06と07で了
06
「ばいばーい」
下校時間になると、ライ子も丸美もそれぞれ友達に挨拶を交わしながら帰っていく。
この学校は、いつもは集団下校なのだが、今日に限っては親と一緒に帰るらしい。
満足気なライ丸姉妹をよそに何か忘れているような気がしたブッチョは、校門辺りで考えていると。
「おお、あんた、さっきはすまんかったなぁ」と声を掛けながら、あの迷子のばあさんが歩いてくる。
「あれ? ばあさん目的の場所には行けたのか?」と聞くと。
「目的が向こうからやってきてくれたから大丈夫じゃ」
などと言われ、こいつボケてんのか? と思っていると。
「母上、そんなに急いで歩くから迷子になるでござる」
とレイさんが、ばあさんの荷物を持って現れる。
どうやらこのばあさんはレイさんの母親で、レイさんに会いに行く途中だったようだ。
ばあさんは周りを見てから、ライ丸姉妹に向かって。
「お嬢ちゃん達すまんかったなあ、授業参観に行く途中にお父さんひき止めちまって。
今日はお母さんは来てないのかい?」と言われ。
「あ!」
とようやく忘れていた事に三人が気づくと。
「「ブッチョさぁあん、ライ丸ちゃんたちぃ、先に帰ろうとするなんてヒドイですよぉ」」
との声に三人が振り向くと、そこには全身白い粉まみれのカッ子が泣いて立っていた。
「わあ、カッ子姉ちゃんどうしたのそれ」
「「気がついたら運動場の横の倉庫にいてぇ、白い粉がいっぱいでしたぁ」」
どうやら体育倉庫の中に逃げ込んだ時に、ライン引き用の消石灰をぶちまけたようである。
「(カッ子姉ちゃん、その粉が目に入るとあぶないよ)」
「「ええっ、でも目をつむったままじゃ帰れないよぅ」」とあたふたしていると。
「ほら、ちょっとしゃがみなっせ」
ばあさんはカッ子をしゃがませ、取り出したハンカチで顔の粉を払ってやる。
「「え? あ、ありがとうございます。って誰ですか?」」
「レイさんのお母さんだ。ここに来る前にちょっと知り合ってな」
ばあさんは丁寧に、ハンカチを水筒の水で濡らしてカッ子の顔をふいてやる。
「よし、こんなもんでいいでしょ。あんたも母親なら、もっとしっかりせんといかんよ」
「「え? えっと、そうですね、面目ないです」」
ばあさんの勘違いを、そのままカッ子が受け入れると。
「なんと、そなたらは家族であったのか?」などとレイさんお得意の空気読めない発言をすると。
「またお前は何も考えんと喋りおって。
ほいじゃあ後は家族で仲良く帰りなっせ」とばあさんはレイさんを引っ張り去っていく。どうやら母親は空気が読めるようである。
久未弥はそんなレイさん親子を見送りながら、そんな二人の出す”親子”らしい雰囲気をなんだか羨ましい、と感じる。
自分を捨てた父親の記憶も曖昧なのだが、母親に関しては自分を産んですぐ他界してしまったようなので、思い出もないのである。
それにもかかわらず、羨ましいと思わせる親子の関係というのは良いなと思う久未弥であった。
07
帰りの道すがら、カッ子がコンビニに寄りたいと言い出したので、コンビニに入る事にするのだが、よく粉まみれの格好で店に入れるものである。
そんな事を思いながら、ブッチョがコンビニの入り口にさしかかると、背後から軽くスーツの裾を引っ張られる。
ブッチョが振り向くと、そこには背中に隠れるようにブッチョを見つめるライ丸姉妹がいた。
「どうした、中に入らないのか?」
ライ丸姉妹がブッチョから視線をはずして見た先を見ると、そこにはコンビニ袋を下げた金髪にピアスをしてスウェット姿の男が店から出てきていた。
コンビニの前で立ち止まる一団に、自分の娘達がいることに気づいた金髪の男は。
「あ? あんたら何者だ?」と自分の娘達と同行する大人の男女に、訝しげな視線を向け、腕を組みながら尋ねる。
「ん? えっと、いつも娘さん達を連れまわしちゃってすいませんね。奥さんは今日も仕事ですか?」とブッチョが逆に質問する。
「は? なに言ってんだあんた、分かってんだろ、あんなヤツもういねぇよ」と男は完全に警戒しながら話す。
「あれ? そうですか、でもすいませんね、いつもお世話になってて」
と、なぜか二人の話はかみ合わない。
「お、お父さん、なんでもないよ、すぐ帰るから先に帰ってて」とライ子が二人の会話に割り込んでくる。
「(ブッチョもいいから早く買い物済ませよう)」と丸美は戸惑うブッチョに入店を促す。
そんな光景を見て男は、組んだ腕を解き、片手をスウェットのポケットに入れる。
「あー……、そうですか、あなた達が、いつもウチの娘達がお世話になって、ありがとうございます」と男は思い出したように態度を一変させる。
「あぁ、いいえ、こちらは一緒に遊んでるだけですから」とブッチョが返す。
「いえ、こちらもいつも助かってます」
ようやく話がかみ合いだし、今までと違いちゃんとした受け答えをするライ丸姉妹の父親を見てブッチョは、普通に話せばまともな人なのかな、と思っていると。
「冬子、杏奈、今日はもう帰ってきな」と父親はライ丸姉妹に向かって言う。
「えっ?でも……うん、わかった。ごめんねブッチョ、カッ子姉ちゃん」とライ子は名残惜しそうにブッチョとカッ子を見ながら、父親の元へ離れていく。
「(ブッチョ、カッ子姉ちゃん、今日はありがとうね)」と言いながら丸美もライ子に続いていく。
「あぁ、じゃあまたな」
「「またね、二人とも」」
と言いながらブッチョとカッ子は、帰っていく家族三人を見送るのであった。
ブッチョから見たライ丸姉妹の家族の姿は、先ほどのレイさん親子とは違い、なぜか”親子”という雰囲気が感じられなかった。
久未弥は今気がつくべきだったのだ、なぜ目の前で去っていく家族が”親子”らしく感じなかったのか。
またしても”最後のチャンス”を逃した久未弥に、前回のような幸運は訪れないのである。
第1話了