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No.2

 俺が戦闘準備に取りかかろうとした瞬間、倉庫の扉が勢いよく開く。


 中からは真っ赤なロン毛に厳つい顔をした男が現れる。

 大斧を背負い、筋肉ではち切れそうな学校指定の制服を着た件の人物、島崎豪だ。


 島崎の隣には同じく学校指定の女子生徒服を着た、茶髪でショートヘアーの女の子、清水薫が鋭い目つきをこちらに向けていた。


「……何の騒ぎだ?」


 島崎が俺と咲を交互に睨む。


 な、なんて迫力だよ。離れていても島崎の殺気が伝わってくる。


「島崎豪、あなたが起こした数々の暴力沙汰が原因であなたに退学処分の提案が出ているわ。反省室に投降すればまだ間に合う」


「構わないさ」


 退学が掛かっているというのにこの冷静さ……間違いない。島崎は既にボディガードとしてどこかに雇われる手筈を整えている。


 既に雇い主がいる島崎にとって、退学など痛くもかゆくもないということか。


「ごーちゃん、早くこんな奴ら片づけようよ」


 と、猫なで声で清水が島崎の腕に己の腕を絡める。


 こ、こんなシリアスな展開なのに、胸を押しつけてイチャつくとは……けしからんな清水!


 羨ましいなぁ! と心の中でつぶやくと、咲が勢いよく己の剣を抜刀し、俺の前髪をかすめる。


「あぶなっ!」


 ビビる俺とは違い、咲は相変わらず涼しい顔をしている。


 俺の目の前に抜刀された剣は元々咲が所有していた剣で、柄も刀身も水色というのが特徴だ。


さらに、切っ先には小さな穴が開いている。


「集中して。手下たちがいつ戻ってくるかわからないわ。すぐに勝負を着ける」


 そう言って咲は相手を睨む。



「……手間を掛けさせるな」


 島崎は背負っていた巨大な斧を引き抜くと、地面に振り落とす。


 巨大な斧は軽々と地面に突き刺さりその重さを物語る。


「ごーちゃん、バックアップは任せて」


 清水はそう言うと一歩下がり、腰から二丁拳銃を取り出した。


「……っ!」


 短く息を吐くと、大斧を地面に突き刺したまま、島崎は俺と咲に向かって駆け出す。


 大斧が地面を引き裂く音が鳴り響く、そう理解した瞬間、島崎はすでに俺の前まで接近していた。


「なっ!」


 予想以上に早い! もう避けられない!


 と、身構えていた俺だが、島崎の大斧が振り上げられる数瞬前に俺の横っ腹に衝撃が走り、横へと飛ばされた俺は間一髪島崎の攻撃を避けた。


 島崎の動きにいち早く対応した咲が俺を蹴り飛ばしたのだ。


「蓮君、時間を稼ぐから、アレをお願い」


 おぉ、至って冷静な咲さんマジかっこいい。


 て、咲に見惚れている場合じゃない。


 俺はすぐに咲の後方へ回り込むとその場で屈み、右手を己の頭に触れさせ、準備を始める。


「むん!」


 島崎はその強靭な肉体を生かし、大斧を縦横無尽に薙ぐ。


 大斧を振る度に空気が揺れ、土埃が舞う。


 一発もらうだけで致命傷だ。


 しかし、咲は表情を緩めることなく島崎の攻撃に立ち向かう。


 咲は島崎の大斧を避け、いなし、隙を伺って己の水色の剣で攻撃に転じ、島崎の攻撃を止める。


「あはは! 隙だらけじゃーん!」


 しばらく俺と咲を観察していた清水だったが、戦闘にまだ参加しない俺に銃口を向ける。


 殺傷力はないとはいえ、魔弾は使用者の魔力が続く限り弾が切れることはなく、威力は成人男性の腕力と同程度だ。


 だが、俺は清水の攻撃を避ける気も防ぐ気もない。


 咲が止めてくれるからだ。


 咲は豪の攻撃をかわした隙に、水色の剣の切っ先を清水に向ける。


 すると、剣の切っ先にある小さな穴、銃口が火を吹く。


「なっ!」


 驚いた清水に咲の魔弾が三発命中する。


 肩に一発、腹に二発もらった清水は苦悶の表情を浮かべて地面に膝を着いた。


「おお!」


 怒号を上げ、清水と咲の間を割るかのように島崎が大斧を振りおろす。


 咲は冷静に距離を取り、銃口を島崎に向けて動きを止めた。


「そうか、それが噂に聞く学園唯一の適職、魔銃剣士か」


 銃口を向けられているというのに、島崎は一変の焦りも見せない。


「こんのアマぁ! 調子に乗ってんじゃないわよおおぉぉ!」


 よろよろと立ち上がった清水が再び魔弾を乱射する。


 それを合図に咲と島崎も再び動き出す。


 咲の思惑通り、二人の注意が咲に集中した。


 ほとんど拝むことのない魔銃剣士を前にしたら無理もない。


 剣と銃が混合された武器を持つ事により、近距離と遠距離攻撃を同時に行うことができるのだ。


 剣で島崎の相手をしつつ、遠距離から射撃してくる清水には同じ銃撃で応戦。


 咲の戦闘スタイルに序盤は悪戦苦闘していた島崎と清水だったが、徐々に二人の動きが咲に追い付いてくる。


 学年トップは伊達じゃないということか。


 まずい、急ぐんだ俺!


