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くらんくらうん  作者: バラ発疹
かごの中の風景
32/62

第2話「ドラゴンスクリーム」01と02

 第二話「ドラゴンスクリーム」


     01


 ここはライオネル山脈の中腹にある広場である。

 この山脈は、中型のワイバーンの巣が数多くあることで有名な場所なのだ。

「それじゃ私とモゲタさんが落とすんで、リーチさんはワイバーンの胸にある赤いところを攻撃してトドメをさしてください」と頭の上に”99”という数字と”ブロッサム”という文字の書かれた、鎧を身につけた体格の良い女性が言う。

「俺は出番なし? 素材でも掘っとこうかな?」とこちらも”99”と”ロースト”と書かれた白いローブを身にまとった男性が言う。

「いやいや、ローストさんはリーチさんの回復役でしょ」と、これも”99”と”モゲタ”と書かれた大きな銃を持った男が言う。

「攻撃って、呪文の方がいいのかな?」とこの黒いローブをまとっている男性には、”リーチ”という文字の前の数字が”05”と書かれている。

 そう、これは”ドラゴンスクリーム”というMMORPGと呼ばれるオンラインゲームの中の話である。

 それぞれの頭の上の文字はレベルと名前で、このゲームのキャラクターレベルは99でカンストなので、今回はレベル05のリーチ氏のレベル上げが目的なのだ。


 実を言うと、今回の冒険はブロッサムにとってあまり乗り気ではなかった。

 このリーチという初心者は、初心者特有のマナー知らずとは別に、どうも女性にちょっかいを出すのが目的の気があるらしい。

 しかも金を持っていそうな女性に寄っていく傾向があるらしく、他の女性プレイヤーの紹介で知り合ったのだが、ブロッサムに会って以来しつこく冒険に誘い続けてくるのである。

 というのも、紹介した女性プレイヤーも結構な金額をこのゲームのキャラクターにつぎ込んでいるのだが、ブロッサムが身に着けている装備や所持品は、最低でも150万円は掛けないと手に入らない物なのである。

 実際ブロッサムに紹介した後音沙汰無し、という話はすでに聞き及んでいた。

 ブロッサムもネット社会の初心者ではないので、こんなわかりやすい人間に引っかかる事はないのだが。


 などと思い返しているうちに、上空にはワイバーン2体が飛び回っていた。

「ブロッサム、右のヤツから行くよ? カウントダウン!」とモゲタは銃を構えながら言う。

「オーケー、3・2・1・ゼロ!」

 というブロッサムの掛け声と同時にモゲタの銃が火を噴く。それと同時にブロッサムは剣を抜きながら、ターゲットのワイバーンに向かってジャンプする。

 ドン! という音と共にモゲタの攻撃が当たったワイバーンは落下し始める。しかし落下途中で体制を立て直し、ブロッサムのジャンプは今一歩届かない。

 しかしブロッサムは空中でモーションを取ったと思った次の瞬間もう一度飛び上がり、ワイバーンに対して連撃を繰り出し地面に叩きつける。

「リーチさん、今!」

 というモゲタの声にリーチのキャラクターが呪文を放つ。

「えい!」

 リーチのキャラクターから出た火の球が4発ワイバーンの胸の赤い部分にヒットすると、断末魔と共にワイバーンは消滅する。

「あと1体、続けていきます」というブロッサムの掛け声と共に同じ事を繰り返し、もう一体のワイバーンも難なく倒す。

「あれ? 誰か体力減った人いる?」と戦闘が終わったのを確認したローストがとりあえず声を掛ける。

「いや、僕もダメージ受けてないよ。それよりもブロッサムちゃんに心を癒して欲しいな」とリーチが軽口をたたく。事あるごとにこの男はこのような台詞を吐くのである。

「……」無視するブロッサム。

「……この後どうします?俺はもうそろそろ落ちなきゃならないんで町に戻りますけど」と微妙な空気を察したローストが言う。

「俺も落ちようかな?じゃ戻りますか」とモゲタも賛同する。

「そっか、じゃあね、僕はブロッサムちゃんと、もう少しここにいるよ」とリーチが言うと。

「初心者と二人じゃ無理、戻りましょう」とブロッサムはそっけない態度で帰路に着く。

 帰りの道中はリーチが空気の読めない発言を繰り返し、嫌な感じでパーティーを解散して今日の冒険を終えたのである。


     02


 その後町で今日の冒険の記録をセーブし、ブロッサムがログアウトしようとすると、メッセージが送られてくる。

 送信者名を見るとリーチと書かれている。

 ブロッサムはうんざり気味にため息をつきながらメッセージを確認する。

【今日はありがとう、今度ブロッサムちゃんの顔が見たいな。携帯のアドレスと僕の写真送っとくから返信してね】

 というメッセージと添付ファイルが添えてあった。

「うざい……」

 とつぶやきながらとりあえず添付ファイルを開くと、ブロッサムと同年代らしい男性がポーズをとって写っている写真が表示され、その写真にメールアドレスが書かれていた。

「……馬鹿じゃないの?」

 と吐き出すと。


「いやーないわー、確かにイケメンだけどやめといた方がいいよ、カッ子姉ちゃん」と後ろから声が聞こえる。


「「ぎゃあ! ららららライ子ちゃん、なななななんで居るの?」」と派手に驚くカッ子。

「(こんなナルシストのクズやめて、ブッチョで我慢しときなよ)」

「「まままま丸美ちゃん! なななななんでここでブッチョさんが出てくるんですかぁ!」」慌てすぎである。

「私たち今日学校半日だったから、早く来たら入れてくれたじゃん」

 昼過ぎに来たライ丸姉妹が昼寝を始めてしまったので、カッ子はドラゴンスクリームをやりだしたのだ。

「「そそそそそういえばそうでしたね」」と素を見られたカッ子は動揺しっぱなしである。

「それにしてもあからさまだねぇ、このリーチって人」

「(歪んだネット社会の申し子って感じだね)」

 とライ丸姉妹のような子供から見ても怪しい事この上ないようである。

「「いいいい今のは見なかったことにして!」」と懇願するカッ子。

「今のはって、リーチの事?」「(それとも黒いカッ子姉ちゃんの事?)」

「「ぎゃふん! 今日の夕飯好きなもの頼んでいいから、ブッチョさんにはいわないでぇ!」」

「やったー!」「(わかったー!)」

 と、カッ子の買収工作はとりあえず成功したようである。

 

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