57話
翌朝から行動を共にすることとなった俺とスフィーは早速レクイエムへと足を運んだ。
今日も変わらず和洋の混ざった楽園が俺達を歓迎してくれている。
事前に話し合った結果、街を散策してから戦闘区に行くことになった。
一応前回来た時に転移先から中央広場までは見たが、街全体までは見れていない。
「なんかこうして歩いてるとすごく平和だな」
無意識のうちにそんな呟きを零していた。
実際にここが平和なのは確かだ。今この場所を知っているのは、俺と隣にいるスフィーだけ。誰からもキルされることはないし、非難を買うこともない。
「そうね。実際にここは平和なんでしょうけど……そればかりに頼ってられないわ。ここを出ればPKやボス戦やらで緊迫感が漂っているのだから」
彼女の言うとおりだ。あくまでここはデスゲームの世界。命を落とすことは簡単だ。
俺たちは改めて気を引き締め直して探索を再開する。
それから歩いても歩いても見える景色は大きく変わらなかった。一番奥に行けば大きな滝があるが、それ以外にはただただ美しい眺めのままだ。
だが一箇所だけ、どうも気になる場所があった。
一見、街の端の岩壁に見える場所だが、一部だけ色に違和感を感じる。
「なんだ……?」
「怪しいわね」
近づいてその部分に触れてみる。
すぐには何も起こらなかったが、次の瞬間、俺達がいたのは洞窟の中だった。
「これは……」
俺の小声が洞窟の中に響く。
周囲を見れば、目の前に道は一つ。前後左右は岩で囲まれ、後ろには壁の前に、どの街の中央広場にもある石像がある。さらにその前には、俺と同じようにキョロキョロとするスフィーの姿もあった。
石像に触れたのは俺だけだったから飛ばされたのも俺一人かと思っていたが、そうではないらしい。
とりあえず一安心し、状況を整理する。
どうやらここはダンジョンになっているようだ。それも隠しエリアの中の隠しダンジョン。それは壁を触った瞬間に転移したことと、今いるこの場所に石像があることから確定出来る。
そうなるとここはかなり強いMobがいると推測される。
「どうする、スフィー。このままここを見て回るか?」
「そうね。どうせ来たのだから見るだけ見ていきましょうか」
同意を得ると、慎重に周囲を警戒しながら進んでいく。一応『看破』のスキルは持っているが『看破』の効力範囲には制限がある。いざという時はワープブロックもあるが、こんなことで使いたくはない。
しばらく歩いていると分かれ道に直面した。二本の道の奥は見えず、どちらが正しいのか分からない。俺が高度な光魔法を使えると良かったのだが、残念ながらまだそこまでSLvは上がっていない。
「どっちに行く?」
「左ね」
予想外の即答に俺は嫌な予感を覚える。
「その、根拠は……?」
「勘よ」
なんとなく予想していた返答に俺は肩を落とす。
スフィーのこの無駄に勘に頼る決断力には脱帽だ。ある意味本当にすごいと思う。
「勘……」
「だってどっちか分からないのに考えても意味ないじゃない」
確かに彼女のいうことも一理あるが、そんなにあっさり決めていいのだろうか。
俺は不安を抱くが、どんどん先に進んでいく彼女とはぐれないように渋々後に続く。
それから少し歩くと、僅かに開けた場所に出た。
上下左右は壁に囲まれて進めず、進めるのは後ろの今来た道と、前方にある扉の二箇所。だがその扉は今閉まっている。だから今のところここはい行き止まりだ。
「ここは行き止まり?」
「でも前の扉が怪しいわね」
俺達が言葉を交わしつつ中央まで進むと、いきなり囲むようにして三体のMobがPOPした。
三体の形態は全て同じで二足立ちの蛙が剣と盾を持っている。
名前は『フロッギー』。これまでに見たことのないMobだ。
「Lvは79?」
俺のLvは今131。そう考えるとかなりMobのLvは低い。しかもここは最前線から入った隠しエリアだ。だと考えるとこのMob達は三十層ぐらいのLvに相当する。
俺とスフィーは背中合わせになり、どの敵にでも対応できるようにする。
フロッギーのLvならそう簡単に負けることはないだろうが一応油断はできない。
三体のうち、俺の正面にいるフロッギーに狙いを定め、『マッドプール』で足止めを試みる。
だが、相手は蛙だ。足止めをくらうどころか、むしろ自分たちの本来の住処とする水地に入りスピードを上げて俺に迫ってくる。
仕方なく俺も抜刀して臨戦態勢に入る。
「いくぞ、スフィー」
「えぇ」
背中越しに声を掛け合って迎撃する。スフィーが二体、俺が一体を引き受け渾身の一振りを繰り出す。
それをフロッギーは左手の縦で弾き、右手の剣を振りおろしてくるが攻撃が単調だ。『ダブルジャンプ』でフロッギーの頭上を飛び越えて背後へと回り、両手剣五連速技『グレイヴスワロー』を使う。
速技、つまり速さ優先の攻撃といえど両手剣の攻撃は重い。約50ほどのLv差があるために一瞬でフロッギーのHPは消滅した。