03と04
03
「で、のこのこと帰ってきたと」
「はい、すみません」
現在、利一を逃がしてしまったブッチョは、借金取りの説教を受けていた。
「あんたなぁ、すみませんで済んだら警察なんていらねぇだろ!こんな簡単な使いもできねぇのかよ!」と凄い剣幕でまくしたてる。
「いや、でもあいつすげぇ足速くて、ほんと一瞬の出来事だったんだって」とブッチョはジェスチャー交じりで説明する。
「お前はガキか? 言い訳なんてしてんじゃねぇ! 役にたたねぇクズ野郎が!」借金取りは追求の手を緩めない。
「あ? なんであんたにそこまで言われなきゃならねぇんだ? そもそも俺が監視役なんてやらされる理由がわかんねぇよ!」とブッチョの主張ももっともである。
「そうだよ! おっさん! ブッチョをそんなに責めるな!」とライ子はブッチョを擁護する。
「・・・・・・(怒)」
「悪いのは利一でしょ? なんでブッチョが怒られてるのかが分かんないよ!・・・と言ってる」と丸美も訴える。
「お嬢ちゃん達、ちょっと黙ってな。ブッチョって言ったか、あんたにとってこのお嬢ちゃんは大切な人じゃねえのか?」と、借金取りはカッ子を指してたずねる。
「……大切な友達です」
「そうだろ? あんたはその大切な友達を、未然に防げたとはいえ詐欺の被害者にするところだったんだぞ!」
「ちょっと待ってよ! ブッチョは利一があんな人だって知らなかったんだよ?」と、ライ子は責められるブッチョを見かねて言う。
「・・・・・・(汗)」
「そうだよ、今日は私たちが無理やり連れ出したんだから!・・・と言ってる」と丸美も続く。
「それでもだ。あんた解かってんだろ?そんなことじゃ大切なものなんて何も守る事なんてできないって」
「……」ブッチョは言い返す言葉が無い。
その通りである、実際カッ子がデートに行くと宣言した時、ライ丸姉妹の様子を見ればただ事ではないと容易に想像がついたであろう。
ケンカをしたしないにかかわらず、ブッチョはライ丸姉妹に事情を聞き、止めるべきだったのである。
「だから利一の監視は、あんたにやった最後のチャンスだったんだ。それなのにまんまと逃げられやがって」
何のチャンスかは知らないが、ブッチョは反論できない。
「まぁいいや、それはあんたが勝手に責任を感じていればいいだけだからな。でも、あんたのせいで俺の仕事がパーになっちまった。この落とし前として、お嬢ちゃんが騙される予定だった50万円分の利一の借金をあんたに払ってもらおう」などと横暴な事を言う。
「……そんな大金持ってません」とブッチョが言うと。
「「その50万円、私が払います。元は私が騙されそうになったのが悪かったんですから」」などとカッ子が言い出す。
「お嬢ちゃん……まぁいいか、俺は少しでも集金できれば問題ないからな」と借金取りはふんぞり返り、冷たくなったコーヒーを口にする。
「「ブッチョさん、お金は私が払いますが、カードを渡すので下ろしてきてもらってもいいですか?」」と言いながらブッチョにキャッシュカードを渡し、暗証番号を告げる。
「いいのか? そんな大金」
「「ええ、ほんとに気にしないでください。私の責任ですから」」と言って送り出す。
こうしてブッチョは、再びATMまで行く事になったのである。
04
「くそっ!」と、久未弥が叫ぶのは、ファミリーレストランを後にしてからすでに5度目になる。
その叫びは借金取りの理不尽な要求に向けてではなく、自分の考えの甘さに対する後悔の念へである。
ここのところ、自分の夢が見つかった、などと浮かれていたせいだ。
どの口が笑顔で幸せにしたいなどと言ったのであろうか。
結局は自分の甘さのせいで、カッ子やライ丸姉妹に嫌な思いをさせてしまっている。ましてや、50万円という大金まで払わせてしまう。
「俺は馬鹿だ!」
と、後悔しきれぬうちにATMに到着する。
カードを機械にすべり込ませ、液晶画面に映った数字を教えてもらった通りの暗証番号の順に触っていく。
次に液晶は金額の入力画面に移り変わり、久未弥は5と0と万の部分を押し、次に円と書かれた部分を押す。
液晶画面には金額の確認画面が映し出されていて、今入力した500000円の表示の上に現在の残高が映っている。
久未弥は、見ては失礼と思いつつ確認してしまう。
「800万か、さすがに持ってるなあいつ……あれ?」
と言いつつ、いち、じゅう、ひゃく……と残高を数えていくと。
「は、はっせんまんえん!? 8000万円て、国家予算ですか?」どこの小国なのだろうか、久未弥は錯乱しているようである。
とりあえず50万円を備え付けの紙袋に入れ、落とさないようにしっかり持ち、ATM小屋から出て行く。
なぜか久未弥は少々震えているのだが、どうやら口座の中の金額を見て、カード自体が8000万円の価値があるように錯覚しているようだ。暗証番号を知らなければただのカードなのだが。
「ちょっ、早く戻んなきゃ」と、冬の夜道を小走りで行く不審者。
「おい貴様、なにを急いでおる!」と不審者を見かけて声を掛ける警察官。
「ぎゃあぁ! れれれレイさん! ななななんでもないッス! さらばッス!」と久未弥は完全にパニックに陥り、ダッシュで逃げる。
「おい、ブッチョ貴様!なぜ逃げる!」と追いかけだす。
鬼ごっこ第二部は熾烈を極め、現在久未弥は身を隠すためにまんが喫茶に入ったところである。
「はぁ、はぁ、俺は何で逃げてるんだ? それにしてもレイさんしつこい! 10分位ここで時間つぶすか」
久未弥は走り疲れて喉が渇いたので、ドリンクバーへ飲み物を取りに行く。
たまには炭酸でも飲むか、とグラスを手に取り機械にセットしようとすると、他の客とかちあってしまう。
「あっ、すみません。お先にどうぞ」と相手に勧める久未弥。
「そうか? じゃ、お先に」と先にグラスをセットする利一。
「あっ!」と二人同時に発する。
「やべぇ、逃げろ!」と言って走り出す利一。
「てめぇ! 逃げんな!」と久未弥もそれに続く。
鬼ごっこ第三部のスタートである。