53話
投稿が遅れてしまい申し訳ありません
数時間後。俺とスフィーは再度反省と確認事項を確認した後、もう一度、三度目の挑戦を行おうとしていた。
「今度こそ倒すぞ」
「えぇ」
俺たちの三度目の正直が始まった。絶対に二度あることは三度あるにしたくない。
作戦は先程と同じ。とにかく背後に回り込んで尾を斬りつける。ただ気を付けなければいけないことは尾が再生するということ。攻撃も大体分かるし今度こそ楽に勝ちたい。
今度は二手に別れることなく一気にたたみかける。聖竜の動きならば時間をかけずとも背後に回れる。…………そう思ってた。
しかし聖竜は絶対に背後を取らせないという意志があるかのようにその場で回りながら顔を向け続けて中々背後を取ることができない。
「くそっ! これじゃあキリがない」
『クイックステップ』や『二段ジャンプ』を使ってみても対応されてしまい、もう成すすべがなくなる。
仕方なく前回と同じように二手に別れて攻撃をすることにした。
そして今回もターゲットにされたのは俺だ。
「何でずっと俺ばっかりなんだ!?」
決してスフィーをターゲットにしてほしいという意図ではないのだが、毎回スフィーには見向きもせずに俺ばかりが狙われて差別されているみたいだ。
聖竜の背後では早速スフィーが攻撃を始めてくれている。今回の様子からして俺まで背後に回り込んでしまってはまた面倒かことになってしまうので尾の切断はスフィーに任せてそのまま聖竜のタゲをとることにした。
万が一憎悪値がスフィーに向かないように俺も『フォース・インパクト』で攻撃する。
ダメージを増やすために勢いよく技を発したのは良かったが、俺の技は聖竜に傷一つつけることも出来ず、弾かれて体ごと飛ばされる。
なんとか受け身をとって追加ダメージを防ぐ。
「あいつに正面から攻撃しても効かないんだった……」
その事を知ったのはまだつい数時間前のことなのにもう忘れてしまっていた自分に呆れてしまう。
ならばどうやって聖竜のタゲを取り続けるか。Mobは一番憎悪値を溜めたプレイヤー、つまり、一番ダメージを与えたプレイヤーをターゲットにして攻撃する。しかも聖竜は回数を重ねるごとに俺たちのパターンを学習し、それに対応している。
一体どうすればいいのか分からないまま聖竜から繰り出されるブレスを回避する。
俺の疑問をよそに、幸か不幸か、一向に俺からタゲが離れることはない。
俺だけしか狙われないという僅かな憤りと、尾を切断しようとしているスフィーが狙われないという安堵感で複雑な心境だったが、それならそれでいいと割り切った俺は聖竜の攻撃避けるごとに集中してスフィーが尾を切ってくれるその時を待つ。
今回、聖竜が学習していることによってか、前の二回と比べてブレスや竜巻の回数が数倍に増えた。そのお陰でスフィーは余計なことを考えずに専念することが出来ているのだが。
俺が少し疲れを感じ、少しずつ動きが鈍く、聖竜の攻撃が掠りはじめてHPが削られかける。
それと同時にスフィーによって聖竜のHPも削られていき、前回と同じく四分の一減ったところで尾が切り落とされて消滅した。
「ネスト!」
スフィーの声にいち早く反応した俺は尾が再生しないうちにできる限りダメージを与えたい俺はすぐに背後に回り込む。
それに合わせて聖竜も背後をとられないように抵抗するが、それを上回るスピードで俺が動く。
俺がスフィーの隣に並ぶと聖竜は諦めたのか、あるいは前回俺たちがやられたように尾が再生した時のテールアタックで勝てると思っているのか、聖竜はそれ以上動かなかった。
ここまで来たら後はセオリー通りだ。動かない聖竜に対して俺とスフィーは『フォース・インパクト』と『ストライク・ノウズ』をそれぞれ使う。
「はあぁぁぁぁ!!」
声を上げながら何度も繰り返してSSを使ってHPを減らす。
尾が切れてからはHPの減少が早い。あっという間に聖竜のHPはイエローゾーンに入る。
いつ尾が再生するか分からないために強気で攻めつつ慎重さも怠らない。
尾が再生するまでにできる限りHPを減らしたいという一心で俺とスフィーな剣を振り続け、これまた前回同様残りHPが四分の一を切ったところで切断した尾から青白い光が発生した。
尾が再生するタイミングといい、切断するタイミングといい、数時間前と全く同じため少し推測しながらすぐに尾から離れる。
聖竜の方はどうやらこのテールアタックで俺たちを倒せると確信していたらしく、それを躱された聖竜は一瞬動けなかった。
当然俺たちはその隙を見逃すことなく、再びSSを撃ち込む。
後四分の一を削るには二人で二回ずつ決める必要がある。一度放ってからの硬直時間約五秒を考えて倒すまでにかかる時間はおおよそ十五秒から二十秒。短い時間ではあるがそれはあくまで日常生活での話。戦闘中においてはとても長く命取りになる。
とりあえず一度目のSSの使用が終了して硬直に入った。
俺たちか動けない間に聖竜が我を取り戻した。
そこでようやく硬直時間から解けて行動か自由化する。そして俺たちが最後のとどめを決めようとすると聖竜の方も最後の足掻きでブレスと竜巻を同時に出す。
竜巻で接近が許されない中で今は今はブレスを攻撃を捨てて避ける他ない。
しかし水のブレスは聖竜の怒りで直径が大きくなり避けるのが難しい。それでもこれを受けてしまうとまお一からのやり直しだ。それだけはとにかく面倒だ。だから『回避 』ではなく『クイックステップ』での回避を試みる。
しかし眼前まで迫り来るブレスの範囲からは抜け出せていない。
俺はここで怯むわけにはいかない。だから一か八かの賭けに出た。このまま死ぬよりも少しでも可能性がある方がずっといい。
目前まで迫ったブレスに対して横移動で回避することは不可能だ。ならば残る手段はただ一つ。上に躱すこと。
その判断が間違っていなかったことを祈りながら『ダブルジャンプ』で跳んだ。
一段目は素早くして二段目は高さを求める。それでようやく顔がブレスの範囲から出た。
何とか直撃は回避したもののブレスは脚に当たり俺のHPバーの黄色い部分が赤く染まる。
「無理だったか……」
レッドゾーンになっても止まらないHPの減少に俺は諦めの言葉を口にした。
だがそんな予想をいい意味で裏切ってくれた。
HPが消滅すると思っていたが、実際にはそうはならず、わずか数ドットを残して止まった。
「残った……」
完全に諦めていた俺はすぐに気持ちを切り替えることができなかった。
しかし、着地するとともに聖竜の目の前から移動して背後に回る。それと同時に、同じくブレスを回避したスフィーが合流する。
「これで決める!」
俺とスフィーは同時に『フォース・インパクト』と『ストライク・ノウズ』を放つ。
「「いっけええぇぇぇぇぇ!」」
これまで二回倒された恨みや雪辱を期すために。一撃一撃に思いを込めてひたすら剣を振る。
そして最後の一撃で力を込めてフルスイングした。
硬直に入り、HPの動きを見守るとちょうど聖竜のHPが消え去った。それ目の前で聖竜の青いエフェクト片が霧散した。
『Congratulations!』という文字目の前に広がり、それを確認した俺たちはそこでようやく気を緩めてへなへなと地面に座り込んだ。
「やっと終わった……」