焦り
三
ゲームセンターへ向かう途中、ユースケはカエルの悪口を途切れることなく吐き続けていた。
「あーあー、なんか胸くそ悪いなぁ! ああいう、真面目ぶっとるだけで頭の悪い奴が、わしゃ、ダイッキライじゃ! 中学ン時もおったわ。生活態度は無駄に良いくせに、勉強できん奴! アイツ絶対、うちの学校が成績しか見とらんこと知らんで! ざまあ!」
カエルは確かに、あまり勉強はできそうじゃなかった。先週の模擬試験でも全国平均くらいだったらしい。
勉強では、余裕で勝っていた。模擬試験くらい成績優秀者に名前が載って当然の俺たちは、カエルを完全に、見下していた。
だが、この時の俺は、カエルを見下している自分が揺らぎつつある事実に気づき始めていた。
スッキーがカエル野郎となぜか一緒に居たことも、拍車を掛けていた。正直なところ、俺はユースケのように隣で悪態をつけるほど余裕がなかった。内心、かなり焦っていた。「そういえば……さっき原人が渡した紙屑、なんだったん?」
歩きながらユースケが聞いてきた。鼻をほじりながら聞くユースケに、全く悪気はなさそうだった。
「さぁ? 中身は……よう見んと捨てたけん、わからんわ。どうせ……ただのゴミじゃろ。アイツが好き勝手言いよんじゃろ。優等生ちゃん相手に真面目に相手すんのも、アホらしいわ」
自然と語尾が強くなっていた。
カエルが俺に渡した紙屑は、俺が昨日、治療に行った歯医者の領収書だった。確か、領収書は、福山城のゴミ箱に捨てたはずだった。
「しっかし、アイツ、なんであんなことしたんじゃろ? 気色悪い! ゴミ漁っとるなんて。スッキーと一緒におったんも、不思議じゃー! スッキーも、葬式みたいな顔したまま、何も言わんし……」
カエルがゴミ箱をたまたま漁っていて、ゴミから俺の名前を見つけてたのだろうか?
しかし、仮にカエルにゴミ箱を漁る趣味があるにしても、福山城のゴミ箱を漁って俺の領収書を見つける確率は極めて低い。俺の後を尾けていたのだろうか? 一体、何のために……?
真相は分からない。
考えれば考えるほど、カエルのことを改めて嫌な奴だとしか思えなかった。
俺はユースケの悪態に適当に相槌を打ちながら、ずっとカエルについて考えていた。スッキーの態度にも苛立ったけれど、頭によぎる度に、カエルへの憎しみに変えていった。
悶々と考えているうちに、また、じりりとした重鈍い痛みが、右顎の奥に走った。今度は、昨日よりも痛みが激しかった。日に日に深刻になっているようだ。
ゲームセンターの看板が見えるくらいまで来た時、俺は立ち止まった。
「ユースケ、わりぃ……俺、後でいくわ」
「なんで!」と縋ってくるユースケを適当にあしらって、俺は福山城公園に向かって、全速力で走って行った。