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101 誕生祭へ

 「そんなわけで、一応依頼は達成しました」

 「…やれやれ、また依頼以上に色々やって来たわけだな」


 私の報告に副長のアズノールさんが溜息を吐く。


 「いやいや。今回は俺たちのせいじゃなくて依頼主のせいだよ」


 アルスが言うけど、いつだって私たちのせいじゃない…と思う。


 「しかし、ドラゴンが味方になってくれたのは心強いですね」

 「いつもいつも人間の味方というわけではないようですが」


 珍しくギルドにいるギルドマスターのケヴェスンさんに、フレアが言う。


 「まあ、魔将だったこともあるらしいし、今回原因となった商人のような連中もいるしな」


 イルダが溜息を吐く。


 「それにしてもせっかくドラゴンと会ったのに、戦えなかったのは残念だったよ」

 「またイルダはそういうことを…」

 「アルスは戦えたから良いだろ」

 「あれは模擬戦だったし、『ドラゴン』と戦ったとは言えないよ…それにしても、ジルさんたちが六位七位ってことは、魔王を入れてもあと6人か…」

 「ん?違うぞアルス。十六将の上にはさらに四天王ってのがいてだな…」

 「はあ?」


 そうなのだ。普通は四天王といったら十六将だの六十四騎だのに含まれるものだと思うのだけど、本でも別になっていた。


 「なんだ、まだ半分かよ…」


 まあ、四天王の上に三巨頭とか二大魔人とかいなければだけど…いないわよね。


 「まあまあ、それより色々あったようですから、国王に報告に行ったらどうですか」

 「国王に?」

 「いえね、そういう書簡が来ているのですよ。ほら、今回の商人の後ろに貴族がいたという話でしょう?そういうことも含めて事情が聴きたいようですね。また、誕生祭のことも相談したいようですね」

 「誕生祭?」

 「ああ、ユーカさんはご存じなかったですか。国王の誕生日を祝う王都のお祭りですよ。ここの季節祭に近いものがありますね」




 「実を言いますと、教皇からも『顔を出せ』という手紙が来ていまして」

 「あ、そうなんだ」

 「最近色々と騒がせているので、何かの行事に参加しろと言われる可能性もありますが、恐らく諸々の相談かと。アレン王子の件を知っているのもわずかですしね」


 夕食時にフレアがそんなことを言う。


 「いやいや、俺たちなんかに相談してもしょうがないだろ」

 「いやいや、アルス。今までのことは知らないけど、今回はコマンダリアやファットリアからも偉い人が来るんじゃないの?特に戦争が終わったってことで。そうしたら、聖女フレアとイル…イメルダ姫は行事に出ないわけにはいかないじゃない。私達もパーティーの仲間として借り出されるかもしれないわよ」

 「マジか…」


 私の言葉に、アルスが顔を顰める。


 「話題の冒険者パーティーが王家と良好な関係を結んでいるところを見せる良い機会と考えているかもしれませんね」

 「やれやれ…」




 そんなこんなでまたやって来た王都のお城の近くの迎賓館。迎えてくれたのは国王と教皇、それにチャールズ王子ともう一人私より若いだろう女の子。薄青色の髪が美しい、見るからに深窓のお嬢様、聞くまでもなく王子の妹の王女だろう。


 「第一王女のトトスと申します」


 またちょっと変わった名前ね。


 「今度の誕生祭でお披露目をしてな、将来的にはクワランタ城を任せようと思っている。…まあ、アレンの代わりよの」

 「アレン王子は…」

 「事情を知る国内の一部の貴族だけでなく、コマンダリアの王からも助命の嘆願を受けてな。魔物に操られていた可能性もあろうに、死罪は厳しすぎるとのことだ。病気ということにして表舞台には出せぬが、城の一室に幽閉して魔将などの調査・研究に当たってもらうことにしようと考えておる。…お主らもそれで良いかの?」

 「…まあ、私達は特に。…ねえ、フレア」

 「ええ」


 フレアも心なしかほっとしているように見える。



 「…しかし、ドラゴンが味方になってくれるとは」

 「いつも味方とは限らないようですが」

 「魔将だったこともある、とな」

 「今回も危ないところでしたよ。もし、ドラゴンの子供を殺めていたら…」

 「敵に廻っていてもおかしくはなかったな。うむ、その商人どもに狼の子供を捕まえるように依頼していたという馬鹿貴族は、しっかりと調査することを約束しよう。…なに、馬鹿な貴族には心当たりがある。ありすぎるのがちと問題だがな」




 「案の定、行事のいくつかに参加する羽目になっちゃったけど、誕生祭まではちょっと時間があるでしょ?どうする?一旦トレンタに戻る?」

 「うーん、教皇はずっと滞在して欲しいみたいですが」

 「それはフレアが目的だろうけど…あたしは観光がてら滞在しても良いと思うけどな。ほら、以前来たときはゆっくり出来なかったし」

 「ああ、そういえば、今回はいても良いのか?」

 「状況が変わったってことでしょ。魔将騒ぎは私達と無関係に起こるし、誕生祭で人が集まるのにかこつけて魔将が何かしてくる可能性もあるし。逆に私達にいてもらいたいんじゃないかしら」


 私が言うと、アルスは溜息を吐いた。今私達は、王都から聖都に向かって歩いているところだ。王様は馬車を出すと言ってくれたけど、時間はあるし、見物がてら教会に向かっているところ。


 「利用されている感じがするけど、まあ良いか。俺とユーカはイルダ達と違って、出なければいけない行事は騎士団と魔術師団の演武会だけだから準備もないし」


 そうなのだ。気を使ってもらったのか、イルダとフレアは立食パーティーの類に複数でなければいけないようで、ドレスとかいろいろ準備が必要だけど、私とアルスは演武会だけ。席も決まっているようだから、知らない貴族なんかと挨拶する必要もなさそうだし。


 「それにしても、アレン王子の件は…何て言うか良かったわね」

 「ええ、アレン王子は人気もありましたし、『病死』ということになったら誕生祭も中止することになったかもしれません」


 そういう意味で言ったんじゃないんだけど、まあ良いか。


 「でも、トトス王女だっけ?いきなりアレン王子の代わりにクワランタを見るって大変じゃないかしら」

 「いや、今はまだ将来の話ってだけで、将来も補佐が付いて、その後適当な貴族と結婚してそいつが見るんじゃないのか」


 イルダが言う。そんなものなのか。確かに、いかにも深窓のご令嬢~って感じだったし、チャールズ王子も『政治の世界には入って欲しくない』って言ってた気がする。


 「確かに、いかにもお姫さま~って感じだったものな。お姫様にも色々いる…」

 「何が言いたい…アルス?」


 揶揄するようなアルスの言葉に、すかさずイルダが突っ込んだが、アルスが固まっているのを見て疑問の声を上げた。


 「お、おい、あれって…」

 「え?おいおいまさか…」

 「!」


 アルスとイルダの視線の先を見た私もびっくりして息を呑んだ。


 下町を楽しそうに歩いているのは、どう見てもトトス王女だったのだ。



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