03と少しの04
03
ヘイデン社の店舗は、3階建てながらも広大な敷地に建っているため、かなりの商品数を有している。
1階は駐車場となっているので、実際は2階と3階が商品スペースとなっている。
さらに、3階は家具や大型家電を販売するスペースで、携帯電話を販売しているのは2階部分ということになる。
「うおぉぉぉっ! でけえ店だなおい! こりゃあカッ子じゃなくても迷子になるぞ!」
「・・・・・・(驚)」
「わぁぁぁぁっ! 見てあれ! おもちゃコーナーもある! ウドレンジャーフィギュアもあるよ!・・・と言ってる」
いなか者まるだしのはしゃぎようの三人。地元の店でこれだけ興奮できるとは安上がりこのうえない。
さすがヒッキーとはいえ、セレブのカッ子はこの程度でははしゃがない、と思いきや。
「ぶっ! カッ子がいねえ!」どうやらあまりの広さにパニックになったらしい。
幸いここの商品棚は低く作られているので、さまようカッ子の姿をすぐに確認できた。
「・・・・・・(呆)」
「まったくもう、ブッチョが携帯買うまでおとなしくしといてよ。・・・と言ってる」
「「面目ない……」」小学生に説教される25歳の女。
まわりを見てみると、ここはテレビ売場のようだ。
「・・・・・・(喜)」
「あっ! カッ子姉ちゃんとこのテレビと一緒だ!・・・と言ってる」
「これが一番でかいテレビだな、さすがヒッキーセレブ」
「「そりゃあ毎回、その時一番の機種を頼みますから」」テレビは、そう頻繁に換えるものではないと思うが。
「テレビかぁ。そろそろ買わなきゃいかんな」
「・・・・・・(?)」
「ブッチョ、テレビ持ってないの?・・・と言ってる」
「ウチにあるテレビは厚型のブラウンさんじゃい!」どうやらブッチョの家には、地デジーコォは来てくれなかったらしい。
ちなみに地デジーコォとは。テレビの電波が、地上デジタルというものに切り替わり、今までのテレビでは見れなくなってしまう。そのためにテレビを買い換えろ。というキャンペーンのキャラクターである。
伝説の元サッカー選手ジーコォを起用し、大量のCMが流された。サッカーと言えば、地元チームグランドパスエイティを悲願の優勝へと導いた、元選手で現監督のスットコビッチが神である。
余談が長くなったが。簡単に言うと、現在ブッチョのテレビは砂嵐しか映らない。
「まぁいいか。テレビなんか見られなくても生きてける」三人に苦笑されるブッチョであった。
「・・・・・・(!)」
「あっ、見て! こんな所にソファーで寝てる人たちがいる!・・・と言ってる」
「あぁ、マッサージチェアコーナーだな。ジョスコにもあるぞ」
「・・・・・・(汗)」
「こんなとこでガチで寝て、恥ずかしくないのか?こいつら。・・・と言ってる」
「みんな寝てるから恥ずかしくないんだろ? それに見ろ。店側もみぐるしいからって、ちゃんと周りから見えにくい様に配置してあるだろ?」
「「いやいや、本人達の目の前で暴言吐くのやめましょうよぉ」」
迷惑極まりない一行である。
04
なんだかんだで、携帯電話売場に到着。
電話会社別に、実にカラフルな携帯電話が数多くディスプレイされている。
「・・・・・・(笑)」
「やっぱスマホがいいよね。ゲームできるし。アンドロノイドとアイポンどっちがいいかな?・・・と言ってる」
「すまん、日本語でしゃべってくれ。横文字はわからん」じじいの様なことを言う若者である。
「「こっちのスマホは防水仕様ですよ。こっちのは私が持ってるのと同じです。新作が発売されるごとに買い換えてるんで詳しいですよっ」」次々に説明してくれる、こちらは金銭感覚のおかしい若者である。
「ちょっと待て! まずスマホってなんだ! そっから説明しろ!」
「・・・・・・(!)」
「マジで言ってんの? CMとかでもやってんじゃん!・・・と言ってる」厚型砂嵐のテレビではコマーシャルなど放映されてはいない。
この騒ぎに気づいた店員が、説明しようとカタログを持って少し後ろで待機しているが、この異様な一行に近づけないでいる。苦笑する店員をしりめに、カッ子はスマートホンの意味から機種の説明までブッチョにたたき込んだ。
「なるほど、これ一台あれば電話もインターネットも何でもできるわけだ」
「「そうです。どのスマホにしますか?」」
「いや、どれにもしない」
「・・・・・・(?)」
「は? ここまで来て買わないのかよ!・・・と言ってる」
「おいおい、お前らフリーターの収入をなめてんじゃねえって言ってんじゃねえか!」予算オーバーらしい。
「「いや、これぐらい私が出しますよ。私と同じ電話会社なら、使用料も出します」」
「……っ!」カッ子の言葉を聞いたブッチョは、どろり……と忘れていた嫌な記憶が、膿のように出てくるのを感じた。