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くらんくらうん  作者: バラ発疹
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「ブッチョ! そこのハンカチとティッシュ取って」

 とランドセルを背負った女の子から言われ、ブッチョと呼ばれた男は読んでいた新聞をたたみ、ほらよ、と、手元にあるハンカチとティッシュを渡す。

「ブッチョ! 私にも取って」

 とその後から出てきたランドセルを背負った女の子からも言われ、同じようにハンカチとティッシュを渡してやる。

 すると、奥の部屋からその様子を見ていた女が声を掛ける。

「こらっ! 二人とも、ブッチョなんて呼んじゃ駄目って言ってるでしょ。まったく、誰に似たのかしら」

 と女が愚痴をこぼすと。

「え? お母さん呼んだ? あ、ブッチョ、私にもハンカチとティッシュちょうだい」

 と、さらにその後ろから、丈の短いスカートをはいた女子高生が出てくる。

「ほら、お姉ちゃん早く行かないと遅刻するよ」

 と、またその後ろから、少々声の低い女子中学生が現れる。

「あっ、また冬子はスカートそんなに短くしてっ! っていうか、ブッチョって呼んじゃ駄目っていつも言ってるでしょ。夏実と桃香が真似しちゃうじゃない。杏奈を見習いなさい」

「あっ、ブッチョ、ついでに私にもハンカチとティッシュ取って」

 杏奈と呼ばれた女子中学生は、女の声が聞こえていなかったように、男の事をブッチョと呼ぶ。

「ぎゃふん! 杏奈も言うの?」


 ――あれから八年。

 あの桜の自殺騒動の後、程なくして結婚した二人のもとに冬子と杏奈がやってくるのには一年を要さなかった。

 本人達のたっての希望もあり、すぐに四人の家族としての生活がスタートした。

 しかし、四人が本当の家族と呼べるようになるまでには、あんな事やこんな事など、そりゃあ大変なものであった。でもそれは別の話。

 そんな騒がしく大変な日々の中にも変化はあるもので、今から6年前、この奇妙な一家に新たな命が誕生する。

 珠のような女の子。

 同時に二人も。

 その双子は夏実と桃香と名付けられる。当然名前を考えたのは久未弥を除いた3人である。

 そこから女だらけのこの家で、久未弥の苦悩の日々が始まる。が、それも別の話。

 

 近況報告としては、数年前に購入したこの中古一軒家の中には。

 専業主婦の傍ら、小遣い稼ぎに株を嗜む桜。

 挑発的な短いスカートで高校に行くが、告白してくるのは女ばかりの冬子。

 耳は聞こえないが、笑顔が素敵な優等生の杏奈。

 最近言動が冬子に似てきた夏実。

 杏奈同様、大物然とした桃香。

 そしてブッチョ……もとい久未弥。

 という大所帯が日々楽しく生活を営んでいるのである。

 それと現在の久未弥はというと。結婚してすぐクラウンとしての仕事に専念しだし、現在ではローカル有線テレビ局ではあるが、レギュラー番組を持つほどの人気ぶりだ。

 もちろんホスピタルクラウンの活動も欠かさず参加しているのである。


「ねぇ、あなたからもみんなに言ってあげてください」

 と、桜に言われ、久未弥は広げなおした新聞を再度たたむ。

「えっと、別にいいんじゃねえか? 何て呼んだって」

「そんな事じゃ駄目です。この子達みんながちゃんとした大人になるまで私は厳しくいきますよ」

「あれー? お母さん、そんな事ここには書いてなかったけどなー」

 と言いながら冬子は鞄から“遺書”と書かれた封筒を取り出す。

「ぎゃあ! ととと冬子ちゃん、ままままだそんなものを持ってたんですか?」

 桜は目に見えて取り乱す。

「そうだね、そんな感じの内容じゃなかったね」

 と、杏奈も同じような封筒を鞄から取り出して見せる。

 ぎゃあ! と悲鳴を上げる桜を尻目に、夏実と桃香が、なにそれー見せてー、と、ねだっている。

 それは桜が自殺しようとした時三人に送った遺書なのだが。その内容はというと、遺書とは名ばかりの三人への感謝と幸せへの願いが延々と綴られていて、それは密かに三人の宝物であった。

「く、久未弥さんはもう捨ててくれましたよねっ。持ち物の中にはなかったですもん」

 と桜に言われ。

「え? あー、すまん。商売道具の中に……」

「ぎゃふん。せめて夏実と桃香には見せないでぇ」

 と泣きついてくるので、夏実と桃香には、もっと大きくなったらね、と言い聞かす。

「おい、もうそろそろ出ないとマジで遅刻するぞ」

 その久未弥の言葉を号令に、四人は慌てて玄関に殺到する。

 そして玄関の扉を開けて、外に飛び出しながら四人が叫ぶ。

 

「いってきまーす」


 声の先には、子供達を見送りながら微笑む久未弥の姿があった。


 くらんくらうん了

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