52話
十数分後、俺たちは再びクエストに泉へと来ていた。
『また来たか、返り討ちにしてくれるわ!』
聖竜が水中から表れ再び水色のタイルに囲まれた部屋に移る。
「最初は少し様子を見よう」
俺の言葉にスフィーは聖竜を見たまま無言で頷く。
正対する聖竜は二回目なので挨拶はなしで代わりにいきなりブレスを撃ってきた。
まだ始まったばかりで距離があったためになれた感覚で俺たちは左右に分かれて回避する。
先ほど様子を見ると言ったばかりなのにも関わらずブレスが戦闘開始の号砲となり、俺たちは両側から作戦通り聖竜の背後へ回り込む。
聖竜がターゲットにしたのは俺だ。
俊敏に動き回る俺に対して聖竜は巨躯をのろのろとその場で回転して俺の方を向く。
「今だスフィー!」
俺の方を向いたことにより反対側にいるスフィーに尾が向けられる。この絶好のチャンスに巨躯が邪魔で確認することは出来ないが、その向こうにいるであろう相方に俺は叫んだ。
俺の声に返事は聞こえなかったが聖竜が声を上げたためにスフィーが攻撃していることは分かった。
スフィーが頑張っているだろうがなかなか尾を切断することは出来ない状況の中で聖竜がブレス体勢に入る。
それに反応した俺は『クイックステップ』と『ダブルジャンプ』のコンビネーションで聖竜がブレスを放つと同時に背後へ回り込む。そしてスフィーと同じように、今俺が使える最上位風魔法『ソニックウイング』を零距離で使用すると共に最上位剣技『フォース・インパクト』のコンボを決め、今出せる俺の全力を聖竜の尾一点に叩き込む。
俺の攻撃を受けるより先にスフィーからもダメージを受けていた聖竜の尾はHPが五分の一減ったところでさすがに耐えきれなくなり切断された。
「よし、やっぱり切れた」
俺は心の中でガッツポーズを決めて喜ぶ。
聖竜の尾はそのまま地面に落下して一度弾むと青い光に包まれて消滅した。硬直時間から解放された俺たちはこのチャンスを逃してたまるかと作戦通り一点に集中砲火する。
するとこれまでとは違い、確実に聖竜を斬っている手応えが剣を握る手に伝わってきた。
尻尾を切断する前の蓄積ダメージは二割。しかし今は一気に、とまではいかないもののこれまでとは違い目に見えて減少している。
正直これまで斬っても斬ってもHPが減らない不安と、早く倒したいという焦燥感だけだった。だがそれらは今希望の光となり、安堵感を生み出した。
だが、聖竜も一応は知能がある。だからそう簡単にはやらせてくれない。
それでも俺たちは怒濤の攻撃で一気に三割削ってイエローゾーンへと持ち込んだ。
そこで一度聖竜は俺たちの勢いを止めるために巨大な両翼を目一杯広げて俺たちを先程襲った竜巻を発生させる。
今度は早めに反応して回避した。とそう思ったのだが、竜巻の強さは壮絶で、少し離れていても巻き込まれてしまった。
またしても俺たちは舞い上げられた。だが今回は前回と違い威力が増しているような気がした、
実際には短いが体感的にはものすごく長い間舞い上げられたかのように感じ、ようやく解放されたと思うと、今度はそこから落下し、高所落下のダメージが俺たちを襲う。
「ぐっ……」
前回同様に、もしかしたらそれ以上の威力のある竜巻の頂から落とされた痛みで俺は呻き声をあげる。
前回はたったこれ一発で四割も減っていたため今回も危ないかもしれないという考えからHPバーを確認する。
そこで俺は目を見張る。前回より強いというわけではないはずなのだがイエローゾーンまで削られている。
つまり……。
「竜巻をくらってしまうとまたしてもクエスト失敗になる」
だが俺たちもこれ以上痛い思いをするつもりはない。それにもう二回目で聖竜の攻撃は竜巻とブレス、そしてテールアタックだと分かっている。
ならばもう恐れることはない。作戦通り背後に回り込んで斬ればいい。
聖竜のHPも残りイエローゾーン。つまり俺たちとほとんど同じ状態で五分だということ。
そうと分かればそのことをスフィーに伝えて一気に背後に行く。その代わり俺たちも一撃で倒される可能性も頭に入れながら。
聖竜の動きの遅さなら一回分のSSを使用は可能だ。そう判断した俺は、絶え間なくSSを使っているスフィーに続いて早く決着をつけるべく『フォース・インパクト』を発動させる。
「うぉぉぉぉおお!」
雄叫びを上げながら一斬り一斬りに力を込めて威力を上げる。
もう聖竜の残りHPは四分の三をきった。後少しでレッドゾーンに突入する。
これなら次の俺とスフィーの同時攻撃で倒せると確信して五秒の硬直時間に入る。
そろそろ反撃の気配がしたのだが、目の前の聖竜は俺たちに尾を向けたまま一向に動き出そうとしない。
「いくぞスフィー」
「…………ええ」
俺たちは多少不安感を抱きながらもこれで決着をつけるつもりで斬りかかる。
何を企てているのか分からない聖竜を早く倒したい。これで決め損ねて長期戦になれば俺たちが有利に見えるかもそれないが、聖竜にはまだ何かありそうな気がする。
そんな俺の予感は見事に的中した。
聖竜の切れた尾から少しずつ強さを増しながら青白い光が現れた。その光は聖竜の尾を象り、光が消滅するとそこには切断したはずの尾が復活していた。
「そんなトカゲみたいな!?」
スフィーも驚いているがSS発動中の俺たちはこのまま聖竜のHPを消滅させるしかない。
偶然にも俺とスフィーのSSラスト一撃のタイミングが揃った。
ただ、その一振りが当たるよりも先に再生した尾でテールアタックをくらった。
ウソ…………だろ!?
急な展開にどうすることも出来ずに俺たちは呆気なくこのクエスト用の戦場から再退場した。