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わたしと!あなたの?声春ラジオ!?⑨

バレンタインは物騒


『さて、今日は何の日ですか? 己己己(きなこ)さん』

『……第一回箱根駅伝が開催された日』

『あ、そうなんです? 知りませんでした』

『何で駅伝て言うんだろうね? 駅ごとにたすきを渡すから?』

『そうですね。駅、と言っても電車が止まる駅とは別のものですが。昔は大きな都市と都市を結ぶ道に宿泊所があってそこを駅と呼んでいたそうです。どちらかというと道の駅のようなイメージですね』

『はー、なるほどねー』

『それで、今日は何の日ですか?』

『だから、第一回箱根駅伝が開催された日』

『ではなく』

『ではなく!? 一応あってるよ!?』

『あってたとしても正解は別の答えです』

『別の……?』

『はい』

『……煮干しの日』

『そうなんですか?』

『ああ。2、1、4で煮干しの日』

『2と4でニとシはわかりますが、どうして1でボなんです?』

『棒ってことよ』

『あー、なるほどです。己己己さんは煮干し好きでしたよね』

『そう言われると猫みたいでヤだな。ラーメンの話な』

『私は鶏ガラの方が好きです』

『鶏ガラみたいな身体してるから?』

『どちらかというと麺棒じゃないですか?』

『あ、うん、ごめん……』

『……? 何で謝るんですか』


 バレンタインの話題へと誘導する咏ノ(うたのはら)さんへの姉御の反撃は攻撃とすら認知されずに終わった。


『それで? 何の日ですか今日は?』

『ウイニングカラーズの誕生日』

『誰ですかそれは』

『アメリカの競走馬』

『……あまりふざけたことを仰るならぶっ飛ばしますよ?』

『こえーよ。あたし、一応先輩なんだけどなぁ……』

『時間の無駄です』

『人のしゃべりを無駄って言うなよ! ラジオなんだから』

『まぁ、カットすればいい話ですけどね』

『そんなにあたしつまんない話してる!?』

『今後の態度によります。ラストチャンスですよ? 今日は何の日ですか?』


 最後通告に渋々姉御が『……バレンタイン』と答えると、咏ノ原さんは『よく出来ました』とどっちが先輩かわからない言葉で褒めた。


『どっちから渡しますか?』

『何を?』

『はぁ……潰しますよ?』

『何を!?』

『喉をです。そうすれば静かになりますよね』

『エグ過ぎんだろ……』

『声優生命を絶たれたくなかったら、これ以上とぼけた真似はしないでください。まだタイトルコールもしてないんですから』

『あ、じゃあタイトル行っちゃう? ……ごめん、嘘嘘嘘! 頼むから手を貫手にしないで! 何、突くの? 貫手で喉を突いちゃうの!? 地獄突き!?』

『狙いが外れたら目に刺さるかもしれませんね。どちらがいいか選んでください』

『チョコを渡すか突きを喰らうか……?』

『声が出せなくなって声優を辞めるか台本が見えなくなって声優を辞めるかです』

『突かれるの前提かよ!? わかった! もうしない、もうしないから!』

『……絶対ですよ』


 今日の咏ノ原さんはいつにもまして強い。いつも強いけど。咏ノ原さんなら躊躇なく突きを放ちそうなだけに、脅しとしての効果は絶大だ。


『いつまでも己己己さんのペースに付き合うわけにもいかないので、私から渡してしまいますね』


 ガサゴソとチョコを何処かから取り出す音が聞こえ、放送作家と思わしき人の『渡すときに何か一言』という声が入った。


『わかりました』

『何か一言って恥ずいな』

『己己己さん。はい、チョコレートです』

『お、随分豪華な包み紙。さんきゅ』

『そして何か一言……』

『何でもいいよ。当たり障りのない奴。そっちの方が後で渡すあたしも楽だから』

『えーと……喉は大事にしてくださいね』

『さっきまであたしの喉を狙ってた人間の言葉か!? あんたが言うと夜道には気をつけな的な感じで恐いわ……』

『夜道は気をつけるべきじゃないんです? 暗いですよ?』

