男心
「前から思ってたんですけど、部長ってなんであぁもこう、なんといいますか……男心がお分かりになっているんでしょう……」
五月雨が降っているとある日。いつも通り彼女が我らが顧問、守崎先生を探しに出ているとき、ふと葉浦翔が更野良弥に聞いた。彼女がいる前では絶対にできない話を。
「なんで、かぁ……。部長は前からああゆう風だけど……」
彼らがそう思うのも訳はない。
たとえば……彼女は彼らと一緒に遊びに出ても自らの買い物に彼らを付きあわせないのである。いつも葉浦翔の家に遊びに来るか、本屋やカードショップやゲームセンターばかり。
「まぁ、こっちとしてはとてもありがたいんですけど、ああもいろいろ見透かされてると疑問に思いませんか?」
「確かに……それは言えてるな」
男としては男女の付き合いがない以上、女性向けの服屋に連れて行かれても身の置き場に困るだけなので非常にありがたいのだが……彼女はわかってやっているのか。それともなんとなくああしているのか……。
「こう言うと部長に失礼かもしれませんが……付き合ってる回数がやたら多いとか……」
なぜかこの学校内で彼女は有名人で「つきみさん」の愛称で親しまれている。主に野球部やサッカー部やラグビー部といった男が集まる部での人気は高い。廊下ですれ違っただけで「つきみさんだ!」と手を振られる有様なのである。そこらの女子より男子との接点は多い。だから葉浦翔はその線を疑ったのだが……。
「絶っ対ない」
「そ、そう、ですか……」
更野良弥が何を根拠にそこまで強く否定できたのは不明だったが……彼女との付き合いがこの中で一番長い彼が言うのだからそうなのだろう、おそらく。無論、副部長を除いて、だが。
「となると、さらに不思議ですね……」
「俺、部長に誕生日プレゼント貰った……カードゲームのカード。しかも欲しかったやつ」
唐突に発言したのは本を読んでいた未来本静斗だった。
「お前、誕生日プレゼント貰ってたの!?」
「うん」
「いつの間に……」
男としては欲しかったカードゲームのカードを貰えるほどテンションが上がるものもない。……ますます、彼女はわかってやっているのか疑問に思えてくる。
ほかにも……。
「あと、よく女性って優柔不断だとか言いますけど、そうゆうのもないですよね」
「いつもスパーンと決めてるよね」
桜波崇哉が言う。
彼女は普段の部活動内容から、遊びに行ったときのよくやる某ゲーム機体のクイズの答えに至るまでスパーンという効果音が聞こえてきそうなくらい即決している。おかげでいろいろなことがスムーズに進むのだが。
「俺、女子って苦手なんですけど……何故か部長は平気なんですよね」
と、葉浦翔。
「同じく」
と、更野良弥。
「否定はしない」
と、いつもどおり間を置いてから発言する未来本静斗。
「え? ……女子苦手だけど部長は平気って人、挙手」
……結果、この場に相変わらずいない副部長、塵野寒太郎以外の男子メンバー全員が手を挙げた。
「まぁ、部長って男勝りだとは思うけど……」
そういって手をおろす更野良弥。
「さらっと凄いこと言いますね、更野先輩」
未来本静斗が言う。
「けど、それが部長だよ」
「あ……」
リーダーシップがあって、決断力があって、自分たちのことをここまでかと言うほどわかってくれて、かわいがってくれて。
そして優しくて、責任感があって、ゲームに関しては負けず嫌い。
「……部長には、簡単にはかないそうもありませんね」
「まぁ、凄くて真似できないのが部長だし」
「確かに……」
その言葉で全てが納得できてしまった1年メンバーであった。