた。
「お祓いとかしてないし、特に変な噂も無い」らしい。
廻りの大人に、大家さんの事を聞いてみた。
証言A「大分前にわら人形を持って、神社に行ったりしてたね。」
証言B「血糊を作って、橋に塗って騒ぎを起こしたりしてた。」
証言C「紙粘土で精巧なウンコを作って他人のポストに入れたりしてた。」
証言D「田んぼで案山子に扮して、人を驚かせてた。」
等々…。
大家さんの噂を聞いて総合すると…。
結構な悪戯好きと言うか、かなり迷惑な人かも知れない。
これで、安心してトイレに行けると思っていた。
夜起きると、一定間隔で何かがこすれる音がする。
恐る恐る、音がする場所を除くと大家さんが包丁を研いでいた。
真夜中、包丁を研ぐのもその一環なのだろうか…。
やっぱり、夜中怖くてトイレに行けない。
大家さんには極力近づかないようにして、無接触を心がけた。
不意打ちで近づいてくるのはやめてほしい。
本当に、心臓に悪すぎる。
大家さんは、そんな私の反応をとても楽しんでいる。
大家さんが怖い事以外は、平穏な日々が半年ほど続いき、
また、引っ越しする事になった。