『ああ、うん。そうだわ、その通りだわ』

『……?』


 姉御の言葉が理解出来ていない辺り、喉を大事にという言葉は本心からのものなのかもしれない。


『開けていい?』

『どうぞ』

『んじゃ、さっそく』


 リボンを解くシュルシュルという音と包装用紙の擦れる音がマイクに入ると、次の瞬間、姉御は女の子らしい『キャー!』という嬉しそうな歓声を上げた。


『何これ! チョコタルトじゃん!』

『はい。ガナッシュが好きだと聞いていたので』

『え、スタッフに配る余りでもよかったのに』

『せっかくですから。好きなものを食べて欲しいじゃないですか』

『嬉しいこと言ってくれんじゃん。食べていい?』

『どうぞ、召し上がってください』

『んじゃ、お言葉に甘えてっと』


 サクッと気持ちのよい音がした。それはおそらく姉御がタルトを口に運んだ音だった。


『ウマっ! 予想はしてたけど、あんたお菓子作りも上手すぎ!』

『喜んでいただけたのなら何よりです』

『これどこから作ってんの? カカオから?』

『流石にカカオは育てていませんよ? 育てる土地がないですし』

『いや、そうじゃなくて。焙煎からやってんのかなって。あんた凝り性だし』

『凝り性ではないです。自分でやった方がいいものを自分でやっているだけのことなので。今回は市販のチョコレートを溶かして作りました。焙煎する道具も時間もなかったので』

『へー、じゃあ私と同じだ』

『そうなんです?』

『うん。まぁ、私は市販のチョコを溶かして型に入れただけだけどね』

『いいんじゃないですか? 失敗しようがないですし』

『それって褒めてるつもり……?』

『馬鹿にしてはいないですね』

『……ほんと、いい性格してるよあんた』

『ありがとうございます。次は己己己さんの番です』

『はいよ。何か緊張するなぁ……』

『そうですか?』

『だって初めてだよ? あたし』

『本当に初めてだったんです? この仕事をしていればイベントや企画で渡すこともあると思うんですが』

『それがねぇ、上手い具合に逃げてきたんだよねぇ。あたし、恐いイメージあるから断るの容易だし』

『意外と押しに弱いですけどね。先週あれだけやらないって言っていたのに』

『しょうがないじゃん! あんたが作ってくるってんだから。あたしもやらないと失礼だし』

『義理堅いんですね』

『何とでも言ってくれ。ほい、あげる』


 ぶっきらぼうに姉御がチョコを渡すと咏ノ原さんは『ありがとうございます』と淡々とお礼を告げた。


『梱包からしてハート型なんですね』

『べ、別に深い意味はないからね! たまたま友達にもらった型がハート型だっただけで!』


 恥ずかしそうに姉御は弁解するが既に咏ノ原さんの興味はハートになかった。


『そうですか。ところで、その手はどうしたんです? 左手。絆創膏だらけですが。乾燥肌です?』

『いや、これはその、チョコを作るときに切っちゃって。ほら、あたし料理なんてほとんどまったくしないからさ。あ、ごめん。あんたの包丁借りた』

『それは構いませんが……でしたらフードプロセッサーを使った方がよかったのでは?』

『あー、そっか。そこまで頭回らなかったわ』

『ところで何か一言はないんです?』

『あ、えー……えー? 何か一言……』


 えー、えー、と悩むばかりでなかなか姉御から一言は出てこなかった。色々あるじゃん! この間の最優秀新人賞受賞おめでとうとか!


『えー……えー……あれだ、新人賞おめでとさん』


 そう、それ!


『ありがとうございます。今年は私以外に碌な新人がいなかったので当然と言えば当然ですが』

『あんたいつか後ろから刺されそうだな』

『指をですか?』

『だったらまだマシだろうねぇ……』


 何でこの人たちはバレンタインなのに目を潰したり刺されたりする話をしているんだろうか。女の子二人の番組なのにまったく甘い香りのしないバレンタイン回だった。

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