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Freedom Online  作者: 木成 零
第三章――秘境――
60/60

60話


☆★☆


 食事を終えると、この日の午後は自由行動にしようと言うことになった。

 お互いがしたいことがそれぞれ異なり、この辺りのMobは、現在の最前線よりも経験値効率もよく、特にレベリングも急ぐ必要はない。しかも、ここでなら他のプレイヤーはいないために安全が故の判断だ。

 とは言っても、俺も特にしたいことが見つからない。まあ、さっき手に入れたばかりの隠し魔法を試してみるくらいだろうか。

 なにやらスフィーもしたいことがあると言って昼食後すぐに出て行ってしまったし、とりあえず何も起こらないレクイエムの街で試してみることにした。

 説明によると、使用者の行動速度が上がるようだが、これが『身軽』のようなものか、あるいはもっと別のタイプなのか想像もつかない。俺は一度小さく息を吸い込む。


「『オーバードライブ』」


 小さく呟き、音声認識により魔法を発動させると、俺の周りに風がまとい始めた。まるで背中に羽を授かったかのように体が宙に浮き始め、高さ十メートルで停滞した。


「すごい……」


 街の建物よりもさらに高い位置から見下ろす街並みは壮観だった。歩いているだけでも十分神秘的な景観だったのに、それを上空から見るとなるとヘリからの映像をテレビで見ているかのような感覚にとらわれる。


「俺、飛んでる……」


 今になってようやく自分の状況を把握した俺は、今の状況に緊迫感を持った。

 このゲームはいくら『自由』をテーマにしていても、空を飛ぶことだけはできない。それはデスゲームにおいて現実世界に限りなく似せかったからだろう。それができているということは、俺は今このゲームの理を一つ解放したことになる。

 全プレイヤーの中で唯一飛べることは、デスゲームという状況において非常に有利になる。プレイヤーも当然のこと、Mobですらも地面を歩いているのがほとんどだ。そんな中、この隠れスキルを使用すれば安全なところから攻撃ができるということになる。無論、魔法は空にも届くが、それでも種類は限られてくる。

 だからこそ、俺が空を飛べるスキルを手に入れたと知れ渡ると、誰もがそのスキルを手に入れようと俺のところに押し寄せるだろう。それだけならまだいいが、PKの標的にもされやすくなってしまう。それだけは絶対に避けなければならない。


「けどここなら誰もいないし、少しくらいいいよな……?」


 ゲームの中でしかできない体験を求めて、俺は背中の羽を動かそうと試みた。が、羽を動かすという感覚が非現実的すぎてわからない。肩甲骨のあたりを前後に動かしてみるが、羽は動かない。


「どうすればいいんだ?」


 ウインドウを開き、魔法一覧画面の中から『オーバードライブ』を選択し、説明文を読んでみるが特にヒントは書いていない。

 空中に浮けたのはいいが、どうすればいいのか分からず試行錯誤してみる。

 歩くように足を動かしてみたり、鳥のように両手を上下に動かすが変化がない。

 そして次に身体を前傾にしてみると、


「え、うわああああああああああ!」


 急に自分の身体が前方に進み始めた。

 自分のなんとも情けない悲鳴を耳にしながら制御を試みるも、自分の身体がものすごい勢いで空中を舞って言うことを聞いてくれない。


「って、危ない危ない!」


 目の前に街と戦闘区の境界である障壁が迫り、俺はがむしゃらに体を動かしてブレーキをかける。

 しかし、今度は急上昇を始めた。


「待て待て、止まってくれぇぇぇぇぇ!」


 最終的にどうすることもできず、俺の身体は高度限界の障壁にぶつかった。

 頭が激痛に襲われ、障壁に火花が散る。


「くうううぅぅぅぅぅ!」


 どうすることもできない痛みにただ悶える。

 HPこそ減っていないが、体感的にはHPの7割ほど削られていてもおかしくないほどの痛みだ。

 頭を全力でさすって痛みが和らぐの待ち、その間に並行して下降を始める。

 3分ほどかけて地上に戻ってくると、ようやく頭痛が落ち着いてきた。


「なんであんなに暴走するんだよ……」


 スキルを使用した直後、羽が生えたときには想像もしなかったレベルで制御が難しい。どうやって空中を移動すればいいかは何となく掴めたが、これでは使い物にならない。さすがに同じ痛みを何度も味わうなんてごめんだ。


「さすがにそんな甘くないってことか」


 それだけ飛行魔法を使えるという、そのきっかけだけで他のプレイヤーに比べて圧倒的に有利なため、さすがに制御は困難というところでバランスをとった具合か。けど実際に飛べるようになっただけでも有利なことに変わりはない。ただ、よりアドバンテージをとるためには意図通りに移動できるようになる方がいい。


「しょうがない、痛いのは嫌だけど、背に腹は代えられない、か」


 あと何回この痛みを味わうことになるのか分からないが、少しずつ慣れていこう。

 俺はそう決心した。


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