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くらんくらうん  作者: バラ発疹
かごの中の風景
39/62

第5話「告白の行方」01と02

 第5話「告白の行方」


     01


 すべてはあの日から始まった。


 四年生になって3ヶ月程経った梅雨時の土曜日の午後、福武ふくたけ さくらはうらめしそうに窓にうちつける雨を眺めていた。

「雨は嫌い、だってお外で遊べないんだもん」

 と桜は一人で愚痴をはいている。

 都営住宅の三階に住む福武家は、父と母、そして桜の三人家族で、父は2年前に脱サラして宅配業、母はパートと、決して裕福とはいいがたい家庭である。

 しかしそれでも桜は幸せな生活を送っていた。

「いつまでも愚痴愚痴言ってないの! しょうがないじゃない、雨なんだから」

 との母の言葉にも、桜は納得いかないようだ。

 というのも、桜は先日のテストで100点を取り、そのご褒美としてお母さんと遊園地に行く約束をしていたのである。

 父はいつも朝早くから晩遅くまで仕事をし、最近起きている父の顔を見ていないのが桜の気がかりである。

 そんな桜をあざ笑うかのように、さらにいっそう雨足が強まり、勢いを増した雨音が不安を煽る。

 ざぁざぁざぁ……。

 ぱちぱちぱち……。

 騒音のように鳴り続ける雨音から避けるように桜は窓から離れると、つけたままだったテレビがなにやら騒々しい。

「あらやだ、ビルの爆破事件? 最近は物騒になったわねぇ」

 テレビ画面には、黒々とした黒煙を吐く雑居ビルが写し出され、テレビレポーターの興奮した声と、いくつもの消防車や救急車のサイレンの音が異常事態を告げている。

 画面に表示されている場所が、桜の家から電車で40分程と比較的近いことも、興味を惹かれる要因である。

 しかし、テレビというフィルターを通して見る現実はどこか他人事めいていて、遠い世界の話のようにも見える。


 このような大きな事件は、暇な休日のお茶の間には格好のエンターテイメントであり、桜と母もお茶菓子を目の前にテレビに釘付けになっている。

 結局この時点で判明したことは、死者3名、病院に搬送された負傷者6名。

 不確定情報ではあるが、犯人は死亡しており、死者数に含まれているとのことである。


     02


 辺りも暗くなった頃、台所では母親が夕飯の揚げ物のおいしそうなかおりを垂れ流しており、桜はリビングで空腹感を感じながらテレビから流れる事件の続報を眺めていた。

 事後処理があらかた済んだ現場の前で、レインコートをまとったレポーターがメモを片手に報告した内容はこうだ。

 現時点で判明した事はと前置きをした上で、犯人は雑居ビルの事務所にガソリンのような液体を撒き事務所を爆破、それによって事務所の中にいた事務員2人が死亡。ビルの前を歩いていた通行人も巻き込まれ、1人重体、5人が重軽傷。

 犯人は爆発に巻き込まれるも生存していたが、駆けつけた警察官に向け、所持していた拳銃を発砲したため射殺されたとのことだった。

 怖い、と桜がもらしていると、突然電話が鳴り出す。

 心臓が飛び出そうなほどびっくりしていると、お母さんが電話に出る。

「はい、福武です。はい、そうですが、ええ……」

 と、徐々に声が緊張を帯びていく母を、いつの間にか桜は見つめていた。

「はい……えっ?……そんな!」

 と言いながら目玉が飛びださんほどの勢いで目を見開き、テレビ画面を見る母。桜もそれにつられてテレビを見る。

「はい……わかりました」

 というお母さんの声を背中で聞いた後、

 バタン!

 と何かが倒れたような音がして、桜が後ろを振り返ると、お母さんが床に倒れ込んでいた。

「お母さん!」

 と駆け寄る桜。

 すぐに救急車を呼び、病院に搬送される母。

 病院の先生の話では、急激なストレスにより意識を失ったとのことだった。

 お母さんはそのまま入院することになり、桜はそれに付き添い病院で夜を明かすのだが、自分だけでは何もできないと知りながら、なぜか父には連絡をしなかった。

 

 桜が病院で何もしていない間にも、かの事件は進展、解明されてゆく。

 夜の内に重体だった一人が病院で死亡し、結果、被害者は死者3人、重軽傷者5人、そして犯人死亡ということでこの事件の被害状況が明らかになったのである。

 

 そして、朝には犯人の身元が公開される。

 病院のテレビから聞こえるニュースキャスターの声が伝えた犯人の名は。

 福武ふくたけ 敏夫としお(33)。桜の父親である。

 テレビ画面に映る顔写真も、まぎれもなく父と同じ顔である。

 桜は薄々感づいていた。

 それもそのはず、夜の内に何度も警察官が母の元に訪れていたのだ。

 感づいていたとはいえ、明確に確証を突きつけられるとショックを隠しきれない。

 テレビが桜に伝えた事件のあらましはこうだ。

 宅配便の配送の仕事をしていた犯人は、会社の当初の話通りに支払われない賃金に腹を立て、事務所に押し入り、業務を行っていた担当者を射殺。その後ガソリンの様なものを撒き引火、事務所奥にいた従業員が焼死、ビルの前を歩いていた通行人にも被害が出る。

 その後駆けつけた警察官が火傷を負いながらも生存する犯人を発見するも、拳銃を発砲してきたためやむなく射殺したとのことである。


 小学校4年生の桜には、ニュースキャスターが話す言葉は難しすぎて、あまり理解できなかった。

 しかし桜にもこれだけはわかった。


 お父さんは、

   お金のために人を殺して、

         警察官に殺された。


 ―――ここから桜の世界が一変する。

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