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103 接触

 「やあ、久しぶりだね」

 「ええ、元気?って聞くのは可笑しいのかしら」

 「…はは、一応病気だということになっているからね。ところで今日は二人きりかい?」


 私とアルスは、アレン王子に会いに来ていた。王家の裏事情に詳しく、かつ王位継承に関係ない人間、となると他にいない。私たちのことはある程度知らされているようで、女官に案内されあっさりと会うことが出来た。


 「…なるほど、それは面白い話だね」

 「あなたは何か知らない?」

 「残念ながら、知らないね」

 「俺は、フレアが騒ぎすぎだと思うんだけどな」

 「いや、そんなことはないよ。僕だってこんな状況になっていなければ、その娘は色々と利用できたと思うよ」


 疑問を呈するアルスに、しれっと言ってのける。


 「王やチャールズ王子は利用したりしない?」

 「あの二人はしないだろうね。自分の王位が危うくなろうとも、その娘が先王の娘ならその通りに発表するだろうさ。彼らが悪巧みをするようだったら、僕が悪巧みをすることもなかったと思うよ。僕が色々やっていたのは、彼らが王族のくせに、あまりにも馬鹿正直で王位にも拘らないからだよ。綺麗事だけで王族をやっていくのはどうかと思うね」

 「言うわね」

 「ま、だから父上や兄上が、その娘に何かするような心配はないと思うよ」

 「王位を簒奪するために、前王を殺めたっていう噂もあるって聞いたけど」

 「前王が崩御したときに、王になるのを固辞したって事実があるからね。その噂を信じる人が少ない理由さ」

 「なるほどね。王様にも色々聞きたいけど、生憎誕生祭の準備が忙しいとかで会えなくて…で、裏に詳しそうなあなたのところに来たんだけど」

 「悪巧みをしそうな貴族の名前なら挙げられるよ。後でまとめておくよ。それと、昔の調査内容も調べられると思う。何しろ、魔物の調査ということで書庫は出入り自由だからね。『重い病気』なので外には出られないけど」

 「お願いするわ。他に頼めそうな人がいなかったから助かるわ。王様は忙しいけど、イルダとフレアに任せておけば良いでしょ」

 「ああ、聖女とお姫様だっけ。誕生祭の準備で忙しいわけだ。それで今日いないのか」

 「でも、逆に王様と話が出来ると思うのよね…」


 あ、そうだ。


 「…次に来るときは、出来たらフレアを連れてくるわ。…えーっと、何て言うかそれなりに仲が良かった気がするから」

 「ああ、いや、別に気を使ってくれる必要はないよ。教誨で『全て』話して貰ったからね。未練はない」

 「…?」

 「君達も、その時は彼女を支えてやってくれ。特に『女神様』は」

 「どういう意味?」

 「そのうち分かるさ」




 「何か意味ありげなことを言ってたけど…」

 「単に、自分はもう自由に会えないから、後のことは頼む…って事じゃないか?」

 「うーん…」

 「それより、問題は俺達だよ。イルダとフレアは王様達からの情報収集、アレン王子は過去の事や悪巧みをしそうな貴族の調査、とすると俺達は…」

 「本人の調査ね。しかしどうしたら良いのか…」

 「本人と直接接触して、友達になってしまえば良いんじゃないか?」


 また、そんな適当なことを…。


 「ほら、いたぞ。行け、ユーカ!」

 「そんなこと言われたって、急に無理よ。アルスが行けば良いじゃない」

 「な!?俺が行ったらただのナンパみたいだろ」

 「それはそうだけど…」


 「あんた達、こんな道の真ん中で何やってるの?」


 呆れた声に、アルスと私は振り向いた。そこにいたのは…。


 「シオンさん!…と、えっと…」

 「カリーナです」

 「ごめんなさい。すぐに名前が出なくて」

 「しょーがないわよ。それよりおひさ~。この前は世話になったわね。で、何やってたのよ」


 シオンさんに聞かれて、私はちょっと迷ったが、細かいことは言わずに、相談することにした。アルスも黙って頷く。シオンさん達はこういうの得意そうだし。


 「なるほど。調査対象と仲良くなってしまう、ってのは良い手ですが、実行するのは難しいですね」


 カリーナさんが言う。そうそう、友達も少なかった私とか無理だわ。


 「任せてください。丁度良い人が来ました」


 と言って、スタスタと娘に近づいていく。その向こうに、チャラい恰好をした若い男が歩いてくるのが見えた。なるほど、これが『丁度良い人』ね。こいつが絡んだりしてくれたら、間に入って仲良くなれそうだけど…。

