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30分小説

家族

作者: 雨月 嶽

天井のしみがよく見える。

というよりも、ここしばらくは天井のしみしか見ていない。

5年ほど前に癌を患い、寝たきり状態になった。

1ヶ月前にもういつ死んでもおかしくないと言われ、自宅療養という名目で家に帰った。

妻には10年ほど前に先立たれ、息子と娘もとっくに家を出た。

娘は、大学生になってすぐに私の反対を押し切っり駆け落ち。

今は2児の母だとか、息子が言っていた。

その息子も結婚して、今は大手会社の重役になってうちに遊びに来ることは無くなった。

話し相手がいなくなり、一人残されてから後悔する。

もう少し子供たちと向き合っていれば。

私自身、家庭を顧みずいつも仕事に明け暮れていた。

子供たちに我慢を強いることが多かった。

休みなっても、仕事のことだけ考えていた。

私は一家の大黒柱。

私が働かなければ、家族が路頭に迷う。

家庭を持ったときは確かにそんな風に思った。

思っていた。

それがいつからだろうか、家庭よりも仕事を優先し始めたのは。

いつからだろう。

私の目から、子供たち、家内の姿が見えなくなっていたのは……

いつからだろう。

笑顔よりも、利益を優先し始めたのは……

いつからだろう。

自分を殺すようになったのは……

気がつけば、この広すぎる家にたった一人愚かな老人しか残らなくなった。

自分寿命が近いことは分かっている。

覚悟はとうの昔に決まっている。

心残りがあるならば……

いや、死ぬ前に願いがかなうなら、

もう一度この目でわが子を見たい。

もう一度この手で抱きしめてやりたい。

しかし、所詮は願いかなうことは無い。

私が寿命が近いことはもとより、癌であることすら伝えていない。

そのほうがいいと思った。

しかし、人間の性か願うことはやめられない。

ああ……

もう一度わが子に会いたい……

まぶたを閉じるときかすかに子供たちが映った気がした。

私は、夢でもそれがうれしくて今度こそ本当にまぶたを閉じた……



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