51話
――あれ? 生きてる……?
声には出さなかったが意識ははっきりとした。
目を開くとそこはクエスト時の戦闘前にいた湖で俺は横たわっていた。
「そうだ……スフィーは……?」
ゆっくり上体を起こして周囲をキョロキョロと見るとスフィーも同じように倒れていた。
「スフィー!」
俺が名前を呼ぶとすぐにスフィーの目が開いた。
「んん……あれ……ここは?」
「ここはクエストの始まる前にいた湖だ」
「…………じゃあ……わたしたち……生きてるの?」
「ああ生きてる」
そこでスフィーが体を起こした。
「わたしたち、どうなったの?」
「聖竜のブレスでHPが〇になって……」
俺は目を覚ましたときのことを思い出しながら答える。
「確か、倒されて俺が目を覚ました直後に聖竜が『また来るがよい』って言ってたような気がする……」
その時はまた意識が覚醒したばかりで少し曖昧のために細い記憶の糸をたどっているというのにスフィーは間髪いれずに問いを投げ掛けてくる。
「ということは死なないの?」
「俺の推測だとこのクエストでは死なないと思う。でなきゃまた来いなんて言うはずないからな」
一先ず安堵しながら湖を見据えながら俺は言った。
「それだと何度も挑戦は出来るけどこのままじゃ何回死ぬか分からない。とにかく戦術を決めないと」
「…………それもそうね」
話が同じ方向でまとまった俺たちは一度退却し、いつものレストランで作戦会議をすることにした。
わずか数十分で戻ってくることになるとは思わなかったが、レストランの前まで来ると空腹を意識した。今は昼時で街に出ている人はそれほど多くない。どうせならと思い昼食も含めてレストランに入った。
中は多くのプレイヤーで賑わっていたが幸い満席というわけでもなく待たずに入れた。
席につくと何でもあるメニューの中からこのレストランの雰囲気とは全く違うラーメンを頼んだ。
「さて、どうするか」
話を切り出した俺にスフィーは水を一口飲んで喉を潤してから答える。
「そうね。あのブレスは厄介ね。一度くらったらHPがごそっと減るわ」
「でもだからといって背後へ回ってもテールアタックでHPを持っていかれる、何か方法がないと厳しいな」
少し唸りをあげながら考え込む俺たち二人。その途中で俺は作戦よりも先に確認するべきことを思い出した。
「そうだ、何かデスペナは……」
命こそ失われなかったものの、デスゲーム化以前のように経験値が減少するだとか、他のゲームであったようなアイテムがなくなることや、お金の減少といったことがあるかもしれない。もしそうならこの作戦は慎重さを要する。
俺はそう考えたのだが…………。
「何も……ないな」
フィルやアイテム、経験値など全てくまなく調べたのだが、変化は何一つとして見られなかった。
ならば本当に何度挑戦してもいいのだろうか? それ次第で当然作戦も変わってくるが、それが分からない今余計に俺たちの中で不安が増していった。
しかし、俺たちにそのことを知る手段は実際に何度も挑戦して確かめることしかない。
その方法は勿論不可能だ。そんなことをしていれば時間がいくらあっても足りない。そうなればやはり慎重かつ確実に作戦を立てる必要ある。
「そういえば、聖竜を背後から斬ってた時に偶然尻尾に剣が当たったのだけど、何度もやれば切れそうだったわ」
「確かに、それは俺も感じた」
俺たちが聖竜の背後から『フォース・インパクト』を使い、聖竜のテールアタックがヒットする直前にスキル発動中の俺たちの剣が尻尾に当たり、僅かな手応えがあった。
「そうだな。それに聖竜に正面や上からの攻撃は全く効かない。最後のスキルを発動させている時に後ろからや下からなら普通に斬れる。それを狙うしかないな」
「じゃあ次はどうやって後ろから攻撃するかね……」
ここで俺たちは再び唸った。大事なのはここだ。何の策略もないとただ背後に回って攻撃するだけになり、テールアタックの餌食になって同じことを繰り返すだけだ。
しかし、いざ考えろと言われれば何の案も浮かんでこない。
俺は案が浮かばないながらも考えていたが、結果としてあまり考える必要はなかった。大ヒントが俺たちの纏まった先程の結論で言っていたのだから。
「ならば先に尻尾を切断してテールアタックを防げばいいんじゃないか?」
「あっ……」
うっかりしてたと言わんばかりの声を洩らすと丁度そのタイミングで二人分のラーメンが運ばれたきた。
「じゃあ開始直後から背後に回って尻尾に集中砲火を浴びせる方法でいいんだな?」
「ええ」
俺はラーメンを箸で掴んで音を立てながら口にいれた。
「熱っ」