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くらんくらうん  作者: バラ発疹
百獣の王
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第1話「授業参観」00・01・02・03

 第5章「百獣の王」


 第1話「授業参観」


     00


 陽気な音楽と共にネズミやアヒルの着ぐるみに身を包んだ人が激しく踊っている……などという光景が嘘のように、暗く沈んだ闇が支配する空間になっている。

 ここはネズミーランドというテーマパークなのだろうが、開園中の華やかさは微塵もない。

 須藤すどう 久未弥くみやは、この閉園後のテーマパークに一人佇んでいた。

「ねぇ、誰かいないの?僕もう帰りたいよ」

 と言うと、目の前のステージに、一本のスポットライトが照らされ、その先には土下座をしている父親が照らし出される。

 父は言う。

「久未弥、お前に帰る場所なんてあるのかい?」

「……っ! お父さんが僕の帰る場所を作ってくれなかったんじゃないか」

「なにを言ってるんだ、カッ子くんのお父さんなんて、帰る場所を壊してしまったじゃあないか」

「他の人は関係ないよ!」

「そんな事はない、お前と父さんは親子ではあるが、言ってしまえば他人なのだよ、俺はお前ではないし、お前は俺ではない、お前は帰る場所というものを作れるのか?」

「……わかんないよ」

「そうだろ? 俺もわからないまま生きてきて、結果、帰る場所というものをお前に作ってやれなかった」

「詭弁だよ」

「そうかもな、だが、父さんもお前と同じ一人の人間なのだということを忘れるな」

「………………」

「…………」

「……」

 

 ―――覚醒。

 最悪の目覚めである。

「もっともらしいことを言いやがって」

 先日のカッ子の告白のせいか、夢の中のふざけた父親まで説教じみた事を言い出す始末である。

「……帰る場所、か」


     01


「……」

「どうかな、これはさすがにバレるよね?」

「ん? そうかな?」

「うん、だよね」

「ブッチョバカだから大丈夫だよね?」

「超バカだからね」

「うん、ほんと、バカみたいに、私たちのこと信じてくれるから」

「……」


     02


「は? 授業参観?」

 とライ丸姉妹が突きつけたプリントを前に、ブッチョはすっとんきょうな声をあげる。

「(え? ブッチョ授業参観知らないの?)」と丸美が言う。

「ぶっ、それぐらい知ってるわ! そうじゃなくて、何で俺にプリント渡すんだよ」

「ブッチョだけじゃないよ、カッ子姉ちゃんにも渡したもん」とライ子が言う。

「「ええ、いただきました。ブッチョさんは行かないんですか?」」とカッ子は行く気のようだ。

「カッ子が行くならいいじゃねぇか。なんでお前ら自分の親……」

 と言いかけたところで、ブッチョは先日の出来事を思い出す。

 今まで思っていたイメージとは違うライ丸姉妹の父親。

 この姉妹にも何か思うところがあるのだろう。

「ったく、しょうがねえな、行ってやるよ」

 とブッチョが折れると。

「ほんと? やったー!」「(二人とも絶対だよ!)」

 と二人でうれしそうにピョンピョンと飛び跳ねる。

「でも、ちゃんとした服とか持ってねぇぞ?」とブッチョが言うと。

「「あっ、ちゃんと用意してありますよ」」とカッ子は奥の部屋からスーツを持ってくる。

「予定済みかよ! なんかはめられた気がするんだが」と言うと。

「あんま気にするとハゲるよ?」「(血尿出すの?)」

 と言いたい放題だ。


 こうして一同は、小学校に登校する事になった次第である。


     03


 授業参観日当日。

 ライ丸姉妹からは、10時30分までに来ればいいから、と言われている。

 しかし9時30分をまわった現在、久未弥はいまだコンビニでバイト中である。

「くっそ、あいつ、いつもは遅刻なんてしねぇのに、なんで今日にかぎってなんだよ」

 どうやら交代のバイトがまだ到着していないようである。

 10時までには行ける、と電話がかかってきてはいるのだが気をもんでしまう。

 こんなこともあろうかと、久未弥はバイトのロッカーにスーツを用意しており、愛車のフェラーリ(自転車)もすぐに出られるように暖気運転させている。

 とりあえずカッ子には悪いが、先に行っていてもらうよう電話してある。ライ丸達もカッ子の顔を見ればひとまず安心するだろう。

 

 レジに立ちながら久未弥は、自分の小学生の頃を思い出していた。

 父親に捨てられた久未弥にとって授業参観とは、幸せな家族を見せ付けられるイベントのように思えてならなかった。

 自分を引き取ってくれた叔父さん夫婦なぞは、一度も見に来てくれた事などがない。

 しかし、親が自分達の教室に現れてうれしそうに手を振る子や、まだかまだかと親を待ちわびている子、などの気持ちも分からないではない。

 実際久未弥も、自分を捨てた父親がもしかしたらこの日ばかりは自分を見に来るかもしれない、という期待を毎回抱いているのであったが、結局のところ一度も現れた試しはないのだが。

 だがやはり子供にとって、親が自分のために教室まで来てくれる、というのはうれしいものなのである。

 なので、ただ行くだけでライ丸姉妹を喜ばす事ができるこのイベントにはぜひ行きたいのだが、それがままならない。

 などと考えていると、ようやく交代のバイトが出勤してきたようである。


 手早くスーツに着替えた久未弥は愛車にまたがり、ライ丸姉妹がかよう小学校へと向かっていく。

 この時間なら、なんとか間に合うだろう。と思っていると、前方でおばあさんが大きな荷物を抱えて辺りを見回している。

 あ、もしかしてこれって、ドラマとかでよく見る授業参観に間に合わないって流れ?と思ったので、見てみないふりを決め込む事にする。

 そしておばあさんの横を通り過ぎようとしたその時、久未弥の腕をおばあさんが掴み、久未弥の自転車は転倒してしまう。

「ぎゃあ! ばあさん殺す気か? あんた暗殺者か」とあまりの出来事に動揺していると。

「年寄りが困っておるのに、無視して通り過ぎようとするとはなにごとか」などとおばあさんは言い出す。

「しょうがねえな、で、どうしたってんだ?」

「道に迷ってしまってねぇ、ここへ連れて行っておくれ」と言いながら、地図の書いてある紙を取り出す。

 その地図を見ると、目的の場所は隣町である。

「無理、遠すぎんだろ」と言うと。

「貴様、声を掛けたなら、責任をもって連れていけよ」とばあさんは言うが、久未弥は声など掛けてはいない。

 

 はたして久未弥は授業参観に間に合うのであろうか。

 

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