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くらんくらうん  作者: バラ発疹
かごの中の風景
34/62

第3話「チェイサー×チェイサー」01と02

 第三話「チェイサー×チェイサー」


     01


 ドンドンドンドンドンドンドン!

 朝早くからドアを叩く音が鳴り響いている。

「なんだぁ? 借金取りなんかが来るいわれはねぇぞ?」

 と、睡眠を邪魔された久未弥くみやは面倒くさそうに布団から出る。

 実はこのものぐさそうな男は、借金はおろか家賃の滞納すらも無いという金に関してはキッチリとした性格の持ち主である。

 ドンドンドンドンドンドンドン!

「朝っぱらからやかましい!誰じゃこらぁ!」とドアを勢いよく開けると。

「ブッチョなにのんきに寝てんだよ!早く起きて!」

「(バカブッチョ!早くいくよ!)」

 とライ丸姉妹が突入してくる。

「うおっ!なんなんだよお前ら朝っぱらから」

 と言いながらブッチョは異変に気づく。

「あ?ライ子、お前なんか感じ変わった?」

 そう言われたライ子の着ぐるみは、いつもの茶色ではなく白と灰色の迷彩模様になっていた。

「そんなことどうだっていいから、早く支度してよ!」

「(10分以内に支度を済ませること!以上!)」

 この調子では逃げられそうもないブッチョは、渋々着替えを始めるのであった。


 支度を終えた一行はマグドへ直行し「今日は動くから、腹八分目にしといて」とのライ子の指示で、朝食は朝のセットを一人につき3セットに抑える。

 朝食を済ませた三人は、行き先も告げずに歩くライ子について進んでいく。

「おい、とりあえず何しようとしてるか教えろ」とブッチョは、薄々気づいていながら質問する。

「なにって、カッ子姉ちゃんのデートを尾行するの!」「(そして邪魔するの!)」

 やっぱりか、とブッチョは一昨日の出来事を思い出す。

 あのカッ子とのケンカの後、ブッチョはカッ子のマンションへは行っていない。どうやらライ丸姉妹は行っていたようだが、ブッチョとしてはあのケンカの原因が分からなかったので、釈然とせず和解する気になれなかったのである。

「はぁ、お前らなぁ、こんな事して何になるんだよ。カッ子にとってその男とうまくいくのが幸せなら邪魔なんかしてやるな」

「却下!ブッチョは甘い!カッ子姉ちゃんの柔肌が他の男の手に落ちてもいいのっ?」

「(カッ子姉ちゃんああみえておっぱいおっきかったよ)」

「ぶっ!お、お前らなに言ってんだ!」

「ブッチョ、よく聞いて?これはカッ子姉ちゃんのためなの。そう、これはすでに……」


「カッ子姉ちゃんのおっぱいと、私たちの将来のおっぱいのための聖戦なのだ!」と手近にあった台の上で叫ぶ灰色迷彩の着ぐるみ。


「って、そんなこと大声で叫ぶな!俺がおかしいと思われるだろ!」

「(そーれ、おっぱいおっぱいおっぱい!)」「おっぱいおっぱいおっぱい!」とライ丸姉妹は絶好調である。

 

     02


 午前10時 豊多市駅前

 駅に隣接するデパート前の広場。

 今日は土曜日ということもあって行きかう人の流れも少々多いようだ。

 広場の端のベンチに人の目を避けるように、一人の白いワンピースの女がうつむきながら座っている。

 女の名前は”皆川みながわ さくら”。これから人生初のデートに挑もうとする女である。

 この女には本名以外に2つの名前がある。

 一つは、女戦士”ブロッサム”

