16話
翌朝、目を覚まして下に下りると昨日同様に愛美が先に起きていた。何やらテレビを点けて見ているようだ。
結局昨日俺たちは、昨日の花火大会が終わってから混雑していたために会場が落ち着くまで待とうということになり、三十分ぐらい待った。
三十分ぐらい待てば流石に人も少なくなり安全だったので帰った。本当なら帰ってからFOをするつもりだっただが、疲れのせいで睡魔に襲われ、眠ってしまった。だからまだ眠い。
「おはよう愛美、今日もは「お兄ちゃんみて!」」
愛美が俺の言葉を遮り、慌てたようにテレビを指差して声を上げた。
「どうしたんだよ朝からそんなに声を………っ!」
俺はまだ眠かったが愛美が見ろと言うので何かあるのだろうと思い、仕方なく眠い目を擦りながら愛美の言う通りに見てみる。
テレビの画面の左上には『Freedom Online特集』と出ていて、PVのようなものが流れている。
あぁなる程、そういう事か。
『私はFreedom Onlineの開発者である黒鳥忍です。今日はFreedom Onlineのプレイヤーの皆さんに大事な報告があります。正式サービスが始まってもう三日目になり、皆さんも慣れてきた頃でしょう。そんな皆さんへの今回の私からの報告とは……FOで初めてのイベントを行います。そのイベントは本日の午後一時から開始で内容は開始時に発表します。その時のお楽しみというやつで。参加資格はイベント開始時刻の午後一時にログインしている、それだけです。但し注意事項が一つ。イベント開始時刻になるとその時点でイベントに参加するものと見なして始まりの街に強制ワープし、イベントに参加となります。そのために、イベントに参加されない方はイベント開始時刻までにログアウトして頂くようお願いします。参加するしないは皆さん次第です。ただ、私から言えるのは、個人差はありますが、皆さんの気持ち次第で強くなれるということです。今言ったのは戦闘職のプレイヤーのことですが生産職も関係ないことはありません。生産職のプレイヤーはSLvを上げることが出来ます。もう私は今言えることを全て言いました。後は皆さんにお任せします。多くのご参加をお待ちしております』
そして黒鳥の報告は終わった。テレビはもう違うコーナーに移っている。
「だって、どうするお兄ちゃん?」
「聞くまでもないだろう。当然やってやるさ。絶対強くなってやる!」
俺は無意識のうちに手を握りしめていた。そのことに気づいた時には手が震えるぐらい力を入れ過ぎていて、その手を慌てて引っ込める。その俺の動作に愛美が気づいたようで、少し首を傾げたような気がしたが、何も聞かれなかった。いや、あえて聞かなかったのかもしれない。
その後になってようやく起きてきたばかりで朝食どころかまだ何もしていないことを思い出し、急いで準備をしてログインした。
昨日ログアウトしたのはサレスのため、今俺がいるのはサレスの中央広場だ。
昨日落ちる時にはまだ人が一人もいなかったのだが今はちらほらと人がいて、店も何軒か出ているようだ。
これは聞いた話だが、生産職のプレイヤーは戦闘用のスキルをあまり持っていない。持っているのは付近のMobを倒して素材を手に入れるぐらいの物なので、そこまで上がっていないのがほとんどだ。寧ろそれが普通だろう。そのためにボス戦は同じ生産職のプレイヤーを何人も集めて攻略をするか、知り合いなどのいるボス攻略をするパーティーに頼み込んでついて行き、次の街に行けるようにするかのどちらかだ。だが、前者にしては店の数が少なすぎるため、今店を開いているプレイヤーは恐らく後者だろう。
しかし、俺は今そんなことはどうでもいいのであまり気に留めず、まず自分のする事をする。
「あ、もしもしストルか? あのさ、今日パーティー組まないか? 前に約束してただろ?」
俺のすることとはストルに連絡すること。そして前に言っていたパーティーの誘いとイベントをどうするか聞くためだ。
『そのことですか……誘いはありがたいのですが……すいません、今日は塾の試験があって無理なんです』