 俺は必死に己自身にとある催眠術をかけ続ける。


 その時だった、島崎が振り上げた大斧が咲の剣と両腕を跳ねあげ、清水の銃弾が剣を持っている咲の右手に命中する。


 咲の水色の剣は宙へ放り投げ出され、島崎はバランスを崩したままの咲に大斧を振りかぶる。


 その瞬間、俺は咄嗟に咲にプレゼントした剣を思い出した。


「咲! 剣を抜け!」


 俺がそう叫んだ時、すでに咲は剣の柄に左手を添えていた。


 今抜けば島崎の攻撃をギリギリでいなすことができる!


 だが、咲はまるで何かに耐えるように歯を食いしばり、剣を抜かない。


「くそったれ!」


 こんな状況で意地になっている場合じゃないだろ!


 俺はさきほど飛ばされた咲の剣を物理操作の能力で咲の前へ飛ばす。


 島崎が振りおろした大斧を剣脊で防ぐが、大斧はそのまま剣を跨いで咲に衝撃を加える。


「きゃ!」


 咲は衝撃をもろに喰らってしまい、派手に後方へ飛んだ。


 斬撃によるダメージは剣で防げたとはいえ、衝撃はまったく吸収できていない。


 地面に倒れた咲に清水の銃口が向く。


「きゃはは! 死にはしなくても、当分は動けない体にしてあげるよ!」


 カチリ、と引き金が引かれ、乾いた発砲音が響く。


 二丁の魔銃から放たれた魔弾が咲に降りかかる。


 ……けどな、もう遅い。


 咲に当たるはずだった魔弾は突然その軌道を変え、空の彼方へと飛んでいく。


 島崎と清水が驚いた。


 清水が撃った魔弾を全て、俺のエスパーの力で軌道をずらされたからだろう。



「……どうなっている?」


 静かに島崎が言う。


 本来、エスパーは素早く動く物体や魔弾に干渉することはできない。


 だが、今の俺は強力なエスパーを行使できる状態にある。


 エスパーの力は集中力で上下する。


 なら、話は簡単だ。時間は掛かるが、感情を封印し、集中力を向上させ、一番効率良くこの場を収めるように自己暗示を掛ければすれば良いのだ


「お前が本命か」


 島崎は咲から俺に目標を変える。


 その巨体に見合わない素早さで島崎は俺へ駆け、大斧を目にも止まらぬ速さで俺へと振る。


 だが、集中力が高まり、攻撃一つ一つを見切れる俺は、島崎の攻撃を必要最低限の動きで避け続ける。


 これで島崎と清水の攻撃は無力同然だ。だが、決めの一手が無いのも事実。


 エスパーはあくまで催眠術と物理操作しかできない。


 催眠術を相手にかけるには、対照に触れなくてはならないし、物理操作は一定以上の重さは操作できない。


 島崎の攻撃は見えているとはいえ、この俊敏さでは一秒間島崎に触れるのは難しい。


 武器を奪うにしても、島崎の大斧は大の大人より重いだろう。


 だが、感情を封じた俺はまったくあせりを感じない。


 一番効率よくこの場を収める方法はもう導き出せている。



 島崎が勢いよく横薙ぎに大斧を振ってきたのを見計らって、俺は後方へ飛び、島崎から距離を取ると、島崎の後方で無力となっている清水に右手をかざす。


「――え? きゃあ!」


 俺のエスパーの力で清水は俺に向かって勢いよく飛んでくる。


 能力を底上げしている今なら、女性一人分の重さならギリギリ引き寄せられる。


 感情を封じ、手段を選ばない今の俺ならこの場を乗り越えるなんて造作もない。


 島崎の女である清水を催眠術で俺に服従させ、清水を人質に島崎の動きを止めれば良い。


 俺はエスパーの力でこちらに飛んでくる清水に手をかざして待ちかまえる。


 催眠術で清水のとある感情を俺へ向けさせれば彼女は必ず俺に服従する。


 チェックメイトだ。


 俺と清水の距離はもはや眼と鼻の先。


 そう思った瞬間、二人の間に島崎が割って入ってきた。


「おおおお!」


 地面に水平に飛んでくる清水を、武器を捨てた島崎が己の胸でキャッチする。


 だが、勢いは止まらず、後退してきた島崎の背中に俺の右手が触れる。


 その瞬間、右手に込めていたエスパーの力が島崎に流れ込んだ。


 びくん、と肩を震わせた島崎は途端に大人しくなり、ゆっくりと清水を地面へ下ろした。


「ご、ごーちゃん!」


 突然の彼氏の変化に戸惑っている清水が不安の表情で島崎を見上げる。


 だが、島崎は首を横へ振り、清水の肩に優しく手を置いた。


「薫。もう良い。ここまでだ」

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