 一つは、ヒッキーセレブ”カッ子”である。

 今日はブロッサムでもカッ子でもなく、皆川 桜としてそこに座っていた。

 しばらくすると、携帯電話が着信したらしくスマートフォンを耳にあてがう桜。

 そのままベンチから立ち上がり辺りをキョロキョロと見回し、待ち人がやってきたらしく電話を切る。

 桜に近づいてきたのは、長身のチャラチャラしたイケメン風の男であった。

「桜ちゃん、今日は来てくれてありがとう。僕うれしいよイケメーン」と言いながら近づいてくる男。

「(あら、利一りいちさん、私もうれしいですわセレーブ)」と桜は返す。

「って、アテレコかよ! 語尾がなんかおかしいし!」

 と叫んだブッチョら一行は、双眼鏡片手に建物の影からカッ子を監視中である。

 こんな町中でこの変な一行は目立ちすぎて尾行には適さないと思うのだが、このライ丸の灰色の迷彩は都市型迷彩といって市街地では目立たないらしく、人の目につきにくいようである。

「で、あいつ利一っていうのか?」とブッチョが聞くと。

「ん? 違うよ、あんな奴の名前知らないし、興味ないから適当につけたの」

「(あいつがゲームの中で使ってる名前だよね)」

 どうやら相手の男は、カッ子がやっているネットゲームの知り合いのようだ。

 カッ子の本名については、マンションに散乱する通信販売の箱に明記されているので、すでに三人には周知されている。

「それにしても、中高生じゃないんだからいい大人が朝早くからデートするか? 普通夜じゃねえの?」とブッチョが言う。

「は? ブッチョ夜のデートしたことあんの?」とライ子が冷たく言うと。

「ごめんなさい、ないです」と速攻謝罪する。

 

 まず桜と利一の二人は電車に乗り込み二駅さきの駅で降りる。どうやら向かっている先は映画館のようだ。

 その道すがらを監視しているブッチョが、今更ながらに気づくのだが。

「カッ子のやつジャージ以外の服持ってたのか?」とカッ子が身に着けている白いワンピースを見ながらブッチョがつぶやく。

「(なに言ってんの! 昨日ジョスコに一緒に買いに行かされたんだから!)」

「そうだよ! なんか一人でブツブツ言って怒りながら服選んでるんだもん、超怖かったよ!」

 どうもカッ子は、いったん火が付くとなかなか鎮まらない性格だったようだ。今現在ブッチョ達がいなくてもパニックを起こさないのは、その怒りによるものだけである。

「それにしてもなんで電車で移動なんだよ、普通の奴は車持ってんだろ?」とブッチョがそんな疑問を述べると。

「電車で移動するって言うからこうやってデートさせてやってるんじゃん! 車だったらデート自体を阻止するよ!」などと言い出す。どうやら遊び半分のようである。

 カッ子と利一の二人が、今まさに映画館に入ろうという時、二人を監視する不審者一行に何者かが近寄ってくる。

「貴様等は何を不審な事をやっておるのだ?」と近寄ってきた警察官が言う。

「なんだレイさんか、邪魔、あっちいって」とライ子は冷たくあしらう。

「ぬぅ、あんまりな言い草であるな。ところでカッ子殿がおらぬようだがどうされた」

「(カッ子姉ちゃんは知らない人についていっちゃったんだよ)」と丸美が言うが。

「む? すまぬ、我輩はジェスチャー遊びは苦手である」と、前に手話だと説明したのだが理解できないようである。

 まぁ、今の説明では誤解を生じる可能性があるので良しとする。

「あーっもぉ! レイさんのせいで、カッ子姉ちゃん達どの映画見に行ったか分かんなくなっちゃったじゃんか!」とライ子は激怒した。

 さんざんライ子に罵声を浴びせられたレイさんは「なにかあったら連絡をよこしたまえ」と言い残し、すごすごと退散するのであった。

 

「で、どうするんだ? 映画終わるまで待ってるのか?」と映画館の前でブッチョが聞くと。

「(あっ、ペカチュウだ!)」と丸美は映画のポスターを指差す。

「今回のパケモンは立体映像らしいよ、どうする? ブッチョ」と丸美が意見を求めてくる。

「は? どうするってなにが?」と話の流れが分からないブッチョ。

「家族チケットってのがあるんだって」「(わっ、安ーい!こんな値段で3人映画見れちゃうみたいだよ!)」

「……」


 カッ子のいない時のライ丸姉妹は手が付けられん、と思うブッチョであった。

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