塾なんて行ってるんだ。しっかりしてるな。
なんて場違いなことを考える俺。そんな俺をストルが少し不審に感じたのか、声を掛けてきた。
『ネストさん? どうかしましたか?』
「あ、いや、何でもない。……そうか……無理なの…か…もしかしてイベントも?」
『はい……残念ながら……タリスも同じです』
「そうか……本当に残念だな」
通信を切ると次はタケに連絡を取った。午後からパーティーを組む予定だったけどイベントが入ったからどうするかという確認だ。
「タケ、イベントの『当たり前だ! 当然やるよな!』」
まだ言い終わってないのに遮らないで頂きたいな。なのに返事をするって……違う意味だったらどうすんだよ…
「勿論だ。それで昼からが潰れたから今から狩らないか?」
『良いぞ、じゃあはじまりの街の中央広場で待ってる』
「分かった、すぐ行く」
じゃあ早速行きますか。俺も今中央広場だし、転移するだけだ。
転移してはじまりの街の中央広場に着くと、タケとオルゴールのメンバーが四人いた。
タケたちはまだ後ろにいる俺の存在に気づいていない。そのまま気づかないようにそっと忍び寄り、タケの肩をトントンと叩く。
「ん?」
タケが振り向くタイミングで人差し指を出すと、見事なまでにきれいに人差し指がタケの頬に刺さる。
うわ、これ気持ちいい。すっごいくだらないけど、このくだらないことを嬉々としてやっていた人の気持ちが分かった気がする。
タケの表情が呆れに代わり、ため息をつかれた。
「みんな紹介する。こいつがネストだ。宜しくな」
うわ、完全にスルーしやがった。
まぁいい。このギルドも大体サイクロンと同じぐらいの年かな?
「えー、ネストです。一応オールラウンダーのつもりです。よろしく」
タケの紹介によるとサブマスがタケより濃い茶髪のベルハ。垂れ目なのが愛らしいいじられキャラを連想させる。違ったらすまん。まじで。
残りの三人は、金色の短髪でつり目のハルク。不良のような見た目で怖い。ちょっと目が合わせづらい。
それから、銀髪のシエル。紹介では男だと言っていたが、小柄で中性的な顔立ちと名前から女だと勘違いされてもおかしくない。最後に黒髪の黒目で穏やかそうな顔のローザン。この子が一番接しやすそうだ。
お互いの紹介を済ませ、シルンの森に行くために剣を出して準備をする時に忘れていた反応が起こった。
「ネスト、どうしたんだよその剣」
「あぁ、知り合った鍛冶屋に貰ったんだけど……サイクロンのメンバーも同じようなことを聞いてきたけどそんなに珍しいのか?」
「そりゃあなぁ。俺たちもみたことないよな?こんな綺麗な黒剣」
タケがメンバーに聞くが、みんな首を横に振っている。やっぱりこの剣はすごいレアな物らしい。βのプレイヤーでさえ見たことが無いと驚くんだから。でもそれと同時にこの剣を造ったフェールもすごいということになる。偶然とは言ってもこの剣の製造者はフェールなのだから。
「まぁいいや。そろそろ行こうぜ」
声を掛けたタケの指示でシルンの森に入っていく。
今回の目的は最初からボスだが、いきなり挑むと連携が噛み合わず危ないため、少しレベルの低いMobでフォーメーションを合わせることになった。
その間にタケがテキパキと指示を出している所を見ると、結構リーダーシップがあって似合っていると思う。
オルゴールの陣形はサイクロンとは違い、前後に分けず、全員が剣士で前衛だ。パーティーとしてバランスが悪すぎる気はするが、どうやら全員後衛は性にあわないらしい。仕方なく今回は俺一人で後衛を受け持つことになった。
因みにみんなの武器は、ローザンが太刀、ベルハが両手剣、ハルクとタケが片手剣、そしてなんと小柄なシエルは大剣だ。
剣の長さが身長と大差がなく、剣の存在感が強い。それに大剣を使うにはそれなりのSTR値を要する。本当に使いこなせるのか? と心配になったが、これが面白いように使いこなされていた。相当STR特化のステ振りにしているのだろう。
まぁなんだかんだあったが、しばらくシルンの森で狩っていたら大分息が合うようになってきたために、ボス戦の作戦を決めることにした。