表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

第11話 ~ キール・レヴィンソン ~

 ここ一週間、父の内政に参加していてラティユイシェラ嬢と会っていない。ここなら会えるだろうと思う場所があり足を運ぶと、やはりいた。



 そこは日当たりの良い王室図書館の窓際の席。

 今の時間帯だと朝日が差し込んで、心地良い空間がラティユイシェラ嬢を囲んでいる。

 そんな静かな環境に当然のように佇む姿が何だか安心した。


 長い白金の髪は耳にかけて、金の瞳は本に夢中で伏目がちになり長い睫毛が影を作っている。陶器のような横顔に溜息が溢れそうになったが、治りかけの赤い痣が目に入り眉を動かした。



「ラティユイシェラ嬢、まだ痛みますか?」


 つい白磁の肌へ指を運ばせ、ガーゼは貼られていないが赤くなっている頬に触れる。急な感覚にラティユイシェラ嬢が分厚い本を閉じると、真剣に本へ向けていた金の瞳を僕に映した。


「…キール様、お久しぶりにございます」


 

 少し驚いた顔をして、赤くなっている頬に手を添えた姿は無知な少女のようで可愛らしい。

 つい昨日、陰湿なストーカーと対峙したばかりだというのにその表情は気にも留めない様子だ。

 特に断りもなく目の前の席に腰を下ろすが、前々からこの空間を共有しているので何も言わない。


 

「昨日も大変だったみたいですね、僕が居ればもっと厳しい処分を言い渡すのに」


 シンアとノア君は本当に甘い、僕なら徐々に徐々に社会から抹殺してやれるのに。

 そんなことを悟られないよう、にっこりと愛嬌のある笑みで言うと、ラティユイシェラ嬢が分厚い本に挟んでいた白い小花を手に取った。


「 ‘' 謝罪 ” だけで十分ですよ。レンカソウは元々貴重な植物ですし、自然近くに領地を持つミドナー男爵子息の花園は毎期季節の花で埋め尽くされると聞きます。だからといって、愛情表現が花言葉というのは面白かったですが」


 クスクスと思いだし笑いをする肝の据わったラティユイシェラ嬢を見て、あの程度(・・・・)では怖がらせることも、ましてや障害としても見ていないと分かる。

 

「何はともあれ、気をつけてください。貴女はとても…魅力的なのですから」


 少しの沈黙の後、ラティユイシェラ嬢は白い小花のしおりを元に戻すのだが、照れないところを見るとどうにも本気に捉えていないようだ。

 脱力した僕はしおりを挟んでいた本に目がいった。


「これは…今度の自主研修先の言語ですね」


 先日発表された自主研修先は隣国のシンドリアである。シンドリアは海に面している大陸で、先進国のうちと違い、自分たちのペースでのんびりと日々を楽しんでいる国だ。どうにも危機感の薄い自由人の多さは、お堅い僕らにとって翻弄され良い刺激になることだろう。


「随分前に訪ねたことのある国なのですが、一応予習をと思いまして」


 ラティユイシェラ嬢の勤勉さは、数割この国の影響だろう。

 自分の学びたいことに没頭できる学舎の完備から、貧しい者でも学べる支援制度が先進国と云われる所以(ゆえん)だ。


(グループ)は明日、発表ですね」


 リバーブ学園の自主研修は、学園が決める4人班となり行動するのだが、勉強だけでなく団結力や行動力も求められるため個人個人のコミュニケーション能力が必要となる。


「お恥ずかしいながら、どうにも疎遠されてしまい距離を縮められるか心配なのです」


 その溜息を吐く姿でさえ儚い雰囲気(オーラ)を放っており、他生徒はなかなか近寄りがたいのだろう。

 本人は自分が遠まきに、憧憬の視線を送られていることなど毛ほどにも分かっていない。男子生徒はおろか、女生徒まで仲良くなりたいと思っているのに、どうにもこんな時だけ消極的らしい。


 まあ、それを言ってやるほど優しい先輩(ぼく)ではないのだが。

 彼女(ラティユイシェラ)が他の生徒にまで気を許してしまうなんて耐えられない。ましてやこの場所に彼女(ラティユイシェラ)の友達が集まるなんて以ての外。

 もう少し、ラティユイシェラ嬢には親しい友達を作らないで貰いたい。


 そんな想いを胸の内に潜ませながら


「これを機に、友達が出来るといいね」


 ーーーどうやって周りの生徒を牽制しようか。


 優しい先輩面をしている僕の腹は真っ黒だろうという自覚を持って、王室図書館をあとにした。




「すみません、自主研修の件でお話が……」


 彼女にとって、楽しい自主研修でありますように。今日も僕は、ラティユイシェラ嬢のことばかりを思って行動するのだった。

「ミドナー君、これは君が育てた花かな?」


 後日、キールが白い小花を手に持ち、ミドナー男爵子息を笑顔で圧倒する姿が影ながらみられたのであった。


 断じて、しおりではない。もう一度言おう、しおりではないのだ。カマを掛けてみると面白い程に引っかかり、ミドナー男爵子息はキールに会うとビクビクするようになったという……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