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くらんくらうん  作者: バラ発疹
夢の終わり
58/62

最終話「夢の続き」01と02

 最終話「夢の続き」


     01


「あれ? おじさん、カッ子は?」

 寺の入り口まで戻ってきた久未弥を待っていたのは、親戚のおじさんただ一人であった。

「あっ、まさかあいつまたパニックか。おじさん、カッ子の奴ダッシュしていきませんでした?」

 いきなり面識の薄い人と二人きりにさせられ、おそらく話し掛けられたりでもしてパニックに陥ったのだろう。面倒くさい奴である。

「いや、飲み物を買いにいってくると言って歩いて行ったよ。顔色が悪かったから、どこか調子が悪いんじゃないのかね?」

 嫌な話が続いたので腹でも痛くなったのだろうか。

 しばらくすれば戻ってくるだろうということで、二人は待つ事にする。

「ところで久未弥君。幸太郎の家を出てからの生活はどうだったのかね?」

「どうって言われても、何も変わらなかったですよ。仕事をやってもうまくいかなかったし、この顔面麻痺と性格のせいで他人ともうまくいかなかったですしね」

 人間関係がうまくいかず、仕事も短期間で変わるような社会不適合者であった。

「そうか、君には苦労をさせてしまったな。でも、今でもそれは変わらないのかね? 今の久未弥君を見ていると、そんな感じとは思えないのだが」

 と、親戚のおっさんはそんな事を言う。

 そう、久未弥は変わった。ちょうど一年ほど前、一人の女に“友達になってください”と声を掛けられたのを境に、久未弥の目に映る世界は徐々にその色と形を変えていった。

 久未弥は気づかされた、この世界にはいろんな形があったのだということを。

 久未弥は気づかされてしまったのだ、この世界は良くも悪くもこんなにいろんな色で染めあげられていたのだと。

 そして、人の弱さ、人の強さ、人の中にある様々なものに触れる機会ができた。

 過去の悲しみから再生し、人に笑顔を届ける事を生き甲斐にする人にも出会った。

 人を守る仕事に就きながら、人の命を奪った事のある人もいた。

 借金を重ね、まともに仕事のできない人も、その借金を取り立てる人もいた。

 そして、父親の理不尽な暴力に、心も体も疲弊しながらも必死に寄り添いながら生きる姉妹にも出会った。

 久未弥の世界を変えてくれた女もまた、つらい過去を背負いながら必死に生きていたのだ。

 人を幸せにするのも人で、人を不幸にするのも人であった。

 確かにこの世は辛い事が多すぎる。しかしどれだけ辛いことも、助け合える人が一人でもいれば幸せになることだってできるのだ。文字も語っている。辛いの“辛”に、一人の“一”を加えただけで“幸”になってしまう。一人加わるだけで幸せになってしまうのなら、二人も三人も助け合える人が加われば、どれだけの幸せを作ることができるのだろう。

 本来人は、この世に生を受けた時すでに、二人分の“一”を授かっている。父親と母親からである。

 本当ならば人は、その二人の有り余る愛情によって幸せになるべく生まれてくるのだ。

 しかし、久未弥を含む四人の仲間達は、“一”が足りないどころか“辛”ばかりが増えていき、一人二人では事足りない。

 久未弥は思い知らされた。自分一人の力では、一人として幸せにはできない事を。

 久未弥は思う。ならば、四人が四人ともが助けあえば、いつかみんなが幸せになれるのではないか。

 もしかしたら、この世界の人ひとりひとりが助け合えば、すべての人が幸せになれるのかもしれない。

 いつか自分をホスピタルクラウンの世界に誘った人が言っていた。“アダムス医師の望んだ世界”を久未弥自身が望んでいるという言葉。今ならその意味がわかるような気がする。

 

 久未弥は思う。

 そんな風に、まずは自分の大切な人から幸せにしたい。

 大切な人。

 いつも笑顔を絶やさない、お洒落な娘。丸美。

 妹想いの着ぐるみ少女。ライ子。

 引きこもりセレブの迷子キャラ。カッ子。

 そして、その中には久未弥自身も入らなくてはならない。

 自己犠牲からなる幸せというものは、与えられた者にとって幸せであるとは限らない。

 自己犠牲から破綻してしまった冬子。

 自己犠牲の末に、間違った選択をしてしまった桜の父親。

 自己犠牲の末に命を落としてしまった久未弥の父。

 そのどれもが、想いが相手に伝わらないまま、幸せにはなっていないのであった。

 だから、この四人の“仲間”全員が幸せにならなくてはいけないのだ。

 それは簡単な事ではない。そう思っていても、想いが伝わるとは限らない。対立する事もあるだろう。それはしかたのない事なのだ。だって、この世界には、一つとして同じ色や形はないのだから。

 しかし、この四人ならできそうな気がする。いつか誰かが漏らしていた“四人集まると最強だな”、と。

 そう、四人ならできるはずだ。一人一人は著しく社会には適合していなくても、四人で一人前なら良いではないか。

 誰かの足りない部分を、他の誰かが補っていく。そうやって作っていくのだ、毎日こつこつと、いつか夢の中で問われたモノを。

 そう、


“帰る場所”というやつを。


     02


 などということを久未弥が考えていると。

「久未弥君、大丈夫かね。ぼーっとして」

 という親戚のおっさんの声で我に返る。どうやら長い時間呆けていたようだ。

「大丈夫です。てか、どんだけ時間経ちました?」

 久未弥が携帯電話を取り出し時間を確認すると、桜を待ち始めてから40分も経過していた。

「なかなかあのお嬢さんは帰ってこないね」

「あいつ、多分迷子になってるんだと思います。知らない土地で道がわからないなら、電話かけてくりゃいいのに」

 と言いながら、久未弥は携帯電話の液晶画面に桜の電話番号を呼び出し、通話ボタンを押す。

『お掛けの電話番号は、現在使われておりません。もう一度電話番号をお確かめの上お掛け直しください』

「あれ? 俺電話番号入れ間違えた?」

 そんな事はないのだが、もう一度掛けなおす。

『お掛けの電話番号は、現在使われておりません。もう……』

「ん? まぁいいや、メールにするか」

 そう言って、今どこだ? と、携帯電話に登録されている桜のアドレスにメールを送る。

 しばらくすると、久未弥の携帯電話がメールの着信を告げる。久未弥がそのメールを確認すると。

「あ? なんじゃこりゃ」

 液晶画面には、現在このメールアドレスは使用されておりません。と、表示されている。

 その後、どれだけ桜の携帯電話に送信しても、通話もメールも受け付けられる事はなかった。

 そして、そのまま桜は、久未弥の前に現れなかったのである。

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