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水道管から

 福山駅の高架下を抜けて、右に曲がる。

 すぐに福山城へと続く石段が見えてくる。俺は福山城の麓まで行くと、更に勢いをつけて、幅の広い石段を一歩ずつ駆け上がっていった。

 石段を登り切ると、秋の寒さで疲れ切ったソメイヨシノを右手に、壮大な門柱が見えてくる。

 観光客らしき老夫婦が、門柱の前で立ち止まって何か話し合っている。俺は二人をよそ目に、微塵も感慨深さを感じないで、門を突っ切った。

 すぐに、薄茶色の砂地の広場が視界に広がる。校庭のグラウンドよりも少し狭い。広場の奥に福山城の入口がある。俺は、城の天守閣を見る余裕もなく、広場の隅っこにある公衆便所に急いで入っていった。

 痛い、痛い。痛い!

 昨日パソコンで調べてしまったのだ。『親知らず』は最悪の場合、死に至るという驚愕の事実を。

 いやだ、いやだ。いやだ!

 まだ死にたくない。こんな世界、勉強さえできれば、たやすく支配できるのに……! なによりも、死因が『親知らず』では嫌すぎる!

 口の中は、もう血の味で満たされつつあった。うっかり、飲み込もうとして、精一杯ノドを下りている液体を逆流させる。

 慌てて、公衆便所にある水道の蛇口を捻る。焦りすぎて、二回、空回りした。

 もう一度、蛇口に手を伸ばす。三度目の正直だ。ようやく、俺の右手は、水道管の蛇口をつかむことができた。

「あちっ!」

 中で何か湯立っているのかと思うくらい、蛇口はキンキンに熱かった。

 俺は蛇口を捻ると、すぐに手を離して、後ずさりした。蛇口から、ダムの放水のような水流が噴き出し、湯気がモクモクと広がってきた。

 なぜ、お湯が……?

 いや、そんなはずはない! 福山城公園のぼろっちい公衆便所に、お湯の水道設備などあるはずない。それに、蛇口は一つしかない……。お湯しか出ない水道場なんて、聞いた覚えがない! 

 そうこう考えている間も、蛇口からもの凄い勢いでお湯、いや、熱湯が出続けている。これでは、口を漱ぐどころの話ではない。

 蛇口から溢れ出る熱湯は、十一月の肌寒い空気に触れて、湯気が一層モクモクと立ち上り、瞬く間に視界が真っ白になった。

 とりあえず、とりあえず、蛇口を閉めなければ……!

 現状分析はさておき、俺は熱気の根源を絶ち切るべく、蛇口へ手を伸ばした。水蒸気で場所が分からないから、手探りだ。

 俺は蛇口があったであろう場所まで手を伸ばすと、恐る恐る手を上下させた。

 ふわっ、とした感触が薬指に当たって、すぐに手を引っ込めた。全身の毛穴という毛穴が縮こまり、鳥肌が立つ。

 何だ、今の異様な感触は? 毛? 髪の毛……?

 口の中の血が、いよいよ溢れ出しそうだった。一刻の猶予を争う。これ以上、ぐずぐず引き延ばしたら、己の血を胃袋に流し込まなければならない。


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