 まあ、そんなことはなく、男は娘と普通にすれ違った…次の瞬間、カリーナさんは二人の間に入り、右手で娘の腕をつかんで止め、左手で男の腕をつかんでこちらは地面に倒していた。目にも止まらない速さだ。


 「イテテ…おい、何なんだよ!」

 「あなた、お財布は大丈夫ですか?」


 男を無視して、娘に声を掛ける。彼女は一瞬びっくりして、慌てて前掛けのポケットを探った。


 「あ、あれ、ない…」

 「やっぱりね。ほら、あんた、出しなさい」

 「何を言ってる?俺は何も…」

 「あら、それじゃあ、あなたのズボンの左ポケットに入っているのは何なのかしら?」

 「何だって?」


 チャラい男がポケットに手を入れると、その手には財布があった。


 「あ!それは私の…」

 「やっぱりね。こんなはっきりとした証拠があるのに、まだとぼける気ですか?」


 そう言いながら、そっと手招きするカリーナさんに従って、私たちも近づいていく。


 「あれー、何か事件ですかぁ?」

 「え、何々?スリ?泥棒?」


 私たちのわざとらしい口調に苦笑するカリーナさんの手を振りほどき、チャラい男は転がるように逃げ出した。


 「あっと、…ああいう連中は下手に追い詰めすぎると後で仕返しされたりするので、まあ放って起きましょうか。お嬢さんは大丈夫ですか?」

 「え、ええ、体に何かされた訳ではないので…」

 「お住まいは近いのですか?送って差し上げましょう」




 「これで仲良くなれましたね。住み込みで働いているというお店も紹介してもらえましたし、明日以降お邪魔して色々お話しすれば良いかと」

 「いや、何というかお見事。私には財布をスリ取って男のポケットに入れるのと、手を掴むのとが同時にしか見えませんでした。手が3本あると言われても驚かないですよ」

 「俺にも殆ど分からなかった。おっとりしているように見えて、さすが盗賊ってことか」

 「いえ、アルスさん、おっとりしているように見せているのも技能のうちですよ」

 「騙されちゃダメよ、この娘こう見えて、中身はそれなりだから」


 王女似の娘さん、名前はナナセというらしい…、を送っていった帰り道に皆で話す。これで明日から調査が進みそうだ。あのチャラい男は気の毒だったけど、まあ、チャラいような男だからどうでも良いだろう。


 「ほんとうに助かったよ。今はあまり詳しく話せないんだけど、ケリがついたら…」

 「良いの良いの、この前のお礼ってことで」



 翌日、翌々日と私とアルスはナナセさんに会いに行った。お店はパン屋さんで、持ち帰りだけでなく、店内に飲食スペースもある。ナナセさん目当ての客も多いようで、そこそこ賑わっているようだ。

 ナナセさんは、ヴェンティ近くの村で孤児として育ったが、つい最近地元の親切な貴族の紹介で王都に出てきたのだとか。


 「親切な貴族ねえ…」


 どうも、ナナセさんを不埒な目的で狙っているのではと考えてしまうけど。


 「モルゲン男爵様と仰るのですが、とても親切な方で、王都には私の両親の手がかりがあり、もうすぐそれがはっきりするからと、王都に住む場所と仕事を紹介してくださったのです」

 「ナナセさんは王都の生まれってこと?」

 「王都の大きなお屋敷の侍女が、生まれて間もない私を連れて村にやってきたという話は聞いています。それ以外は何も分からないのですが」



 「これ以上のことは分からないけど、疑惑は深まったというところかしら」

 「イルダとフレアが、何か良い情報を持ってきてくれれば良いけどな…って、ユーカ!」

 「え?」


 店を出て、歩きながら話していた私は、いきなりアルスに店の影に引っ張り込まれた。


 「何よ、いきなり」

 「シーッ!あれを見ろよ」

 「あれって…」


 そう、何度か見かけた、王のお付きの騎士、二人いたがそのうちの一人だ。店に入った彼に気づかれないようにそっと覗いてみると、いかにも常連という感じで親しげにナナセさんに話しかけている。


 「…これはどういうことかしら」


 色々と考えられるわね。


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