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カッ子のマンションからジョスコまで通常徒歩15分。なにごともなく到着……はしなかった。
カッ子が迷子になる事2回、ライ子が近所の子供にもみくしゃにされること3回、カッ子の忘れ物を取りに戻ること1回。通常15分のところを、1時間以上を費やす。
「・・・・・・(疲)」
「やっと着いた。・・・と言ってる」
「よし。時間短縮のために、割り当てを決めて要領よく買い物するぞ」一番要領の悪そうなブッチョが仕切りだす。
組分けのじゃんけんの結果、食材・調味料はカッ子・ライ子組、調理器具はブッチョ・丸美組に決定した。
ジョスコは、一階の約半分が食料品売り場になっている。こちらはカッ子とライ子にまかせておけばいいだろう。
ブッチョと丸美が向かっているのは、二階の雑貨売り場である。二階は、こちらも約半分のスペースに生活雑貨売り場が展開されている。
歩き出すブッチョの手を丸美がつかむ。そういえば、この姉妹はいつも手をつないでいるな、と思ったところで気がつく。
「おまえ、もしかすると耳が聞こえないのか?」と、右手の先の少女に話しかける。
すると丸美は、大きく首を縦にうなずく。
むかし、話で聞いたことがある。耳の聞こえなかったり聞こえなくなった人は、自分が出している声が聞こえないのでしゃべれないのだそうだ。実際に会ったことがないのであまり気にしたことはないが、現にそういう人は存在するのだと実感する。
「でも俺の言ってることは分かるのか? はっ! そうだった、こいつは人の考えてることが分かるんだった!」
丸美は、ブッチョを横目で見てほくそ笑む。
「ぎゃあ! ホラーか?! 完全ホラーだろこれ!」
そうこうしているうちに、エスカレーターは二階に到達する。エスカレーターを降りる時、ブッチョがつまづいて丸美の失笑を買ったのは見なかったことにする。
で、二階に着いて5分。目当てのフライパン・まな板・菜ばし・万能包丁をカゴに入れ、台所で確認した食洗機用の洗剤もついでに入れる。
「食洗機だけでまな板も包丁も全部洗えるのか?」二人で首をかしげつつ、必要なものはそろったようだ。
レジに向かおうとしたところで、重大な事に気づく。「やべぇ、こんだけ払える金持ってねえ。今朝のマグドで使っちまった」やはりハンバーガー買いすぎである。しかしハンバーガーを買わなくても、お金は足らなかったであろう。
話し合いの結果、カッ子を呼びに行くことになり、とりあえずその場にカゴを置いて二人で一階に向かう。
一階の食料品売り場に到着したブッチョと丸美は、子供に囲まれてオロオロしているライ子を発見する。こちらは二人で手分けしているのか、カッ子の姿が見えない。
「おいライ子、カッ子どこ行った? 金払おうと思ったら、金足んなかったからよ」とたずねると、ライ子はふるえながら言う。
「ど……どこ行ったってこっちが聞きたいよ! 一緒に歩いてたらカッ子姉ちゃん段々パニックって、すごいスピードでどっか行っちゃうんだもん! ホラーか? 完全ホラーだろあれ!」どこかで聞いたフレーズも出たが、ライ子も相当パニック状態である。
「ライ子落ち着けって!さすがにまだ店の中探せばいるだろ。ほら、癒しアイテム返すから」と言いつつ、先ほど”ホラー”と呼んでいた少女とつないでいる右手を差し出す。
やっと定位置について安心したのか、徐々にライ子は落ち着きを取り戻す。
「・・・・・・(怒)」
「誰がホラーじゃ! こんな美少女つかまえて! 呪いコロされるぞ!・・・と言ってる」
「ここでツッコミかい!てかやっぱホラーじゃんか!」丸美はホラーと言われたことを、だいぶ根に持っているようだった。
とりあえず三人でカッ子を探す事にする。
捜索開始から30分。一階から三階まであるジョスコの建物を、一通り見て回った。
「・・・・・・(泣)」
「のどかわいた、ちょっと座りたい。・・・と言ってる」
「そうだな、少し休むか。ジュース買う金くらいあるから何か飲むか?」
自動販売機でそれぞれジュースを買い、備え付けのベンチで一息つく。三人同時にジュースを口にしたとき、館内放送が聞こえる。
ピーンポーン
『迷子のご案内です。ブッチョさんライ子ちゃん丸美ちゃんが迷子です、カッ子様がお待ちですので、至急インフォメーションまでお越しください』
「ブーーーッ!」三人は同時に口に含んだジュースを吹き出し、インフォメーションに向かってダッシュする。
で、インフォメーション。
「いやいや! 自分が迷子のくせに、他人のせいにしてんじゃねえよ!」
「・・・・・・(怒)」
「迷子になったのカッ子姉ちゃんじゃん! すっごい探したんだから!・・・と言ってる」
「「うえぇぇん! だって気がついたら倉庫の中にいたんだもん!」」探しても見つからないはずである。
奇妙な四人組に、完全にドン引き状態の係りのおばちゃんにお礼を言いインフォメーションを後にする。
先ほどのベンチに戻り、カッ子にもジュースを買ってやり落ち着かせてやる。
落ち着いた頃に、カッ子に二階に精算の済んでない商品があることを告げる。話し合いの結果。二階のカゴの場所を知ってる丸美がカッ子を連れていき、精算を済ました後四人で食料品を買いに行くことになった。
「「じゃあ、ちょっと行ってきます」」手をつないだカッ子と丸美が、エスカレーターに乗っていく。
残った放心状態のブッチョとライ子。
「カッ子のヤツいい年して迷子って。いったいいくつなんだよ」とブッチョが愚痴ると。
「ん? 25才だって言ってたよ」
「俺より年上かよ! あれで金持ちだってんだから、意味が分からん」と言いながらジュースを口にすると。
ピーンポーン
『迷子のご案内です。ブッチョさんライ子ちゃんが迷子です。カッ子さま丸美ちゃんがお待ちですので、至急インフォメーションまでお越しください』
「ブーーーッ!」二人は同時に口に含んだジュースを吹き出し、インフォメーションに向かってダッシュする。
「・・・・・・(怖)」
「二階に行ったらカッ子姉ちゃん段々パニックって、すごいスピードで引っ張って行くんだもん! ホラーか? 完全ホラーだったよあれ!・・・と言ってる」ホラー少女にホラーと言われる位なのだから、相当怖かったのだろう。
「「め……面目ない」」
その後。四人で調理器具を精算しに行き、食料品を買い帰路に着く。
「なんか超疲れたな」
「・・・・・・(疲)」
「買い物するだけで、こんなに疲れたの初めて。・・・と言ってる」
「「すみません、外の世界にあまり出ないので」」そう言うレベルの話では無い。
現在すでに14時30分。これから料理をすると思うとうんざりである。
「・・・・・・(泣)」
「おなかすいた。・・・と言ってる」
「そうだな」
「「そうですねぇ」」
そう言いながら四人の視線は同じ方向を向いていた。
「もうマグドでいいか……」本末転倒である。
余談になるが、買った食材は夕飯としていただいた。そこに至るまでに、ぼや騒ぎまで起こしていたのは四人の記憶に黒歴史として封印した。
まぁ四人の人生すべてが、ほぼ黒歴史のみなのだが。
1話了