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くらんくらうん  作者: バラ発疹
かごの中の風景
38/62

05と06で了

     05


 たぶんこれが、最後のチャンスというやつであろうことは久未弥も分かっている。

 のだが、なかなか久未弥と利一の距離の差は縮まらない。それどころか目で見るかぎりりでも、その差が開いているのは一目瞭然である。

 それもそのはず、基本的な体力の違いはあるにせよ、かたや50万円で、かたや300万円の走りである。

 しかも、たぶん利一は返すだけの金など口座にさえ無いのであろう。まさに命がけなのだ。

「はぁ、はぁ、くそっ! パチンコ、ばっか、やってる、奴のくせして、なんで、あんなに、速えぇんだよ!」誰が聞いてるわけでもないので無理してしゃべらなくても良いのだが、息も絶え絶え愚痴をこぼす。

「くそっ! このままじゃ、あいつらの命が……」

 ファミリーレストランを出てからどれだけ経過したであろうか、そろそろカッ子とライ丸姉妹の命が危ないのではないか。などと意味の分からないストーリーができあがってしまうほど久未弥の体力は限界まで迫っていた。

 たぶん利一が次の角を曲がってしまったら、久未弥は利一を見失ってしまうだろう。

 そう思いながら追いかけていたのだが、利一はあっさりと先の角を左に曲がってしまった。

 ……のだが、なぜかすぐに引き返してきて、反対の方向へ走りなおして行く。

 疑問に思いながら今のタイムロスで差が縮まり、息を吹き返した久未弥は、左の角から走って出てくる二人組を目にする。

「ブッチョー! 助けにきたよー!」「(利一絶対捕まえようね!)」とライ丸姉妹が合流する。

「お、お前ら、なんで?」

「ブッチョぜんぜん帰ってこないから心配してたら、カッ子姉ちゃんの携帯電話に、レイさんからブッチョの様子が変だったって電話があって、ブッチョ探してたら利一が走ってきてびっくりしちゃった!」とライ子が説明してくれる。

 そのまま三人で追跡すると、利一はまた曲がった先を引き返してきた。

「「あーっ! 待てーっ! 逃がしませんよー!」」とカッ子が登場する。

「お前まで来たのか?」とブッチョが聞くと。

「心配してみんなでブッチョさん探してたんですけど、利一さんを追いかけてたんですね?」」と言う。

「よく借金取りのおっさん行かせてくれたな」

「「えぇ、ちゃんと戻るって言ったら信じていただけましたよ」」

 などとやりとりしながら追っていると、前を走る利一のさらに向こうから。

「おい! 貴様! なぜ逃亡するか!」とのレイさんの怒鳴り声が聞こえてくる。

 レイさんの声はブッチョに向けられたものだったのだが、さすがの利一も警察官の登場で観念したのか立ち止まってしまった。

 こうして冬季鬼ごっこ大会は、鬼の敗北で幕を閉じたのだった。


     06


 ファミリーレストランに戻った一行は、借金取りに利一を引き渡す。

「……で、なんでこんな事になってんだ?」

 と借金取りの男は、利一と警察官を引き連れて戻ってきた一行を見てそうもらす。

「いや、なりゆきです。気にしないでください」とブッチョは説明する。

 そんなブッチョと一同を眺め、借金取りは「ははははっ!」と突然笑い出す。

「お嬢ちゃんの言うとおり、あんたなら本当に手に入れたいものってヤツを持ってるのかもな! だろ? お嬢ちゃん」

 と借金取りが言うと、訳のわからないブッチョをよそに「「はい」」と言ってカッ子は一緒に笑い出す。

 場違い感まる出しのレイさんには早々に退場してもらい、一同も借金取りに別れを告げる。

「ほんとにいろいろすみませんでした、おかげで目が覚めました。最後に名前を教えてもらってもいいですか?」と借金取りの男にブッチョがたずねると。

「やめときなブッチョ、あんたは俺のような奴にやっかいになんかなっちゃぁダメだ」と言う。

 借金取りの男は加えて「あのお嬢ちゃんは“金の正当な価値”ってのが解ってる、せいぜい良い働きをしてやるんだな」などという言葉を後に一同と別れる。


「すまんな、俺のせいでバタバタしちまって」

 とブッチョは帰りの道すがら、カッ子とライ丸姉妹に謝罪する。

「「いえ、私こそ変な意地張ったばっかりにみんなに迷惑かけてしまって」」とカッ子も謝る。

「私達もごめん、おもしろがらずにもっと早くに止めとけばよかったよ」やはり遊び半分だったらしい。

「(ごめんなさい)」と丸美も謝る。

 一通り謝った一同は、しばらく無言で歩いていたのだが。

「あっ! おっきい滑り台がある!」「(遊んできていい?)」

 と、ライ丸姉妹は、目の前に現れた公園に向かって走り出す。

「おい、夜中だからあんまり騒ぐなよ!」と言って見送る。

 この公園は斜面を削って作っており、斜面側には公園が一望できるデッキが設けられている。

 楽しそうに遊び始めたライ丸姉妹を眺めながら、ブッチョとカッ子はデッキの手すりに身を預ける。

「なんか疲れたな」とブッチョは公園をぼんやりと見ながら言う。

「「そうですねぇ、私も着なれない服着て疲れました」」と白いワンピースをつまみながらカッ子はつぶやく。

「いや、なかなか似合ってると思うぞ」と言うと。

「「ふふふ、お世辞言っても何も出ないですよ?」」とカッ子は楽しそうに返す。

「あっ、そういえばこれをまだ返してなかった」と言いながら、懐から銀行の封筒を取り出す。

「「あぁそうでしたね、忘れてました」」と言って、ブッチョから封筒を受け取る。

「「……一応お金は下ろしてきたんですね」」

 と、カッ子は封筒の中身を見ながら、独り言のように言う。

 今日の出来事を思い出すように黙る二人。

 二人の間にはライ丸姉妹の楽しそうな声が流れていく。

 しばらく無言で封筒の中を覗いていたカッ子は、意を決したように口を開く。


「ブッチョさん、聞いてもらいたい事があるんです」


 と、いつもと雰囲気の違う声にブッチョは思わずカッ子を見ると、カッ子の視線はまっすぐにブッチョの方を向いていた。


 今朝、桜は、デートの結果がどうであれ、ブッチョに告白しようと心に決めていた。

 告白してしまえば、もう今までのような関係ではいられない事は自分でも解っている。

 しかしいつまでも、このままではいられないのも事実である。

 だが、もうすでに賽は投げられた。


 桜は言う。


「ブッチョさん……」


 もう戻れないと知りながら。


「私は……」


 

 ―――私は人殺しの子なんです。



 第四話了

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