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第5話

「ご機嫌麗しゅう、ラティユイシェラ嬢」


 朝日に照らされた烏の濡れ羽色の黒髪は綺麗な天使の輪っかを描いており、紫水晶(アメジスト)の瞳は優しく細められている。それと反して私の金の瞳は見開かれたが、まあ驚くだろう。

 玄関を開けたらこの国の王子が来ちゃったっ的なノリで立っているのだから。



「…シンア様、一体どうなさいましたか?」


 溜息を吐いて、壁に片手を付けたい衝動を抑えると私を利用して操る婚約者(シンア)様は、騙されそうになる柔らかな笑みで私を見ている。


「折角一緒の学園へ入学出来たのだから一緒に登校するのも良いかと思ってな、朝早くから赴くのは(いささ)か悩んだのだが…」


 少し伏し目がちにそんなことを言われれば婚約者であるシンア様を無下に出来るはずも無く、仲良く馬車で登校する羽目になった。

 しかし、この状況は一体なんだ。普通は向き合って座るだろう、なんて言ったって馬車だから。京都の人力車ではあるまいし、目の前にも同じソファーがある。何故右隣に座っているのか。


「あの…シンア様」

「ラティユイシェラ嬢、君は私の婚約者ですよね」

「え、ええ。そうですね」

「どうして私を避けようとするのですか?」


 悲しそうに垂れる眉に、確実な質問、操られるシナリオにムカつくのでだなんてとても言えない。

 私が黙っていると、か細い声が紡がれた。


「キールとは…いつから会っていたのですか?」


 焦燥感を表したように私の右手が絡め取られると、スラリと長くて大きな指がいじらしく指先を掴んで、焦れったい気持ちになった。

 答えようと顔を上げたところで、馬車が止まる。外から白髪を揺らしてキール様が意味ありげな笑みを浮かべて待っていた。


「…なんでお前がいるんだ」

「たまたま居合わせただけだよ。ね?ラティユイシェラ嬢」

「何が『ね?』だ」


 仲良しな言い合いに笑みが零れると、不意にキール様の視線に気がつく。無表情のまま此方を向いており、私が視線を合わせると優しい笑みをした。

 キール様は誰にでも愛想を振りまくが、腹黒く本心はいつも語らない。秘密主義なキャラだったと思う。


 キール様との出会いは王室図書館だ。

 勉強にのめり込んでいた私は家の本棚では飽き足らず王室図書館にまで通っていた。

 初めて会った時はキンキラリンな男の人がいるものだな…なんてぼけっと考えてたが、すぐに参考書などに目が行った。

 キール様は私が行く前からいつも図書館に居て、会う機会が沢山あったからか、お互い挨拶を交わして馴染みある席に座り静かに本を読むぐらいの仲だ。


「そうだ。おはよう、ラティユイシェラ嬢」

「おはようございます」

「…始業のベルが鳴る、ラティユイシェラ」


 急に挨拶されたと思ったらシンア様に半ば強引に腕を引っ張られ、キール様を置いて行く始末。

 おまけに「ラティユイシェラ」と呼び捨てにされた。親でもちゃん付けなのに。




「ラティユイシェラ…と呼んでも良いか?」


 教室まで見送ってもらい、シンア様のあの爆弾発言。あ…拒否権あるんだ、と喉まで出かかって()めた。

 私は公爵令嬢、不躾な物言いはしない。

 こんなに沢山の人がいる教室前で聞くとは計算ですか?肯定以外の選択肢は皆無で無論、にっこり笑顔で答えてやった。



「光栄です、シンア様」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 若干騒ついている教室に入ると、 他国語を勉強していたノア様が顔を上げる。


婚約者(シンア)様か、まだ呼び捨てにされて無かったんだな」

「はい。12年振りに昨日再会したばかりなので」


 嘘なく話すとノア様は琥珀色の瞳をパチパチと開いて、喫驚(びっくり)したようだった。


「12年も会わずに婚約者?」

「政略結婚とはそういうものでしょう」


 猶予があるだけ良い方だ、と付け加えておく。少し考え込んだノア様は至って真面目そうに口に出した。


「なら俺の方が親しいわけか」


 ケラケラと笑うノア様は、何がそんなに楽しいのか凄く笑顔だ。周りから惚けた溜息がちらほら聞こえるし、そんなノア様の機嫌を損ねるのは藪蛇なので、理由も兼ねて認めておく。


「……会っている時間の多さなら、そうですね」


 ハハッと笑うノア様は、どうやらまだご機嫌らしい。海のような深い青の髪が楽しそうにサラサラと揺れている。


「おっはよう!」


 リリはギリギリの登校で私たちを見つけた途端駆け寄って来た。今日も見事(バッチリ)決まっている赤毛のポニーテールが可愛いリリだ。


「来月辺りある自主研修一緒に行動しよ!」


 両手を合わせて上目遣いに見てくる可愛いリリに、断る理由があろうか。

 自主研修と言えばこの学園は高評価(ハイレベル)なので、他国にお邪魔させてもらうらしい。

 そこでまた違う言語、異文化交流に二人一組で挑み、どの程度発揮出来るか勉強をしただけでは慌てた時、実際その国に行っても使えない言語もあるはずだ。学園側はそれを勉強として二人一組で3泊4日行動させる。


 各々(おのおの)の得意分野、性格、学園での交友関係なども見分けて学園側が二人一組で指定する筈だ。

 何故二人一組なのかというと、ここはリヴァーブ学園であり、全員が人をまとめ、指示し、導く存在へと勉学することを心しているため、勉強に才あるものと、武術に才あるものをザッと分けている。




「リリ、自由に決めれることでは無いから、なれるかは分からないけれど、リリと過ごせる3泊4日は楽しみよ」

「そっか!私も楽しみ!」


 少しショボくれた様子で項垂れるリリだが、相変わらずな気丈の精神で何とか復活していた。


 私はというと、学園側に、友達作れと言われているようで焦りが込み上げた瞬間だった。


「なれたら最高だね!」


 頼りになる顔と期待を胸にした顔を向けられて、ああ、当分友達(リリ)離れが出来そうにない。

(どうしよう、何て挨拶をしよう)


 ジール公爵家の玄関で、失礼の無いよう断られないように考える王子(シンア)様のそわそわした姿が多数の使用人に見られた。

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